第24話 手のひらの中

 目を覚ますと、そこは森の中だった。


「え?」


 どうなってるの。確かに昨晩は自分のベッドで眠りについたはずなのに。ここはどこ? 一体どうなってるの?


「目が覚めたかい? なら、早く変身するんだ」


 ディモ。いち早く目覚めていたらしい彼の口調は険しい。頭を振ってぼやけた目を覚ますと、ディモがその触手で何かからわたしを守っていることに気づいた。


「……! 願う、祝福をデザイア・ブレス!」


 変身する。それを見て、ディモは魔物を抑え込むのをやめる。するとその魔物はわたしに向かって突撃してくる。火を纏った鳥。フェニックスとでもいうのだろうか。でも関係ない。炎だろうが何だろうが、黒の切断ブラック・セイヴァーは斬り裂くのだから。


「一撃で!」


 突っ込んでくるのをそのまま迎え撃って斬り裂く。火の鳥は二つに分かれ、力を失って地面に叩きつけられる。


「ふぅ、ってこれどういう状況!?」


「辺りから魔物の残滓が臭ってる。これは、魔物が作り出した空間だね」


 魔物の作った空間? ということは魔物が襲ってきた? 導き手コンダクターが予兆を察知するより前に?


「先手を打たれたってこと? 魔物にそんな知能が?」


「ないはずだ。でも、ボクらは知っているだろう? あの魔物を」


 ナイトメア・アクター。あいつは他の獣のような魔物と違い、れっきとした知能を持っていた。となればあいつの入れ知恵か、それとも同等の魔物が現れたのか。


「それと今の火の鳥、あれは魔物じゃない。そして――」


 魔物じゃない? いや、あれが魔物じゃなかったら何だっていうんだ。火を纏った鳥だなんて魔物以外ありえない。


「まだ生きてる」


 雄たけびを上げる。そんな。確かに斬ったはずだし、地面にたたきつけられたはずだ。手ごたえもあった。なのに。


「まさに不死鳥というべきか。それにこの気配はどちらかと言えば魔法少女に……」


「じゃあ、これってもしかして……!」


 心当たりがあった。みなとさんと同盟を組んで抑えようとしている魔法少女。想像した生物を召喚する魔法少女。


「龍鳳院 やなぎなの……!?」


 だとしたら彼女も魔物と組んでいる? それに先手を打たれた。これはまずい、とてもまずい状況なんじゃないだろうか。それにこの不死鳥、本当に不死ならわたしの魔法ととてつもなく相性が悪い。魔法のこともバレている? ということはやっぱり、ナイトメア・アクターも。


「コヨミ、逃げよう。幸い、ここならキミの懸念する目撃者もないだろう」


 確かにここでなら目撃者はなさそうだった。なら、変身したまま移動できる。普通の身体能力じゃあの不死鳥から逃げることはできないだろうけど、変身したままならなんとかなりそう。そう思って走り出す。


***


「……っ! 速い……!」


 防戦一方だった。この間に戦った影狼のように素早いタイプの敵。私の魔法とは相性が悪い。広く周囲を囲んで閉じ込めようにも、閉じ込める前に逃げられてしまうほどに高い跳躍力を持っている。それにこの森、木々が邪魔で魔法をうまく発動できない。白の拒絶ホワイト・リジェクトは何もない場所に発生させた後に大きくすれば何かに邪魔されることはないが、もともと何かがある場所に出現させることはできない。普段は大した欠点にならないけれど、ここまで障害物が多いと煩わしい。ふとした時に位置の指定を間違え、魔法が発動しない。


「セリ! 不利なの! 逃げるの!」


「ええ、この状況、きっと小詠も……」


 早く合流しないと。先手を打たれる可能性があることを考えなかったのは迂闊だった。こんなことならずっと近くにいるべきだったかも。守るって誓ったんだから。絶対に。


「しつこい!」


 至近距離に白の拒絶を発生させ、咄嗟に身を守る。続いて足を止めようと捕縛を試みるが、既に魔物はそこからいなくなっていた。


「一瞬だけ見えたわ。白い虎、さしずめ白虎ってとこね」


「セリ、あいつ魔物じゃないの」


「やっぱり。龍鳳院 やなぎかしらね」


 魔物じゃないが、あんなの魔物か、魔法の産物以外ありえない。だから自然に答えに辿り着く。


「私の魔法もバレてるのかしらね。どこから漏れたのかしら」


 みなと達が裏切った、最初に頭を過ったのはそれであったがあの時の龍鳳院 やなぎをどうにかしたいという彼女に嘘はなかった。私の勘が間違っている可能性もあるが。それよりもこの空間が魔物によるものであるということからナイトメア・アクターが繋がっていると考える方が可能性が高い。


「厄介なことになりそうね」


 彼には辛酸を舐めさせられたばかりだ。またあれと関わることになると思うと忌まわしい。


「でも、借りを返す機会が早く来たのは喜ばしいわね」


 まずは小詠と合流しよう。そう思って走り出す。私が行くまで、死なないで。


「あなたは私が守る。守らなくちゃいけないのだから」

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