第36話 キタツマフキ 再び①

 事件終息後に迎えた最初の金曜日。

 北妻蕗村の西外れから五キロ程離れた場所で、ポニーテールの戦乙女と長身で無精髭を生やした中年男性、インテリ風の美女と厳つい初老の男性がツルハシをふるっていた。


 モッさんと貴子、群高新聞の片桐舞と生活安全課の真野である。


「そうれっ、そうれっ!」

「ふんぬっ、ふんぬっ……! た、貴子ちゃん、休憩にしよう。腰の感覚が自分のモノでは無い感じになってきた」

「そうですか。アタシはまだまだ大丈夫ですけど、休憩の提案は大賛成です」


 一時間ですよ? 一時間ツルハシ振りっぱなしですよ?


 鉱夫さんや農作業を生業とする方と違って、ツルハシを持った事なんて数日前まで無かったし、貴子ちゃんも同じだと言っていたのに『まだまだ大丈夫』なのか。


 これは益々、人体構造の違い説が濃厚になってきた。

 キタツマフキでは無いが彼女はもしかして合成生物なのではなかろうか。

 一度我が浪漫機械CTスキャンで全身くまなく確認したいところだ。


「でもやっとここまで形が出て来たね。私一人だと数ヶ月はかかったかも知れない」

「だんだん形が出て来るのが楽しいですよね。それにモッさんの推理通りなら、アタシ達、大金持ちじゃないですか。新しい服がいっぱい買えるかな~」

「私は自動で縦列駐車可能な最新の車が欲しいわ」

「儂は隠居でもしたいのお。最近朝起きるのが辛いもんでね」

「あはは、みんな皮算用は良くないよ。それにもし見つかっても私達だけの物じゃない、この村全員の物だからね」


 細胞活性化試薬を散布した日、北妻蕗村上空から眼下を見渡した私の目に、少し不自然なモノが映った。それはキタツマフキによって周囲を荒らされていなければ解らず、尚且つ上空からでないと判別し難い物だった。どうみても人工的に円を描くように掘られた堀の様な物は、遥か昔に何かがそこに建造されていた名残りに見えた。


 その時、お酒の席で貴子ちゃんのお父さんから聞いた話が脳裏に過ぎった。

 昔この村の住人は先祖の宝を守っていたが、今ではそれが何なのか何処にあるのかさえ全員忘れてしまったと言うあの話。

 上空から堀の様な物を発見した時、頭の中でカチリとピースが嵌ったのだ。


 貴子ちゃんに話すと行ってみたいと言うし、もしも大発見なら今回借りのある片桐さんにスクープさせてあげたかったので、都合の良い日を話し合って金曜日の午後から集まったと言う訳だ。


 真野さんにもチラッと話してみると非常に食いつきが良く、ならば一緒にと言う事でお誘いした。 実は真野さん、遺跡マニアだそうで学生時代は発掘のバイトに明け暮れていたそうだ。


「しっかし大昔の遺跡とは思えんね、重機で掘る必要も無さそうで綺麗なもんだぃね」

「予想ですが、ここに産廃業者が汚染物質を捨てていたのでしょう。それをキタツマフキ達が綺麗サッパリ食べつくし、序でに周囲も食べ尽くして放射能も浄化してくれたからでしょうね」

「柔らかい土壌も食べてくれたから、昔の硬い地層が残ったのね」

「これだと土日の連休中に何か見つかるかも知れんもんで、楽しみだわ」

「キタツマフキ偉い子だね!」

「正にキタツマフキ様々ね。お宝が出なくてもこれだけで良い記事になるわ!」


 上空からだと然程大きくは感じなかったのだが、いざ現地へと乗り込んでみると意外と遺跡は大きかった。大きいと言っても百坪程度だが、これを一人でどうにかするとなると骨が折れる。みんなに声を掛けたのは大正解だった。


 一応、村の人達にも了解を得て作業しているし、何なら暇な者を手伝いに出そうかとも言われたのだが、まだ何が出るとも解らない推理段階だったので気持ちだけ頂いて断った。


 その日はそれから陽が傾くまで、堀で囲まれた内部を掘り返してから作業を終了した。幸先良く地下へと続いていると思われる空間を発見出来ていたので、区切りとしては丁度良い。

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