八百九十五話 仙迅剣サオトミと黒呪咒剣仙譜の交換

 イレアさんに仙迅剣サオトミを見せて、


「俺の名はシュウヤ。イレアさん、ご安心を。武王院の武双仙院師範のシガラさんは元気です」

「良かったぁ……」

「シガラ師範は妹さんに、この剣を見せたら任務への協力を得ることが可能になるかもしれないと仰っていた」

「だから仙迅剣サオトミを……納得です」


 数回頷くイレアさん。

 すると、エンビヤが、


「わたしの名はエンビヤ。シュウヤと同じ八部衆の一人。シュウヤのことはわたしが保証します」

「わたしの名はクレハ。武王院の武双仙院の筆頭院生です」

「同じく、ダン。武王院の霊魔仙院の筆頭院生だ」

「我はイゾルデ。シュウヤ様の大眷属である! そして、八部衆ではないがホウシン師匠の弟子となった!」


 イレアさんは笑顔満面。


「はい。皆さんのお陰で皆の命が救われました。風仙衆を代表してお礼を――。そして、ありがとうございます」

「「ありがとうございます!」」

「鋼仙衆のキイチという者です。我らもお礼を申し上げる。助けて頂きありがとうございます!」

「「ありがとうございます!!」」


 生き残った鋼仙衆の方々は十人ぐらいか。風仙衆はもう少し多い。


「武王院の八部衆として、皆さんを助けることができて良かった。しかしながら、風仙衆と鋼仙衆の皆さんはどうして鬼魔人やダンパンの集団と争いに? 追われていたようにも見えました」


 と聞いた。

 バンドアル魔獣戦車隊は明らかに追撃用だろう。


 武王院側の俺たちは、イレアさんを注視。


「〝黒呪咒剣仙譜〟を巡る争いです」


 〝黒呪咒剣仙譜〟……。

 秘伝書か、エンビヤを見る。

 頷いていた。

 

 〝黒呪咒剣仙譜〟のことを知っているようだ。


「その〝黒呪咒剣仙譜〟の名前からして、<黒呪強瞑>系統を学べる秘伝書と判断しました。その秘伝書を風仙衆が獲得して、今も逃げている最中なのですか?」


 とカソビの街の壁が見えた方向に視線を向けた。イレアさんは、


「秘術書でもあるようです。各仙境、カソビの街で暮らす仙武人たちも、〝黒呪咒剣仙譜〟を読めば自身の強化に繋がるので……『俺が! わたしが!』と……欲するがままにカソビの街は争いの坩堝と化しました。更にダンパンの手合いの者による院生狩り、別名、印章狩りが激しくなっていたことも重なりました」

「……納得しました。仙境同士も同盟や裏切りに争いを?」


 イレアさんは頷いて、


「武王院の仙影衆は味方です。しかしながら霊迅衆と白蓮衆は敵に回りました」


 ヒタゾウがいる白王院……。


「白王院と霊迅院が敵側とは、仙境同士も……仲が悪い」

「シュウヤ、カソビの街だからこその状況だ。武仙砦の補給物資供給は各仙境が合同で行っている街道が多い」

「それは聞いているが……」


 腑に落ちない。イレアさんは、


「味方の仙影衆は『〝黒呪咒剣仙譜〟を獲得した』とわざと大々的に噂を流して、わたしたちを街の外に逃がす囮役を買って出てくれました」


 へぇ。


「あ、だからわたしを……」

「エンビヤがカソビの街から出た理由と重なるのか?」


 エンビヤは頷いた。


「はい。カソビの街に入ったわたしは仙影衆、仙影衆・暗部と協力して情報収集を務めていた。しかし、ヒリュウさんや仙影衆のキンさんに『きな臭くなってきた。君は本拠である武王院に戻り八部衆と連携を強めるべきだ』と、武王院へ戻るように促されたのです」

「それは、俺と出会う少し前?」


 エンビヤは頷いた。


「はい。争いの多い街ではありますが、平和な面も多々あります」

「そのはずだ。ハジメ師匠のいる墨画伯通りと山雅偽風広場の周囲は、かなり平和なはず」


 ダンがそう発言。

 エンビヤとイレアさんは頷く。

 風仙衆と鋼仙衆の方々も頷いていた。

 

