第4話 残されたもの(同日・夜)
(同日・夜)
大量のミステリー小説が集められた部屋の中、安岡が机へ噛り付いている。
その表情は厳しい。眉を潜めて自分が今し方書き纏めたものを眺めた。
二年の矢島セリの周囲で起こっている連続殺人事件。それを書き起こし、頭の中で情報を整理しながら安岡は考えていた。
「ギリシャ神話、か」
話を聞いた時は分からなかったが、神話の内容を調べているうちに三つの話には必ず関わっている原因があることに気が付いた。ポリュデクテースはペルセウスの母を手に入れるためメデューサ討伐へ唆し、ピーネウスはペルセウスと元婚約者アンドロメダとの結婚を阻止するために画策し、両者は返り討ち遭う。要は女性が関係しているのだ。
ペルセウスを犯人とし、討ち取った相手を被害者とするならば、ペルセウスが守ろうとした母や結婚相手が誰かに例えられているかもしれないと安岡は思った。
そして全ての事件に関係している女性で、ペルセウスがどんな形であれ関心を寄せている人物となれば一人しかいない。矢島セリその人である。
けれども何故ギリシャ神話と事件をなぞらえているのか。神話を読む限り、大半は神々の恋愛話を描いている大衆ものに近い気はするが…。
「……まさか」
安岡は唐突に閃いた仮説に慌てて目の前の紙の中から目的のものを探す。綾部と宮坂両者に共通した友人のリスト、全員のそれぞれの言動、そこへ浮かんだ仮説を差し入れて導き出された可能性にブルリと体を震わせた。
明確な理由は分からないが止めなければ。
これ以上犠牲者を出す訳にはいかない。
安岡は携帯を取り出すと、とある人物へ連絡を入れる。
「ああ、安岡だ。これからちょっと出て来てほしい」
約束を取り付けるとすぐに椅子から立ち上がり、携帯と財布をジーンズのポケットに突っ込むと慌しく部屋を出ようとした。
ふとそこで足を止めてパソコンへ振り返る。
……ただの杞憂で終わればいいんだが。
スリープ状態だったパソコンを起こすとメモ帳を起動させて安岡は文字を打ち込んだ。
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