第二話 和之達、リアル徳島ご当地敵キャラ退治の旅始まるじぇ(後編)

みんなは近くのファミレスで昼食をとったあと、私立では日本一の広さを誇る大塚国際美術館へ。正面入口から館内に入るとすぐに見えるエスカレータを利用し、地下三階エントランスに辿り着くと順路に従い館内を回っていく。

「ワタシこの美術館の絵ではこれが一番好きじゃ。この左手を添えて恥ずかしい部分を隠しとるとこがますますエロいじょ。ティツィアーノさんは神絵師じゃね。マネは真似して『オランピア』も描きよるけど、ワタシはその絵見て萎えたじょ」

地下二階の『ウルビーノのヴィーナス』前で、絵里子はにやけ顔で感想を呟く。

「絵里子、芸術作品をそんないやらしく鑑賞しちゃダメ。ヌードは芸術なんだよ」

由利奈は俯き加減で注意しておいた。

「わたしもこの絵、絵柄が好きですよ」

「おっぱい丸見えだね」

 星音は数センチ先まで近づいてにこにこ笑いながら眺める。

「ゲーム上の大塚国際美術館他でもこういったヌード絵画が閲覧出来ることも、CEROがBの理由なんじぇ」

 眞智は楽しそうにこの絵を眺めつつ、豆知識を伝えた。

「和之お兄さんは、この絵のことどう思う?」

「全く興味ない」

「和之お兄さん、紳士振りよるね」

 絵里子はにんまり微笑む。

「そんなことよりみんな、敵キャラらしきのが俺達の方へ近づいて来たぞ」

 和之は遠くの方へ視線を逸らしたが、それが功を奏したようだ。

 フェルメール作、『真珠の耳飾りの少女』の絵が額縁に飾られた状態でぴょんぴょん跳ねながら近寄って来ていた。

「やはり展示されている絵画がモンスター化されていますね」

「絵が生き物みたいだね」

 鈴恵と星音は興味津々だ。

「防御力高そうだし、体当たりされたらめっちゃ痛そうだ」

 和之は容赦なく竹刀で絵の少女の肩の部分をぶっ叩く。

「やっぱ一撃じゃ無理か」

「和之お兄さん、次ワタシが攻撃するじょ」

 絵里子はバットで青いターバン部分に攻撃を加えた。

「この絵、強いね」

 まだ退治出来なかったので、星音もヨーヨーで顔の部分を攻撃。

 これにて消し去ることが出来た。

パッケージに昭和期に活躍した女優、松山容子が描かれたレトルトのボンカレーを落としていく。 

「さすが大塚国際美術館内の敵じゃね」

 絵里子のアイテムに加えた。

「これは体力が50回復するけど、調理せんと使えんじぇ。道中は持っててもあまり意味ないかも」

「一応記念に持っとくじょ」

「レトルトの徳島ラーメンとか、そのままじゃ食えない回復アイテムも多いのもあのゲームの特徴だな。うわっ、ムンクの『叫び』も来たぞ」

「ほんまじゃ。ムンクの絵が宙を舞ってるじょ」

「ムンクだぁ。あたしこの絵大好き♪」

 星音は絵の真似をして両手をほっぺたに引っ付ける。

「私も好きだな」

「わたしもお気に入りです。この敵はどんな攻撃をしかけてくるのかしら?」

「大塚国際ムンクの叫びくんの体力は29じぇ」

 眞智が伝えた直後。

 うわあああああああああああああああああ~。

 大塚国際ムンクの叫びくんは大きな叫び声を上げた。

「不気味過ぎるじょこの声、精神がおかしくなりそうじゃ」