 すると、イゾルデが、


「シュウヤ様、その鬼魔人から重要なを聞き出すのだろう?」


 と促してきた。

 <土龍ノ探知札>があるからな。

 

 じれったいんだろう。

 イゾルデの唇を見ながら、胸に火が付いているだろうイゾルデを凝視。


「おう、少し待て」


 頷くイゾルデ。

 イレアさんは<導想魔手>で掴み続けているアオモギを見て、


「生かすようですね、その鬼魔人が素直に重要な情報を喋ると良いですが……」

「期待はしていない。喋らないのなら……」


 と言葉を濁す。

 エンビヤ、イゾルデ、クレハさん、ダンは頷いてくれた。

 対面の小柄のイレアさんはぶすっとして、


「……殺さないのですか?」

「分からないです」


 俺の気のない言葉を聞いたイレアさんは不機嫌になる。


「その鬼魔人は仲間の仇、〝黒呪咒剣仙譜〟を狙った首謀者……倒すべき存在……」


 鬼魔人への憎しみは深い。

 が、俺には別段恨みはない。


 ウサタカことヒタゾウのほうが、倒すべき相手だと認識している。


 この辺りは……。

 俺が闇の側面を持つ光魔ルシヴァルなこともあるか。


 魔界セブドラに領域を持つ俺だ。

 <魔界沸騎士長・召喚術>のスキルを獲得している。

 絆が深いゼメタスとアドモスは今も魔界セブドラで活躍しているはずだ。


 再び、アオモギを見て、


「首謀者……このアオモギは逃げようとした。その理由は鬼魔人の拠点がカソビの街や玄智の森のどこかにあるということに繋がります。その拠点に他の鬼魔人たちが集結しているか、または上役がいる可能性が高いです」

「……それでもです……」


 風仙衆と鋼仙衆の方々の恨みは強いか。

 殺気が衰えていない。


 アオモギから情報が得られなければこのまま引き渡すか?


 いや、感情で動いたらダメだ。

 

 イゾルデの<土龍ノ探知札>の魔線の反応は、アオモギに向いている魔線以外に……カソビの街方面などに沢山存在する……この魔線を一つ一つ追って鬼魔人を倒していくのは時間が掛かる。

 

 イゾルデが好む虱潰しは最終手段で良い。今は、このアオモギを活かすことが先決。情報は吐かないと思うが、泳がせることは可能。


 <無影歩>があるからそのほうが確実。そう考えていると……。


「現時点では、鬼魔人アオモギを渡すつもりはないです」


 と断言した。

 イレアさんは、ため息を吐く。


「……そうですよね。捕らえたのはシュウヤさんたち。命を救われた身としてはなにも言えません」


 そう喋ると、風仙衆と鋼仙衆の方々が、


「イレア、勝手に決めるな!」

「そうだ、仲間はその鬼魔人に殺されたんだぞ!」


 不満そうだ。


「俺は殺したい! 家族の仇を討ちたい」

「わたしもよ……目の前でわたしを助けた父さん……」

「弟のキミカドに友のキリガは矢を喰らった」

「キシダはバンドアルに喰われた……」

「ヤマフジは俺を守って死んだ……」

「許せない、ここで殺そう!」

「そうだ!」


 と風仙衆と鋼仙衆の方々は語気を荒らげる。戦いたくないが……。

 すると、イゾルデが、


「ほざくな! 雑魚が! 我も捕らえた鬼魔人を殺したいのだぞ!」

「「な!」」

「そもそもが弱いお前たちのためにシュウヤ様は無理をした! シュウヤ様は、お前たちを無視して鬼魔人たちを倒すことに集中することもできたはずなのだ!」


 イゾルデの言葉だ。

 風仙衆と鋼仙衆の方々は黙る。


「「……」」


 イゾルデは俺をチラッと見て、武王龍槍を振るい、魔力を体から放出。

 

