ファルセットが沈む
夕暮れに響くファルセット
結局今日も
僕は人間をやめられず
境界線上からはみ出すこともできず
日常と日常の合間に漂い
決してどこかではないここでたゆたい
陽が沈む音を聞いている
どこに行くでもないまま
ありのままをさらけ出すことさえ不自由なら
ファルセットに一筆加えて
和声にしてしまいたい
夕暮れはひとつ深くなる
結局のところは
それを黙って見過ごすことだけが日課
夕暮れに響くファルセット
始まりと終わりの合図
列なりが列なりであることを示し
僕たちが世界の裏側に回ったってことを
僕たちが息をする時間がきたんだってことを
知らしめてまわる
一筆加えようとしても
動きはトカゲのようで
気がつけば
切り離されたしっぽに着色している
そんな無様な和声が
ステージの幕開けを彩る
夕暮れに
ぽつんとした言葉も見つけられず
気まぐれ
空模様の駆け引きの果てに
人間もやめられず
こほんと咳をして
ファルセットは
鮮やかに
僕らの生を照らしていく
ああ
一筆加えてやりたい
この際
不協和音でもいいから
夕暮れは僕を連れて行かない
どっちに行こうと行くまいと
どうせ僕は
とびっきり美しいイミテーションを
愛を
嘘を
綴るのだけれど
夕暮れは僕を連れて行かない
ほら
また訪れる
パレードのこちら側で
僕たちが息をする時間が
夕暮れは勤勉こそ誉れ
僕を連れて行ったりはしない
現実が
三文にもならない
本当はきみの生にだって
一筆足してやりたい
夕暮れに
気まぐれな言葉たちが舞い落ちてくる
でたらめに響き合う
きみの方へ向かう電車が
幻灯のさじ加減で揺れて
ただありのまま
気まぐれな言葉たちが
ファルセットを叩く
明日に振り向かなかったところで
人間はやめられない
ならば全てをそのままに綴ろうか
それは答えにはならないと
先人たちが嫌と言うほど
証明してくれている
そんな不自由
夕暮れのファルセット
どれだけの詩情を呑み込んできただろう
気まぐれに言葉を落とされて
僕は無様に
それを拾う
つなげて並べても
もうそこには切り落とされたしっぽしかない
現実が孕んだ視界で
せめて
きみの生に一筆足してやりたい
まったくどうかしてる
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