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俯瞰にあるのは小さな町──されど、その小さなものを救おうとしたのではなかったか。
こんな疑問も浮かばぬほどに男は当初の目的を見失い、敵に苦痛を、恨みを、死を、抱かせることだけに固執するようになっていた。
「死人どもは南下してます。このままだと奴らは砂漠に行きます。奴らが砂漠を越えられるとは思えませんが、砂漠の先には町が多くあります。無実の民が多く死にます。何とかするべきなのではないでしょうか?」
男の背後から数少ない部下の声がする。「ううむ」と男は顎鬚を擦った。
彼の名はマルストゥ将軍。かつてはメキシコの英雄と呼ばれた男も、政府軍への度重なる敗北に精神をすり減らし、今や復讐の幽鬼とも呼べる化け物に有り方を変えていた。
「いいとも。面白いとも。これこそ今のメキシコだ。誰も彼もが罪人であり、罰せられるべきなのだ。この国に誰がした? 誰も声を挙げず、誰も異を唱えず、誰もが戦わず……果てがこれだ! 死人も死ねぬ国が、今のメキシコよ! これに、この国が滅びるならばそれもまた神の導きだ。良い革命ではないかな?」
マルストゥの痩せ細った頬に、ぎょろりと充血した赤眼はさながら古代人種、吸血鬼の如くあった。それは、彼が紺の軍服の上に着こんだ赤いマントの所為もあるだろう。
「兎にも角にも、このまま騒げばいずれ次の政府軍どもがやって来よう。そいつらの一人でも噛まれれば毒はすぐに広がる。百は千に、千は万に……その先に我らの勝利はある」
民の為に始めた革命であれ、敵もいなくなれば、救うと決めた民さえもいない。それではたして勝利と呼べようか……そのような事さえ、敗北に取りつかれたこの悲しき幽鬼にはもう分からないのであろうか。
マルストゥは眼下の町、ラスコを赤い山の斜面から虚ろに眺め続けるのであった。
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