えるふ編

第七章・でんせつのそざい

だい34にゃ・終わると思ったか? 残念だったな!

 長く、激しい戦いもついに終わった。

 僕は、様々な戦いを思い出しながら玉座に腰掛けている。

 つべたい……。


 七つ目の巨人を倒したことで、莫大な魔力がさらに手に入った。

 もともと大きかった時よりも増えている魔力に、自分ですら驚きを感じている。

 なにせ、今の僕なら小さな島を消すくらい造作ぞうさも無い事だから。


 魔法と言うのは恐ろしい。

 使いたい魔法を想像して、使う魔法に見合った魔力を送り込むだけで発動してしまう。

 しかも、魔力を籠めれば籠めるほど威力が上がる。

 小さくするのにも、大きくするのにもその分魔力を消費するけどね。

 そして、今の僕にはその魔力が満ち溢れている。

 特大魔法でも撃ち込まない限り、一日じゃ消費しきれないだろう。


 だが、

 今から使おうとしている魔法は、僕のありったけを籠めなくては成功しないかもしれない。

 それほどまでに困難なのだ……。


「ついに、この時が来た……」


 僕は優しく息子がりあを撫でながら語りかける。

 辛い時も、悲しい時も、楽しい時も、興奮した時も、痛い思いをした時も、いつも一緒に居てくれたな。

 もう、君と僕は離れられない運命なんだ。

 離れられても困るけど……。


『ッバ!』っとローブを投げ捨てて、杖を息子すぱろーに向ける。


「さぁ、行くぞ! 僕の息子ろぶが! 立つときが来たんだ!!」


 ありったけの魔力と熱い思いを込めて、杖の先端に集中させる。

 長かった戦いも今日で終わる。

 これから僕はこの楽園で『にゃんにゃん!!』するんだ!!


 杖から放たれた魔法が、僕の息子ばるでりおんを優しい光で包んだ。

 光り輝く閃光を巨人に放ったとき以上にこの魔法に魔力を籠めた。

 僕がどれだけこの状況から脱したいか分かるというものだ。


「来てる! きてるぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 手を腰に当て、股間を突き出すように構えながら叫ぶ。

 この優しい輝きに、労わるような温かさが感じられる。

 これだ! これで! 僕は!!


 息子ろっくを包んでいた癒しの輝きが、儚く散っていく。

 僕は治癒が終わった息子ろきを見詰めながら、ゆっくりと右手を伸ばしていく。


『しゅっこ! しゅっこ! しゅっこ!』


 響き渡る音に、その行為に、興奮してくる。

 何度も何度も上下に動かして蘇生活動をする。


「こ! これは!? しゅ、しゅごいいぃぃ!!

 ぜ、ぜ!! ぜんぜん……立たないじゃねぇかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 思わずその場に膝を突いてしまった。


「しょ……しょんな。ぼ、僕は……なんのために、ここまで頑張ってきたんだ……」


 治そうと必死になって戦って来たのに……、こんな結果はあんまりだ!

 だが、一つだけ改善された部分もあった。

 それはなんと、触るとちょっと気持ちいいのだ! 立たないけど! 立たないけど!!

 ちなみに、『ちょっと』と言うのは本当にちょっとで、机の角っこに軽く擦り付けるぐらいの感覚だ。


「にゃ? にゃにゃーん?」


 僕が打ちひしがれていると、甘ったるくて可愛らしい猫なで声が聞こえてきた。

 声のする方を見ると、シャオたんが『どったの?』と、首を傾げながら歩いて来ていた。

 Oh! 僕のマイオアシス!


「シャ! シャオた~~~ん!!」(ひし!)

「にゃ!? にゅにゃーん」(なでなで)


 シャオたんの魅惑的で美味しそうな香りのするお腹に抱きつきながら『くんくんくんくんくんくんくんくんくんくんくんくんくん』する。その間シャオたんは僕の頭を撫でてくれていた。

 おっふぅ~。だ、ダメになっちゃうぅぅ~。


「おぉ~~ん、シャオたん! くんくん! くんくん! ぺろりん! くんくん!」

「にゃ~~ん。にゃにゃ。にゅにゃ! にゃん! にゃぁん!?」


 なんだかヤる気が出てきた!!

