幕間

 昔々の大昔。

 あるところに、一人の善良で誠実な男がいた。

 ある日彼は、神からの言葉を受け取り、その教えを他の者たちに伝えようとしたのだが、彼らはそれを信じないばかりか、男を嘘つき呼ばわりし、貶めた。

 長い間、男は人々の誹りに耐えた。しかしあるときとうとう、彼らの心が変わらないことを確信した男は、神にそのことを伝えた。

 すると神はこう謂われた。

 船をつくり、そこに彼の言葉を受け入れ神を信じる者と、ひとつがいのあらゆる生き物を乗せよと。

 地上は大雨と洪水とに襲われ、誠実な男と、その同胞と、選ばれたひとつがいの動物たち以外はみな溺れ死んだ。

 男の肉親である息子でさえも、神の言葉を信じなかったがゆえに、水からは逃れられなかった。

 何日も水は地表を覆い、あらゆるものを押し流した。

 やがて水がひき、船から降り立ったものは大地に跪き、神の前にぬかづいた。

 そうして地上には、再び人と動物とが満ち満ちた――

 昔語りの伝承は、ここで終わっている。

 その後の男がどうしたとか、同胞がどうなったとかについては、一切触れられていない。

 ただ言えることは、それから数千年が経ち、世界にあまねく人びとが満ち、溢れかえるようになった頃、今度は何の前触れもなく火の雨が降り注ぎ、大地は大きく抉られ、その何割かは海に沈んでしまったということだ。

 世界は再び沈黙の日々を送ることになったが、それから一世紀半が過ぎた今も、人々はこの地表にしがみつき、まだ生きている。

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