第18話 ナニワスイシン
刈谷仁は凛と共にロボットカー・メリーナに乗ってナニワスイシンへ向った。
ナニワスイシン株式会社に到着すると、刈谷は受付嬢にクリスタルピースを見せ、開発担当者と話をさせてほしいと言った。
「しばらく、お待ち下さい」
受付嬢に案内された応接室で待っていると、担当者がやってきた。黒いスーツを着てメガネをかけた知的美人だ。渡された名刺には、真鍋ゆかり、クリスタルピース開発担当とあった。
「真鍋です。宜しくお願いします」
型通りの挨拶が行われると仁は早速、用件に入った。
「このクリスタルピースなんですが、こちらの会社で作った物ですよね」
仁は、奈津子のデータパッケージから作った複製を見せた。
真鍋ゆかりが、クリスタルピースを一瞥する。
「はい、弊社で作成した物です」
「これは、お守りとして売られていますが、データパッケージではないんでしょうか?」
「あの、何故、そのような疑問を?」
「……まあ、好奇心ですかね」
「それはただのお守りです。おみやげ業者から依頼を受け作りました」
「しかしですね、このお守りとそっくりなデータパッケージを見つけましてね」
「は? あの、何のお話でしょう?」
「データパッケージですよ。実は、このお守りを使って、そのデータパッケージをコピー出来るかやってみたんですよ。そしたら出来るんですね。びっくりしました。ですが、データを読めないんです。全く同じ物を作れても、読み出せない。何か特殊な装置が必要なんだろうと思うんです。お心あたりはありませんか?」
「そんな筈はありません! そんな装置、聞いた事がありません! これはただのお守りです!」
担当者の真鍋ゆかりはテーブルをドンとたたいて反論した。
「そんなに熱くなる事はないですよ」
「熱くなっていません!」
「まあ、これをどこかの研究所に持っていって、もっと詳しく調べてもらいますよ。そしたら、いろいろわかるでしょう」
「いいですよ。調べていただいても何も出て来ない筈です」
「ふーん、僕はこう思っているんですよ。例えば、特殊なデータ蓄積装置を欲しがっている人がいて、特注で製造装置を作った。だが当初予定していた金額よりも製造費がかかってしまった。なんとかこの装置で元をとらなければならない。そこで、クリスタルがお守りとして使えると気付き、大量生産した。しかし、依頼主との契約では、クリスタルを十本以上製造してはならない事になっている。この事が依頼主にばれたら違約金を請求される……」
「違うわ! 手違いだったのよ」
真鍋ゆかりは、あっと言って口を抑えた。
「どんな手違いだったんです? 話して貰えませんか?」
「注文本数は十本じゃないわ。十二本だったのよ。一ダース。現場の人間が、注文伝票を作成する時、入力をミスったの、十二じゃなく十二万って。ミスがわかった時には原料も十二万本分仕入れていて……。仕方なかったのよ。十二万本作るしかなかったの。それに、依頼主とは十二本以上作ってはいけない、なんて契約結んでなかったし。作って売っても法的には問題ないわ」
「法的には問題なくても、倫理上の問題は残るんじゃないですか?」
「だ、だからって。どうにもならないじゃない。もう、作ってしまったんだから」
「……このクリスタルピースはデータパッケージで読み取り装置があるんですね」
「ええ、そうよ、あるわよ。でも、その装置は依頼主しか持ってないわ。だからデータは絶対に安全なのよ」
「……、この子は相沢凛と言います」
唐突に刈谷仁は凛を紹介した。
「この子の両親は事故で死んだんです。ですが、その事故がどうにも不自然なんですよ。普通では起きない事故だったんです。僕はその事故を調べてるんです。このデータを調べれば何か出て来るんじゃないかって思ってましてね。協力していただけませんか?」
真鍋ゆかりは、迷った。どうやったらデータを読み出せるか、知らないわけではない。
目の前に座っているこの若い男はクリスタルピースがどこの会社の物か、一切名前を出していない。しかし、真鍋ゆかりはそのクリスタルピースがどの会社に納められた物かよく知っている。相手は、こちらの事情もよくわかった上で、あの会社の名前を出さずにデータの読み出し方を聞いて来ている。
信頼出来そうな男だと真鍋ゆかりは思った。が……。
「申し訳ないですが、これ以上はお話出来ません。事故が絡んでいるなら警察にいかれたらいかがですか? お引き取り下さい」
真鍋ゆかりは立ち上がった。刈谷仁も仕方なく立ち上がる。
「……そうですね。僕は一介のフリーライターです。お気が変わったら、名刺の番号まで連絡下さい。今日は会って下さってありがとうございました」
「いいえ、お役に立てませんで」
真鍋ゆかりは二人が応接室を出て行くのを見ていた。
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