第3話 バイト

かおるの実家についたとき、かおるは起きていて、僕にこう聞いてきた。

次のバイトいつ?

明後日、、、、、

バイトやめて!

かおるがめずらしく僕を見ないでいう。

バイトやめるよ、いっしょに来る?

驚いたようにかおるは僕の顔を見ながら、その日一番の笑顔と、さすがに私が一目ぼれした、かずくんだね!! の言葉を僕にくれた。

二日後の火曜日、僕たちのいつもと変わらない時間は再び流れ出した。街なかの駅を降りて繁華街に続く道の途中、かおるは路上で、アクセサリーを売っている外国人に何やら話しかけた。そして、振り向かずに僕に言った。

かずくん五百円ある?

僕が渡すと、二つで五百円の金メッキの指輪を買って、一つ僕にくれた。

お揃いね!

お揃いだね、でも左手の小指にしか入らないよ?かおるは右手の小指にはめるのだよ。かずくんは言っていたでしょう、彼女とは左手で手をつなぐって、右手は彼女を守るためにあるのだって。

なぜ、かおるは急にお揃いの指輪を買って僕に渡し、海に捨てた指輪のことは、どう思っているのか、指輪を捨ててしまったこととかを悪かったと思ったのかなどについて彼女は話さなかったし、僕はそのことについて結局のところ聞くこともなかった。ただ、二つで五百円のお揃いの指輪が、僕たちが手をつなぐと一緒になることが嬉しかった。

その足で、僕たちは夜のバイトを辞めるために、シェイカーを振っていたバーに行った。だが、バーのチーフに、急には困るといわれた。それはそうだと思ったが、でも、僕は即刻辞めるつもりだった。チーフと押し問答をしていると、かおるが横から口を出した。

私の大切な人をこんなところで働かせたくありません!!

毅然として、そう言い放った。たまに見せる芯の強さもまた、かおるだ。いつもは隠しているけれど、それもまた、かおるの大きな魅力の一つだった。

僕たちは、今月の給料は払わないからな!とチーフに怒鳴られ、店を追い出されていた。けれども、何とか無事に辞めることができた。

しばらく繁華街を歩いていると、かおるがガッツポーズをしてみせた。やったね!!  かずくん!

なんだよ他人事みたいに、でもすっきりしたね!

かおるの華奢なこぶしの小指には、さっき買ったばかりのお揃いの指輪。

そしてその指輪は最期まで、かおるの指を飾っていたのだ。

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