九百十五話 魔界王子ライランの勢力との戦いと、勝利

 <導想魔手>を利用して低空を飛びながら――。

 右奥の鬼魔砦から出撃中の鬼魔人と仙妖魔の味方部隊が敵の魔肉ガガ部隊を次々と倒している姿が見えた。

 頼もしい思いを得ながら――前方の魔肉ガガ部隊を凝視。


 まだ距離が離れている。

 

 ――手斧と盾を持つ魔肉ガガが多い。

 ――両手にそれぞれ刃の形状が異なる手斧を持つ魔肉ガガもいる。

 ――メイスとハルバードを持つ魔肉ガガは強そうだ。

 

 まずは両手に手斧を持つ魔肉ガガを倒すとしよう。


 両手に手斧を握る魔肉ガガのスタイルは、一見するとバイキングのような戦士と似ているが――。

 

 あくまでもスタイル。

 魔肉ガガの見た目は、凶悪な魔界の怪物だ。


 肉厚な皮膚の表面には……。

 大量のふじつぼのようなモノがうじゃうじゃと生えており、そのイボからグロい液体と胞子を放出させている。


 臭そうだし、近付くのは躊躇するレベルだ。が、倒すために近付く。

 足下に生成し直した<導想魔手>を再び蹴って低空飛行で前方へと跳んだ。


「シュウヤ様、付いていきますぞ!」

「ブルルゥゥ」


 ド・ラグネスを乗せたマバペインも凄い。

 俺は<血液加速ブラッディアクセル>と強めた<闘気玄装>を実行中でかなり速度を出しているが、背後のド・ラグネスはちゃんと付いてきた。

 ド・ラグネスが騎乗するマバペインが優秀だからか。

 そのド・ラグネスも魔界騎士の実力を鬼魔砦の鬼魔人&仙妖魔の皆にアピールしたいと思うが、俺も俺の仕事をする――。

 低空を跳びながら――<血道第一・開門>を意識。

 全身から発生させた血を周囲に散らす。


 続けて、


 ――<滔天神働術>。

 ――<霊仙酒槍術>。

 ――<怪蟲槍武術の心得>。


 恒久スキルを意識。

 スキルを発動。

 俺の周囲半径数メートルが瞬く間に血の霧と化した。

 