「これはやばいな」

「あたしも変になりそう」

「わたしもです」

「私もだよ」

 和之達、動きが鈍ってしまった。

「皆様、耳を塞いで聞かないようにして下さい。混乱状態になっちゃうじぇ。こいつの弱点は音じゃ。由利奈様、早くヴァイオリンを」

 眞智は耳を塞ぎながら注意を促した。

「分かった」

 由利奈は急いでリュックからヴァイオリンを取り出し、メリーさんの羊を演奏し始めた。

 すると大塚国際ムンクの叫びくんは叫ぶのをやめてくれたのだ。

「由利奈ちゃん良くやった。叫びさえなければ弱そうだ」

和之の竹刀二連打で退治完了。

「由利奈様、上手くいきましたね。不気味な声には耳障りな音で対抗するのが一番いいんじぇ」

「私のヴァイオリン、やっぱり耳障りなんだね」

 由利奈はしょんぼりしてしまう。

「由利奈お姉さん、今回は楽器の下手さが武器になったけん喜びなよ」

 絵里子はにっこり笑って慰めてあげた。

「あたしはそんなに耳障りじゃなかったよ。あっ! 『最後の晩餐』だぁっ!」

 星音は角から曲がって姿を現したそいつに気付くと嬉しそうに叫んだ。

「レオナルド・ダ・ヴィンチ作の大塚国際最後の晩餐ちゃんは体力30。それほど強くないけど多彩な攻撃してくるじぇ」

高さ一メートル、横幅二メートルくらいだった。

「さっき見た実物よりかなりちっちゃいな。実物はかなりでかいからな。キリスト叩くと罰が当たりそうだ」

 和之はさっそく竹刀で絵の中央付近のテーブル部分をぶっ叩く。

「うわっ、いってぇぇぇっ!」

 即、仕返しされてしまった。絵から飛び出したお皿が和之の顔面を直撃する。額からちょっと血が流れ出た。

「和之くん、これ食べてね」

 由利奈はすぐに金長まんじゅうを差し出してあげる。

「ありがとう由利奈ちゃん」

 和之は今までと同じく瞬時に回復。

「食べ物が出て来ないかなぁ?」

 星音はヨーヨーで左端に描かれたバルトロマイの顔面をぶっ叩く。

 すると和之と同じくすぐに攻撃し返された。

「きゃんっ、お汁が飛び出て来た。これ、ワイン? 不味ぅい」

 顔面にぶっ掛けられ少しお口に入ってしまい、星音はすぐにペッと吐き出す。

「わたしはメニュー最有力説のグリルうなぎのオレンジスライス添えを食べてみたいけど、怖くて攻撃出来ないな」

 鈴恵は苦笑いで呟く。

「最後の晩餐ちゃん、ワインよりこれのが美味いじょ」

 絵里子は絵の右端部分に阿波天水をぶっかけた。

 すると8の字を描くような動きをしたのち攻撃を加えることなく消滅した。

「ありゃまっ、ダメージになったんか? 回復すると思ったんやけんど」

 絵里子は拍子抜けしたようだ。

「体力は回復したみたいやけんど、酩酊状態になっちゃって自分で自分を攻撃したみたいじぇ」

 眞智は微笑み顔で伝える。

「マタイさん、タダイさん、シモンさんは、お酒に弱かったのかしら?」

 鈴恵は疑問に思ったようだ。

「酒ぶっかけ攻撃は一部の敵には酩酊状態にさせる効果があって、そうなるとさっきみたいに自分で自分を攻撃したり、仲間を攻撃したりして自滅する場合もあるんじぇ。その場合は経験値とお金入るよ」

