消失モノクローム

高殿アカリ

プロローグ

 これは、私たち双子の物語。

 神川アリスと神川リアスの物語であり、私たち姉妹が共に在ることの証明だ。

 神川家に双子の女児が誕生したのは、今からおよそ十五年前のこと。

 たった一分と十秒の差で、私、神川アリスは姉になった。続いて、おぎゃーと泣き叫ぶようにして、次女のリアスが生まれた。

 二千五百二十グラムの赤ん坊が二人。全く同じ姿でこの世界に迎え入れられた瞬間だった。


 それから、私たちは大概のところ、同じものを見て、同じものを聞き、同じものを食べて、成長した。もちろん、同じ両親、祖父母に、同じように愛されて育った。

 そして約十五年が経ち、赤ん坊の二人は少女になった。百五十七センチメートル、四十二キログラムの女子高校生が二人。

 同じ体型に、同じ顔立ち。一見、そこだけを見ると私たちはかなり似ていると思われがちだが、別にそういうわけでもない。


 その理由を話すには、まず初めに私たちの容姿から説明しなくてはいけない。

 私たちはオッドアイで生まれてきた。私の右目はダークブルー、それも海のような深い色だ。そして左目は光の加減によって茶色にも黄色にも見える、そんな不思議な色をしていた。しかし、一口にオッドアイとは言っても純日本人。ダークブルーは黒に近いような青だし、左目に至っては黄色に見えるのが気のせいなくらいだ。

 一方、妹のリアスはというと、彼女は私の全く反対の両目だと言えばいいだろうか。つまり、彼女の右目は不思議なイエローブラウン、左目はダークブルーということになる。その細やかな色味は私と全く同じだ。

 もちろん、これでお分かりだろうが、私たちの瞳を見ればすぐに二人を区別できるのだ。いや、厳密には見慣れた者、家族や親しい友人が見れば、すぐに気が付く。いくら私たち二人が周りを騙そうとしても。そんな微妙な色のカラーコンタクトは販売していないからだ。


 もっとも、もっと大きな特徴を挙げるならば、私の髪が漆黒でストレートなのに対し、リアスは柔らかな癖毛で、少し茶色がかった髪をしている。

 私はそのストレートの髪の毛を特に何をするでもなく伸ばしたままだし、リアスは癖毛が気になるとかなんとか、ふわふわのショートヘアにしている。

 なるほど、私たちが、例え親しくない者からしても間違われないわけだ。


 内面なんて、もっと違う。

 一人でいることが好きで、自ら他人と関わろうとしない私に対して、リアスはお喋りが大好きで、誰とでもすぐに仲良くなれる。彼女の周りに誰もいないことなんて今まで一度もなかったのではなかろうか。

 私の趣味は読書で、彼女の趣味はおしゃれ。

 私のお気に入りの場所は図書室で、彼女は駅前の感じの良いカフェ。

 私たちが似ているのは体型だけで、それ以外は何もかもが正反対だった。


 それでも、私たちは互いを尊重しているし、認め合っている。つまり、多少の姉妹喧嘩はさておいて、私たちは大概にして仲が良い。


 そんな私たちの物語。

 恋と友情と、そしてちょっとした私たちだけの秘密と。

 十六歳まで、あと数分。

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