 その<血魔力>に酒の匂いが混じる。


 四神と四神柱に様々な神界セウロスの事象が絡む大豊御酒を盛大に体内に取り込んだからな。


 その大豊御酒と四神の効果を得ている<血魔力>が天地の重力が逆さまとなったように一斉に浮き上がりつつ俺に付いてくる。


「――おぉぉ、血霧のマントでしょうか!!」


 背後のド・ラグネスがそう聞いてくる。


「いきなりですまん!」

「大丈夫です!」


 <滔天神働術>と<霊仙酒槍術>の不思議な効果を得た血の機動だが、構わず足下の<導想魔手>を消し、自然落下する両足付近の<血魔力>をコントロールした。

 血を利用しつつ地面スレスレをローラーブレードで進む気分で滑りながら前進を続けた――まだ少し魔肉ガガ部隊と距離がある。


 白蛇竜小神ゲン様の指貫グローブを短槍へ変化させた。

 その白蛇竜小神ゲン様の短槍の柄を右手でしっかりと握る。

 同時に無名無礼の魔槍を握る左手の握力を強めた。


 体を前に向けたまま<水月血闘法>を発動――。

 足先に新たな推進力を得て加速が強まった。

 中距離から<仙玄樹・紅霞月>による攻撃はしない。

 前進を続けて、魔肉ガガ部隊との間合いを詰めた。槍圏内に入った直後――。


 左腕が吹っ飛ぶ勢いで無名無礼の魔槍を振るう――。

 <龍豪閃>を繰り出した。穂先が魔肉ガガの手斧を握る太い腕を捕らえ、斬る――。

 そのまま龍が咆哮を発したような音を立てた蜻蛉切と似た穂先は、肉厚な魔肉ガガの体をも斜めに両断――二つに分かれた魔肉ガガだった肉塊は左右に吹き飛んだ。

 二つの肉塊は――他の魔肉ガガたちと衝突。


「――グァァ」

「――ヌアァ」


 衝突した魔肉ガガたちは、死肉の重さと衝撃をもろに受けて胴体が潰れつつ吹き飛んだ。

 魔肉ガガの戦列の一部が崩れた。が、まだ戦列を崩さない魔肉ガガ部隊が存在した。

 その奥には攻城兵器がある。攻城兵器を守る鹿の魔獣に乗る部隊が見えた。

 すると、その攻城兵器の天辺が光る。俺に気付いたか。

 蒼色の太い魔力の矢が飛来してきた。

 レーザービームって印象を受けながら――素早く<魔闘術の仙極>を意識。

 <仙魔・暈繝飛動うんげんひどう>を発動。

 更に<仙魔・桂馬歩法>を実行。

 ――魔力の太い矢を避けた。報告にあった魔将カサメラの隊を倒した存在か?

 少し速度を落とす。後方のド・ラグネスが、


「――シュウヤ様、攻城兵器にいる射手は優秀な指揮官の可能性も! 下にいる魔獣部隊の魔獣は、鹿戦魔獣ドンササです」


 と教えてくれたが、すぐに太い魔矢が飛来。俺は右に避けながら、


「――了解、指揮官ではなく遊撃の名手が潜んでいる可能性もある――」

「はい――」


 太い魔力の矢は、俺たちの間を抜けて、地面に突き刺さる。

 矢が刺さった地面が陥没していた。


 構わず前進――戦列を保つ優秀な魔肉ガガ部隊を倒すとしよう。


 右足で地面を蹴って左斜め前方に跳躍――。

 地面に着地した後、左足の踏み込みから――。

 半身の体勢へと移行する爪先半回転を実行、爪先を軸に体を横回転させながら<双豪閃>を繰り出す。


 ――旋風を巻き起こす白蛇竜小神ゲン様の短槍と無名無礼の魔槍。

 神槍と魔槍の穂先が三体の魔肉ガガを抉るように薙ぎ払った。


 更に、白蛇竜小神ゲン様の短槍を指貫グローブに戻す。


 その指貫グローブを装着した右手を斜め前に掲げた。


 そして、右側の魔肉ガガ部隊に向け――。


 <超能力精神サイキックマインド>を繰り出す。


 右側の魔肉ガガの数体を衝撃波タイプの<超能力精神サイキックマインド>で吹き飛ばすことに成功。


 休むことなく左側へと体を向ける。

 左の魔肉ガガ部隊を正面に捉えた。


 ――一礼するように押スの挨拶。


 そして、前傾姿勢の魔闘脚で迅速に駆けた。

 走りながら無名無礼の魔槍の穂先を魔肉ガガに向けた。


 続けて、指貫グローブから変化させた白蛇竜小神ゲン様の短槍へと魔力を込めてから、地面を蹴って跳躍。

 魔肉ガガ部隊の先頭へと宙空から近付く。

 

 斜め下の魔肉ガガの頭部目掛けて――。

 左腕で貫手を繰り出すイメージで無名無礼の魔槍の<刺突>を繰り出した。

 蜻蛉切と似た穂先が魔肉ガガの頭部を穿つ――。

 着地際に、無名無礼の魔槍を握る左腕を下げた。

 同時に右手が握る白蛇竜小神ゲン様の短槍を<投擲>――。

 頭部を失った魔肉ガガが前のめりに倒れゆくのと同時に分厚い胸板を蜻蛉切と似た穂先が切断、その間にも、宙を直進する白蛇竜小神ゲン様の短槍が前方の魔肉ガガの体を貫いた。


 白蛇竜小神ゲン様の短槍は勢いが増す――。


 白蛇竜の幻影が見えるほどの魔力を散らすと、魔肉ガガの二体目と三体目を連続的に貫く。白蛇竜小神ゲン様の幻影効果で四体目の体も貫くかと思ったが――。


 四体目の魔肉ガガの肉厚ボディは貫けなかった。


 四体目の魔肉ガガは己の体に突き刺さる白蛇竜小神ゲン様の短槍を凝視しつつ、


「グェァ……」


 と黄緑色の血を吐いて動かなくなった。

 短槍の白銀模様の柄は黄緑色の血を蒸発させる。

 その光景を見ながら邪魔な魔肉ガガだった肉塊を横に蹴り飛ばしつつ――。

 無名無礼の魔槍を消し、重心を下げる槍の歩法を意識した前進から――。

 

