きっとみんな騙される

 目が覚めた。


 清々しい朝だ。


 糞を食っているようなまずい朝食を食べ博優学園に向かう。だが玄関先に一人の女性が。


「早苗? 何してるの?」

「い、一緒に学校に行かぬか」


 なんと。まさか待っていてくれたのか。


「もちろんだ」


 仲良くなることに、越したことは無い。


「そういえば早苗は俺以外に誕生日を祝ってくれた奴はいたのか?」

「うむ。月夜が祝ってくれたぞ」

「他には?」

「母様はケーキを用意してくれたぞ」

「他に?」

「茉子も祝ってくれたぞ」

「他?」

「…………携帯のアプリが誕生日クーポンをくれたぞ」


 そうかそうか。


「聞いて悪かったな」

「黙れ! ランフォード事件の時、周囲を巻き込まないように出来るだけ接触を切っていたのだ。だから私は決してボッチというわけではないぞ!」

「当たり前だ。早苗には俺がいるだろ」


 そんな当たり前なことを言ったのだが


「う……うぅ……」


 顔を赤らめる早苗。


 変なこと言ったかな?


 全く分からないな。


「分かっていると思うが早苗は月夜さんにも誕生日祝えよな」

「分かっておる。既に準備している」

「因みにいつ?」

「明日だ」


 早い。

 俺も何か用意しなければ。


 あの子は知らないと思うが、恩がある。


 恩は倍に、仇は百倍に。


 もし俺が家庭を作るのならこれを家訓にする。




 時雨たちが机を囲んで雑誌を見ていた。


 エロ本か?


