12.第二回、百瀬ゆうまを社長にしようの会

「やあ諸君。君たちは選ばれし者だ!  俺の手となり足となり、その命尽きるまで、ともに戦おうではないか!」

「……帰る」


 反動もつけずにすくっと立ち上がり、疾風迅雷の如く立ち去ろうとするエリカを俺は腕で遮り、壁ドンする。


 その振動で7月のカレンダーが揺れた。


「で、なんなの? また被害者増やすわけ!?」

「被害者ってなんだよ! フラッシュモブの時は結局お前も楽しんでたじゃねーか!」

「た、楽しかったけど……あんたの為じゃないんだからね!」

「それでいいじゃねーか。お前の可愛い笑顔が見れて俺は満足だ」


 ヒューヒューと外野からが飛んでくる。

 箕面みのおはまたぽかんとした目で俺を見つめている。


「う、うるさい! 黙りなさいよね!」


 俺は玉ドンを喰らう。

 反則だろ……

 癖になったらどうする。



 今日は日曜日――

  悪友である箕面の家で企画会議。


「それでは改めまして、第二回、百瀬ゆうまを社長にしようの会、企画会議をはじめます」

「いえーい」


 箕面がノリノリで拍手する。


「初、箕面んちだよ! 感動だぜぇ!」


 才川は箕面の家に呼ばれた事で、浮かれすぎて聞いちゃいない。


 そしてエリカはといえば、また呆れた顔でやれやれといったポーズをとっていた――



 本日の会議参加者は、俺と箕面、エリカ、夏香に織田優理、あと才川。


「で、なんで才川がいんの?」

「なんだよ百瀬!」


 才川はプンスカな顔で俺を見る。


「ボクが誘ったんだけど、いいでしょ?」

「いやまあ、院長には、友達いないでしょみたいなこと言われたから多いほうがいいけれども」


 そこへエリカが口を挟む。


「フラッシュモブでも活躍してくれたし、いいんじゃない?」

「おう! エリカちゃん! ナイスフォロー!」


 エリカにグーサインを送る才川。


「は? 勝手にエリカって呼ばないでくれる?」

「ひいっ」


 エリカはさげすんだ目で才川を睨む。

 これがね、怖いんですよ。


「まあまあ、仲良くしよーよ。才川くんはどんな親睦会イベントがいいと思うー?」


 お人好しな箕面が才川に問う。


「そうだな、やっぱアウトレットなことがいいよな」

「アウトドアな」

「そうそれ! アウトドアでBKB!」

「BBQな」


 ツッコミのスキルだけ上がっていく俺。


「バーベキューいいねー!」


 おっと、夏香が食いついた。


「そのあと花火とかしたいよね」


 織田優里も青春な発想だ。

 いいねいいね。


「それはそれでいいと思うんだけど、メインのイベントとしては普通すぎないかしら?」


 懇親会の前例を聞いて知っているエリカが問いかけた。


「まあ、確かに。人を楽しませる才能があるかを試すとか言われてるし」


 院長から俺へのテストである。


「オレが踊ろうか?」

「却下」


 俺とエリカは声を揃えて一蹴した。


「楽しいこと、楽しいこと……」

「なあ、みんなは何をしている時が楽しいんだ?」

「そうゆう、ゆーまはどうなの?」

「俺はやっぱアニメ見てる時だな」

「ほんと見た目どおり根暗ねくらっぽいわね」

「悪かったな! エリカはどうなんだよ」

「あたしは化粧をしている時かしら」

「いやいやエリカちゃん、化粧は男子無理だからー! オレは踊っ――」

「ボクは最近は走ってるときが楽しいかな! 記録も伸びてるし」

「うちもそう! なっちゃんも練習に来てくれてるし、最近部活が楽しいな」


 そうだよな、俺もみんなの記録が伸びていることには充足感を感じている。


「夏香はどうなんだ?」

「……」


 うつむいたまま返事をしない夏香。


「おい、夏香?」

「……」

「おいっ! 大丈夫か!?」

「今、ボス倒してんの! オンラインのフレに迷惑かかるからちょっと黙って」

「なんだよ、スマホでゲームかよ……」

「あー。負けちったよー。百瀬っちどうしてくれんすかー」


 夏香はポイッとスマホを座布団に放り投げた。


「知るかボケ! 俺たちは今、大事な会議中だぞ! お前らは俺の手となり足となり――」

「けど、走るのが楽しいってもねえ、リレーなんて大人たち楽しいかどうかわかんなくねっすか?」


 そうなんだよな。

 大人の気持ちなんてわかんねーし。


「さらに子供も楽しめるもの……」

「ううむ……」

「うむむむ……」


 今日は妹のりぃもいないから、ナオミねえさんに相談もできねえな。


「オレが踊っ――」

「あたしたちって、子供の頃どんな遊びしてたっけ?」


 ふとエリカがそんなことを言い出した。


「ままごと?」

「探検?」

「オレはダンスかな?」


うそつけ、お前、高校に入ってから目覚めたって言ってたじゃねえか。


「かくれんぼ?」

「あー、ケイドロとか楽しかったよね、警察と泥棒に分かれるやつ」

「あっ……! それだよ! ハイハイ! 私おもしろいこと思いついちった!!」


 急に立ち上がり手を挙げる夏香。


「なんだ夏香、言ってみろ」

「これだよ、これ」


 スマホを見せてくるので、みんなして覗き込む。


「ちがうちがう。スマホを使うんすよ」

「スマホを使ってケイドロ?」

「げっ、まさか本物の警察に電話して……!!」

「いやいや、そりゃ無いっすよ。てかキミ誰だっけ?」

「才川っすぜ! 最初から居たっすぜ!」


 微妙に喋り方うつってるぞ。


「実はさ、スマホにみんなの居場所を表示するアプリがあるんね。それを使って、大規模なケイドロをしたら面白いことなりそうでないっすか?」

「おお! それは寝ミミズだ!!」

「寝耳に水な。才川もういいから黙って」


 大規模ケイドロか。

 ケイドロと言えば、二チームに分かれて警察チームが泥棒チームを鬼ごっこのように捕まえる遊びだ。

 T○KIOの百人刑事みたいな感じか。


「面白そうじゃん!」

「良いわね!」

「楽しそうー!」

「陸上部は負けてられないねー!」

「夏香、やるじゃねーか」

「えっへん!」


 ナオミ抜きでも良い企画案が出たぜ。

 早速院長にプレゼンしてみよう。




 episode『第二回、百瀬ゆうまを社長にしようの会』end...

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