 死んだ魔肉ガガの体に刺さったままの白蛇竜小神ゲン様の短槍を、右手で掴む。

 と同時に白蛇竜小神様の短槍を指貫グローブに戻す。

 そして、再び白蛇竜小神ゲン様の短槍に変化させた。

 

 すると、左右斜め前方の魔肉ガガたちが手斧を放ってきやがった。

 俺に迫る<投擲>された手斧との距離を一瞬で把握しつつ、<龍神・魔力纏>を実行。


 同時に無名無礼の魔槍の石突で地面を突く。

 龍神の魔力を得ながら体を浮かせた。

 迫る無数の手斧を宙で避けた。

 続けて、右手が握る白蛇竜小神ゲン様の短槍を盾代わりに回転させながら手斧を弾く。


 と同時に<導想魔手>を足下に生成――。

 その<導想魔手>を蹴って右斜め前方の宙空へと跳ぶ。


 <導想魔手>を消しては直ぐに再生成を繰り返しつつ、その<導想魔手>を連続的に蹴って宙空を横斜め前方に駆けて、旋回機動をとって方向転換――。


 無名無礼の魔槍を左手に召喚。

 宙空から手斧を<投擲>してきた魔肉ガガ部隊を凝視した。


 魔肉ガガ連中は小さい頭部だが、肉厚ボディが密集している姿は気色悪い。


 再び足下に生成した<導想魔手>を蹴った。


 宙空を飛ぶように移動――。

 気色悪いが倒す。


 魔肉ガガ部隊が密集している場所に向かう。


 斜め下の魔肉ガガの連中と、距離にして約五十メートルと認識。


 その直後――。


 <戦神グンダルンの昂揚>を発動。


「おぉぉぉぉ――」


 急降下する勢いで吶喊――。


「「「グノゥゥ!!」」」

「グノ、バリオ!!」

「「グノ、バリオ!!」」


 ワケワカラン魔族語だが、たぶん俺に対しての言葉だろう。


 そんな連中に向けて――。

 宙空から無名無礼の魔槍を豪快に振るう<血龍仙閃>を発動――。

 無名無礼の魔槍の周囲に墨色と血の炎を擁した血龍の幻影が出現しながら、魔肉ガガ数十体を切断。

 

 その魔肉ガガ連中は血の龍に喰われたように体が欠損すると一瞬で炭化。

 その魔肉ガガたちがいた足下の地面が破裂、土煙が舞う。


 手斧を<投擲>してきた魔肉ガガ部隊を大きく減らしたが、角度が下すぎたか。


「――凄まじい一閃です!」

「――ブルルルゥ」


 斜め後方から魔界騎士ド・ラグネスとマバペインの声が聞こえた。


 ド・ラグネスは半身の姿勢で着地。


「グノゥゥ!!」

「グバァァァ!!」

「グノ、バリオ!!」

「ドググババァ――」


 ハルバード使いの魔肉ガガ連中が叫びながら近寄ってきた。


 優秀な射手は遊撃手で指揮官ではないようだな。

 

 ま、元々が寄せ集めか。

 その間合いを詰めてきたハルバード魔肉連隊の動きを凝視。


 そして、


「グノ、バリオ!!」


 と、ハルバードを持つ魔肉ガガに魔族言葉を放つ。


 すると、ハルバードを持つ魔肉ガガの二人が、


「「ギュババ・バグァ!?」」

「ギュババ・バグァァァ」


 と驚く魔肉ガガと変なコミュニケーションを行った。


「バッ、グノ! グバァァァ!!」


 とハルバード持ちの魔肉ガガのリーダー格が仲間たちを叱ると、前進しながら<刺突>のようなスキルを実行してきた。


 素早く爪先半回転を実行。


 左側に移動しながらハルバードの<刺突>を紙一重で避けた直後――右足で地面を噛むように踏み込む。

 丹田の魔力を全身に巡らせつつ腰を捻り出す。

 と同時に、左腕一本が無名無礼の魔槍と化すような<水穿>を繰り出した。

 輝く水が一瞬で無名無礼の魔槍を包む。

 

 ハルバード使いの魔肉ガガは素早くハルバードを引いて、そのハルバードの穂先を向けてきた。

 加速スキル持ちのハルバードを使う魔肉ガガか。


 だが、目映い<水穿>の穂先が、魔肉ガガの小さい指を切り刻みながら直進し、ハルバードの柄を削るや否や、蜻蛉切と似た穂先が魔肉ガガの肉厚ボディを穿った。


 槍のクロスカウンター。


 ハルバードの穂先が俺の脇腹を擦ったが、竜頭金属甲ハルホンクの防護服に傷はない。


「グェアァ――」

 