 高校生がそんなものを持っていたらダメだ。それは俺が預かっておく。


「嘉神も見るか?超者番付」


 ちっ。エロ本じゃ無いのか。


 ただ俺が自分はギフトホルダーだと知って初めての番付なので興味がある。


 後ろから覗いてみる。


「相変わらず『帝国』の人たち強いな。王陵さんは19年連続だろ?」

「ああ。ほんとだよ」


 王陵さんとは、王陵君子おうりょうくんしのことだ。


 『帝国』の二代目帝王をしている。


 毎月更新される超者番付に19年連続で一位を取り続けた生きる伝説。


 その圧倒的なカリスマで多くのギフトホルダーを従えている。


 正直なところラスボスという存在がいるのなら王陵さんがそれじゃないかと思っているくらいだ。


「いつかおれも載ってみてえよ」

「そうだな」


 身内(姉妹)にランクインしている奴がいるんだがな。


 俺はペラペラとページをめくり妹の欄を確認する。




498位 折神双葉

499位 飛鳥部作哉

500位 嘉神一樹




 確かに妹の言う通りだった。


 498位か。中二でそれはすごい。


「…………」


 500位誰だよ。


 嘉神なんて苗字早々あるものじゃない。


 同姓同名の別人と考えたいがこれは俺の名前と考えるのが普通だろう。


「どうした?」

「500位」


 時雨に現状を伝えるための一言。


「500位がどうかした……か…………?」


 順位を見て時雨が硬直する。


「やっべえええええ」


 そして騒ぎ出す。


 その他のみんなも一斉に騒ぎ出した。


「すっげえ」

「まじか。高校生で載るなんてよっぽどのことだぞ」


 そういうものだろうか。


 ただ俺にしてみればギフトが複数あるのにまだ上500もいることの方がやばいと思う。


 ついでに言うと噛ませ父とはいえ、未だに俺より圧倒的に強い。


 ただその父さんは殺し屋という犯罪者なのでランクインしていないからそれ以上に上がいることを意味するわけだ。


「うっせえな。すこしは黙ってろよ」


 そういうのは大音量で何やら説法を聞いている元友人仲野。


「何あれ?」

「知らん」


 早苗が無知なのは知ってるがな。


「あれは……浄化集会か」


 浄化集会はA3(アンチアブノーマルアソシエーション)の大元となっている所で、危ないところと言えば危ないところ。


「ああ。ただの宗教じゃねえ。クズが信じる宗教だ」


 それを聞いてキレる仲野。


「クズは異常共のお前たちだろうが!」


 あいつ自分でキレることなんてあったんだな。


「てめえもう一度言ってみろ!」


 仲野の罵りに反応する時雨。


 それにしても浄化集会か。


「仲野。もしかしてお前『君には才能がある』とか『君の力が必要だ』なんて言われなかったか?」

「どうしてそれを!?」


 やっぱりな。


「それ詐欺師が使う手だぞ。よかったな、今気づいて。ついでにだがそのレコード買うのに幾らかけた?一万かけたとしたら…………嗤ってやるよ」

「うるせえ!おれが何を買おうが関係ないだろ!!」


 どうやら認めたようなので。


「HAHAHA」


 嗤ってやる。


 癪に障ったらしく襲い掛かってくる。


 うーん。倒し方が多すぎて困るな。


 ただあんまりギフトを使って倒したと思われるのは良くないので足を引っかける。


「ごふっ」


 うん。弱い。


「どうした仲野。何勝手に倒れてるんだ?」

「うるせえ!」


 立ち上がり再び襲い掛かる。


反辿世界リバースワールド


 周りの動きが完全に止まる。


 俺はギフトを使っていないがこのギフトは…………


「宝瀬先輩?」

「ええ」


 先輩がいつの間にか教室にいた。


「えっと……助けてもらったことについては感謝しますけど、正直今すぐ解除できますか」


 多分この後仲野は俺がギフトを使ったから負けたとか言い出す。


「ごめんなさい」


 宝瀬先輩すぐに解除した。


 『世界』は動き出し、仲野が襲い掛かってくる。


 俺は仲野の攻撃を完全に見切り必要最小限の動きで回避した。


「いい加減やめないか、お前が俺に勝てるのは誕生日の早さと金だけって前にも言っただろ?」

「うるせえ!どうせギフトでも使ったんだろ!」


 ほら言い出した。


「宝瀬先輩、何か言ってください」


 一応彼女は生徒会長なので助けを求めてみる。


「お金の件だけど、嘉神君の預金通帳は今1億あるわ」

「え?」

「つまり嘉神君に勝っているのは誕生日の早さだけよ」


 いや、重要なのはそっちじゃなくて


「この状況の打開策を一つ」

「仲野君を退学にすればいいと思うわ」


 と、そんな反則を超えた反則案を提示した。


「お、おい」

「この学校の理事長は私のお父様よ。私がお願いすれば生徒一人退学させることくらい雑作もないことだわ。それてもあなたのご両親の勤めている会社を潰して授業料を払えなくした上での自主退学の方がいいかしら」

「ちょ……」

「ギフトなんか使わないわ。あなたごとき使ってあげるものですか。退学が嫌だったら今すぐ嘉神君に謝りなさい」


 この人、日常では無敵だ。


 美人で権力があって金もある。非の打ち所がないとはこのことだった。


「…………」

「嘉神君、潰した方がいいかしら」

「い、いえ。大丈夫です。そのままで」

「分かったわ。命拾いしたわね」


 先輩は仲野のことは気にも留めないで俺の元にすり寄ってきた。


「「「!!!」」」


 クラスメイト全員が驚く。


「先輩?」


 周りのことなんて気にしないで犬のように身体をこすり付ける。


「な、なにをしとるだあ!!!」


 早苗がなぜか怒る。


 俺と先輩を引き離そうとしたが――――先輩の方が強かった。


 片腕で早苗を投げ飛ばした。


 うっそぉ。


 そんなこと出来るのか。


 当の宝瀬先輩は気にも留めずマーキングを続ける。


「この臭い――たまらないわ」


 何やら変態臭漂う発言をした。


 そろそろ引き離そうとしたとき


「お前らチャイムなってるぞ。席付け……ってなんで三年が?」


 高峰先生がやってきた。


 注意してそれで終わりだろう。


「先生、給料なくなるのと給料アップするのはどちらがお好みかしら」

「出席取るぞ」


 寝返ったあああ。


 職務まっとうしろよ高峰。


「全員居るな」

「先生、月夜がいないのだが」


 俺の隣は宝瀬先輩が占領しているが本来この席は月夜さんのものだ。


「あ……あいつは学校やめた」

「なぜだ!?」

「一親等上の都合だそうだ」

「月夜に両親はいないぞ」

「あ……その……」


 何やら高峰先生は隠し事があるようだ。


「早苗、とりあえず今はやめだ。ホームルームが終わってからだ」


 朝、早苗は月夜さんが誕生日を祝ってくれたといっていた。


 その時普通に喜んでいたので異変はなかったと考えるべきか?