 眞智は微笑み顔で伝える。

「それはええこと聞いたじょ。一回使っただけで消えてまうんは勿体ないよなあ」

「おーい、今度はモナリザが来たぞ」

 和之が新たな絵画モンスターの接近に最初に気付く。

「なんか私、眠くなって来ちゃったぁ」

「あたしもー」

「ワタシもじゃ」

「俺も、急に睡魔が」

「わたしも眠いですぅ」

「皆様、大塚国際モナリザちゃんは催眠術を使ってくるじぇ。眠ったところをにやけ顔で追突してくるのがこいつの攻撃方法じゃ。モナリザの顔を見ないように」

「さっさと片付けないとな」

 和之が寝惚け眼を擦りつつ、少しふらつきながらも竹刀二発で退治。

 すると途端にみんな眠気が冴えた。

 さらに館内を歩き進んでいると、

「いたたたぁ。ひまわりの種当てられたぁ」

 星音は死角になっている所から先攻された。

「これは絶対あの絵だろ」

 和之の推測通り、ゴッホの『ひまわり』の絵画型モンスターがまもなくみんなの前に姿を現した。

「よくもやったなぁ。仕返しーっ!」

 星音はヨーヨーを叩き付けた。

「切り裂いてやるじょ」

絵里子は楽しそうにカッターでズバッと切り付ける。

十五本あったひまわりが十一本に減った。

「いたたたぁっ」

 落とされた四本のひまわりは絵画から飛び出して来て、絵里子の頬を両サイドから思いっ切りビンタした。絵里子の頬もスパッと切れて血が噴き出してくる。

「しぶといな」

 和之が額縁の裏を竹刀で叩いて消滅させた。

「絵里子、絵を傷付けるのは罰当たりだよ」

「まさかあんな攻撃してくるとは思わんかったじょ」

 由利奈から受け取った金長まんじゅうを食して、絵里子の頬の傷は瞬く間に消える。

「なんか、エッチな絵がやって来たよ」

 由利奈はそいつの姿を見るや、床に視線を向けた。

「おう、今度は『裸のマハ』じゃ。ええ匂いもして来たじょ」

 絵里子は嬉しそうに呟く。

「オレンジみたいですね」

「私、オレンジの香り大好き」

「あたしもー。気分が安らぐね」

「和之様は、この匂い嗅いじゃあかんじぇ。あっ、遅かったかぁ」

「あんぅ、和之くん、やめて」

「ごめん、なんか俺、由利奈ちゃんの汗まみれのパンツ見たくてしょうがないんだ」

 和之はとろんとした目つきで由利奈のスカートを捲ってしまう。

「和之お兄ちゃんが、エッチなお兄ちゃんになっちゃった」

 星音は楽しそうに笑う。

「和之さん、普段は絶対そういう猥褻なことする人じゃないのに。この敵の力のせいね」

「大塚国際裸のマハちゃんの男の人によく効く魅惑の香水の力で、和之様はムラムラ状態に侵されちゃったんじぇ」

「由利奈お姉さぁん、大好きじょ♪」

「えっ、絵里子ぉ。やめて。和之くんも絵里子も変だよぅ」

 絵里子からはほっぺたにディープキスをされてしまった。

「絵里子様、女の子なのに効いちゃうなんて、百合の気質を持ってるのかも」

 眞智は楽しそうににっこり微笑む。

「由利奈ちゃん、俺、パンツの匂いも嗅ぎたい」

「由利奈お姉さぁん、舌入れさせてー」

「んもう、和之くんも絵里子も早く正気に戻ってぇぇぇぇぇ」

 由利奈は中腰の和之にショーツ越しだがお尻に鼻を近づけられ、絵里子に口づけを迫られる。

「すみやかに倒しましょう」

「裸のマハのおばちゃん、くらえーっ!」

 鈴恵の扇子、星音の生クリーム&ヨーヨーの三連続攻撃によりあっさり消滅。

「あれ? 俺。うわっ、なんで由利奈ちゃんの尻が俺の目の前に!?」

「ありゃ、ワタシさっきまで何を」

 和之と絵里子は途端に平常状態へ戻る。

「和之お兄ちゃんと絵里子お姉ちゃん、由利奈お姉ちゃんにずっとエッチなことしてたよ」

 星音は楽しそうに伝えた。

「ごっ、ごめん由利奈ちゃん!」

和之はすみやかに由利奈から離れてあげ深々と頭を下げた。

「由利奈お姉さん、百合なことしちゃったようで申し訳ないじょ」