 胸を貫いた魔肉ガガの悲鳴が響く。

 続けて、左足の踏み込みから――。

 右手が握る白蛇竜小神様の短槍に魔力を込めた。

 そして、<攻燕赫穿>を発動――。

 赫く燕の火炎魔力が白蛇竜小神ゲン様の短槍の表面を行き交いつつも、その短槍の穂先が魔肉ガガの胴体に刺さり、ボッと音が鳴った刹那――。

 魔肉ガガの胴体から異音が轟くや胴体が膨らみ爆発。

 

 白蛇竜小神ゲン様の短槍の穂先から出た赫く燕は、戦神イシュルル様を模りながら飛翔し、後方の魔肉ガガ部隊と衝突するや大爆発を連鎖的に起こした。


 凄まじい威力の<攻燕赫穿>を喰らった魔肉ガガ部隊は燃える肉片となって散る。

 

 爆風で髪の毛がオールバック。


 戦神の神風の魔力を感じた。

 竜頭金属甲ハルホンクの防護服の形が少し変化。


「……ングゥゥィィ」


 竜頭金属甲ハルホンクは戦神イシュルル様の力を感じて萎縮したようだ。その気持ちは分かる。無名無礼の魔槍も振動、もとい、震動していた。


 周囲も一瞬だけ静かになった。


 凄まじい威力の<攻燕赫穿>だ。


 戦神イシュルル様の幻影はもう消えたが、白蛇竜小神ゲン様の短槍と戦神イシュルル様の相性は良いか。


 無名無礼の魔槍を少し引いて、左腕と左脇で挟むように無名無礼の魔槍を持ち直す。


 すると、攻城兵器から魔素を察知。


 射手が太い魔力の矢を射出してきた。

 素早く横にステップ――太い魔力の矢を避けた。

 太い魔力の矢には追尾性能はないようだが、威力はある。


 太い魔力の矢が刺さった地面はさっきと同じく陥没。

 鏃が特別? 喰らったら重力的な打撃が加わるようだ。

 

 再び太い魔力の矢が飛来――真横に移動して避けた。


 避けた際、太い魔力の矢が発していた風圧を感じた。


 すると、他の魔肉ガガ部隊が寄ってくる。


 そのせいで、攻城兵器を守る魔肉ガガ部隊がごっそり減った。


 一方で鹿戦魔獣ドンササの部隊はまだ動いていない。

 