 これで今日も生きられるぅぅぅ!!


 シャオたんにお礼の『ちゅっぺろ』をしてから、手を繋いで宮殿から出る。

 宮殿の外には猫耳に尻尾が生えた猫耳少女たちが生活している。

 他にも猫耳少女たちを守るために、村の生活圏には僕御手製のマジックゴーレムが警備している。

 帰ってきてから少しだけ増やして、今では8体居る。


 まぁ、今のところ巨人という脅威も去ったし、野生動物も猫耳少女たちの猫パンチで一撃だし、いらないっちゃいらないかもしれないけどね。

 ただ、土木工事や偵察活動には非常に役に立つ。

 今は3体のマジックゴーレムに村の周囲を調べてもらっている。

 地図が無いから作ろうと思ってるんだ。


「シャオたん。空飛ぶけど来る?」

「にゃ? にゅーんにゃん!」


 手を放されなかったから付いて来るってことかな?


「スカイウィング・改!」


 僕とシャオたんに、空飛ぶ魔法を掛けて宙に舞う。

 魔法に慣れたのか、簡単な魔法なら集中しなくても使えるようになっていた。


 シャオたんの手を引きながら、ぐんぐん上に飛んでいく。

 雲のすぐ下まで来たら下を眺める。

 前にも気づいたけど、実は僕立たちの住んでいる大陸は島なんだ。

 この島は、大きな島が一つに、中規模の島が一つ、そして小さな島が幾つか集まっている。

 僕たちが住んでいるのは大きな島の方だ。


「凄い景色だな~」

「にゃん」


 上空から見ていると、島から海を越えた先に大陸が見えている。どのぐらい大きいかは分からないけど、これいじょう上に飛ぶと、雲で下が見えなくなっちゃうから。


 僕は持ってきた布を広げて細長い木炭で地図を描いていく。

 シャオたんはふわふわ漂いながら僕の描いている地図を眺めている。


 少し風は強いけど、空は気持ちいいな。

 たまに、鳥が『ピギャ!?』とか言いながら通り過ぎていくのも、なんだか和む。

 あぁ……平和が一番や。


「でけた!!」

「にゃ?」


 僕は完成した地図を眺めながら頷く。

 我ながらなかなか良い出来だ。

 なんか不自然に欠けている部分があるから、後で直しておこう。

 まぁ、僕が魔法使って陥没した場所なんだけどね……。

 マジックゴーレム使って直しに行こうかな? なんか悪いし。


「よ~し。シャオたん降りるよ~」

「にゃ~ん」


 シャオたんが僕の手を握ったのを確認してから、ゆっくりと地上へ降りていく。

 地上にはメロンお姉ちゃんがモモちゃんとミーナちゃんの手を握って僕たちの事を見上げていた。

 僕が地面に降り立つと、モモちゃんとミーナちゃんが抱きついてきた。


「にゃぁ~ん!」

「にゃんにゃん」

「おっほっほ~! かわゆいねぇ~! よしよしぃ~」


 顎の下を『こしょこしょ』してあげると『にゃんにゃん』喜んでくれた。

 二人を抱き上げて香りを嗅ぐ。


「おっひゅぉーー!! 滾ってくるようないい香りしますわぁ~」


 5人で仲良く宮殿に向かって帰っていく。

 あれ、猫耳戦士ちゃんどうした……いたわ……。


 猫耳拳士が宮殿の柱に笑いながら登っていて、

 猫耳剣士は宮殿の柱から『コソッ』っと、僕を見詰めながら顔を朱に染めていた。


「あぁ、アカンやつや……」


 今日は他の子と寝て、僕の身を守ってもらわなくては……。


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