筑紫王朝を創ったタケル

@kikutihiko

第1話 プロローグ

 遥か遠く現在から1600年も以前のことである。西暦367年の8月、九州の筑紫次郎と呼ばれた大河ほとりの河口付近、水沼の里にあの邪馬台国を倒して倭国王として筑紫王朝の都を建てたのがタケルと呼ばれた男である。

 あの女王卑弥呼の後継王族を壮絶な戦いの中で倒したのは、実はタケルの母上神宮女帝である。女帝の夫は月読神(つくよみの神)を崇めるタケウチスクネと呼ばれた。当然ながら、タケルの父と母の武力がなければ筑紫王朝の建国などなし得なかったのは自明の理である。

 

 その時代の中国大陸は、五胡十六国と呼ばれお互いの国が戦いの嵐の中にあった。

朝鮮半島では、高句麗、百済、新羅の三国と南朝鮮にあった伽耶連合国とよばれ倭国の兄弟国であった。その中でも百済の近肖古王は倭国との講和を願っていたが伽耶国との覇権で武力衝突することもあった。


 

 

 若き青龍海を渡る


 そんな時代の中に、タケルは倭国に生まれ好奇心の塊のように育っていき、十六歳の年に海人族の頭目であるアズミヒコを案内人として任那国(釜山市辺り)に鉄の買い付けのために渡った。もちろん父親のタケウチスクネの命令である。

 水沼の里先にある有明船乗り場を出てから、数日で壱岐の島に着き、食料や水を調達して朝鮮半島に向かった。        

 有明の海を出てすぐに船は揺れ始めた。タケルが船酔いになるには時間はかからなかった。

「ワカサマ、大丈夫ですか?まだ、有明をでたばかりですよ。」と笑いを堪えて声をかけた。

「笑うな。大丈夫だ、すぐになれるはずだ。母上が申していた」

「あなたの母上様は、豪傑ですから並の男はかないませんよ。海上の船にも慣れておられる。新羅にも何回も戦に行っておられるから」

「そんなのだよ。恐ろしいほど豪傑だから」とタケルはうっかりアズミヒコの口車に乗ってしまった。母の話をしていたら、タケルノ船酔いも軽くなっているような気がしてきた。

「母上の戦に帯同したことがあるけど、普段は優しい母上ですが、戦いの時の母上は鬼様な形相なり、敵の長には容赦ないのです。両手両足を落として両目もくり抜いてじっくりと時間をかけて殺してしまうのです。私は、それが恐ろしくて恐ろしくて堪らなかった。いま、思い出しても震え上がるな」

と身震いしながら独り言のようにアズミヒコにつぶやいた。

「今夜は、どの港に泊まるのか」とタケルはアズミヒコに尋ねた。

「風が強いから、五島の郷ノ浦には行き着くと思いますよ」

「そうか、何か美味しいものを食べられるか?」

「平目とか鮑くらいはあると思いますよ」

「鹿肉があるともっと楽しめるが」

「ワカサマ、今回は絹を沢山積んでいますので、鹿肉を代えるかもしれませんね」

「それは楽しみだ。」

 船は、夕日が落ちる前に郷ノ浦の湊に着いた、船着場には、アズミヒコの旧友マツラが迎えに来てくれていた。彼はすぐに今夜の宿泊先に連れて行き、落ち着いたところで食事処に案内してくれたのだった。

「アズミ、マツラさんとは、どんな間柄?」とさりげなく聞くと

「そうですね、親族というか同族といったらいいのか」と少し口を濁すアズミだった。

そこに、酒と小皿に干し物の烏賊がだされた。

「まずは、乾杯いたしましょう、タケル様」

「それでは、タケル様の航海のご無事とマツラの繁栄を願って乾杯!」とアズミが音頭をとった。

 タケルは、マツラに

「交易はされていますか?」

「はい、中国の晋国とも交易をしていますよ。ただ政権が安定しないところもあって、もっぱら、晋国人が船で米を買いに来ます。絹も最近は売れてくるようになりましたね。しかし、晋はすぐに米とかもたくさん取れる土地になりますよ」

「それでは、一時的に混乱しているということですか?」

「王権が安定していないということですね。戦争ばかりやっていますからね」

「それは、わが国も同じだよ」とタケルは憂いのある顔をした。

「わが国も、あの卑弥呼の後継者である邪馬台国を倒して、今はわが母上の天下ですから。その故に、私は父上である藤大臣に伽耶国に交易太夫として送り出されたのです」

「それは、新しい倭国王使節として伽耶王にご挨拶されるのですね」とマツラは自分に確認するように言った。そこにアズミヒコが口を挟んだ。

「ところで、父上様はどのようなお方ですか?お会いしたことがないものですから」

「父も武人だけれども、戦い方をご存知のお偉い方だ。戦う前には、必ず敵方のことをよく調べてある。直接命令されるカラスという氏族がいる。息子の私も秘密にされているから、よくわからない人たちだけれど」

 そうこうしている内にタケルもアズミヒコも眠たくなってきた。マツラが

「明日の朝、早いですから、もう寝ることにしましょう。明日は、私マツラも一支国までお供いたします」


 タケルらが一支国へ船出したのは、早朝であった。マツラは2隻の船を同行させて水先案内をした。西風を帆に受けてタケル船団は快調に走り出している。波は少し荒いがマツラにしてみれば、普段と同じであった。

 マツラにまたしても一支国に着いたら、何かうまいものがありますかとタケルは聞いた。

「そうですね、鯨が美味しいでしょう。あればの話ですが。なんといっても鯛の刺身は最高ですよ。鯛は必ずあるはずです」

「鯨ですか?食べたことないな。アズミヒコは食べたことあるか?」

アズミヒコは自慢げに

「もちろん、ありますよ。対馬国に言ったとき父に食べさせてもらいましたよ。美味しかったな。ワカサマは美味しいものしか興味がないようですね。」

「そんなことはない。ただ旨いものが好きなだけだ」


 夕日が落ちる前には、タケルの船団は一支国の一番大きな湊桟橋に横付けされた。そこから宿は、すぐ近くにあり迎賓館のようなところもあり、タケルとマツラ等はその迎賓館に案内された。これもマツラの仕業と言うところだろうとタケルは思った。すでに迎賓館には他のお客もおり異国人達だとすぐにわかった。さすがに一支国だと感心した。タケルの好みを知っているマツラは、鯛の活きつくり鮑やサザエのほかに鯨肉と鹿肉も用意されていた。


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