イロトリ鳥

しょうの

ハナカイ

「愛情がなくなれば、ヒトはどうなるのかしら」


 ハナカイは言いました。黒い彼を静かに見つめて、悲しむような目で、そっと問いました。彼の懐には星の浮かぶ夜空(よそら)がありました。月のない闇はどこまでも暗く、けれども果てなく清廉でした。冷たい石英を眺めるようでした。


「絡み絡まる指の先。なくなりゃすっきりするだろう」


 かたと首を傾げて、イロトリは答えました。歌うような物言いは、彼の特徴です。歌い、降り立ち、羽を広げて攫っていく。彼は常に軽やかなのでした。地球の重量を知らない男なのでした。


「悲しいと。悲しいと。絶えることなく降ってくりゃあ、いい加減うんざりさ。なくなれなくなれ、二色ありゃあ足りるだろう」


「二色は只管外にしかならないわ、満たすことはできないのよ」


 ハナカイは首を振りましたけれど、イロトリは肩を竦めただけでした。彼は知っているのでした。黒の美しさを。混じり気のない一色は全く美しいと。しかしそれが宇宙の果てにたった一人で沈むことであるとも彼は知っていました。知っていて言うのでした。


 ハナカイが自分の手の内を見下ろしますと、彩りどりの花で覆われていました。それは誰かが失ったものでした。それは誰かが欲するものでした。欲しい欲しいと泣きましたが、手に入らないものでした。それを手にした者だけが、この世界で生きることができるのでした。ですから、これを持たない者は、どうして生きるのか分からないのでした。


「お前がいるから人は死ぬのさね」


 男の嘴が嘲笑の形を取りますと、ハナカイの頬に血が上ってカッと熱くなりました。悲しいと思いました。ほんとうのしあわせは銀河の外にあるのだわ。ハナカイが涙を零しますと、イロトリは顔を歪めて去ってしまいました。ホシトリの元へと行くのでしょう。ハナカイの周りはとても鮮やかでした。けれども永訣に一人なのでした。それをハナカイは識っていたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る