 寄ってきた魔肉ガガ部隊の得物は手斧か。手斧を放ってきた。


 右腕の手首を上下に返す動きで白蛇竜小神ゲン様の短槍を回し、円状の盾を作るイメージの小型扇風機ってな具合で――飛来した手斧を弾きながら、左足を退いた。


 続けて無名無礼の魔槍も横に振るって、右足も退いた。


 半身の姿勢でダンスを踊るように後退。


 神槍と魔槍で防御しながら動きの質を変える爪先半回転――。


 右斜め後方へと移動しながら――。


 手斧を持ち手斧を<投擲>している魔肉ガガたちの動きと、掌握察で得られる魔素の動きを重ねた。


 魔肉ガガも他の魔族や生物と同じで、魔素の質は個体ごとに微妙に異なる。

 筋肉量、属性、血統にDNAやRNAの遺伝子情報が微妙に異なるんだろう。


 そう考えながら飛来した手斧をすべて弾いた。


 手斧を失った連中は阿呆か。


 武器を拾う魔肉ガガもいるが、一瞬で、その連中との間合いを潰す。


 右足の踏み込みから――。

 無名無礼の魔槍を握る左腕を前方に突き出す<刺突>を繰り出した。


 手前の魔肉ガガの胸元を突き抜ける蜻蛉切と似た穂先の<刺突>。


 その<刺突>でぶっ刺した肉厚ボディの魔肉ガガに蹴りを入れながら横回転機動の<豪閃>を発動。


 無名無礼の魔槍の穂先で、<刺突>で貫いた魔肉ガガの死体を真横にぶった斬る。


 刹那、三体の魔肉ガガが殴り掛かってきた。


 <双豪閃>を発動。

 三体の魔肉ガガの懐に潜る白蛇竜小神ゲン様の短槍と無名無礼の魔槍の穂先が、三体の肉厚ボディを両断――。


 回転終わりに右斜め前方にいる魔肉ガガ部隊へと向かう。


「グノゥ」

「グノバリオ!」

「ドググババァ――」


 <翻訳即是>が効かない魔肉ガガの肉厚ボディに――。

 <光穿>の白蛇竜小神ゲン様の短槍をぶち込む。


 貫いた穂先が魔肉ガガの胸を溶かしていく。

 <光穿>の影響で傷が円状に拡がりつつ、魔肉ガガの体が光を帯びながら溶けていった。 

 その光を消し飛ばす勢いで前進。

 神槍と魔槍を握る両腕を上げながら地面を蹴って跳躍――。

 やや海老反りに近い体勢から神槍と魔槍を振り下げる<双豪閃>を実行――魔肉ガガの体を縦機動の神槍と魔槍の矛が両断せしめた。


 一回転から着地後。


 神槍と魔槍の柄を脇に抱えるように引きながら前進――。

 

 残りの魔肉ガガ部隊目掛けて――。

 <水雅・魔連穿>を繰り出した。

 連続した突き技で魔肉ガガの頭部を確実に消し飛ばしていく。


 魔肉ガガを各個撃破。

 更に、竜頭金属甲ハルホンクを意識。


 一瞬で鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を装備。


 無名無礼の魔槍を活かすとしよう――。


 手斧と盾を持つ慎重な魔肉ガガ部隊に加速しながら近付いた。


 そして、右足の踏み込みから――左腕ごと無名無礼の魔槍を<血魔力>で覆いながら――。

 <刺突>のモーションを取りつつ<女帝衝城>を繰り出した。

 血と墨の炎が彩る蜻蛉切と似た穂先から、血の茨が絡む魔槍の群れが前方へと迸った。

 大小様々の血濡れた魔槍の群れが前方に茨道を作るように魔肉ガガ部隊を屠りまくる。


 一瞬で、その魔肉ガガ部隊を屠った。戦列は完全に崩壊。

 散兵となった。


 攻城兵器の最上階を見る。

 そこにはまだ射手がいた。


 コンパウンドボウで太い魔力の矢を放つ。

 その太い魔力の矢は右後方へと向かう。


 射手が狙うのは鬼魔人と仙妖魔の部隊か。

 それら仲間の部隊の先頭に立つのは独鈷コユリ。


 魔戦峰着コトノハを着た姿はカッコいい。

 長柄を振るい魔肉ガガを両断。

 

 独鈷コユリは長柄のリーチを活かすように、長柄を振り払い魔肉ガガ数体を一度に屠ると、跳躍。

 宙空から右側にいた魔肉ガガを蹴りで吹き飛ばして、着地するや否や<武王・禹羅槍衝破>らしき大技を使う。


 百人以上の魔肉ガガ部隊を倒していた。


 ――圧巻だ。

 

 そんな大技の後も前進。

 小麦色の霧魔力を纏いながら周囲に簪のような手裏剣を<投擲>しまくっている。

 その独鈷コユリが一人独走。

 すぐにエンビヤ、クレハ、ダンが前に出た。

 皆も迅速に動いて数十名の魔肉ガガ部隊を屠っていた。

 ザンクワとディエに魔刀ヘイバトとガマジハルの姿もあった。

 

 鬼魔・幻腕隊と鬼魔人と仙妖魔の部隊の強者たち。


 皆で魔肉ガガと魔肉巨人ドポキンアの残存兵力を各個撃破しつつ前進を続ける。

 

 ザンクワとディエに、ヘイバトとガマジハルたちは、魔肉ガガを寄せ付けない。強い。

 

 魔肉ガガ部隊は散り散りだ。

 

 すると「シュウヤ様、我がここで!」と発言しながらド・ラグネスが直進――「ブルルルゥ――」とド・ラグネスが騎乗するマバペインも荒い息だ。

 

 マバペインを初めて見た時は巨大な鹿系のモンスターに見えたが、もう巨大な可愛い鹿魔獣にしか見えない。


 ド・ラグネスは魔大剣を振るい魔肉ガガを屠る。

 と、返す魔大剣で、数体の魔肉ガガ部隊を斬り上げた。

 朱色の火炎を纏う魔大剣は強い。

 

