Step 11 不埒なるブレーズ
第19話 『不埒なるブレーズ』
ブレーズの日記
5月○日
酒呑んだだ。結婚式だっただ。べろんべろんになっちまって、どうやって皆して帰ってきたんだかわからねえ。頭痛え。
おらと、先生、イアンさん。魚屋の跡継ぎだったっけか。嫁さんの顔はまず不細工だっただ。その妹が反対にめんこかっただな。もう結婚しとるけど誘ったらOKだと。
住所は川の近くの堤防沿いの一軒屋だっただな。明日にでもこっそり夜に遊びに行くだ。亭主は北の方で連隊に入ってるから当分戻ってこねえんだ。テーブルの下で握った手が湿ってた。ありゃ相当の好きもんだべ。
5月☆日
しっかしひっでえ目にあっただ。今朝がたあの女んちで寝こけとったら、いきなりひっぱたかれて起こされた。そんで「ダンナが帰ってきたから」って二階の窓から降りらされるハメになっただ。すっポンポンで納屋で服をつけたら背中に超でけえ穴ができとったし。そんでもまあ銃で撃たれてイチコロよりかはマシだべな。
そんで給料が出ただ。先生が前よりほんのちびっとばかし多くしてくれてただ。また株で
これで男だったら蹴り倒して黙らせんだけんどな。あーあ。
5月 ※日
先生のお使いでちょっとヤバめなところに書類を届けに行っただ。泥棒の元締めんちだ。先生はついてこようとしたけんどイアンさんが反対して、おらは一人でいいからって出てきた。
っとにまどろっこしいだな。あの2人、ついこないだいい塩梅に2人して朝帰りぶっこいといて、まーだ先っちょも入れてねえみてえなんだからな。
先生に聞いてみたけんどニヤニヤするばっかりではぐらかされるし、イアンさんは「僕と先生のプライベートにかんしょうするな」の一点張りで話そうとしねえし。つまんねーの。
そんでまあ行った先が
えらくめんこいのからゲロまずそーなオバサンまで歩いてた。んで、なんか深めのフードかぶってウロウロしとる超めんこいのがいて、初仕事か思って声かけたらば、返ってきたのがごん太い男声でがっかりした。
そんで一回スルーしたけんど、帰り道にオバサン系にからかわれとったから、そっから襟つかんで離れさせて、おめえにゃまだ早いんでねえかって言ってやったら余計なことすんなとかいいくさるからちっとしつけて話を聞いただ。
んで、初めて女を買いにきたけんどどうすりゃあいいんだべっつうから適当に声かけて引っ掛けりゃいいでねえかっつったら、「実は僕ではなくて、さる高位のお方のために女性をさがしてる」とか「あなたはここらで僕の会った人の中でも信用できる方だとお見受けします。どうか、手伝っては頂けませんか」とかわけわかんねえこと言ってきた。おらが渋っとったら「わずかですがお礼もあります」っつって金貨もらえた。
それから、なるべくすれてなさげで、ボインでなかったけんど、まあまあめんこいあまっこを捕まえて言い含めて、そいつと馬車に乗っけてやった。なんか大げさに感謝されてまた金貨ゲッツーしただ。
なんだかよくわかんねえけど儲かっただ。酒三本とチーズとサラミ買った。事務所のメンツに振舞った。ドロテアが飲みたがった。グラスにちびっとなめさせたら「ゲー」だと。先生が「ブレーズにおごってもらえるなんてかんがいぶかいものだなあ」てほめてくれた。イアンさんは「まさかぜげんの真似事でもしてきたのではないだろうね」てジト~っと見てきた。こん人はほんにカンが鋭いだよなあ。
5月‰日
あの女っぽい野郎が、坊さんだった。そりゃなんとなく納得した。
おらが村の神父さんは木こりやっとったムキムキの超マッチョで、下ネタが大好きで話し方とか父ちゃんとあんま変わんなかった。だもんでウィーンの坊さんのカマトトぶった感じに最初はびっくらこいたもんだべ。
けんどまあ、まさか坊さんがもっと上の、枢機卿とかいう坊さんのためにサセ子買いするなんてな。
ミサん後で先生とドロテアに隠れて、とっ捕まえて聞きまくった。逃げようとしたもんだで、告解部屋に押し込んで脅してみた。
なんでもそのナンタラいう偉い坊さんが、死にかけとって医者にも「もう長くない」言われたんだと。そんで、その心残りがないかって尋ねたらば
「しょうがいに一度でいい、女がどういうものか知りたい」
言われて、じゃあしょうがねえってんで自分がサセ子買いに行ったんだと。
で、そのジジイの坊さんはどうなったべ、死んだだか聞いたら、ところがどっこい持ち直して、今はピンピンしとるんだと。おまけに女にも目覚めちまってあっちの方もビンビン。周りは困っとるらしい。
おら大笑いした。笑いごっちゃねえて怒っとったそいつも、なんだかツボにきたらしくて最後には笑っとっただ。
名前がラスムス=ヨアンセン。枢機卿には恩があって、向こうも信頼しとったからお使いを頼まれたんだと。
しっかし、「テーソーを守れ」だの「浮気をするな」だの説教たれる坊さんの、衣の下が女好きたあな。ジジイだろうがなんだろうがチンポついとんだし、じゃなきゃ不自然ってもんか。
5月◎日
ヨアンセンが坊主辞めようか悩んどるんだと。偉い坊さんがカンタンに「にょぼんをおかした」のがショックだのゲンメツだのクドクド言うもんだで、カフェの中でおもっきしはたいちまっただ。
愚痴ばっかりでうぜえ、やめたいならやめっちまえ、人様にああだこうだ言うのが仕事のやつが迷ったそぶりしてんじゃねっつってやったらばヨアンセンのやつなんか感動した。
結局どうするかはかは自分でもっとよく考えてみるて、なんかまだ頼りねえ。男なら思い切りが大事だべよて気合い入れてやっただ。
5月 ★日
マリアから催促の手紙がきた。おら達がいつくんのかって、村の皆がそわそわしとるんだと。
もう腹の中にややこがいるのかもしんねえだな。「そうなると君も伯父さんというわけだね」てイアンさんがにんまりした。やな感じだっただ。先生は「田舎の人の結婚は早いんだなあ」だと。
そんで午前中で大体することなくて皆でカードしとったら、ヴィルヘルムの兄やんが遊びに来た。ドロ子を見るなり「マクシミリアン、お前の隠し子か!?よくやった!!」て大はしゃぎした。先生が、そんでねくて拾いっ子だって話したら「うむ、花嫁に育て上げるのか、そうなんだな」つってまた間違えた。
ドロテアの首に御守りにしとるマリア様ん絵姿見て、なんか調べるからって預かってった。紋章院に問い合わせるんだと。その役所にはヴィルヘルムさんの顔がきくからって。先生が、どうしてだ、やんごとない身内の姫なのかとか訊いた。そうでなくて、その役所の奴らは戸籍のオタクみてえなもんだで、こういうのからでも嗅ぎ当てることができんだと。暇な奴らだべな。
ヴィルヘルムさんが良い肉差し入れしてくれたんで、ステーキにして食った。黒胡椒たっぷり使った。余りは煮込みにしといた。
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