第40話 引っ越し

「何って、私の私物だけど?」


「それは見ればわかるよ。どうしてこれがあるんだ?」


「どうしてって、今日からここに住むからに決まってるでしょ?」


「というかルナの両親は許してくれたのか?」


「うん、勇者の息子って言ったら二つ返事で許してくれたよ」


「そんなのでいいのかよ」


「だって、ここの人達にとって勇者は英雄そのものだし、それに一部の人の中には崇拝すてる人もいるくらいだから」


「そうなんだ」


「そもそも、シン君の両親は例外なんだよ。縛られたくないって言う理由で爵位すらいらないって言うくらいなんだから」


「そ、そうなんだ」


「うん、中には爵位をあげないなんて、国王を交代しろ、って言われるくらいだったらしいからね」


「そんな話初めて聞いたわ」


「ん?そうなの?妹さんは知ってたみたいだけど?」


「そりゃあ、アイリの方が親と親しいからな」


「ああ、そう言えばシン君のこと両親は知らないんだっけ?」


「そうだよ。なんかこうなると、隠してることが不利益にしかならないな」


「じゃあ、バラしちゃえば?」


「そうすると僕の沽券にかかわるからやりたくない。まあバレたらバレたでいいけど、できるだけ隠したい」


「私も言わないようにするよ」


「そうしてくれると助かる。それでルナの両親が許可してくれたのはわかったけど、よくうちのメイドが許してくれたな」


「え?そんなこと当たり前じゃん」


「え?どういうこと?」


「私、公爵家の娘だよ?ただの使用人如きが逆らえるわけないじゃん」


「まあ、確かにそうだけど」


なんで僕には言い返すのに、ルナには何も言わないんだ?そこだけ納得がいかない。


僕が言葉につまっていると。


「シン君話は変わるんだけど」


「うん?何?」


「そこの仕切り?のあたりにこんなものが落ちていたんだけど。これどうしたの?」


ルナが持っていたのは、僕が量産していたリンスだった。まああんだけぶちまければ、そりゃあ回収し損ねるのもあるよね。


「ああ、それはリンスだけど」


「うん、それはわかるよ。だからこれをどうしたの?」


よく言っている意味がわからなかった。


「?どうしたのって作ったんだけど?」


少し語弊があるけど、まあいいだろう。


「作ったんだ。作ったにしては、このリンス私見たことあるんだけど?」


「ああ、そりゃあ向こう世界のものを忠実に再現したからな」


「え?やっぱり向こうのものなの?!」


「まあ、そうなるかな?」


「これって使ってもいい?!」


ルナはぐいぐいと僕の方に迫ってきた。


「近い近い。これじゃあ、話し辛いだろ」


「あ、ごめん」


そう言ったら、おとなしく下がってくれた。でも僕はその行動がおかしく見えた。普通だったら、わたしこと嫌いって聞いて来そうなところなのに。だけど気にせず、とりあえず話そうと思った。


「それなら、別に使ってもいいぞ」


「ほんと?!やったー!」


なんかすごい喜びようだけど、そんなに大切なのか?


「なんで、そんなに喜ぶんだよ。まあ、リンスはないかもしれないけど」


「ん?リンスならあるよ。まあ、代替品だけど」


「え?あるの?」


「うん。他にも石鹸もあるし、シャンプーもあるよ」


「マジかよ」


僕の計画はここで破綻した。


今までないと思ってたから作ってきたのに、まさかあるとか。


「ん?でもあるのになんでそんなに喜んでいるんだ?」


「だって、あんな代替品じゃ全然ダメだし、やっぱり向こうの製品の方が効果は高いからね」


「なるほど」


「そういえば、他にはないの?」


「ああ、ないぞ」


「え?なんでないの!」


「なんでって、リンスが1番需要があると思ったからだよ」


「シン君、リンスだけじゃダメなんだよ?」


「それはわかるけど、こっちのものでもいいかなって」


「いいわけないでしょ!あれでどれだけ髪の毛にダメージがあると思っているの!」


「そんなに違うのか?」


「全然違う」


「それなら、今から作ろうか?」


「え?作れるの?!」


「まあ、製品めいでも分かればな」


「そうなんだじゃあ——」


そして、ルナは幾つかの商品名を言っていき、僕はその製品を作っていった。


ルナが言うそばから作っていったから、ルナは僕が作っていってるところを見ていなかった。


それでルナが言い終わるころにはすべてのものを作り終えていた。


「今言ったのが欲しいんだけど、わからないよね」


「ん?これでいいんだろ?」


僕は、作り終わったいろいろなものを指差した。


「え?もう作ったの?」


「うん、そうだけど?」


「早すぎじゃないかな?」


「まあ、気にするなよ」


僕はそう言ってこの話を無理やり区切った。










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