 更にド・ラグネスは前進。鹿戦魔獣ドンササ数体を騎乗者ごと薙ぎ倒した。その直後、味方から、


「魔界騎士が敵を倒した!?」

「警戒! にげろおおぉ」

「ひけぇぇ」


 魔界騎士ド・ラグネスとマバペインの活躍に味方が動揺して追撃を止めた。


 敵側は、その僅かの間に、必死に逃走。

 最後尾の攻城兵器の近くで終結。

 鬼魔人傷場に逃げている魔肉ガガもいる。


 鹿戦魔獣ドンササに乗る魔獣部隊とバージエルの魔騎兵衆の一部と、魔肉巨人ドポキンアの生き残りは逃げない。

 

 攻城兵器の下に集まっていた。逃げればいいのに。

 魔界王子ライランに忠誠を誓っているのか?

 それとも鬼魔人&仙妖魔のように深い洗脳を受けている?

  


 しかし、攻城兵器も残りはあれだけだ。


 完全に俺たちの勝利だ。


 そして、前にいる魔肉巨人ドポキンアは攻城兵器の盾代わりか、勇気があるのか仁王立ち。


 その魔肉巨人ドポキンアの背後の攻城兵器は、他の攻城兵器と造形が異なった。


 形が厳つく、要塞のような見た目。

 遠距離攻撃の防御にも応用が可能なようで、中段の階段の踊り場に設置された水晶玉から、魔法防御用の膜のようなモノが周囲の宙空へと展開していた。


 すると、イゾルデを視認。


 凄まじい加速で魔肉巨人ドポキンアに近づく。

 武王龍槍の穂先を隠すようなモーションから、豪快な雷撃を合わせた斬り落としが魔肉巨人ドポキンアに決まる。


 魔肉巨人ドポキンアは体の一部を切断されると、幾重にも斬られていった。 


 イゾルデはその足で、俺の近くに寄ってきた。


「シュウヤ様! 魔界騎士のような存在が我らの味方となったのか!」

「おう。倒したら仲間になった」

「戦場で戦った相手を直ぐさま服従させるとは、凄すぎる……」

「上手く事が運んだ結果だ」

「うむ!」

「さて、イゾルデ、バージエルの騎兵部隊を見事倒したようだな。さすがだ、頼りになる」


 イゾルデは、頭部を震わせて、双眸が泳ぐと、


「……ふふ、うはは、当然だ!」


 と、照れを隠すような表情を浮かべていた。

 武王龍槍の石突で、地面を突く。

 そのイゾルデを見ながら、

 

「さて、あの攻城兵器と残党部隊だが、あ、最上階に射手もいる」

「射手は時折、我にも攻撃を寄越してきた。目と弓矢の技術が高い魔族だ」

「そうだな。今も味方に向けて太い魔力の矢を放っている。あれを止める、攻城兵器に乗り込むとしよう」

「承知」

「そして、仲間の魔界騎士の名はド・ラグネスだ。巨大な鹿モンスターの名はマバペイン。鬼魔人と仙妖魔たちに紹介予定だ」

「ド・ラグネスだな。了解した」

「先に乗り込むぞ――」

「我も向かう。手前の敵を倒そう!」


 イゾルデと共に突進。

 無名無礼の魔槍と白蛇竜小神ゲン様の短槍で残存した魔肉ガガを次々と倒していった。


 攻城兵器に近付くと、青白い閃光が発せられた。

 射手の攻撃だ。


 素早く左に加速して、青白い閃光を避けた。

 衝撃音が響いてきた。


 イゾルデも避ける。


 攻城兵器に向けて駆けながら跳躍――。

 

 宙空で足下に生成した<導想魔手>を蹴って、推進力を変化させながら攻城兵器の最上階にいる射手の魔族に近付いた。


 その射手の魔族が持つコンパウンドボウは蒼い光を発している。射手の魔族は魔力の矢を放ってきた。


 素早く<白炎仙手>を実行――。

 白炎の霧が煙幕代わり。


 が、ただの煙幕代わりではない。

 

