3:黒猫ⅩⅤ
「ガアアァァア!」
ガロンにも劣らない蛮声を急にアシュロンはあげた。ビリビリと空気が震える。
「手加減はしない。一撃で殺してやろう」
再び冷静さを取り戻し、落ち着きさえ見せて言った。
流れるような動きで五体が同時に、ギルに襲いかかる。刀の先まで、炎を帯びながら。
「この動きが見切れるか、処刑人!」
川を走っているはずなのに、水音はしない。波紋が広がるだけで、水と同化しているようであった。
「ははっ……」
ギルは失笑して余裕を見せる。そして言う。
「それが間違いなんだよ」
アシュロンは、これで殺すつもりだった。避わすことなど、防ぐことなど出来ないように、目を剃らすことはしなかった。だが、最初に仕掛けた幻の一体が、ギルの肩に刀を食い込ますその瞬間、見失ってしまう。今までの戦闘ではなかったことだ。
「消え……何処に」
気付いた時には、他四体の幻は同時に消え、アシュロン本体もも決定打を受けていた。そしてやっと、ギルが自分の背にいることを理解する。
「迅走・十九閃……」
アシュロンの体の至るところから、有限を感じさせないほどの血液が噴出させた。
「さすがだ。殺す自信はあったのだが」
体は既に朽ち、頭だけになったアシュロンが最後に呟く。
「何故分かった?」
「幻の炎には、実体の高熱がなかった。それだけだ」
ギルはそれだけ告げて、急いでこの場を去る。紗希のもとへ向かうために。
「処刑人には関わるな。とはよく言ったものだ。アイツの忠告は、臆したわけではなかったか」
待ち主を失った曲刀も、主人を追うように、風化していった。
一体誰なんだろう。私の前にいつの間にか現れ、どうやら銃を用いて倒したようだ。さっきまで、リリアがどんなに攻撃しても倒れなかったのに。途中でいきなり現れたこの人は、一撃で倒してしまった。
「……」
無言でその人は振り向いた。そして歩み寄ってくる。
「……な、何?」
つい私は身構えてしまったが、そんなことはどうでもいいといった風で、私を無視している。私の横を通りすぎても、止まることなく歩むことを止めない。
「…!」
その人は無言のまま、今度はリリアに銃口を向けた。立っているのがやっとの少女に向かってだ。
「な、何を……」
「殺すだけだ」
酷く平然と言いのけた。それが当たり前だとでもいうように。
「執行者……」
ふとリリアが言う。それが何なのか、もちろん私にはさっぱりわからない。
困惑する私をよそに、今なお銃口を向け続ける。
「こいつらは殺すべきなんだ」
「や、止めて!」
その時誰もが振り返った。私の制止する声によるものではなく、砂利の音が、一際大きく聞こえたからだった。
「ギル……」
一際大きく聞こえたのは、どうやら高い位置からの着地をしたからのようだ。
血を流していて、痛々しい怪我にどうしても目がいってしまうが、紛れもなくギルだった。
「ギルか」
意外にも、銃を手にするその男は、ギルの名を口にした。
「何でお前がここにいる」
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