第九章・ちょうきょう

だい42にゃ・囚われのエルフとその他一名

 揺れる馬車に身を任せて進んだ先は小さな村でした。

 そこには数多くの猫耳族が暮らしていて、とても平和そうな場所でした。

 馬車が通ると傍にいた猫耳族が強制されることもなくこうべを垂れています。

 当たり前ですが、私達にでは無いでしょう。

 きっと、この底知れぬ魔力を持つ魔法使いに対してのものです。

 たまに私のことを見てニコニコしているのが怖いです。


 宮殿の前で馬車が止まると全員馬車から降りていきます。

 私たちは既に武装を取り上げられていて何も荷物はありません。

 魔法使いが私たちの事を見ながら猫耳族に何か喋っていました。


「konohitotatidousiyou? rouyananntenaisine」

「にゅ? にゃんにゃ」

「ニャニャー」


「kannsitukerebadaizyoubukana?」

「ニェミャーン」

「にゃにゃ」


 この魔法使いは猫耳族の言葉が分かるのでしょうか?

 もしかすると私たちの言葉も直ぐに話せるようになるかもしれませんね。

 私の方も彼らの言葉を覚えた方がいいでしょう。

 この身がどうなるにしても役に立つでしょうから……。


「etto、mahounihannnousurukasewotukenaosouka」


 魔法使いは私たちの枷を外すと、新たに首輪を作り出して首にはめました。

 新しくなった首輪を撫でていると父が私に話しかけます。


「この首輪は魔法に反応して爆発するかもしれんから気を付けろ」

「代わりに枷が外されました。

 牢に入れられ訳ではないということなんでしょうか?」


「分からん……だが、迂闊なことはするなよ」

「はい父さん」


 私たちの会話を興味気に聞いていた魔法使いは、会話が終わるまで待っていてくれました。

 変な人です。

 私たち黄金族が捕虜を捕った時は、さんざん拷問してから情報を吐かせてから殺します。

 利用価値がまだあった場合は泳がされてから殺されます。

 そう思うと、なぜ私はあの時、この魔法使いに助けを求めてしまったのでしょうか……?


「kottikite~」


 宮殿の中に入ると、魔法使いが手招きして誘導します。

 招かれる方に進んでいくと、すぐ後ろから父と戦った猫耳族の戦士が付いてきました。

 監視役なのでしょうか? それとも魔法使いの警護なのでしょうか?


 進んだ先の部屋に入るとそこは食堂のようでした。

 私たちは席に着くように、身振り手振りで指示されました。

 どうしていいか分からずに、思わず父を見ます。

 父も少し驚いていました。


「……指示されたとおりに座っておけ」

「……はい」


 席に座ると直ぐにメイド姿の猫耳族が食事を運んできました。

 捕虜に食事?

 魔法使いの方を見ると美味しそうにモグモグ食べています。

 どうしようか悩んでいましたが、空腹に負けて私も食べ始めます。


「oisii?」


 魔法使いに話しかけられましたが、やっぱり何を話しているのか分かりません。

 もし、この人の逆鱗に触れてしまったら……あの恐ろしい魔法で消し炭になってしまいます。

 私は体の震えを抑えながら愛想笑いをするしかありませんでした……。


「あなた様の言葉は分かりませんが。

 このような食事をさせて頂きありがとうございます」


 私の代わりに父が優雅なお辞儀をしながら返事をしいてくれました。

 魔法使いは、私の代わりに父が答えたことに気分を害した雰囲気もなく、にこにこと食事を続けました。

 もっと残忍な人だと思っていましたが、そうではないのかもしれません。


 食事が終わると、簡単に施設の案内をしてもらって二つの部屋に案内されました。

 まさか、捕虜一人に一つの部屋があてがわれたようです。

 ただ、部屋の外には猫耳族の戦士が見張りとしているようです、窓の外を見ると、そこにも二体のマジックゴーレムが待機していました。

 たとえ黄金族ハイエルフの強力な魔法が使えなくても、武器があればどうとでも出来ますからね。この対応は普通でしょう。むしろ優しいくらいです。


 ベットに腰かけながら月を眺めます。


「何とか彼の言葉を覚えないと」


 魔法使いが話していた時の状況と会話を思い出しながら、私は言葉の解析始めました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る