 白炎の霧から白炎の貫手を前方に繰り出した。

 <白炎仙手>の無数の貫手が――蒼色の太い魔力の矢を相殺した。と感覚で理解した。


 そして、<導想魔手>を蹴って横へと移動――。

 宙空で<仙魔奇道の心得>を発動しながら<仙魔・桂馬歩法>を実行。


 額に魔力溜まりを感じながら――。

 再び足下に生成した<導想魔手>を蹴って斜め前方へと跳ぶ――そのまま白炎の霧を纏うように攻城兵器の最上階に乗り込んだ。


「速すぎる!」

 

 最上階の端にいる射手の魔族がコンパウンドボウから普通の矢を放つ――が、<白炎仙手>の貫手が、その矢を迎撃し矢が折れるのを見ながら<血液加速ブラッディアクセル>を強めた。


 床を蹴って射手の魔族との距離を詰める――。

 射手の魔族は加速スキルを用いたのか呼応。


「なっ!」

 

 と驚きの声を発して退きながら矢を一瞬で番(つが)えた。

 再び矢を放つ。

 ヴィーネ並みに番(つが)う速度が速い。

 その矢を<白炎仙手>で迎撃……はしない。


 代わりに無名無礼の魔槍の<光穿>を繰り出す。

 墨色の炎を灯す穂先が鏃の先端を両断しながら前進。


 驚天動地の射手の魔族に近付いた。

 射手は、美形な魔族。

 その射手の魔族の体から、ゆらりと幽体のようなモノが出るが、構わず槍圏内から――。

 右手の白蛇竜小神ゲン様の短槍で<血穿>を繰り出した。

 <血穿>の穂先は、幽体を難なく貫き――射手の魔族の腹を貫いた。


「――うげぇぇぇ」


 腹を貫かれた射手は吹き飛ぶ。

 攻城兵器の内壁に激突。


 腸のような内臓が腹から出た射手の魔族はコンパウンドボウと似た弓を落とした。項垂れるが、まだ息はある。

 近付いて、無名無礼の魔槍の穂先を、その射手の魔族に向けて、


「よう、降伏するなら命は奪わないが、どうする?」


 射手の魔族は震えた手を動かそうとする。

 が、動かせない。弓をチラッと見てから俺に視線を戻し、


「……降伏します」


 美形に似合うハスキーボイス。

 髪色は金色と蒼色が混じる。

 肌には鱗と小さい角のようなモノが生えているが、鬼魔人や人族に近く、耳の形はハーフエルフっぽい。

 手首と肘に掛けての射手専用の矢筒装備は、魔力の内包量が他と異なる。

 アイテムボックス的な装備でもある? 

 コンパウンドボウのような弓と連動して、矢を番う速度を上げているのだろうか。


 片腕だけの装備だが、見た目はかなり洒落ているし、優秀な装備品だろう。


「……了解。名は?」

「アラ。種族は蒼魔霊ハーベル」


 蒼魔霊ハーベルという種族か。

 四眼ではない。二眼で俺たち人族に近い。

 そして、当たり前だが、聞いたことがない。

 白蛇竜小神ゲン様の短槍を指貫グローブに変える。

 無名無礼の魔槍を消した。


「……」


 武器を消したことに驚くアラに、


「アラ。回復スキルはあるようだが、傷の治りが遅い。間に合わないか。ポーションや丸薬はあるか?」

「……はい。腰に……」


 手は動かないようだ。

 良く見たら背中には刃のようなモノが刺さっている?

 <血穿>で貫いた腹の穴は狭まり回復もしているようだが、脇と胸に肩などの出血量が多い。

 念のため、


「触るが良いな? 光属性が弱点とかあるか?」

「……はい。光属性はある程度なら平気です」

 

