02.雷同

「――だから、りぃをくれっつってんだろ!」

「あんたに娘はやれん!」

「いや妹だろ……」

「りぃをどうする気だ。いくら可愛いからといえ、魔女にされては、兄貴として黙っておれんのだ!」

「まぁ、あながちになってもらうというのは間違ってはいないのだが」

「ほれみてみ!」

「頼む! うちのバンドに新しい色を入れたいんだ!」



 ナオミはバンドのボーカルだ。

 バンド名は『RAGEレイジ RAVEレイヴ』と言ったか。

 りぃがこないだ自慢げに俺に話してきたな。

 RAGEレイジは憤怒や渇望などを意味する英語。

 RAVEレイヴは荒れ狂うとか、うわごとを言うといった意味の英語。

 さらに『0時れいじ0分れいぶ』を文字ってるそうで、全ての始まりの時をあらわしているという、厨二病ちゅうにびょうが好きそうなネーミングセンスだ。

 ――すなわち俺も嫌いではないわけだが。

 ちなみに結婚式フラッシュモブのアイデアを出してくれたのも、このナオミだ。

 五月の空の下、クリスマスキャロルを歌いだした衝撃は忘れない。

 アイデア力に富んでいる人間のようだ。



「しかし、いきなりっすね……」

「あっそうだよな! これ、やる! 手土産だ!」


 手に持っていた紙袋を俺の胸に突き出すナオミ。

 中を見ると菓子折りらしきものが入っている。

 こんな時間に尋ねて来たくせに、ずぼらなのか律儀りちぎなのかよくわからんヒトだ……


「まあ、とりあえずあがってくださいよ……」

「おう、邪魔するぞ!」

「なおたん!」


 ブーツを脱いで、上がりかまちへ足をかけるナオミのもとへ走り寄るりぃ。

 この夏場にブーツて……そして相変わらず金髪に毛先が赤毛、ごりごりのシルバーアクセ。異世界感ハンパねえ。

 なんか俺の頭には心配しかよぎらないんだが大丈夫か……?



「――つまり、りぃをバンドのボーカルとして迎えたいと……」

「そうだ。りぃと私でツインボーカルとしてやっていきたいんだ」

「しかしねえさんよぉ、りぃはまだ中学生ですぜ」

「だから手土産持ってきたじゃねーか! 責任者を出せ! 責任者を!」

「どこのクレーマーだよ」

「じゃあ兄貴くん、あんたもいてきていいぞ!」

「どこの霊だよ」

「そうだ、マネージャーにしてやろう!」

「マネージャーねー。そんな肩書きあってもなあ……」

「ふむ。肩書きが欲しいのか?」

「ああ、俺は将来、社長になる男だもんで」

「ふむ……」


 ナオミはあごに手をやり、ニヤリとほくそ笑む。

 肩書きを得るように院長から言われている俺だが、変なのはいらないぞ。


「では兄貴、あんたを我がバンドのにしてやろう!」

「プロデューサー……悪くない響きだ……」

「それも、プロデューサーだ!」

「エグゼクティ……よくわからんが強そうな響きだ……」

「だろう? 映画とかのクレジットでいえば、『製作総指揮せいさくそうしき』だ!」

「……!」

「製作総指揮だ!」

「……!!」

「宮○駿だ!」

「やります」


 思わず了承してしまう俺。

 音楽界の○崎駿になる男か。

 悪くない……ぐふふっ。


「……ぃ?」

「よし、次のバンド練習から参加な!」

「りぃは、見てから考えたいの……」


 俺のすそをぎゅっとつかみ、つぶやくりぃ。


「そ、そうだよな! すまんりぃ、勝手に決めちまって」

「兄貴くんはもう加入決定だからな!」

「ええ!?」

「もう……兄ぃったら軽いの……」


 心配そうな目で俺を見る妹をよそに、その肩書きの響きに心を奪われた俺は、エグなんとかを引き受けてしまった。

 ここのとこ色々と好奇心の向くままに動いてきたから、変な積極性が身についてしまっているのだろうか。

 これが俺の人生に、また一波乱を起こすことになるとはまだ知らなかったのだ――



「で、何をすればいいんだ?」

「そうだな……特にないけどな」

「は……?」

「しいて言うなら……予算調達や管理、人事とか物販の管理とかだな」

「ほほう。人事か! トレーナーの時みたいにうまくまとめてやるぜ! なんでも来い」


 やったるでーと意気込みながら、グーサインを天に突き立てる俺。


「なおたん、それってマネージャーさんとどう違うの?」

「りぃ、あまり突っ込むな。考えるすきを与えるな」

「……わかったの」

「ん? どうした?」

「なんでもねえよ! 頼むぜ百瀬プロデューサー!」


 こうして百瀬りぃと百瀬は、バンドの道へ足を踏み入れることとなった――

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