魔導天使~グノーシスの黙示録~

坂崎文明

プロローグ

第1話 魔王との決戦 《ファーストバトル》

 聖騎士コーシ・ムーンサイトの聖剣グリーフライトが、魔王マジャール・トラファルガーを貫いた。


 だが、次の瞬間、倒れたのは、聖騎士の白銀の甲冑かっちゅうの方だった。


 彼の兜は破壊され、黒髪は鮮血に染められ、彼の聖剣グリーフライトも魔王宮の床に投げ出されて甲高い音だけが空しく響いた。




 ムーア王国最強の戦巫女いくさみこ「白き魔女」と呼ばれるフェアリー・フェリスの瞳には熱いものが込み上げてきたが、一度、双眸を閉じて、再び、魔王を睨み据えた。


 聖騎士コーシ・ムーンサイトの傍には、彼の恋人にしてフェアリー・フェリスの戦友でもあった戦巫女「白き魔女」のフォーリア・オーディンの亡骸なきがらもあった。


 フェアリーの部下の戦巫女たちも、魔王に向かって殺到するが、次々と倒されていった。


 全力の攻撃魔法や神聖術も一切、通用しなかった。


 レベルが違いすぎるのだ。


 天界から盗まれた魔天使の魔法防御と攻撃魔法を駆使する魔王に、いかに魔法と騎士の力を究めた戦巫女であっても人間の力で抗う術はなかった。


 ただひとつ、彼女、フェアリー・フェリスの秘術のみが、それに対抗できる可能性を残していた。




 アルカナ・ストライク。


 ムーア王国最強の戦巫女「白き魔女」の十二アルカナの秘術ひとつ、対魔天使用に天界から伝えられたという技である。


 たぶん、チャンスは一度きりである。


 白銀の髪と双眸をもつフェアリー・フェリスの瞳は、次々と死んでいく騎士たちを見つめながら、魔王の隙をうかがっていた。


 漆黒の魔導士の鎧に身を包む魔王マジャールは、左手の魔槍ダークスピアーで騎士たちを薙ぎ倒しながら、右手の魔導楯で魔導士部隊の攻撃を吸収、あるいは反射させて完璧に防御していた。


 聖騎士コーシ・ムーンサイトの剣が奇跡的に魔王に届いたのは、フォーリア・オーディンの捨て身の攻撃で魔導楯の防御が一瞬、遅れたからにすぎない。


 それゆえ、フェアリーは騎士たちの屍が積み重っていっても動けないでいた。


 自分の一撃に世界の命運が懸かっている。


 ―――その時、白銀の鎧をまとった騎士が立ち上がったかと思うと、捨て身の一撃を放った。


 まさか、この場面で、死んだふり?!


「フェアリー、今だ、行け!」


 懐かしく頼もしい背中を向けた聖騎士は、聖剣グリーフライトで魔王の魔導盾を両断していた。

 魔槍ダークスピアーが今度こそ、彼の鎧を粉々に砕いた。


「アルカナ・ストライク!」


 天使と同等の超スピードで、フェアリーの聖剣シルバーソードが煌めく。

 魔王の動きがスローモーションのように見えた。


 一瞬、時間が停止したように見える。


 さらに加速、「シルバーアクセル」も発動して魔王の身体を両断し、彼女の動きはようやく停止した。


 だが、その刹那、彼女の口から鮮血が溢れた。

 人間の限界を超えるスピードに、彼女の身体も耐えられなかったのだ。


「まったく、最後の最後に死んだふりですって……」


 満足げな笑みを浮かべて、彼女の意識は遠のいていった。

 コーシ・ムーンサイトの人を食ったような笑顔が脳裡のうりによぎった。


 それが彼女の最後の記憶となった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る