絵里子は由利奈のお顔をじっと見つめたまま頬を火照らす。

「べつに、気にしてないよ。さっきの敵のせいだもん。ん? きゃっ、きゃぁっ!」

 また新たな絵画モンスターが視界に入り、由利奈は思わず目を覆った。

「立派な芸術作品だけど、こんな風に登場されると猥褻なおじさんに見えちゃいますね」

 鈴恵は頬を少し赤らめて微笑む。

「このおじちゃん素っ裸だぁ! お○ん○んも丸見えーっ!」

 星音はくすくす笑いながら楽しそうに、駆け足で迫ってくるそいつを眺める。

 ミケランジェロによって描かれただろう、筋肉ムキムキな青年男性の裸体画モンスターだったのだ。

「システィーナ礼拝堂の天井画から抜け出したみたいだな」

 和之は苦笑いする。

「大塚国際イニューディくん、体力は35。大塚国際美術館内の敵じゃ攻撃力最大じぇ。パンチとキック攻撃に注意して」

「やぁ、かわいいドミヌラ達、おじさんといっしょに昇天しないかい?」

 そいつは人間の言葉を使って誘いかけてくる。

「ワタシ、こういう系の絵、苦手なんじょ」

 絵里子は眉を顰め、すかさずあの部分目掛けてマッチ火を投げつける。

「うをおおおおおおおおおおっ、ぐあああああああああああああああああっ!」

 大塚国際イニューディくんは断末魔の叫び声を上げたのちあっさり消滅した。

「絵里子お姉ちゃん、あの裸のおじちゃん火炙りの刑にしちゃったね」

「なんか、あとで呪われそうだな」

      ☆

みんなは大塚国際美術館から脱出後、大鳴門橋の方へ人通りの少ない道を通って向かっていく。すぐに新たな敵キャラに遭遇した。

「鯛だぁ。美味しそう。あたし刺身で食べたいな」

「ワタシも刺身派じょ」

「私もー。鳴門の鯛はすごく美味しいよね」

「わたしはお茶漬けがいいです。あの大きさなら、かなりの人数分ありそうですね」

体長は二メートルくらいあり、海中で泳いでいるのと変わらぬ動きで宙を漂っていた。

「鳴門の鯛ちゃん、体力は28。お隣兵庫編の明石の鯛ちゃんに比べればかなり弱いじぇ」

「的が大きいから楽に勝てそうだ」

 和之が果敢に立ち向かっていったら、

「うぉわっ!」

 急にくるっと向きを変えた鳴門の鯛ちゃんに体当たりされ吹っ飛ばされてしまった。

「鯛の体当たり食らったら大ダメージ貰うじぇ。他の皆様も気をつけて」

 眞智は注意を促しながら、和之にすだちゴーフレットを与えた。

「サンキュー眞智ちゃん、俺たぶん腕折れてたと思う」

 和之、完全復活。

「あんなに機敏に動けるなんて、やばそうじゃ。逃げるって選択肢もありじゃよね?」

「ここは逃げましょう」

「その方がいいよ。和之くんみたいに大怪我しちゃう」

「あたしは戦いたいけどなぁ」

「うわっ! 私の方襲って来たぁ」

 由利奈はとっさにその場から逃げ出す。

「俺に任せて。今度は上手くやるから」

 和之はマッチ火を鳴門の鯛ちゃんに向かって投げつける。

 鳴門の鯛ちゃん、一瞬で炎に包まれて瞬く間に消滅した。

「和之お兄ちゃんすごーいっ! これぞ本当の鯛焼きだね」

「和之様、弱点を上手く利用しましたね」

「やっぱ和之お兄さんは主人公じゃわ」

「ありがとうございます和之さん」

「和之くん、勇気あるね」

「いや、そんなことないと思う」

「さっきの敵に関しては姿残しといて欲しかったじょ。ぎゃんっ、いたぁい」

 絵里子の体にビリッと痛みが走る。

「いってぇ! 俺も食らった。くらげの攻撃だな。動け、ない」

 和之の予想通り、すぐそばに傘の直径三〇センチくらいのアカクラゲ型モンスターが空中を漂っていた。

「絵里子様、和之様。痺れ状態に侵されちゃいましたか。クラゲの針は毒針やけんど、この場合毒状態やないけん毒消しでは回復出来んじぇ。倒すかしばらくすれば自然に治るじぇ。鳴門あかくらげ、針攻撃は危険やけんど体力は21しかなくて防御力も低いじぇ」

