ドラマ

織音りお

幕前

幕前

 雨上がりの、澄み切った空の下。

 写真の中の少女は、紫や薄桃や空色に咲いた、たくさんの紫陽花に囲まれて笑っていた。

 青々とした葉の上で揺れる、透き通った雫。その雫に反射して小さく光る陽光のように。俺の行く道を照らし、心を溶かしてくれた、あの笑顔のままで。


 もし、これがドラマだったなら。


 もし、これがドラマだったなら。俺たちは運命のように再会して、今度こそ同じ道を歩けるのだろうか。

 一番大切な彼女の隣に並んで、手を取ることができるのだろうか。バカみたいな冗談の言い合いも、たわいのない日常の会話も、真面目な話も、全部全部当たり前のようにできる日が来るのだろうか。


 ——何よりもう一度、あの笑顔に会えるのだろうか。


 そんなわけないよな、と俺はため息をついて空を見上げる。

 雲ひとつない空が“あの日”を思い出させるようで、少しだけ胸が痛んだ。



 会いたい、と思った。

 彼女に会って、また一緒に並んで歩きたい。彼女の明るい声を聞きたい。彼女の笑顔を、一番近くで見ていたい。

 でも、きっとこの願いは叶わない。だって俺は、ドラマの主人公なんかじゃないのだから。


「でもお前はきっと、何言ってんの、って怒るんだよな」

 写真の中で屈託無く笑う彼女にそっと問いかける。その笑顔が無条件に向けられていた過去の俺が、今どうしようもなく羨ましい。

「そんなの当たり前でしょ。みんな、みんなそれぞれのドラマを生きているんだから。——玲央だって、ドラマの主人公なんだから」



 彼女が、少し怒ったようにそう言った気がした。

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