 威圧感が半端ない。

 まさに、パネェ姐さんだ。


 そのイゾルデが、


「シュウヤ様のお陰で助かったのに、グチグチと文句をたれおって! 今から文句を言う奴は、その性根を我が入れかえてやろう!」


 イゾルデが武威を発した。

 が、あまり恐怖はない。


「「ヒィ」」

「すみません……申し訳ない」


 イレアさんが謝ってきた。

 気持ちは分かる、とは言わない。

 仲間を殺されたんだから当然の思い。が、それはそれ。


 イゾルデが既に語ったが……。

 風仙衆と鋼仙衆の方々が、今生きて会話ができているのは、俺たちが黒装束を着た敵をすべて倒したからだ。

 そのことは、皆も重に理解しているはず。


 頷いてから、


「風仙衆と鋼仙衆の方々には悪いが、こちらの案件を優先させてもらう」


 俺の言葉にイレアさんは頷いた。

 皆を見て目配せ。

 風仙衆と鋼仙衆の方々は渋々頷いていた。


 イゾルデは皆を見据えて、武王龍槍の柄頭で地面を突く。


 そして、


「――納得していない者、前に出ろ。我が相手をしてやろう」

「……」

「……文句はありません」

「うむ!」


 イゾルデは勝り顔。

 皆、沈黙。近くにいる風仙衆と鋼仙衆の方々の中には、地面に腰を付けて乙女座りをしている方や、拝む方もいる。


 さすがは元武王龍神様。

 ヘルメ的だ。イレアさんは頷いてから、アオモギを凝視、そして、

 

「……話を変えますが、鬼魔人は武仙砦をどうやって越えているのか……気になります」


 イレアさんは、俺たちが鬼魔人アオモギから情報を引き出すつもりなら、このことを聞いてくれと暗に示している? 少し頷いた。

 そして、


「……転移陣が鬼魔人傷場付近にある?」

「あ……」

「カソビの街、幻瞑森などの玄智の森の何処かに転移陣を備えた隠れ家があれば、そこから現れているだけでは?」

「……数の多さにも納得がいく」


 ダンがそう発言。


「たしかに、カソビの街で倒しても倒しても出現する鬼魔人たち……」

「鬼魔人傷場から武仙砦を攻めるための人材も捨て駒で済む……」


 と発言したのはクレハさん。

 皆、頷いていた。


「または単純に武仙砦に裏切り者がいる可能性もある」

「……両方可能性があります」


 両方……。

 その場合、武仙砦の人員によるマッチポンプの可能性もありえる?

 

 考えたくないが……。


 俺の知る地球も各国の政府によるマッチポンプ政策は多かった。

 製薬会社なども、水木しげるの 『心配屋』の漫画が有名だったな。ワクチンで帯状疱疹を促し、更に帯状疱疹予防のワクチンを売るシステムがあった。

 

 クソな連中が多いのが製薬会社だ。

 フライパンのPFOAの製造と使用をしていたデュポンと同じく、利益のために人命を疎かにする。

 昔のことを思い出して、怒りを覚えていると、


「裏切りなんて信じたくない……武仙砦は英雄たちの象徴なんですよ……シュウヤ……」


 エンビヤは悲しそうな表情を浮かべていた。

 責められた気分となったが、ウサタカことヒタゾウの裏切りを体験しているエンビヤだ……。

 友を目の前で殺されたエンビヤだからな、もう二度と体験したくないだろう。


 済まんと謝るように、


「エンビヤ、武仙砦の人員のすべてが裏切り者だと言っているわけではない。あくまでも一部。そして、保留の案件だ」

「はい」

「さすがに飛躍しすぎだと思うぞ?」

「あぁ、頭の片隅に、そういう話もあると覚えておくだけの話」

「ふむ」

「……異なる視点からの思考だ。何事も絶対はないと柔軟に思考しようとしているだけだ。だいたい考えるだけなら無料だぞ? 裏切りがないならないで、それで良かったという話だ」


