第8話《炎龍VS水龍》

「……ト……セト……セト!!」

目の前が暗くなる中、セトは突然の衝撃とフィリアの声で目が覚めた。

「ゴホッ! ゴホッ!」

口から大量の水を吐き出すと、気分が楽になっていた。どうやらフィリアが異変に気付き、慌ててセトを助けた様だ。

「大丈夫かセト!?」

「あ、うん……ごめん。いきなりやられちゃって」

「仕方あるまい。お主は初陣じゃ。妾がお主の手助けをしてやれぬ所為じゃ」

そう言いながらもフィリアも苦しそうに身体を震わせている。セトはその時になってようやく気付いた。フィリアが言っていた、【一心同体】の意味を。自分が攻撃を受ければ、傷付くのは自分一人ではないのだ。

「ようやく気付いたか? お前が炎龍の足手纏いになっていることを」

「貴様! 余計なことを言うな!」

セトに言葉を投げ掛ける敵の龍戦士ドラグライダーにフィリアが反撃をするものの、水龍が龍戦士ドラグライダーを庇う様に割って入った。空に飛び立ち、互いの龍姫が睨み合う。

「龍姫はこの世で最強と言われる程の生物兵器だ。特異能力を駆使し、あらゆる者を蹴散らしていく。……しかし、それは契約した龍戦士ドラグライダーの戦闘能力、知識力、精神力があってこそだ。お前の様なただの兵士にも及ばぬ雑魚が契約者となった炎龍の龍姫は、言わば足枷を着けられた戦士の様なものだ。……諦めろ。どんな手を使ったかは知らないが、お前に龍戦士ドラグライダーとして生きることは不可能だ。契約を破棄すれば、お前を見逃してやる。……どうだ?」

「この無礼者!! 妾の主に対して……!!」

フィリアの行く手を阻み続ける水龍。衝撃の事実を知らされたセトは、跪き、俯いた。分かってはいたことだが、それを他人に知らされることを恐れていたのだ。その事実が証明されてしまうから。

敵の龍戦士ドラグライダーがセトに覚悟を決めさせるべく、セトの心臓目掛け弓を射る構えをした。すると、装備している鎧から水が手元に流れ、弓と矢が形成された。能力が上達すれば、この様な武器を形成することも可能になるのである。

「セト! 早く逃げるのじゃ!」

必死に水龍を倒そうとするフィリアだが、相性の悪い水龍を簡単に打ち破ることはできない。二体の間で激しく炎と水が衝突し合っている。

「そこをどけー!!」

力の限り炎の光線を吐き出すフィリアだが、水の前にはその思いも通じない。

「返答無しか……。ならば、問答無用で殺させてもらうぜ!!」

力強く弓を射る敵の龍戦士ドラグライダー。その矢の先には、セトの心臓が正確に狙い定められている。恐らく逃げ切ることは不可能であろう。

(確かに僕はフィリアの足手纏いかもしれない。力でも、知識でも僕が劣っていることは間違いない。だけど……だけど! フィリアに対する気持ちは誰にも負けはしない!!)

そう心に言い聞かせたその瞬間、セトの右手の甲に刻まれた龍章が紅緋色に輝き出した。フィリアとの契約をした時に比べ、その輝きは遥かに増している

「な、何だこれは!? 一体何が!?」

敵の龍戦士ドラグライダーも驚きを隠せない。龍章が輝くと同時に、フィリアの身体にも力が迸った。

「これは……妾も感じたことの無い力だ! だがしかし、セトの力が妾にも伝わってくるのが分かるぞ!」

フィリアも未経験の感覚だった。セトと契約したからではない。以前の契約者と契約していた時にはこの感覚は感じることは無かった。

セトは無意識の状態に陥った。立ち上がり、右手に力を入れるのも無意識である。

龍武装ドラグアーマー!!」

セトはそう言葉を発した。それと同時にフィリアの身体に異変が起きる。力を使っていないはずの身体から、炎が噴き出す。その炎はフィリアの身体に纏わり着いていく。

「自滅? いや……そんなはずは無い。……な……何だと!?」

敵の龍戦士ドラグライダーは信じ難い光景を見た。胴体、腕、背には黒い鎧、頭部には兜が装備されたフィリアの姿だった。

フィリアもその様子には驚いた。しかし、ただ装甲が身に付いただけではない。先程に比べ、身体に宿る炎の力が違う。

「水龍! 早くしろ! 炎龍を渦潮で飲み込んでやれ!!」

「阿呆(あほう)! 今の妾がお主らごときにやられるものか!! 食らえ! 極炎の咆哮ヘルファイアブレスト!!」

「水の渦潮スプラハリケーン!!」

激しく衝突し合う炎と水の光線。しかし、明らかにフィリアの炎が勢いを増し、水龍の水を飲み込んでいく。火力の増したフィリアの炎は水龍の水に消火されることなく、その水を蒸発させていく。

「何だと!? ……お前を先に殺せば問題無い!」

敵の龍戦士ドラグライダーが再び弓を射る。セトの心臓を狙い、弓を放った。しかし、セトはそのほんの僅か先に腰から細剣を抜いていた。龍章から凄まじい炎が噴き出し、細剣に纏った。燃え盛る炎の剣を振ると、水の矢を蒸発させ水の矢は消えて無くなった。そしてそのままセトは無意識に敵の龍戦士ドラグライダーの身体を切り裂いた。それと同時に、フィリアも水龍を炎で焼き尽くした。

「ぐわああああああーっ!!」

敵の龍戦士ドラグライダーが斬られたこととは別の痛みで叫び出した。しかしそれは僅かな間。叫び声が聞こえなくなった瞬間、水龍達の身体は黒く焦げ、灰と化した。その灰は、風に乗せられ、夜空へと散っていった。

「やれやれ。一時はどうなることかと思ったが……勝てて良かった。そうじゃの、セト?」

フィリアは地面に着地するとともに、龍から徐々に人間の姿へと戻っていく。服もきちんと元に戻っている。

「ん? セト……セト?」

セトの龍章の輝きが治まると、鎧や兜は炎となり消えてしまった。すると同時に、セトは意識を失い、地面へと倒れこんでしまった。

「……気絶しただけか。どうやら力を使い過ぎて身体に掛かった負担が大きかった様じゃの。これは次の戦に向けて鍛錬せねばならん! ……仕方ないのう」

そう呟いたフィリアはセトを右手で軽々と担ぎ、宮殿へと戻って行った。




フィリアが去るのを森の出口から見送る一つの影。その者は茶色のマントを着て、正体がばれぬように顔を伏せている。

「あれが将軍様の言っていた炎龍フィリアか……。帰って将軍様に報告せねば……くっくっく! 面白くなってきたな」

その人物は、風と共に僅か一瞬にして消え去っていった。



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