 アラの言葉に頷いた。

 アラの腰袋から丸薬が入った箱を取り出した。


「全部茶色か。これで良いんだな?」

「はい」

「じゃ、口を開けろ」

「……」


 アラは小さい口を開ける。

 そのアラの口に丸薬を含ませた。


「――ゴホゴホッ」

「おい」


 吐くように咳をした、喉に詰まらせたか。

 急いで<血魔力>を使い強引に血をアラに飲ませる。そして、丸薬を強引に飲ませていった。


 アラの唇から顎、首下が流れた俺の血を浴びて真っ赤になるが、アラの顔つきが良くなる。


 素早く、アラの血ごと、俺の血を吸い寄せた。

 腹の傷も消えた。

 背中と脇腹に見えていた血も当然消えている。

 アラは、


「……た、助かりました」

「おう」


 すると、背後から、


「「シュウヤ様!」」

「シュウヤ!」

「シュウヤ~」


 イゾルデと皆が攻城兵器の下に集結していた。

 魔界王子ライランの勢力の兵士を倒したか。


「「大勝利だぁぁぁ」」

「「「倒したぞぉ」」」

「「おおおおお」」

「「シュウヤ殿は天下無双!!」」

「「やったぁぁぁっ」」

「おら、魔界に帰れるだぁぁ」

「魔界王子ライランの勢力を打ち砕いた!!!」

「我らは無敵!」

「魔界セブドラに乗り込むぞ!!」


 味方の鬼魔人と仙妖魔たちが偉い騒ぎだ。

 更に、下から、


「シュウヤ様。敵の残存兵力はすべて倒しました。傷場から逃げた兵士もいます」


 と、大声で魔界騎士ド・ラグネスが報告。


「あ、あの方は魔界王子ライランが雇った……」

「おう、そうだ。一度倒したが、仲間になった」

「そ、それは……」

「本当だ。魔界王子ライランの魔魂の事前契約書を自ら斬っていたぞ。傍にいた骨人形リグラッドは殺した」

「……」

「シュウヤ、その魔族も仲間に?」

「よう、シュウヤ。凄まじい戦果だな」


 ダンに頷く。


「なんとかな。あとは白王院の白炎鏡の欠片のみ」

「あぁ。それより、鬼魔人傷場からの敵の援軍はどうなんだ?」

 

 ダンの指摘に全員が頷いた。

 そして、攻城兵器の下にいる魔界騎士ド・ラグネスや、壁際にいるアラを見る。


「下のド・ラグネスから魔界セブドラの戦局の話を聞いている。状況的にこの玄智の森への追加派兵は厳しいようだが、魔界セブドラの状況次第ってところか」

「なるほど」

「鬼魔人傷場から魔族共が来たら、我が倒す!」


 イゾルデなら任せられる。

 が、もし鬼魔人傷場から魔界王子ライランの勢力が再び来訪しても、鬼魔砦の勢力なら一時的なら防波堤になるはずだ。


 そのことは言わず、頷いてから、


「白炎鏡の欠片の入手を急ぐとして、まずは鬼魔砦のオオクワたちに、この降伏したアラとド・ラグネスを紹介する。一先ず下りようか」

「「「はい」」」

「了解」

「うむ」

「この攻城兵器は壊さず回収するのか?」


 ダンの言葉に頷く。


「鬼魔人たちのバンドアルなら、この攻城兵器も引っ張れるだろう。ま、魔将オオクワに土産として贈ろうか。魔界セブドラでも役に立つはずだ」

「それは良い案だな。しかし……」

「いいから、下りるぞ?」

「あぁ」


 先に下りるダン。

 アラに手を差し出し、


「立てるか?」

「はい……でも、わたし……」

「今の今まで敵だったからな。ま、殺される覚悟はしておいたほうが良い」

 

 俺がそう警告すると、体をビクッと震わせる。

 エンビヤも、


「そうですね。こうして話ができる魔族がいることが不思議で仕方がないですし……仙武人にはまだまだ受け入れがたいことかもしれない」

「あぁ」


 と返しながら、四本の指を前後させ『早く手を寄越せ』とアラにアピール。


「はい」


 アラの手を握り起き上がらせる。

 その手を離して、横に転がるコンパウンドボウを拾ってからアラに手渡した。


「ありがとうございます……本当にわたしを信用したのですね」

「当然だ。戦いは終わった。が、裏切ったら分かるだろう?」

「……は、はい」


 アラは怖がるが、ま、いまさらだ。

 すると、下から、


「シュウヤ、鬼魔人と仙妖魔の強者たちが、回収した武器類と首級に魔肉の手足などを捧げますとか言ってるが、どうすんだよ!」


 ダンの焦った声が面白い。


「魔将オオクワと副官ディエとザンクワに管理は任せよう」


 そして、笑顔を周囲にいる皆に向けて、


「さて、皆、下りようか」

「はい。あ、シュウヤ、勝利おめでとう!」

「おめでとうございます!」


 エンビヤとクレハの笑みを見て一気に癒やしを得た。


「あぁ、皆のお陰だよ」


 と言いながらラ・ケラーダの感謝を送る。

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