「くらげさん、くらえーっ!」

 星音の手裏剣一撃であっさり消滅。

「体が動かんかったけど、マッサージされとるみたいでけっこう気持ちよかったじょ」

「俺は不快に感じたけどな」

 絵里子と和之は痺れ状態から回復した。

「あっ、また新たな敵現れたじょ。鳴門金時もモンスターになってるんか。でかっ!」

「あれも美味しそう♪」

 由利奈は飛び跳ねながら近づいてくる全長一メートルくらいあった赤紫色なそいつをうっとり眺めてしまう。

「鳴門金時んは体力34じぇ。こいつも体当たり強烈やけん気をつけて」

「あたしが倒したーい」

 星音は楽しそうにヨーヨーでぶっ叩いて消滅させた。

「鳴門金時パイ残していったじょ。太っ腹な敵じゃね」

 絵里子は嬉しそうに拾い上げ、アイテムに加えた。

「鳴門金時パイはゲーム上では体力が30回復するじぇ」

眞智が伝えた直後、

「いやぁん、なんかべっとりしたものが頭に覆い被さって来ました。前が見えません。磯臭いです」

 鈴恵が何者かに先攻された。

「鳴門わかめのモンスターか。坂東さん、大丈夫か?」

「息苦しいですぅ」

「濡れてて重いな」

 和之は鈴恵の頭にこびり付いたわかめを手掴みして引き離してあげた。

「ありがとうございます和之さん。疲れました」

 鈴恵は体力をかなり消耗してしまったようだ。

「鈴恵ちゃん、これ食べて」

 由利奈は亀のもなかを与えて全快させてあげた。

「鳴門わかめちゃんは体力27じぇ。弱点は炎。皆様、身動き封じに注意して」

「分かった。うわっ、動き早っ!」

 和之も鳴門わかめちゃんに包み込まれてしまう。

「鬱陶しい」

 けれどもすぐに自力で引き離した。

 次の瞬間、鳴門わかめちゃんはさらに巨大化した。

「うわっ!」

 和之は驚いて仰け反る。

「水かけたら大きくなっちゃった」

 星音はにこにこ微笑む。水鉄砲で攻撃したのだ。

「星音様、鳴門わかめちゃんは水攻撃するとパワーアップしちゃうじぇ。今の体力値は40相当かな?」

 眞智も楽しそうに笑っていた。

「これはやばいな」

 和之も苦笑いする。

「増えるわかめちゃんと同じじゃね。ワタシに任せて」

 絵里子がすみやかにマッチ火を投げつけて消滅させると、レトルトの鳴門わかめスープを残していった。

 みんなは付近を引き続き歩き回っていると、

「うわっ」

 和之、

「きゃっ!」

 由利奈、

「びちょびしょになっちゃったじょ」

 絵里子、

「体中べたべただぁー」

 星音、

「わかめ以上に磯臭いわ」

 鈴恵、

「冷たいじぇ。これは『うずしおくん』のしわざじゃね」

 眞智、

全員背後から海水をぶっかけられた。

「どうだおまえら」

すぐ近くに渦の形をした物体が。そいつは人間の言葉でしゃべった。

「また先攻されちゃったわ。うずしおくんさん、これくらいでわたし達が怯むと思った?」

「冷たいけど、創傷的ダメージはないぞ」

 鈴恵と和之は怒りの表情だ。

「おれの必殺技はこれだけじゃないんだぜ。くらえっ! 鳴門のうずしお打線」

 うずしおくんは体を超高速回転させた。

 周囲一体にブワアアアアアッと突風が起きる。

「きゃぁっ!」

「いやぁん、こいつ液体の癖にエッチじょ」

 由利奈と絵里子のスカートが思いっ切り捲れ、ショーツが丸見えに。

「うわっ!」

 和之はとっさに視線を逸らす。

「よそ見するなよ少年。せっかく見せてやったのに」

「ぐわっ!」

 うずしおくんにタックルを食らわされてしまった。

「いってててっ、背骨折れたかも。起き上がれねえ」

 和之は弾き飛ばされ地面に叩き付けられてしまう。

「和之くぅん、大丈夫?」

 由利奈は心配そうに駆け寄っていく。

「由利奈お姉ちゃん、危なぁいっ!」

 星音は由利奈の背後に迫っていた鳴門金時んをヨーヨーで攻撃。

 会心の一撃で退治して、鳴門金時パイを手に入れた。

「ありがとう星音」

「どういたしまして」

「由利奈様、戦闘中に他の仲間の心配をし過ぎると、自分もやられちゃうじぇ。和之様ならうちが回復させるじぇ。和之様、これを」