 早苗だから異変に気付かなかったというのもあり得るが…………むしろその可能性が高いな。




 ホームルーム終了したのと同時に俺達は会議に入る。


「早苗は何か知らないのか」

「…………知らぬ。昨日は普通に話していたぞ」

「そうか。早苗はさっき月夜さんに両親がいないって言っていたが、あれは本当か」

「…………うむ。本当だ」

「つまりは一親等の都合で退学は嘘ということだが…………あの宝瀬先輩」

「何かしら?」

「いい加減俺の指を舐めるのやめてくれますか」

「分かったわ」

「話を続けるとして……いや舐めるの指じゃ無ければいいって意味じゃないですからね。うなじ舐めないで」

「分かったわ」


 分かっていないなこの先輩。


「大体さっきから真百合は何なのだ!貴様は真面目に話を聞く気はあるのか!」

「無いわ」


 言い切った。


「だいたいどうでもいいでしょ。話を聞く限り自主退学なのでしょ?本人も納得して自分で決めたことよ。人がどうこう言う気はないわ」

「だ、だがあいつは……」


 何やら早苗は月夜さんのことについて何かを知っているようだった。


「何か知っているのなら伝えてくれ」

「……すまん。いくら一樹でも教えることは出来ん」


 そうか。個人情報だから仕方ないか。


「使えないわね。なんの為に存在しているのかしら」

「さすがに言い過ぎですよ」

「そうね、言い過ぎたわ。ごめんなさい」


 俺に謝ってどうする。


「早苗に謝ってください」

「早苗。ごめんなさい」

「心がこもっていない。まったく嬉しくないのだが」


 まあいい。


「そろそろ教室に戻った方がいいですよ」

「分かったわ」


 そう言って宝瀬先輩は教室に戻っていった。


「なんなのだ真百合は」


 早苗は怒っている。


「嫉妬?」


 冗談を言ってみた。


「ち、違うぞ!!」


 はは、予想通りの反応で面白いな。


「分かってるって。そんなに慌てなくても」


 早苗は何か言いたそうだったが、授業のチャイムが鳴ったので何も言わなかった。






 学校の授業が終わり、スマホの電源を入れる。


 持ち込みは許可されているが授業中の使用は許可されていない。


 数件のメールが来ていた。


 そのメールは同じアドレスから来ている。


 件名が月夜幸となっていたので急いで確認すると


『助けてください』


 と書かれていた。






 俺は急いで教室を飛び出す。


 走りながら用件を確認する。


 要約すると、『浄化集会』に捕まったから助けてくれだった。


 場所は恐らくこのあたりで最も近い隣町の分館らしい。


 タクシーを探すより走った方が早い。


 『世界』を止めながら次元移動で頑張る。


 十分くらいで着いたがすでに疲れ切っていた。


 呼吸を落ち着かせ、侵入を試みる。


 中には不自然なほど誰もいなかったが、今は好都合だ。


 メールでは地下に閉じ込められているらしいと書かれていたので階段を探す。


 意外とすぐに見つかった。


 俺は階段を降りる。


 中は真っ暗だった。


 都合よく懐中電灯があったのでそれを使う。


 中は……拷問部屋だった。


 水責めや火責め、電気ショックのための器具が多くある。


 そして一角に檻が、その中に彼女がいた。


「嘉神さん!」


 月夜幸が俺を呼んでいた。


「大丈夫だったが?何もされてないか?」

「はい。大丈夫です」


 そうか。ならばいい。


「みんな心配してたよ。とくに早苗はな」

「…………そうですか」


 さて、牢屋のカギを探すか?


 いや、この程度の檻なら鬼人化オーガナイズで壊せるな。


「ちょっと離れていて」


 予想通り檻を破壊することができた。


「ありがとうございます」

「いいって。気にするな。さっさと逃げるからな」


 意外とあっけなく終わったな。


「嘉神さん」


 呼ばれて振り返る。


 ナイフで首元を刺された。


「え?」


 完全に急所、しかも毒を塗られ痺れが止まらない。


 俺は何もできずにその場に倒れる。


「ぁぁぁ」


 目眩が、吐き気が、頭痛が。


 俺が最期に見た姿は


「さようなら、また会いましょう。主人公さん」


 俺を見ながらも別の何かを見ている月夜さんの姿だった。



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