 そう語り、皆に笑顔を送る。

 エンビヤは微笑。


 ダンも笑顔で、


「予測の一つに過ぎんってことだな」

「はい、極自然なこと。本当はシュウヤさんも皆のことを、仙武人を信じているはず」


 クレハさんの言葉に頷いた。

 そりゃ信じているさ、良心をな。


「おう。思考と実践は紙一重。仮説の予想を事前に組み立てておけば、自ずと動ける」


 言葉に表すのと思考とでは、また少し異なると思うが。


「……シュウヤの話を聞くと……武術の深遠が分かるような気がしてくる。納得できます。目から鱗が落ちる気分です」


 少し驚いた。

 あ、俺の<翻訳即是>が新約聖書の言葉として分かりやすく翻訳しただけか。


 そして、エンビヤは分かってくれたようだが、皆、それぞれに神妙な顔付きだ。


 イレアさんたちに、


「少し余計に語りましたが、アオモギを捕らえたのは、任務のついで。俺たちの目的に繋がる情報源の一つとして利用できると踏んだからです」


 イレアさんは頷く。

 アオモギを凝視しつつ、


「諜報を超えた八部衆としての作戦があるのですね」


 俺はイゾルデをチラッと見てから、イレアさんに、


「玄智の森に関わる」


 と答えた。


「え、それは重大な任務です……あ、【玄智仙境会】で話し合いが行われたことにも通じている?」


 玄樹の珠智鐘、冥々ノ享禄、白炎鏡の欠片の三つのアイテムを集めて鬼魔人傷場で使用することは、まだ正確に現場に伝わっていないのか。


 事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!


 なんて台詞は覚えているが。


 気を失っている鬼魔人アオモギがいるからあまり、


「詳しいことは、ここでは」


 チラッと<導想魔手>が握るアオモギを見る。イレアさんは俺の視線の意味に気付いた。


 頷いて、


「そうですね。……そして、今の戦いぶりと語り口から、シュウヤさんたちの小隊が精鋭中の精鋭だと分かります」

「ふふ、シュウヤは武術以外でも色々と知っているのです!」


 エンビヤが嬉しそうに語る。

 可愛い。


 イゾルデもニコニコしているが、直ぐに勝り顔となる。

 と、鬼魔人アオモギを凝視していた。更に、小型の龍のカチューシャを出してその鬼魔人アオモギの匂いを嗅がせていた。


 龍の鼻の鼻孔が拡がり、窄む。

 クンクンと動く。

 その鼻の孔の動きを見て、黒猫ロロの可愛い小鼻の動きを思い出す……会いたい。


 すると、そのカチューシャの札の魔力の一部をアオモギの額に付けていた。


 お? 

 札の魔力の一部がアオモギに乗り移ったようだ。追跡用? 洗脳用?


 イゾルデは唇に人差し指を当てる。

 今は黙っとけ?

 

 頷いた。


 エンビヤは直ぐに察した。

 

 クレハさんとダンに目配せ。


 二人は『?』の疑問符を浮かべていたが、イゾルデとカチューシャに<導想魔手>が握っているアオモギの顔を見て納得。


 イレアさんも気付いていると思うが、何も言わず、

 

「シュウヤさん、わたしたちは一旦、玄智の森の拠点、【森崩アズチ】に戻ります」

「はい。その前に一つお願いがあります」

「え?」

「〝黒呪咒剣仙譜〟がほしいのです」

「「えぇ!?」」

「驚きましたが、わたしは構いません!」


 とイレアさんは宣言するように語る。


 ざわざわと騒ぐ皆を見て、


「――皆、命を救われた礼として武王院の八部衆のシュウヤさんに、この〝黒呪咒剣仙譜〟を渡します。良いですね?」


 少し間が空く。

 さすがに犠牲があっての今がある。

 無理かな。

 すると、鋼仙衆のキイチさんが、


「……鋼仙衆を代表するわけではないが、構わない! カソビの街では武王院の仙影衆にさんざん命を救われてきた。そして、ここでも武王院に救われたんだからな」

「「はい」」

「ここで拒否したら、ヒリュウさんに顔向けができない!」

「たしかに。ってお前、鬼魔人を殺せとか言ってたくせに」

「トシ、流れだ」

「はは、なにが流れだよ、たくっ」

「ふふ」

「はは」

「皆も納得したぞ。そして、風王院の学院長エダジマ様も納得してくださるだろう」

「はい! わたしも賛成です」

「俺もだ……しかし、イゾルデ様に渡すべきだと思う……」


 風仙衆の剣士の言葉だ。若く端正な顔立ちで、頬が真っ赤。


 彼はイゾルデに惚れたか。


 たびたび揺れる巨乳をチラチラと見ている。


 スタイル抜群でもあるイゾルデは巨乳を縦に揺らすように腕を振るって、


「――あ? なぜ我なのだ! その呪いなんたらは魔界の物だろうが! 読むなら我よりもシュウヤ様であろう!」


 と叫んで睨む。

 彼女らしい当然の反応だ。


「ひぃ、そ、そうですね!」

「うむ!」

「「ふふ」」


 エンビヤとクレハさんは笑う。


 イレアさんも笑顔のまま頷き――。

 