 眞智はすぐさま鳴門金時パイを和之に口に放り込んだ。

「おう、痛み消えた」

 和之、完全回復だ。

「和之さん、わたしは問題なしですよ。あれ?」

 鈴恵の穿いていたショートパンツもビリッと破れて、熊ちゃん柄のショーツがまる見えに。

「俺、何も見てないから」

 和之はとっさに顔を背けた。

「鈴恵お姉さんのパンツもかわいいじょ」

 絵里子はにやける。

「あの、和之さん、なるべく早く忘れて下さいね」

 鈴恵は頬をカァッと赤らめ、ショートパンツを両手で押さえながらお願いする。

「分かった」

 和之は鈴恵に対し、背を向けたまま承諾した。

「油断したな」

 うずしおくんは表情は分からないが、嘲笑っているように思えた。

「鳴門エリアで最強の敵、うずしおくん。体力は41じぇ。弱点は熱風」

「ついにこれが役立つ時が来たね。うずしおくん、くらえーっ!」

「海水のくせに生意気じょ」

「ぎゃふん」

 星音のドライヤー攻撃と絵里子のマッチ火の攻撃で退治成功。

 うずまんじゅうを手に入れた。

「よかった」

 ショートパンツの破れも元に戻って鈴恵はホッと一安心した直後に、

「きゃっあん! 真っ暗です」

 また何かに今度は上空から襲われてしまった。

「鈴恵ちゃんが閉じ込められちゃったっ!」

 由利奈は慌てて呟く。

「息苦しいです。熱いです」

 鈴恵は高さ二メートくらいの壷型の敵に覆い被されてしまったのだ。

「大谷焼衛門。体力は39。防御力かなり高いじぇ。弱点は無し。火にも強いじぇ」

「鳴門の伝統工芸、大谷焼のモンスターかよ。坂東さん、すぐに助けるからな」

 和之はさっそく竹刀で攻撃。一撃では倒せず。

「とりゃぁっ!」

 絵里子もすみやかにバットで攻撃。まだ倒せなかった。

「すごく硬いね」

 星音のヨーヨー攻撃。これでも倒せず。

 和之達がもう一度攻撃を加えようとしたところ、大谷焼衛門は消滅した。

「皆さん、ご協力ありがとうございます。酸欠になりかけました。あと十秒遅れてたら体力0になってたとこでした」

 代わりに現れた鈴恵はハァハァ息を切らし、汗もいっぱいかいていた。彼女も中から扇子で攻撃していたようである。

「鈴恵ちゃん、これ食べて」

 由利奈は鳴門金時パイを与え、鈴恵の体力を全快させた。

「わたし、鳴門では酷い目に遭ってばかりだな」

 鈴恵はしょんぼりした気分で呟く。

「鈴恵様、元気出してや。次に向かう場所では中ボスを倒すことになっとるけど、鈴恵様の本領を発揮出来るじぇ。鈴恵様がおらんと突破出来んと思うじぇ」

「どんな中ボスなのかしら?」

「それは着いてからのお楽しみということで。皆様、このあと徳島市内に戻ったら、そこの敵ともう一度戦ってみてや」

みんなはその後は新たな敵に遭遇せず、数名の一般客が待っていた最寄りのバス停へ辿り着くことが出来た。

JR徳島駅前到着後、また付近の人通りの少ない所をぶらつくことに。

「全然痛く無いじょ」

 絵里子は徳島ラーメン型モンスターからまた熱々スープをぶっかけられたが、ほぼノーダメージ。このあと丼側面にバット一撃で消滅させた。

「確かにめっちゃ弱く感じる」

「武器がいらないね」

 和之と星音は阿波おどり男を平手打ち一発で倒した。

「すだちこまちは指でつついただけで倒せますね」

 鈴恵は五体で襲って来たすだちこまちをあっという間に撃退。

「あーん、またスカート捲って来たぁ。やめてー。あっ、あれ?」

 由利奈はお遍路爺の肩をポンッと押しただけで消滅させることが出来た。

「やったぁ! アニヲタ君倒せたじょ。お小遣いいっぱいゲットッ! ワタシの素早さが上がったおかげじゃな」

 絵里子はあわのアニヲタ君の姿を見かけるや、すぐに追いかけてGペンミサイルを投げつけ消滅させることが出来た。

レベルアップを実感したみんなはJR徳島駅に戻り、阿波池田行きの各駅停車に乗り込む。学駅で途中下車した。特急の止まらない小さな無人駅だが、合格祈願きっぷで受験生にとっては全国的知名度の高い駅だろう。

