八百四十五話 談笑とペレランドラの処女刃

 

「分かった~。でも、皆とシュウヤ兄ちゃんの顔が見られて嬉しいな!」

「俺もだ」


 シウは片手に人形を持っていた。

 造りかけの槍を持った男の木像だ。

 すると、


「「――総長!」」

「盟主がお帰りだ!」


 トロコンと【天凛の月】の衣装が渋い若い兵士たちが集結。

 その【天凛の月】の兵士たちの勢いにクレイン、ドロシー、リツさん、ナミさん、ペレランドラが遠慮するように横へと移動。

 男女半々の【天凛の月】の兵士たちは、


「キサラさんとヴィーネさんも一緒だ!」

「「おぉぉ」」

「ということは、エヴァさんとレベッカさんもお帰りか!」

「ユイさんがいねぇぞ」

「「我らのユイ様がぁ」」

「総長の大事な彼女さんたちに向かって、無礼よ!」

「そうよそうよ!」


 がやがやと騒がしい。

 片膝で床を突いた兵士たち。

 キサラとヴィーネに忠誠を誓うような姿勢だ。

 その気持ちは分かる。

 俺もキサラとヴィーネへのおっぱい忠誠度は極めて高い。

 ユイも慕われている。


 キサラとヴィーネは兵士たちの勢いある

 姿勢に面喰らったように笑みを見せる。


 キサラはメル、ユイ、レベッカ、エヴァと【天凛の月】のセナアプア支部で活躍していたからな。

人気が高いのは理解できる。


 が、ヴィーネも人気が高いのか。


 そのヴィーネは<光魔ノ蝶徒>のシェイル治療のための東の旅に同行していたし【天凛の月】のセナアプア支部での活動期間は短いはずだ。

 ま、ダークエルフで珍しいし、美人さんだから注目を浴びるか。


 その皆に、


「【天凛の月】の皆、ご苦労さん。そして、トロコンも」

「おぉ、盟主から直々の言葉を頂いたぞ!」

「「嬉しい」」


 鼬獣人グリリのトロコンもよくやってくれている。

 胸に手で印を造りラ・ケラーダを送った。


 トロコンは「え! わ、わたしに!?」と驚いていた。

 ペグワースと会話中だったが、途中で止めて会釈してくる。


 そのトロコンが、一歩、二歩、前に出て、「盟主――」と拱手の挨拶。

 俺もラ・ケラーダを拱手に変えつつ、頭を下げた。


 そして、


「トロコン、諸々の活動に感謝する。ポーションはいるか?」

「あ、盟主……」


 恐縮したトロコンの姿は可愛いかも知れない。

 アイテムボックスから取り出した十個の中級回復ポーションを皮布で纏めて、それをトロコンにプレゼント――。

 トロコンはポーションを持つ手元が震えた。

 が、すぐハッとした表情を浮かべて、


「あ、ありがとうございます!!」


 ポーションを慌てて仕舞う。仕種が微笑ましい。一瞬、種族は違うが、同じ剣士スタイルのサザーを想起する。

 トロコンは鼬獣人グリリ。少し首が長い獣人さんだ。


「直に褒美を! トロコンが羨ましい!」

「わたしも仕事をがんばろう」

「あぁ、そのがんばれる仕事をくれて感謝だ!」

「盟主様とお近づきのチャンス!」


 【天凜の月】の兵士たちの笑顔を見て嬉しくなった。


 皆、気合いが溢れた。

 ――一顰一笑いっぴんいっしょう


 トロコンは、そんな気合いと笑顔が混成した皆を厳しい表情で見据えて、


「お前たち、総長は幹部たちと大事な話があるようだ。右に整列!」

「「はい!」」

「「では、盟主!」」


 と言いながらバルコニーの横に移動。

 【魔金細工組合ペグワース】の方々も一緒に横に移動していく。


 シウは人差し指を口に咥えたまま残った。

 ペグワースは、


「シュウヤ、後ほど『すべての戦神たち』のことで話がある」

「像の設置場所か」

「おう。場所はもう目星をつけた。が、ペレランドラたちや眷属化のほうを優先してくれていい」

「了解した。ペグワース、後で」

「おうよ!」


 そのペグワースと【天凛の月】の兵士たちを見ながら処女刃を出す。

 シウが「あっ」と声を発して、片手を上げる。


「環?」


 頷いて、


「処女刃だ」

「しょじょ刃! それで血文字が可能になる!」


 元気な発言で可愛らしい。

 シウに頷いた。

 シウはヴィーネとキサラを見て、


「ヴィーネお姉ちゃんとキサラお姉ちゃんも、マージュと一緒に、しょじょ刃ってのをやるの?」


 二人はシウに対して優しく微笑む。

 魅惑的なお姉さんとしての対応だ。


 キサラは額のルシヴァルの魁石が強く輝いた。


「わたしたちは、使ったことがあるから使わないのだ」

「わたしも前に使いました」

「そっかぁ、分かった。お姉ちゃんたち、またあとでね!」

「あ、わたしも、シュウヤ様、お母様を頼みます」


 シウとドロシーはペグワースたちの下に小走りで移動。

 すると、クレインが、


「処女刃。わたしも眷属となれば……」

「クレイン、その眷属化についてだが、ペレランドラの処女刃の儀式が済み次第、クレインを眷属に誘いたい。どうだろう」

「おぉ! いいのかい。ルマルディがいると聞いているが」

「いい。今は、ちょうどいいタイミングでもある」

「分かった! わたしも【魔塔アッセルバインド】の傭兵に過ぎない。が、惚れた男の言葉だ。素直に心が奮える……そして、<筆頭従者長選ばれし眷属>を希望しよう」


 クレインは嬉しそうに胸元に手を当てていた。


「了解」

「エヴァに報告したいが、まだ上か」

「浮遊岩で降りてくるとは思うが、相棒たちがいるから無理かもな」

「ふふ、エヴァと神獣様は仲がいいからねぇ」


 すると、ペレランドラが、


「シュウヤ様、クレインも同じ家族になるのですね。クレインはわたしを守ってくれた偉大な傭兵ですから、凄く嬉しいです」


 そう発言すると、クレインは照れた表情で頬を指で掻く。

 その様子を見てから、ペレランドラに、


「商会たちとの会合などの合間に襲撃はあったか」

「はい、『喧嘩は降り物』と言いますが……会合帰りの【血銀昆虫の街】を通る際に数度。示し合わせたような襲撃でしたが、クレインさんが大活躍。金死銀死の異名通り、本当に凄い」


 クレインは照れてそっぽを向く。

 その横顔は愛しさに溢れている。

 するとペレランドラが、


「それでシュウヤさん! 処女刃を用いた血の儀式はどこで行うのでしょうか」


 ペレランドラの声が高まる。

 少し妬いた?


 その処女刃の儀式は、さすがにここでは行わない。


「バルコニーでは、さすがに皆の目があるから、中層の部屋でやろう」


 ペレランドラは安心したような表情で頷いて、バルコニーの拱門から覗く踊り場の大広間を見る。


「了解しました。魔女っ子の案内板が可愛い浮遊岩が並ぶ踊り場も広いですね」

「おう。その踊り場を迂回して、通路を進む。通路の左右にある部屋は無数にあるが、中層の部屋はまだあまり探索していない。上下左右に移動できる浮遊岩と直で繋がる特別な部屋もあるようだから、調べながらとなる」

「はい」


 俺とペレランドラの様子を微笑ましく見ているクレイン、リツさん、ナミさん。

 娘のドロシーはペグワースたちと一緒だ。


 クレインは上を向いて、


「エヴァが降りてこない」


 と発言。

 頷いてから、指で最上階を差しつつ、


「母性がある黒豹ロロディーヌは銀灰色の毛のメトを子供を扱うように後頭部を咥えていたし、アーレイとヒュレミもパレデスの鏡のあるペントハウス。きっと皆と合流して遊んでいるはず。そして、犬のシルバーフィタンアスと鹿のハウレッツもいる」

「……エヴァも動物好きだからねぇ」


 動物たちに囲まれたエヴァの姿を想像しながら話をした。

 クレインも同じような想像をしたような表情を浮かべてから、


「メトとシルバーフィタンアスとハウレッツの三匹は、魔造虎のように陶器のアクセサリーに戻せないのかい?」

「最初は石像だったから戻せるかも知れない。が、ずっと元気に動き回っているから無理かも知れないな」

「へぇ。で、そのメト、シルバーフィタンアス、ハウレッツが、異界の軍事貴族たちの名だね」

「そうだ」

「宝物庫の一件は、カットマギーとザフバンから聞いたが……あまり知らない様子だったんだ。宝物庫のお宝の件といい、気になっていた」


 異界の軍事貴族の銀灰猫メトたちとカットマギーたちは、挨拶を済ませている。

 しかし、あの時はザフバンたちも、宿屋&酒場の開業準備で忙しかった。


 だから、異界の軍事貴族について、ただの動物ぐらいにしか認識していない可能性がある。


「説明をしとくと、異界の軍事貴族は、商業魔塔ゲセラセラスに向かった際に一緒だったんだ。ロシアンブルーとそっくりな銀灰色の毛を持つ子猫の名前がメト。正式名はフル・メト。シベリアンハスキーと似た犬の名前がシルバーフィタンアス。レベッカとエヴァはシルバーちゃんとか言ってたな。略して、シルバと呼ぶのもいいかも知れない。カモシカと似たシカが、ハウレッツ。ミスティの羊皮紙が好みで、ミスティに懐いている。そんな三匹は普段は子猫、子犬、子鹿だ」


 と説明。

 そんな動物組は降りてこない。

 エヴァではなく、意外にオプティマスさんと動物たちは遊んでいる?


「エヴァと動物たちか……」


 弟子を思う師匠の姿か。


 ……アキレス師匠。

 少し頭部を振るって、


「で、話を変えて、庭園の横について浮いている戦船のことも伝えておく。通称、漆黒の悪魔。小型飛空戦船ラングバドルだ」

「あれがラングバドル級なのかい。通称の漆黒の悪魔も色合い的に似合うね。かなりカッコいい戦船だ。先端が細まって後部は船尾楼? 横にもドラゴンを彷彿とさせる翼がある」

「カボルと白銀のカードのことは聞きました」


 ペレランドラの言葉に頷いた。


「カボルと白銀のカードを手にしたシュウヤの判断は正解だねぇ」

「おう」

「こうなることを読んでいた?」

「まさか、たまたまだ」

「エヴァならなにか言うと思うが?」


 知らんぷり。


「まぁそういうことにしておこうか。選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランス様とやら」


 クレインも勘が鋭い。

 すると、聡明なヴィーネが、


「バベル卍聖櫃アークに付いて補足をよろしいでしょうか」

「頼む」


 秘書スタイルのヴィーネさん。

 心と眼差しでラ・ケラーダを送る。


 笑顔で応えたヴィーネ。

 チラッと小型飛空戦船ラングバドルを見て、


「では、バベル卍聖櫃アークの一つでもある小型飛空戦船ラングバドルを入手した際の説明を致します」

「頼むさね」


 クレインの言葉に頷いて会釈したヴィーネは、


「カボルの案内で魔力豪商オプティマスのすみか、商業魔塔ゲセラセラスの屋上に到着。その屋上は巨大な離発着場で、奥に魔造家マジックテントのキシオスキューブという名のクリスタルキューブがありました。その硝子張りの家に住んでいた魔力豪商オプティマス。そのキシオスキューブにご主人様とわたしたちが入り、魔力豪商オプティマスと会いました。そして、ご主人様は白銀のカードとカボルを魔力豪商オプティマスに返した。その礼として、魔力豪商オプティマスが用意したのが、バベル卍聖櫃アークの漆黒の机だったのです」

「……机とは驚きさね。石版、魔銃、戦船、小型飛空挺と、聖櫃アークにも色々あるんだねぇ」

「はい。わたしも最初は、卍に何の意味が? と驚きました。ですが、後々卍の意味を考察すると、『なるほど』と納得することが多かった。そして、カボルとオプティマスの言葉と魔力と共にご主人様に対して反応を示したのが、そのバベル卍聖櫃アークの漆黒の机だったのです……」

「その反応とは、そこからいきなり戦船が出現したのかい?」


 そのクレインの発言に、ヴィーネは微笑む。


「いえ、反応は卍の形の魔力が現れて漆黒の机に浸透。漆黒の机は卍の形になりつつ溶けたのです」

「溶けた? はぇ~、これまた不思議な聖櫃アークだ」


 そのタイミングでクレインは酒を飲む。


「はい。溶けずに残ったアイテムは色々とありました。魔力豪商オプティマスは、その残ったアイテムの中から四つ好きなアイテムを選べ。とご主人様に言いました。ご主人様は皆の意見を聞きつつ、小型飛空戦船ラングバドルのキー〝黄金のカード〟と〝精神感応繊維魔装甲〟と〝聖櫃アーク探知のコイン〟と〝小型飛空艇ゼルヴァ十機のカードキー〟を選択したのです」

「へぇ、四つもかい! それで漆黒の悪魔をゲットしたんだねぇ。にしても面白い話だよ。ほんと毎日毎日、シュウヤといると楽しそうだねぇ」

「ふふ、そうですね」

「魔力豪商オプティマスは中々の傑物の印象です」


 ペレランドラも関心を示す。

 続けて、キサラも俺に目配せ。

 その視線の意味は『わたしも説明をよろしいでしょうか』だろう。


 勿論、頷いた。

 キサラは微笑んでから、


「はい。ミホザの遺跡から回収した、そのバベル卍聖櫃アークシステムとは、北方などで聞いたことのある岩巨人マウントジャイアント秘宝アーティファクトと関係があるようなニュアンスでした」

「ロロリッザ王国の北は知っている。ゴブリンと巨人系のモンスターの流入が激しく、それらモンスターとの戦は年々激しくなっているようだった。が、北のことは聞いていることと違うこともあるようだな。六眼キスマリはゴブリンと人族が平和に暮らしていた地方で暮らしていたようだった」


 北を知るヴィーネが語る。

 地下深くのダウメザランから地上に追放され、その場所は遠い北方。

 そんな未知の地上に出ながらも、言語を学びつつ、こうして南マハハイム地方に辿りついたヴィーネ。


 本当に凄い女性だ。

 しかも、あの宗教都市ヘスリファートの領域を……。

 ダークエルフが突破するとか、何気に偉業だろう。


 キサラはヴィーネに向けて頷いた。

 そして、


「魔力豪商オプティマスとカボルに〝創造岩塔ノ魔導傭兵〟を装備していたレザアルは、バベル卍聖櫃アークの漆黒の机が溶ける際、どことなくわたしたちのことを見定めていた。と、今なら分かります」


 あの時か。


 少し前にオプティマスさんは、


『はい。溶けずに残った聖櫃アークの品も、シュウヤさんだからこそ残った品。バベル卍聖櫃アークが相応しいと認めた者だけに残す聖櫃アークなのです。わたしも、普通のラングバドルなら分かりますが、漆黒の悪魔の小型飛空戦船ラングバドルの黄金のカードキーが、ここに現れるとは思わなかった……』


 と発言していた。

 漆黒の机の聖櫃アークが溶けるってのも普通ではないからな。


 クレインは、ヴィーネに、


「創造岩塔ノ魔導傭兵にレザアル?」


 と聞いた。


「はい。魔力豪商オプティマスの優秀な部下です。クルーの一人。岩魔導傭兵という名の生きた魔法生命体を従えています。岩魔導傭兵はゼクスなどの魔導人形ウォーガノフとも違う、魔法の魔機械の種族。高度な知性を有しているので驚くと思います」