 懐から〝黒呪咒剣仙譜〟を取り出していた。


「では、シュウヤさんに託します。読んで強くなるのでしょうか」


 〝黒呪咒剣仙譜〟を受け取った。


「――これを読むかは分からない。読んだら朽ちて消えるのか?」

「? それはないと思います」


 へぇ。今までとは少し異なるのか。

 〝黒呪咒剣仙譜〟を振りつつ、


「了解した。利用・・させてもらうとしよう」


 俺の言葉のニュアンスを聞いたイレアさんは鬼魔人アオモギをチラッと見てから、ニコッと笑顔を見せる。


「……なるほど。良い結果が得られると良いですね」


 そう語る。

 俺の複数浮かんだ作戦を幾つか察したか。

 だとしたら結構イレアさんは頭が切れる。

 もしかしたらイレアさんは、風仙衆の選抜部隊かもしれないな。

 

 仙影衆・暗部のように。兄は武王院最強の武双仙院師範だ。

 その兄のシガラさんと顔の一部が似ているイレアさんに、


「〝黒呪咒剣仙譜〟のお返しということではないが、これを返そう――」


 仙迅剣サオトミを差し出した。

 鈴が鳴る短剣の柄を手渡した。

 

「あ、はい。ふふ、懐かしい――」


 仙迅剣サオトミを受け取ったイレアさんは柄に魔力を通す。

 短剣の剣身から黄金色の魔刃が伸びた。

 かなりカッコいい武器だ。

 イレアさんは手首を回して掌の中でその仙迅剣サオトミを回転させていた。

 

 扱いに熟れている感がある。


「もしかして、愛用していた?」

「はい……兄と別れる時まで使っていました。まさか戻ってくるとは」


 兄と妹か。

 ノラキ師兄とシガラ師範の言葉を思い出す。武仙砦の近辺で、シガラさんとイレアさんは家族を失ったか。

 もしくは、互いに離れざるをえない状況があったんだろう。


「お兄さんに会いにいかないのですか?」

「いつかは会いに……でも今は互いに立場がありますから」

「そうですか」


 頷くイレアさん。

 

「はい。では、シュウヤさんたち、ありがとうございました! また会いたいです! 最後に、この詩歌を贈ります――」


 イレアさんは仙迅剣サオトミを胸元に掲げた。

 同時に喉に魔力が集まる。その喉と仙迅剣サオトミの柄頭が魔線で繋がった。

 

『玄智の森をつくりたもうた神々に願う』

『我ら風と仙の影の者を救った英雄の誕生に祝福あれと』

『心に陽を齎せてくれた強き者に幸あれ』


 詩歌を終えると、仙迅剣サオトミを仕舞う。

 イレアさんの心情が籠もった……歌声だった。

 

「ふふ、それでは――」

「はい、また――」

「イゾルデ様、さようなら!」

「皆様、ありがとうございました!」


 と、風仙衆と鋼仙衆の方々はカソビの街の反対側に去っていった。

 

 さて、鬼魔人アオモギを起こすとして、少し林に入るか――。


「皆、そこの林でアオモギを起こすとしようか」

「承知! 〝黒呪咒剣仙譜〟は読まないのか?」

「<黒呪強瞑>が覚えられるかもしれないし、読むかもだ。更にアオモギの餌にしようかと考えていた。で、先のカチューシャは……」

「念のためだ。では〝黒呪咒剣仙譜〟を読みながら林に行こう! そこでそいつを起こそうか!」

 

 と言ったイゾルデ。

 頷いた。

 皆で土の道から右の林へ向かう。

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