第8話《炎龍VS水龍》
「……ト……セト……セト!!」
目の前が暗くなる中、セトは突然の衝撃とフィリアの声で目が覚めた。
「ゴホッ! ゴホッ!」
口から大量の水を吐き出すと、気分が楽になっていた。どうやらフィリアが異変に気付き、慌ててセトを助けた様だ。
「大丈夫かセト!?」
「あ、うん……ごめん。いきなりやられちゃって」
「仕方あるまい。お主は初陣じゃ。妾がお主の手助けをしてやれぬ所為じゃ」
そう言いながらもフィリアも苦しそうに身体を震わせている。セトはその時になってようやく気付いた。フィリアが言っていた、【一心同体】の意味を。自分が攻撃を受ければ、傷付くのは自分一人ではないのだ。
「ようやく気付いたか? お前が炎龍の足手纏いになっていることを」
「貴様! 余計なことを言うな!」
セトに言葉を投げ掛ける敵の
「龍姫はこの世で最強と言われる程の生物兵器だ。特異能力を駆使し、あらゆる者を蹴散らしていく。……しかし、それは契約した
「この無礼者!! 妾の主に対して……!!」
フィリアの行く手を阻み続ける水龍。衝撃の事実を知らされたセトは、跪き、俯いた。分かってはいたことだが、それを他人に知らされることを恐れていたのだ。その事実が証明されてしまうから。
敵の
「セト! 早く逃げるのじゃ!」
必死に水龍を倒そうとするフィリアだが、相性の悪い水龍を簡単に打ち破ることはできない。二体の間で激しく炎と水が衝突し合っている。
「そこをどけー!!」
力の限り炎の光線を吐き出すフィリアだが、水の前にはその思いも通じない。
「返答無しか……。ならば、問答無用で殺させてもらうぜ!!」
力強く弓を射る敵の
(確かに僕はフィリアの足手纏いかもしれない。力でも、知識でも僕が劣っていることは間違いない。だけど……だけど! フィリアに対する気持ちは誰にも負けはしない!!)
そう心に言い聞かせたその瞬間、セトの右手の甲に刻まれた龍章が紅緋色に輝き出した。フィリアとの契約をした時に比べ、その輝きは遥かに増している
「な、何だこれは!? 一体何が!?」
敵の
「これは……妾も感じたことの無い力だ! だがしかし、セトの力が妾にも伝わってくるのが分かるぞ!」
フィリアも未経験の感覚だった。セトと契約したからではない。以前の契約者と契約していた時にはこの感覚は感じることは無かった。
セトは無意識の状態に陥った。立ち上がり、右手に力を入れるのも無意識である。
「
セトはそう言葉を発した。それと同時にフィリアの身体に異変が起きる。力を使っていないはずの身体から、炎が噴き出す。その炎はフィリアの身体に纏わり着いていく。
「自滅? いや……そんなはずは無い。……な……何だと!?」
敵の
フィリアもその様子には驚いた。しかし、ただ装甲が身に付いただけではない。先程に比べ、身体に宿る炎の力が違う。
「水龍! 早くしろ! 炎龍を渦潮で飲み込んでやれ!!」
「阿呆(あほう)! 今の妾がお主らごときにやられるものか!! 食らえ! 極炎の
「水の
激しく衝突し合う炎と水の光線。しかし、明らかにフィリアの炎が勢いを増し、水龍の水を飲み込んでいく。火力の増したフィリアの炎は水龍の水に消火されることなく、その水を蒸発させていく。
「何だと!? ……お前を先に殺せば問題無い!」
敵の
「ぐわああああああーっ!!」
敵の
「やれやれ。一時はどうなることかと思ったが……勝てて良かった。そうじゃの、セト?」
フィリアは地面に着地するとともに、龍から徐々に人間の姿へと戻っていく。服もきちんと元に戻っている。
「ん? セト……セト?」
セトの龍章の輝きが治まると、鎧や兜は炎となり消えてしまった。すると同時に、セトは意識を失い、地面へと倒れこんでしまった。
「……気絶しただけか。どうやら力を使い過ぎて身体に掛かった負担が大きかった様じゃの。これは次の戦に向けて鍛錬せねばならん! ……仕方ないのう」
そう呟いたフィリアはセトを右手で軽々と担ぎ、宮殿へと戻って行った。
フィリアが去るのを森の出口から見送る一つの影。その者は茶色のマントを着て、正体がばれぬように顔を伏せている。
「あれが将軍様の言っていた炎龍フィリアか……。帰って将軍様に報告せねば……くっくっく! 面白くなってきたな」
その人物は、風と共に僅か一瞬にして消え去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます