第34話 膨らむ怨嗟 新たな希望

「君の中にある怨嗟をケアすれば、君はきっと・・・」

「だからそれが何なのさ!!僕はもう嘗ての僕に戻る気は無いんだよ。あんた達の回顧主義に僕達を付き合わせないでよ!!」


キーパーも加わるが、命は益々激昂するばかりだった。


「回顧主義なんかじゃない、貴方は・・・」

「敵だ!!」


命はそう言い切り、生花に向けて発砲する。そこにソルジャが割って入り、ガントレットでっ銃弾を弾き返す。


「やはり・・・手荒だが仕方ない!!」


聖はそういうと、命に接近しようとする。命は距離を取りつつ発砲して攻撃してその場から去っていこうとするが聖達はそれを追う。


「やはり彼の心は・・・でも、それなら手の打ち様は・・・」


そう言うチュアリは命の後を追いながらどこかに誘導しようとする。その最中、キーパーは列を外れ、一人何処かへと向かうのであった。


「この動き・・・どこかに誘導しようとしている?でもこの狭い通路はこちらにも不利・・・ここは誘いに乗るしかないか・・・」


聖達の動きの不自然さに気付きつつも策を撃てない命。怪しいと思いながらも移動を続け、病院ロビーへと辿り着く。だがそこにはキーパーが居り


「私達は君を救いに来たんだ!!」


と改めて言う。


「くっ、先回りを許したか・・・」


命はそう言うと銃を構えるがそこに生花が


「命っ!!」


と言って飛び掛かり、その手から銃を離させながら床に倒れ込ませ、その上に乗りかかる。


「くっ、この・・・」


そう言って生花を引き離そうとする命に生花は


「もう・・・何処にも・・・」


と言い、


「キーパーさん、チュアリ!!」

「スピリチュアル・ケア!!」


その言葉を合図に両社は命を魔法の白い膜で包もうとする。


「くっ、一体何を・・・」


命がそう言うと


「この膜で君の・・・君の怨嗟を癒すんだ。そうすればきっと・・・」


チュアリは応える。だがその直後


「そうすれば・・・何なの?」


と言う声と共に黒い稲妻がキーパーに向かい、キーパーはそれを避けるが稲妻は病院の壁を直撃する。


「これは・・・」


そう語るキーパーが病院の入り口に目をやるとそこから暗が現れ


「一日さん!!」

「ええ、分ってるわ!!」


と言う声と共に現れた一日が生花を蹴り飛ばし、そのまま膜の中から命を連れ出す。


「生花さん!!」

「大丈夫です・・・この位は・・・」


聖の声に返答し立ち上がる生花。


「命!!大丈夫?」

「く・・・ああ・・・」


一日の問いかけに唸り声を上げる命。


「あの膜の影響を少し受けている様ですね・・・」


と分析を行う暗。


「等しき盟友!!」


それを聞いた一日が手から放った闇を命に当てると


「つ・・・一日ちゃん・・・」

「話は後で聞くわ!!それよりも今は」


少し苦しそうな声で話しかける命とそれに応対する一日。


「くっ、彼女が来たとなると・・・」


警戒心を強める聖。だが一日は


「警戒している様ね。でも今回の件はこちらの監督負行届きが招いた結果・・・今日の所は退いてあげるわ!!」


とワープでその場を離脱する。


「消えた・・・」


そう語る希有と


「さっきの発言・・・如何やら今回は彼女も想定していない動きだったみたいですね。それに・・・」

「ええ、希望が少しは見えたかもしれません」


とロザリー、キーパーも続ける。


自宅へと帰還した一日が命に


「命・・・」


と聞くと命は


「分かってる・・一日ちゃん、今回の行動が出過ぎた事だって・・・」


と言う。その顔は何時もの調子では無く、神妙にしていた。


「なら何で・・・」


暗も問いかける。


「昼間、彼らが彼奴の・・・京谷の入院してる病院に入っていくのが見えて・・・そしてあいつと会話してるのをしって、どうしても衝動が抑えきれなかったんだ・・・一日ちゃん・・・」


悔恨の表情を浮かべて語る命に一日は


「私の言いたい事は・・・」

「分かってる・・・行動で示すよ」


問いかけて命の返答を聞き


「分かっているのなら下がって良いわ」


とだけ告げ、命はその場から去っていく。


「一日さん・・・」

「暗・・・私の行動が甘いと思う」


直後の暗の問いかけに困惑しつつも返答する一日に


「いえ・・・そんな事は・・・」


と逆にしどろもどろな返答をする暗。


「隠さなくても良いのよ、分かっているから。・・・そうね、確かに甘いでしょうね、私の処分は」


自虐的な声と表情を浮かべる一日。


「自覚されているのですか・・・なら何故・・・」


改めて質問する暗に


「一つには私にも責任があるから、一つには人間と言う存在は常に感情と言う不確定な要因を内に持っているから。他にも色々あるけど、主だった理由はこれらかしらね」


と返答する一日。


「不確定な要素を人間が持っていると言うのは分かりますが、何故それが・・・」


そう聞く暗に


「其を消してしまうことは生命としての生を否定することになる。其を分かっているから消すことが出来ない・・・ふふっ、滑稽ね。

彼らの優しさを否定しておきながら感情そのものを否定するわけではない・・・ある意味見事な矛盾だわ。其を解決する術も分からない・・・」


と何時になく自虐的な発言をする一日。


「はぐらかさないでください。感情がそうした一面を持っているものだと言うのは私にも分かります。ですがそれだけでは甘い処分には・・・」

「私自身、何処かで命に期待しているのかもしれないわね。命が分かってくれる事に。其が身勝手だと知りながら・・・」


尚も質問をする暗に内心を曝す一日。


「なら・・・」

「分かっているわ。次にこんなことがおき、その結果問題が発生したらその時は・・・」


何かを覚悟する声を上げる一日。だがそれを聞いた暗は


「それは私達が起こさせません!!」


そう強く言いきる。


「そうでありたいと思いたいわね。でも、どうやら人と言う存在は年を重ねると中々純粋な視点で物事を見れなくなるみたい」

「一日さん・・・」

「私は命達みたいに一直線になるには大人になりすぎたわ。でも、まだ熟しきってる訳でもない・・・だから私は私の視点で行く!!その為の力はあるのだから!!」「私もいきますよ。それに彼等も」


自虐を混ぜつつも返答する一日に暗も決意を新たにする。


「それはそうと、気付きましたか?」

「ええ、彼等は恐らく、私達の秘密に迫ったのでしょうね。あの京谷と言う男児に接触した事で。そしてそれを確かめる為に命にあの力を使った」


話題を変える暗に一日も合わせ、今回の行動について整理を始める。


「あの力は人の内心に干渉する力です。それに反応してしまったという事は・・・」「ええ、恐らく今後はそこを基軸にして仕掛けてくるでしょうね。そうなる前に先手を考えておかないと」


と言う。如何やらあの力は一日達にとっても問題要因であるようだ。


一方、帰還した聖達も又、今回の一件について話し合っていた。


「あの少女が言っていた監督不行き届きと言う言葉・・・そのままの意味で解釈すれば今回の行動は命の独断と言う事になるのでしょうが・・・」

「ああ、そしてその可能性は高いと考えていいでしょうね。あの少女がこれまで策略を中心に仕掛けてきた事を踏まえれば」


生花と聖を中心に話し合う一行。この仮説が正解だという事は知らないものの、何と無くそれには気付いていた。


「なら、私達のとった行動は彼等にとって不都合である、そう考えてもいいのでしょうか?」

「うん。あの時命君は明らかに僕達の技に反応を見せていた。やはり彼の・・・否、彼等の心は歪められていると考えてまず間違いない」


キーパーの仮説に続けるチュアリ。


「あの一日と言う少女にですか・・・」

「或いはその彼女さえも歪められているのかもしれませんが、その黒幕であるフリーチェを討たない事には悲劇を防ぐ事は出来ないでしょう」


希有の発言に更に続ける聖。そして暫くの沈黙の後望は


「あの・・・さっきチュアリさん達が使った力、あれを使えば外国の人達に起こっている奇病を止める事が出来るのではないでしょうか?

そうすればもしかしたら・・・」


と希望があるという口調で提案する。


「もしかしたら世界を団結させることが出来るかもしれない・・・ですか?」

「ええ、そう簡単には行かないかもしれませんが」


望の提案にチュアリは


「確かに可能かもしれませんが・・・国単位でしていたのでは最初の一国にした時点で奴等に気付かれてしまいます。やるなら一気にやらないと」


と告げ、問題点を指摘する。


「全ての国を一気に・・・規模が大きすぎますね・・・」


規模面での問題が浮上すると


「せめて私達の世界から人数を連れてこれれば可能かもしれませんが。あの魔法は初歩的な物であり、私達の世界の住民であれば誰もが使う事の出来るものです。無論中身に個人差はありますが」

「くそっ!!つくづく敵に先手を討たれたのが響くな・・・」


キーパーとテレサの表情に暗い部分が見える。


「その魔術を機械で解析する事は出来ないのですか?」

「出来ないというより、した事が無いんですよね。僕達の世界は機械文明はさほど発達していませんから」


望の更なる提案にもチュアリの指摘する問題点が隠れていた。

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