第六話 6-4



『さあ、地区予選二日目、いよいよ準決勝だ! 全国への切符を手に入れられるのはこの中の二組!』

 実況のアナウンスのテンションは絶好調。まあ、こういう競技の司会が熱いのはよくあることだし、準決勝なら熱くなるのも当然だ。私のテンションはそこまで上がってないけど。

『そしてぇッ! 準決勝一試合目! 個人優勝者マジで強すぎ、天川&御舘ペア!』

 まばらではあるが歓声が上がる。その紹介にムッとする。まあ、今までの試合を見たら立仁の強さしか印象に残らないだろう。私は腰巾着というか、メインディッシュの脇にある添え物でしかない。

『そしてっ、この強豪に挑むのは、六分木&都貝ペア! どうやって御舘選手を攻略するのかぁ! 注目の一戦だぜ!』

 私の名前は当然のように出てこない。いいんだ、まだ上手くいってないだけ。活躍するチャンスはまだある。

『さて、そろそろカウントダウンが始まるぜ……3、2、1ッ、試合開始ぃ!』

 ゲートが開く。試合が始まった以上、悩んでいる余裕はない。頭を切り替えるんだ。


 開いた。


 まず、立仁の位置をレーダーで確認。いた、私の出たゲートの右側。

どうせ立仁から合流しろなんて言ってこないし、むしろ私が寄って行ったら邪魔者扱いされそうだ。ああ、なんか立仁の言ってきそうなことが前より予想できるようになってきた。全然嬉しくないけど。

 何にせよ、私のアンドロメダは音で場所を見破られやすい、らしい。パパとおじいちゃん、宣伝文句で『ホバー史上最高の粛音性しゅくおんせい!』とか考えていた気がするんだけど、立仁みたいな熟練者からすれば分かるのだろうか。とにかく、今は動かない方がいい。

 試合開始から少しも経たずに、遠くでケミリア弾による銃声がした。音の間隔からすると、立仁じゃない。立仁の武器は単発式で威力重視の大型ライフルと、弾をばら撒くのを目的としたサブマシンガン。それに対し、今聞こえたのはタタタンッ、タタタンッ、という等間隔の音――三点式ライフルだ。

『おおっと、都貝選手の改造機アードラ・シェル、立仁選手のリーゲルに仕掛けたッ!』

 行かなければ。直感的にそう思った。このままだと、また立仁一人ですべてが終わってしまう。私はまた、役立たず扱い。それだけは、イヤだ。

アンドロメダのエアスラスタを強引に吹かし、一気に立仁の戦っている場所まで近づく。

 一気に加速したおかげで、立仁のリーゲルの機影が視界に入る。後ろ姿だけ見てもどうなっているかは分からないが、劣勢になっている気配はない。むしろ、相手の方が苦戦している様子だ。

 なんだ、全然問題ないじゃん。相手が倒されるのは時間の問題のように思えた。なんだ、全く私の出る幕が無いじゃないか。そう思った時――

 視界の端に、戦闘中の二機とは別のマルチキャリアが映った。真っ直ぐに、私に見られるのも構わず、二機の元へ、正確には立仁目掛けて突っ込んでいく。

 立仁は、気付いていないように見える。いや、気付くはずがない。立仁の背後、その完全な死角の位置を見極めて突撃しているのだ。

 移動しながら、機影を完全に捉える。『アードラⅥ』、六分木という選手の機体だ。その手に握られた散弾銃を見て、確信する。片方が正面で撹乱、もう片方が背後から強襲、散弾銃の至近距離発砲による、一撃必殺。相手の狙いはそれだ。

 タッグバトルは、連携がカギだ。立仁にそのつもりがなくても、私にとって連携が大切だという考えは変わらない。この状況に立仁が気付いていないなら、私が立仁を助けるしかない。私は、タッグのパートナーなのだから。

 それに、今度こそ私は活躍できる。ただの腰巾着でも、お飾りの人形でもない。私だって出来るってことを、証明してやる。

 左手のバックラーを構え、相手のアードラⅥと立仁のリーゲルの間を目指して突撃する。

 他の機体では間に合わないだろうが、私のアンドロメダの速度なら間に合う。

相手の散弾銃を遮り、立仁を奇襲から守るという『ファインプレー』を、見せることが出来る。観客にも、立仁にも!

 相手がもう立仁の背後に迫りつつある。

だが、遅い。私のアンドロメダの速度は、そんじょそこいらのマルチキャリアとは違う。エアスラスターで加速したホバーの瞬間的な速度は、簡単には捉えられない。

 立仁の背後に来て、急ブレーキをかける。

停止時の瞬間的な衝撃で頭がぐらりと揺れたが、間に合った。相手の散弾銃はもう発射寸前だ。相手は私に反応し切れていない。バックラーを構え、立仁への攻撃を防ぎ切る――

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