第31話 新たな挑戦

 花畑もかなり増えてきた。村中で大小合わせて二十か所近くなり、村の花畑マップも作られ、来訪者に役場で配られるようになった。季節に応じての花畑ツアーをする人も増え、村の中も賑わっている。どうせならゆっくりと周って貰おうと始めた、自転車の貸し出しも好評だ。

 お蔭で、宿泊施設も利用者が増えてきて、かなり採算が取れるようになってきた。村の婦人たちも皆楽しそうに働いている。農作業もお互いに協力して利益はみんなで分配されるようにシステム化した。殆どが年寄なので、だれも欲張る者はいないのだだ。

 そんな中、秋山が一つの提案を事務所に持ってきた。

「皆さん、養蜂をやってみませんか。これだけ花畑があれば、ミツバチも住み心地が良いと思うんですが」

「やだ、秋山さん面白い。ミツバチの気持ちも解かるんですね」

 百合が冷やかすと、秋山は頭を掻いている。

「まあまあ、百合ちゃん、話を聞こう」

 清が諭すと、みんな真面目な顔でテーブルについた。

「実は、色々調べたんですが、ミツバチと人間の付き合いは旧石器時代まで遡るらしいんです。特に日本には古くから、この国の気候に適応した日本ミツバチという種がいます。この日本ミツバチを使って養蜂をしてみては如何かと思ったんですが」

「でも、蜂が人を刺したりしたら、問題になるんじゃないですか?」

 薫子が投げかけた疑問に、一同「うんうん」と頷いている。

「その点なら大丈夫です。日本ミツバチは西洋ミツバチとは違って、性格も大人しいですし、何よりも上手くいけば、村の特産品として蜂蜜を販売できます。日本ミツバチの貯めた蜜は江戸時代、百花の精と呼ばれ珍重されていたそうです」

 秋山はインターネットの動画を見せ乍ら、説明を続けた。確かに、日本ミツバチは性格も大人しく、扱いやすそうだ。実際、女性だけで養蜂をやっている動画も見受けられる。これならば、この村の産業の一つとして成り立つかも知れない。後は人員の問題だろう。それも、蜂蜜を採取する時期以外はそんなに忙しく作業する必要もなさそうなので、大きな問題はなさそうだ。

「で、何処に巣箱を設置しましょうか」

「そうですね、ミツバチの行動範囲は凡そ半径二キロと言われてます。そして、都合が良いことに、この村の花畑の八割が役場から二キロ程離れた地点から半径二キロの範囲に入っているんです」

 確かに地図を開いてみると秋山の示した通り、半径二キロの範囲に相当数の花畑が入っている。この他にも一般の住宅の花壇や、桜、梅、アカシヤなどの樹木からも蜜はとれるので、養蜂という仕事はこの村にとって最適かも知れない。

 みんなの意見が一致した。さて問題はどのようにしてミツバチに来てもらうかだ。

「蜂蜜を作るのは良いとして、どうすればミツバチを集められるんですか?」

 百合が秋山に質問した。みんなもそこの疑問を解決しなくては、前には進めないだろう。

「はい、日本ミツバチは『キンリョウヘン』という蘭の仲間に集まるという習性が有るそうなんです。このミツバチのサイトを運営している人から、入手できると思うので問い合わせてみましょう。あと、花畑の観察です。」

「というと・・・」

「ミツバチの沢山集まる花畑がどの位置にあるかを探るんです」

「なるほど、ミツバチの多い花畑の近くに巣があるということですね」

 清は納得したようだ。他のメンバーも多少なりと気が付いたようだ。早速次の日から、蜂の分布を調べ始めた。その結果、村の北側の山に近い方の花畑に多く分布してる事が分かった。作戦決行は、その年の冬。春先に分蜂する群れを巣箱におびき寄せようというのだ。果たしてどうなるのか・・・。

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