 みんなは学駅から外へ出て付近を散策していると、

「フォフォフォ、皆の者、良くここまで辿り着いたな。若い娘さんがようけおって嬉しいわい。男主人公一人だけで来るゲーム内での標準進行より、こっちの方がずっと良いわ」

 白髪白髭、老眼鏡をかけた作務衣姿の仙人風なお爺ちゃんに遭遇した。

「エロそうな爺ちゃんじゃね」

 絵里子はそのお方の風貌を見てにっこり微笑んだ。

「フォフォフォフォッ。わしは小学生の女子(おなご)が一番の好みなのじゃよ」

 お爺ちゃんはとても機嫌良さそうにおっしゃる。

「ロリコンなんかぁ。見た目通りじゃね」

「あたしが好きなの?」

 星音がぴょこぴょこ近寄っていこうとしたら、

「星音、このお爺ちゃんに近づいちゃダメだよ。エッチなことされるからね」

「そんなことしないよ」

「いや、しそうだよ」

 由利奈に背後から掴まえられた。

「このお方は学力仙人といって、対戦避けることも出来るけんど、戦った方が後々の旅で有利になるかもじぇ」

「学力仙人のイベントうざ過ぎってレビューに書かれてたけど、徳島編で早くも遭遇するんだな」

 和之は興味深そうに学力仙人の姿を眺めた。

「敵キャラやけんど、倒せば味方になってくれるじぇ。主人公達に学力向上を授けてくれるええお方よ。小学生の女の子の中でも、勉学に励む子が特に好きなんじぇ」

「ホホホッ。そこの星音と申されるお嬢ちゃん、わしに勝負を挑んでみんかのう?」

「やる、やるぅ」

「星音、危ないからダメだよ」

「小学生の星音様では、まだ無理だと思うじぇ」

「戦いたいんだけどなぁ」

「わたしがやりますっ!」

 鈴恵が率先して学力仙人の前に歩み寄った。

「ショートがよくお似合いのお嬢さんは、東大志望かのう?」

 学力仙人が問いかける。

「いや、わたしは京大第一志望よ」

 鈴恵はきりっとした表情で答えた。

「そうか。まあ京大でもいい心構えじゃ。戦いがいがあるわい。それっ!」

 学力仙人はいきなり杖を振りかざした。

「ひゃっ!」

 鈴恵は強烈な突風により吹っ飛ばされてしまう。

「想像以上に強いな。このエロ爺」

 和之はとっさに鈴恵から目を背けた。

「きゃんっ!」

服もビリビリに破かれて、ほとんど全裸状態にされてしまったのだ。

「なかなかのスタイルじゃわい」

 学力仙人はホホホッと笑う。

「立ち上がれないわ。かなり、ダメージ、受けちゃったみたい。痛い」

 仰向けで苦しそうに呟く鈴恵のもとへ、

「大丈夫? 鈴恵ちゃん、これ食べて」

 由利奈はすぐさま駆け寄って、すだちゴーフレットを与えて回復させた。けれども服は戻らず。

「学力仙人、攻撃もエロいね。ワタシも協力するじょ」

「エッチなお爺ちゃん、くらえーっ!」

 絵里子はバット、星音は水鉄砲を構えて果敢に挑んでいく。

 しかし、

「ほいっ!」

「きゃわっ! もう、ほんまにエッチじゃわ」

「いやーん、すごい風ぇ」

鈴恵と同じように攻撃すらさせてもらえず杖一振りで服ごと吹っ飛ばされて、ほとんど全裸状態にされてしまった。

「絵里子も星音も大丈夫?」

「平気じょ、由利奈お姉さん」

「あたしも、大丈夫だよ」

「すごく苦しそうにしてるし、そうには思えないよ」

由利奈は心配そうに駆け寄り、亀のもなかで全快させてあげた。破かれた服はやはり戻らず。

「一応、やってみるか」

 絵里子と星音のあられもない姿も一瞬見てしまった和之も、竹刀を構えて恐る恐る立ち向かっていったが、

「それっ!」

「うおあっ!」

 やはり杖の一振りで吹っ飛ばされ大ダメージを食らわされてしまった。けれども服は一切破かれず。

「男の裸なんか見たくないからのう」

 学力仙人はにっこり微笑んだ。

「和之さん、相当効いたでしょう? これ食べて元気出して下さい」

「ありがとう、坂東さん」

 明日用の替えの服を着た鈴恵は鳴門金時パイで和之を全快させてあげた。

「次は、お嬢さんが挑んでみんかのう?」

「いいえけっこうです!」

 学力仙人に微笑み顔で誘われた由利奈は、青ざめた表情で即拒否した。

「このエロ爺、とんでもない強さじゃわ。これは倒しがいがあるじょ」

「中ボスの力じゃないよね?」

 絵里子と星音は圧倒されるも、わくわくもしていた。

「どうやっても、勝てる気がしないわ」

 鈴恵は悲しげな表情で呟く。

「この仙人、見た目のわりに強過ぎだろ。どうやって勝つんだよ?」

 和之は絵里子と星音のあられもない姿を見ないよう視線を学力仙人に向けていた。

「ホホホ、まあ今のお主らには勝てんじゃろうな。けどわしも鬼ではない。お主らにわしにハンディを与えさせてやろう」

 学力仙人はそう伝えると、数枚綴りの用紙を和之に差し出して来た。

「これ、テストか?」

「学力仙人はデフォルトじゃかなり強いけど、学力仙人が出すペーパーテストの正答率と同じだけ攻撃力、防御力、体力も下がるんじぇ。例えばこれに六割正解すれば、デフォルトの能力値から六割減になるんじぇ。ちなみにゲーム上ではネット検索対抗で一問当たり三〇秒の制限時間が設けられとるよ」

 眞智は解説を加えた。

「相当難しいのばかりじゃから、お主ら程度の頭脳じゃ三割も取れんと思うがのう。まあ三割取れたところでまだまだわしには通用せんじゃろう」

 学力仙人はどや顔でおっしゃる。

「確かに難し過ぎだな。マニアックな問題が多いと思う。高校生クイズの地区予選のよりも難しいんじゃないか?」

 和之は苦笑いした。

 さとうきびの搾りかすは何と呼ばれているか? 

