第16話「異世界食堂カクヨム屋にて談話中」
ネアが弾んだ笑顔で、料理らしきものを凝視する。かぼちゃサイズの大きなダンゴムシが丸まった状態で皿の上に乗っかっている。何とも香ばしい匂いが……いやいささか気持ち悪いかもしれん。ネアが添えてあった棒でダンゴムシを叩くと、ダンゴムシが開いて実が露わになった。
黄色い、黄色い、黄色の実だ! 焼かれたのか蒸かしたのかわからない黄色い肉が蠢いている。ネアは美味しそうに眺めているが俺は堪らず口元を抑えた。
「ごゆっくりお過ごしくださいませ~」
それでは早速食べるとしよう。
「「いただきます」」
ご丁寧に四角い形のお盆の上には箸が置かれていた。久しぶりに箸を握って動かしてみる。大丈夫だな。箸の先端で焼き魚の身をほぐして摘み、口に運んだ後に茶に盛られた米を掴んで口に入れる。
美味しい。適度な塩っ気が口全体に広がる。
続けて豆腐と大根の味噌汁を掻き込む。あの独特の旨みが口内に広がり、豆腐の柔らかな食感と大根の歯応えが美味さを引き立てる。美味しい。
ネアの方に視線を移すと、彼女は手掴みで食べているのに驚いた。お盆に視線を移すと箸は置かれておらず、代わりに手拭き用のおしぼりが置かれている。
フォークとナイフ、もしくはスプーンすらも無い。ネアは躊躇する事無く、指先で丁寧にダンゴムシの肉を摘まんで美味しそうに噛みしめている。気持ち悪い……。念のために聞いてみよう。
「道具を使ってものを食べる文化は?」
「え? 無いですよそんなの。たまに真似事をしてみた事はありますけど」
「そうか……」
この食堂はお客が何処から来てどんな文化を持っているのか理解しているのか?
ネアの見た目で決めたのだろうか。いや待て、それならば私も箸が使える事は話していない。なのにあの女性店員はピンポイントで箸を添えていた。
少々引っかかるが、様々な場所から客が訪れるのだから、何かしらの秘密があるのだろう。今は食事を楽しもう。
「美味しいです。濃厚ながらもさっぱりとした味付けがたまらなく美味しいです~!」
「それは何よりだ」
ネアはさっきダンゴムシを叩いた棒を黄色い肉に突っ込むと、ズズズッと肉を何かで吸い出すようなおぞましい音を立てて飲み始めた。それストローだったのか!? 嗚呼、動いてる、反動で殻が動いてる。肉を半分ほど吸い出した後、彼女はダンゴムシを手に持って……。
「ネア? なにを」
思い切りかぶりついた。
バリ! ボリ! グチャ! グチョ! 表現するのも恐ろしい擬音を立てながらダンゴムシ貪り食うネア。こうなれば俺も食事を楽しんで我慢するしかない、今は極力ネアのことを見てはいけない、一応彼女は美味しそうな笑みを浮かべて食べている。
俺もネアも、夢中で料理を平らげていく。本当に美味しい。懐かしい気分にも浸れる。
この店を紹介してくれた「カクヨム神」には感謝の念を抱く。一仕事終わらせる度に訪れるのも悪くない。ここなら種族間関係なく過ごせる。ネアも元の姿で食事を楽しめるから良いこと尽くしだ。
「良いところですねここ」
ネアが満面の笑みを浮かべて嬉しそうに話しかける。その表情にこちらも苦笑いを浮かべて答える。
「毎回来るか」
「はい」
一時の平和な時間がゆっくりと流れる。店内は多種多様な人々の声で賑わっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます