第22話 「あのね。明日は無理なんだ」

「ねぇタネちゃん。今度の日曜日にさ、遊園地行こう!」

 次の日、朝一番にキョウちゃんはそんな提案をしてくる。

 挨拶もせずにいきなりそう声をかけられたものだから、少し驚いた。

「え? あ、キョウちゃんおはよ」

「ねぇ、ねぇ。一日たっぷり遊ぼうよ」

 キョウちゃんは甘えるようにわたしの左腕に抱きついてくる。

 でも、その日はナルミちゃんの誕生日だった。

 約束は彼女の方が先。一日くらいなら許してくれるだろう。

 そんな軽い気持ちでわたしは答えた。

「あのね。明日は無理なんだ」

「どうして?」

「うん、用事があるから」

 キョウちゃんは笑ったまま、それが当然であるかのように言ってくる。

 あまりにも簡単に出てきたその言葉に、わたしは一瞬耳を疑った。

 今までずっと親友である彼女を優先してきたのに……どうしてそれがわからないのだろう?

「そんなこと……」

 身体が怒りで震えているのがわかる。今まで我慢していただけに、そのはけ口を心が求めていた。

「どうしたの? タネちゃん」

「そんなことなんで言うのよ! なんでそんな簡単に命令するの? わたしたち友達じゃなかったの? それなのに、なんで命令なんかするのよ!!!」

 言ってはいけないとわかっていても止めることはできなかった。

「え?」

 案の定、キョウちゃんはわたしの言葉が理解できていなかった。

 怒りに任せてはいたが、それでも落ち着かなければいけないという考えも頭の隅に残る。だから、大きく深呼吸をした。

 けど、心のもやもやは晴れやしない。

「しばらく会うのやめよう」

 このまま会っていてはお互いの為にならない。

 わたしが甘やかしてしまったから、彼女はここまでつけ上がってしまったのだろう。会い続けるのは悪循環にしかならない。

 だから、その時はそれが一番良い選択だと思った。

「どうして?」

 キョウちゃんは、いまだにわたしの怒っている理由を解っていなかった。その態度がわたしの抑えつけていた心のたがを外してしまう。

「わたしはキョウちゃんの物じゃないんだよ。わたしだってわたしの生活がある。この世界はわたしとキョウちゃんの二人しかいないわけじゃないんだよ。だから、キョウちゃんのわがままだけに付き合うわけにはいかないの!」

 わたしは感情のまま言葉を吐き出し続ける。それでも怒りは収まらなかった。

「……ごめん」

 キョウちゃんの瞳から涙が溢れてきた。彼女の悲しい顔を見るのは何度目だろうか?

「…ごめんなさい。わがまま言ってたのは謝る。謝るから……だから今度の日曜だけは一緒にいて。お願いだから」

「無理だよ。キョウちゃんの為にずっと誘いを断っている友達の……一年に一度しかない誕生日なんだよ!」

 その時、わたしは意地になっていたのかもしれない。

「でも……今度の日曜だけは……」

 しつこく食い下がる彼女に、わたしの苛つきは頂点に達する。

「それのどこがわがままじゃないって言うの!?」

「……」

「キョウちゃんなんか大嫌い!」

 それが彼女と交わした最後の言葉だった。



 四日後の月曜日、キョウちゃんは転校していった。

 わたしがその事実を知ったのは、さらに二日後のことだった。

 知らなかったとはいえ、それが取り返しの付かない事だと気付いてしまう。

 後で聞いた話だけど、彼女の両親は離婚し、母方に付いたキョウちゃんは急遽転校という事になったらしい。

 本人はきっと混乱していたのかもしれない。だから一日でも長くわたしと一緒に居たかっただけなんだ。

 それなのに、拒絶という最悪の形で別れを迎えてしまった。

 理由さえ話してくれれば、わたしはその残された日々を大切に過ごしたと思う。

 でも、もしかしたらその問いかけ自体が間違っているかもしれない。

 転校の事を話したら、同情というフィルターがかかってしまう。だからこそ、純粋に友達として最後まで過ごしたかった彼女には、転校の話ができなかったのだろう。

「ごめん……キョウちゃん」

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