第1話 サヨクくんとネトウヨちゃん
――議論は、決裂した。
教室で向かい合う両者の間に、周囲からも見て取れるような、
凍てついた緊張感と、静やかな敵意が――走る。
一人は――
少女。
無造作に束ねたポニーテールの黒髪。
前髪には銀色の小さな髪留めが光っている。
ベージュ色のカーディガンに、
白いブラウスと紺色のスカートの制服。
いつものはじけるような笑顔も――今はきつく引き締まっている。
ポケットから飛び出たスマホのストラップが、
身体の細かな震えに依るものか――かすかに揺れていた。
自分の前の席に座り、相対している少年を、
顔をやや紅潮させながら――見つめている。
それはもちろん――好意によるものではない。
そして――
少女は、意を決したかのように深く目を閉じて――数秒後、開くと同時にボソリと
――つぶやいた。
「…………サヨク」
――ピクッ
少女と真向かいの席に座る――
少年。
整えられた短髪に、フチなしメガネ。
黒一色の学生服に身を包み、
ズボンにはシワひとつ無い。
普段と異なり、眼光は厳しく――
先ほどまでの論戦の結末を周囲に思わせる。
そして、怒り――だろうか。
肩をワナワナと震わせつつ、こちらも、目の前の少女に向かって、
――低く小さく、言葉を放つ。
「…………ネトウヨ」
少女には――その言葉が届いてしまったのだろう。
身体をこわばらせて、目をカッと見開き、
少年を睨み付ける。
一呼吸の後、
今度は、ハッキリと――
「サヨク」
少年は――
唇の端を軽くピクッピクッと引き攣らせ
もはや遠慮はいらぬ、とばかりに
言葉を返し――
「ネトウヨ」
ガタッ
少女が椅子から立ち上がり、
――叫ぶッ。
「――サヨクっ!」
ガタンッ
少年も勢いづいて起き上がり、
――吼えるッ。
「――ネトウヨッ!」
二人以外の――教室の誰もが唖然とする中、こうして――
一触即発、竜虎相打つ、呉越同舟、トムとジェリー。
少年と少女、二人の永きにわたる戦いの日々が
幕をあけたのだった。
そんな二人を、
誰が呼んだか――
――こう呼んだ。
『サヨクくんとネトウヨちゃん』
――大事なことだから、二回言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます