千三百九十四話 魔界セブドラの歴史とガンゾウの過去

 腰のベルトにぶら下がっている魔軍夜行ノ槍業の書物が揺れる。

 念話は寄越してこないが<無方南華>を筆頭に様々なスキルを得たことで八人の師匠たちが凄く喜んでいると分かる。


 師匠たちの装備に体などを取り戻さずとも、俺が強くなれば精神的に繋がっている師匠たちも強くなるからだろう。


 すると〝魔犀花流槍魔仙神譜〟の刺繍は、岸辺と山の空を背景にした巨大な鷹が大きな翼を羽ばたかせて飛翔する刺繍の見開きに変化した。


 刺繍のアニメーションで大きな鷹が実際に見ているような視界へと変化――。


 大きな鷹は魔神ガンゾウの幻影と闇と金属の粒を纏った目が三つの人族風の幻影を出現させながら優雅に加速する。


 大きな鷹は神々の幻影を吸収すると漆黒と紫紺の葉が目立つ山へと突入し無数の枝葉と花々の間を抜ける。

 木々の一つ一つが巨大だ。動くこともあった。

 長い根っこが知記憶の王樹キュルハに見える。


 大きな鷹は傾斜しているガレ場の上を飛翔し傾斜に沿うように下る。


 滝となっている崖を悠々と越えて滝壺と崖から噴き上がるような上昇気流の風に乗って上昇していく。と、身を捻りながら頭部を下げた。


 滝壺を見るように姿勢となって翼を小さくすると、そのまま深い滝壺へと急降下。その滝壺の淵から龍と犀が融合した巨大なモンスターが現れる。


 龍と犀が融合したような巨大なモンスターは急降下している大きな鷹を喰らうように口を広げ、口の歯牙を飛ばし、毒液を吐く。

 

 龍と犀が融合した巨大なモンスターは滝と崖を崩壊させるように上昇。

 

 大きな鷹は両翼を広げて風を起こす。

 下から飛来した歯牙と毒液を暴風のような風で吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた歯牙と毒液は魔界セブドラの地に新たな地を造り上げる。

 と、大きな鷹は口先を黄金色に輝かせると黄金の剣のような切っ先に変化する。両翼を縮めて真下に一直線で降下していく。


 黄金の剣のような嘴が龍と犀のモンスターの口へと突入し、体を突き抜けて、龍と犀の巨大なモンスターを倒していた。


 滝壺ごと崖を破壊した大きな鷹は翼をバッサバッサと羽ばたかせて動きを止めていた。周囲の瓦礫を吹き飛ばし川の水面も巨大な津波となって拡がった。


 大きな鷹は背丈の高い樹木へと直進し樹の枝を吹き飛ばしつつ上昇していく。


 美しい魔界セブドラの魔夜を、俺に見せるように森を越えて高原と谷間を見下ろすような視界となった。高原は大平野となった。

 

 そこには大厖魔街異獣ボベルファのような大厖魔街異獣が数匹いた。

 諸侯か神々の軍勢と共に進んでいる。

 と、刺繍の景色が変化。大きな鷹の視点ではない。


 【メイジナ大平原】か不明だが、広々とした平野をクォータービューの視点で眺めているような刺繍世界となった。魔城と砦と大きな街に移動した。

 黎明期から帝国へと発展していく様が刺繍で表現されていく。

 が、何百年、何千年の単位が数秒で過ぎ去っていく光景は凄まじい。

 その大帝国は崩壊。崩壊の仕方が凄まじい。

 

 魔界と神界の神々と諸侯の争い。

 刺繍故に、巨大な神像同士が戦っているようにも見えたが、神々の体長が大きすぎる。その大きさが惑星規模か?


 神々が一歩歩くごとに数十kmから数百kmの大地が窪む。


 巨大な山に手が触れただけで、巨大なカルデラ地帯になり、神々の魔力や血飛沫が大地や魔界の海に流れただけで、大地が沸騰したように溶けると、不思議な液体金属が流れる川に変化。


 巨人のような神が倒れると、そこは寝そべった姿の大山脈に変化を遂げていた。

 魔炎神ルクス様か、雷炎神エフィルマゾル様と似た神々の攻撃は凄まじい。余波も影響ありまくり、火炎の嵐が吹き荒れて、そこに住んでいた雷炎に耐性のない魔族以外は、すべてが蒸発して全滅していた。


 不思議と魔界の炎で育つ樹木に果実もあるようだ。

 

 神々と諸侯の衝突で海は蒸発し、巨人のような神が硬直したまま亡くなれば大石像となる。諸侯のような存在を巨大なハンマーで潰すように倒していた破壊神のような存在は、どの神様だろう。


 魔界セブドラの次元に傷を付けていた。

 

 そこで暮らしていた魔族たちは、何も考えるまでもなく死んだだろう。


 人間が歩いて、地面を移動していた蟻や微生物を意識せずに踏み殺している姿を連想した。


 これは初期の頃の魔界大戦だろうか。

 闇神リヴォグラフや悪夢の女神ヴァーミナ様に吸血神ルグナド様や魔毒の女神ミセア様が戦いを繰り広げていた時も凄かったが……。


 今回は体長が大きすぎて把握できない。神界セウロスと魔界セブドラの境目もあるようでないところもあるようだからな、スローモーションになる場合と、高速で戦っている場合がある。


 と、〝魔犀花流槍魔仙神譜〟の刺繍世界が変化。

 魔界セブドラの世を幾世代も越えていく。

 と、アルプス山脈をクォータービューで見るような視点となる。

 平原から大森林地帯に移動すると、世界樹を想像させるような巨大樹と森の情景に変化した。

 その森の中へと何かが高速移動する。

 刺繍ではないような印象を抱くほどリアルタイムに目まぐるしく大変化――。


 極彩色豊かな森の内部を展開していく。


 〝魔犀花流槍魔仙神譜〟にまだ宿っている魔神ガンゾウは、魔界セブドラの森羅万象を教えてくれている?


 標高が高そうな山の中では――。

 多種多様な動物とモンスターが棲息し、様々な魔族たちが暮らしていた。


 四眼四腕の魔族たち。

 二眼二腕の魔族たち。

 大小様々な一眼の魔族たち。

 魔神コナツナの信奉者たちか?

 八眼を頭部に持つ魔族たち。

 八眼の方々は、先ほどまで見ていた魔神ガンゾウとは雰囲気が異なる。


 肩に人面瘡が刻まれた魔鎧を着た魔族たち。

 【魔神コナツナの丘墳】の直ぐ外で戦っていた連中と似ていた。


 神界風の衣を纏う仙人と仙女たち。

 仙女を思わせる方々も外で人面瘡が刻まれた鎧を着た魔族と戦っていた。

 神界セウロスの神々が魔界セブドラの領域を占領し、その飛び地の玄智の森のような里が魔界セブドラにあるように見えた。

 この〝魔犀花流槍魔仙神譜〟の刺繍の絵は、近隣地域の戦争を描いていく。


 【魔神コナツナの丘墳】の外では二つの勢力が戦っていたが、魔神ガンゾウと魔神コナツナと関連しているんだろうと予測。魔神ガンゾウの信奉者が人面瘡を肩に持つ魔族たちかな?


 黒い衣を着ている魔仙人たちが見えた。

 此方の魔仙人たちは魔界側かな。


 魔仙人たちは、魔杖槍と似た武器を使い山中に沸くモンスターを倒し拠点に持ち帰って食材や衣服などの素材にしているようだ。

 

 各魔族たちは、古い日本の文化に中華の文化とイスラムの文化と似た建物に住んでいる場合が多い。

 

 体が異常に小さいのは、キュトミー系の魔族かな。

 単眼種族キュトミー、名はユーンはセラで仲間になった。


 ユーンは、ラファエルが持つ特殊なマジックアイテム〝魂王の額縁〟の中で生活しているのかな。

 

 魂王の額縁の絵はアルチンボルド風で、かなり不思議な世界だ。

 その絵の世界へとモンスターたちを格納できる。


 魂王の額縁は、闇烙・竜龍種々秘叢の巻物と似たモンスター格納が可能なアイテムボックス系のアイテムだろう。


 そのラファエルはエマサッドとベニーと【天凛の月】の副長メルたちと一緒にペルネーテにいる。


 キュトミーはセラでの種族名だ。

 一眼の魔族は魔界では名が違うかもな。

 この〝魔犀花流槍魔仙神譜〟の刺繍世界は事細かく描かれているからキュトミーにしか見えないが……。


 と、刺繍の場面が変化――。


 二眼二腕の魔族と四眼四腕の魔族たちを中心に様々な土地で争いが起きていることを示すように戦争の場面が増えてきた。


 ルガバンティやドールゼリグンの騎馬隊が正面衝突する戦場は凄まじい。

 それらの馬の足に向け得物を振るい回す槍兵も強い。

 二眼二腕の魔族には僧兵のような槍兵もいた。

 黒い衣着ている魔仙人には十文字槍を扱う強者もいた。


 戦場の頁は終了――。

 と、〝魔犀花流槍魔仙神譜〟の頁が捲れていく。


 すると、玄智の森と似た景色に変化。

 玄智山の武王院を思い出すと、大屋敷の前の拡がっている石畳広場で二眼二腕の魔族たちが訓練している場面の刺繍となった。


 師匠の真似をしている武芸者たちは魔杖槍を持つ。

 訓練が一通り終えると弟子同士の模擬戦となる。

 模擬戦が終わり、一人の弟子が師匠に呼ばれて屋敷を通り過ぎ階段を下りていく。

 

「師匠、俺が何かしましたか?」

「ふむ……わしが気付かないとでも? いいから付いてこい」

「はい」


 え、声が響いた。

 先ほど音楽が鳴ったし、こういうこともできるか。


 師匠のほうは黒い衣を身に着けている。

 弟子のほうは灰色の長袖を着ていた。

 二人とも剃髪済みで坊主頭だ。


 師匠のほうの額には髑髏だが六文銭のような魔印がある。


 弟子のほうの輪郭はガンゾウと少し似ているような。

 だが、二眼二腕の魔族だし、気のせいか。


 すると、牢屋の前に到着した。


 牢屋の中には、手足が拘束されていた八眼の魔族たちがいる。

 身なりは薄汚れているが、元々白色の武芸者が着るような衣装で統一されていた。


 師匠は、八眼の魔族たちを侮蔑するように睨みつけてから、弟子を見て、


「ガンゾウ、お前の左手を、見せてみろ」

「え……」


 ガンゾウ……。

 魔神ガンゾウは元々二眼二腕の魔族だったのか?

 ガンゾウは左手を隠そうと半身の姿勢となった。

 そのガンゾウは、


「バクイル師匠……急にどうしたんですか」

「いいから見せろと言っている、でないとお前が最近仲良くしている八眼の腕を斬り捨てる」

「え……分かりました、斬るのはダメです、こうですか?」


 と端正な顔立ちのガンゾウは左腕を翳すように見せた。

 ガンゾウの左腕は長い袖だ。


「ガンゾウ、袖を捲ってみせよ」

「……ここでですか?」

「そうだ」


 と、発言したバクイル師匠は全身に魔力を溜めていた。

 バクイル師匠の背後にゆらりと、犀と獅子が融合したような幻獣が生まれた。

 あの犀は、鼻の頭に複数の角がある。

 ガンゾウはチラッと牢屋にいる八眼の魔族たちを見る。

 皆、怯えていた。

 ガンゾウは溜め息を吐いてから、左腕の袖を捲った。

 そこには、魔印がぎっしりと刻まれて、薄らと煙霞を発生させている。


「ガンゾウ……やはり急激に力、魔力を増したと思ったら……その左腕がどうなるか、分かっているのか?」

「分かっていますよ、左腕がどうなるかぐらいは、だが強さを得るには躊躇していられない。俺には八眼魔族『エイゾン』の煙霞のスキルが必要だったんです」

「……それだけのために、八眼の小娘との禁忌を冒したか」

「覚悟の上、俺は八眼魔族エイゾンに恨みはないし、虐殺も好きではない。それに眼勝の者は俺を貶し続けた。しかし、自らが囚われの身であるのにかかわらず八眼の仲間たちが俺と接触を止めるように叱っていても、それを無視して、俺を陰ながら助言し、助けてくれていたのは、そこのベルアンただ一人」


 牢屋にいる八眼の女性を指摘するガンゾウ。

 八眼の女性の名がベルアンさんか。

 ベルアンさんは、若かりし頃のガンゾウを見て、


「ガンゾウ……」


 と呟く。


「……ふざけおって……眼勝寺の仕来りを忘れたどころか、師匠の恩を仇で返すのだな?」


 ガンゾウの師匠は魔杖槍を召喚。


「傷を治療してくれたコニシには感謝しています、が、<根源ノ魔泉>を持つ俺ですから、その治療もあまり……そのコニシも四眼四腕の魔族に倒れてしまった」

「他の眼勝寺の仲間がいるだろう」

「仲間? 新入りの俺が気に入らないのか、最初からずっと邪険にされましたよ。その同僚もバクイル師匠がいる間のみ、親切にしているように見せかける。そんなイジメを楽しんでやっていましたからね、矮小すぎて実にくだらない。更に、師匠の無駄な稽古に付き合わされた。ですから、恩は特にありません」

「よう言った――」

 

 バクイル師匠は前傾姿勢で前進し、速やかに右腕ごと魔杖槍を突き出す。

 魔杖槍の穂先からオーラ状の魔刃が出ていた。

 ガンゾウは「ハッ」と嗤う。


 バクイル師匠の魔刃を見るように仰け反ったガンゾウ。

 <刺突>系統の突き技を避けると後転するように、下から上に向かう右足の踵でバクイル師匠の魔杖槍を蹴り上げ一回転、宙空で左腕を翳す。


 左手に複数の眼球が出現。

 その眼球の一つ一つから闇の波動のような音波が発生し、バクイル師匠を襲った。バクイル師匠の頭部が揺れて、耳から血が流れる。


「ぬご――」


 バクイル師匠は「鼓膜を潰されるのは慣れておるわ!」と、叫ぶと、背後に出現していた犀と獅子が融合したような幻獣が口を広げて左手を翳しているガンゾウに向かう。


 ガンゾウは着地後、


「無駄だ――」


 と言いながら身を捻る。

 魔杖槍を振り上げて、幻獣を両断――。

 魔杖槍の穂先から魔力の刃が伸びていた。そのまま魔杖槍を振り下げる。

 銀杏穂槍から出ている魔刃がバクイル師匠の魔杖槍穂先を弾き、そのまま頭部を両断し、右の肩も切断していた。

 

 ピコーン※<杖楽昇堕閃>スキル獲得※

 

 やった、俺もスキルを獲得できた。

 連続的に薙ぎ払いを行うスキルか。

 槍系の武器なら普遍的に使えると即座に理解できた。

 体を独楽のように回し斬る行動が可能な<双豪閃>とは少し違う。

 風槍流『顎砕き』に近いか。


 ふとアキレス師匠の後ろ姿を思い出した。

 ――ガンゾウ師匠と呼ぶべきか。

 ラ・ケラーダの想いを胸に抱く。


 ガンゾウはバクイル師匠が持っていた牢屋の鍵を使い、八眼魔族たちを助けていた。八眼魔族のベルアンさんはガンゾウに抱きついていた。


 ガンゾウも満更ではない顔となっていた。

 

 〝魔犀花流槍魔仙神譜〟でガンゾウの過去の一部が分かるとは……魔神ガンゾウが、まだガンゾウだった頃の話、次の頁もたぶん、続きのはず――。

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