テレビドラマ『魔女はホットなお年頃』の放送当時1970~1971年、この作品のコミカライズを担当した漫画家は誰?  

徳島県内にある次の地名の読み仮名を記せ。【廿歩】【十八女】【工地】

などの一問一答雑学問題が特に多く出題されていた。

「あたし一問も分からないよぅ」

「ワタシもじゃ」

「絵里子ちゃん、星音ちゃんも、服破けてるから」

 前から覗き込まれ、和之はもう片方の手でとっさに目を覆う。

「すまんねえ和之お兄さん、すぐに着てくるじょ」

「この格好でいたらお巡りさんに逮捕されちゃうね」

 絵里子と星音は自分のリュックを置いた場所へ向かってくれた。

「私も、ちょっとしか分からないよ。三割も取れないと思う」

 由利奈もザッと確認してみて、苦い表情を浮かべる。

「それならわたしに任せて」

 鈴恵はシャーペンを手に持ち、楽しそうに解答を記述し始めた。

 全部で百問。一問一点の百点満点だ。


「どうぞ」

鈴恵は三〇分ほどで解答を終え、清々しい笑顔で学力仙人に手渡した。

「ホホホ。かなり自信のようじゃが……うぬっ! なんと、九八点じゃとぉっ! ネットで調べる素振り見せておらんかったのに」

 学力仙人は驚き顔で呟く。

「鈴恵様。さすが賢者。大変素晴らしいじぇ。どこにでもいるごく普通の高校生なら三割取れれば上出来なこの超難問テストで九割八分の正解率を叩き出すなんて。学力仙人、能力値九割八分減で阿波おどり男並に弱くなったと思うじぇ」

「本当か? 姿は全然変わってないけど」

 和之は少しにやけた。

「いや、わしの強さは全く変わってないぞよ」

 学力仙人は自信たっぷりに杖を振る。しかし先ほどのように風は起きなかった。

「明らかに弱くなってますけど。学力仙人さん、エッチな攻撃した仕返しよ」

 鈴恵は扇子で学力仙人の頬を引っ叩いた。

「ぐええ! まいった」

 学力仙人は数メートル吹っ飛ばされてしまい、あえなく降参。

「能力値極端に下がり過ぎだろ」

 和之は思わず笑ってしまう。

「服も戻ったわ」

「ほんまじゃ」

「勝ったんだね」

 鈴恵、絵里子、星音の破かれた服も瞬く間に元通りに。

「ホホホッ。皆の者、今後の旅、健闘を祈るぞよ。これを持って行きたまえ」

 学力仙人はみんなに学力向上のお守りを一つずつ手渡すと、ポンッと煙を上げて姿を消した。

「なんか、急に頭が冴えて来た気がするじょ」

「俺も」

「私も」

「わたしもですよ。今ならどんな東大京大の過去問も簡単に解けそうです」

「あたしもすごく頭が良くなった気がする。勉強しなくてもテストで楽に百点取れそう」

「皆様、お疲れ様でした。もう夕方やけん今日の戦いはやめにして、宿に向かいましょう」

「この辺り、泊まるとこあるのかな?」

 和之は少し心配になった。

「この近隣にある燕風(つばめかぜ)旅館、空室があるみたいよ。食事付きで高校生以下は一人当たり一泊一万五千円だって。六名以上だと団体割引で一万二千円よ」

「それでも高めやけんど全部屋露天風呂付き客室なんかぁ。鈴恵お姉さん、ここにしよう!」

「ゲーム機とソフトも備えてあるのっ!? あたしもここがいいな♪」

「私もー」

「ええ場所にあるね。うちもここがええじぇ」

「ではしておきますね。わたしもすごくいいなって思ったよ」

 鈴恵は携帯のネット画面を閉じると、さっそくその旅館に電話予約。

「ゲーム上でも事前予約してへんと、宿に泊まれん場合もあるじぇ」

「そこもリアルさがあるな」

 和之はそのシステムも余計だなっと感じたようだ。

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