「魔機械の種族かい、それはけったいだねぇ。が、面白そうだ。強いんだろう」

「強いと思う。重い小型飛空艇ゼルヴァを抱えて運んでいた」

「ひゅぅ~」


 と口笛を吹くクレイン。


「バベル卍聖櫃アークの話に戻しますが、オプティマスは、バベル卍聖櫃アークの漆黒の机が溶けて残ったアイテム類を見て驚いていました。それは予想していなかったということ」

「そうですね。回収していたラングバドル級の戦船がいきなり動き出すとは思っていなかった反応でした」


 キサラとヴィーネの言葉に頷いた。


 あの時、キシオスキューブ内に響いたサイレンと、部下たちの反応にも納得だ。

 屋上の甲板と上層の格納庫リフトシステムが途中で止まった際に、オプティマスさんは部下を叱っていた。


『これは訓練ではない。バベル卍聖櫃アークが反応した』


 と、語気を荒くしていたオプティマスさんは、少し怖かった。


 ヴィーネは、


「そして、部下に対して『歴史が動いた』と発言していた。ですから、過去に小型飛空戦船ラングバドル、漆黒の悪魔を回収していた経緯といい、キスマリの話ともかぶりますが、バベル卍聖櫃アークに関することで、ご主人様に期待する何か・・が、彼らにはあるということでしょう」


 と、自らの予想を踏まえて語る。


 魔力豪商オプティマスさんが、俺に期待することか……。

 だから、大人しく俺たちに付いてきた?


 興味深そうに小型飛空戦船ラングバドルの飛行を楽しんでいたのにも何か、彼なりの理由があるんだろう。


 キサラとヴィーネの言葉を聞いて神妙な顔付きとなったクレインが、


「尚のこと不思議だ。セナアプアの豪商五指の魔力豪商オプティマス。セナアプアでそれなりに長く活動していたが、知らなかったさ」

「わたしもです」

「上院評議員ペレランドラが知らないんだ、相当なくせ者だねぇ。いや、シュウヤへの対応を聞くと意外にダイヤモンドの輝きを放つ傑物か」

「そのようですね」

「毒沼を余裕で泳ぐダイヤの肌を持つクロコダイル的な商人がいたんだねぇ」


 クロコダイル発言に、思わず笑う。

 種族ソサリーとは違うが、レプティリアンってか?


「城郭都市レフハーゲンの豪商五指の【ミリオン会】と【不滅タークマリア】の名なら知っていたんだが」

「【不滅タークマリア】。狂言教と繋がる組織などの他国の豪商を知っていて、セナアプアの豪商をあまり知らないわたしは……上院評議員として情けない」

「いやいや、上院評議員だろうと盗賊ギルドだろうと、すべてを知ることはできないさ。だいたい下界の港や上界の施設に浮遊岩を利用しない大商会なんて、普通ありえないからね」

「それもそうですね」

「暗殺などの恐れがあるのなら、秘匿するのも分かります」


 ヴィーネの言葉に皆が頷いた。

 続いて、


「そして、バベル卍聖櫃アークが溶けて、黄金のカードが出現した主な要因ですが、シュウヤ様の時空属性と血液と、遺産高神経レガシーハイナーブと<光闇の奔流>に……選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスだからかも知れないです。オプティマスもそれなりに予想はしていると思いますが」


 キサラがそう分析。

 意外だが、闇と光の運び手ダモアヌンブリンガーの発言がなかった。


「で、そんな魔力豪商オプティマスも一緒にここに来た」

「驚きだ。庭園に?」

「たぶん。ペントハウス内かも知れない。異界の軍事貴族たちとキスマリとエヴァも一緒のはずだから、色々と話をしているかもな」

「先も語ったが、三匹の動物たち。神獣ロロディーヌのように戦える守護聖獣のような存在なんだろう?」


 ……守護聖獣か。

 『ゴジラ』を想起する。

 そして、ホルカーバムでメリッサから、

『はい。九大騎士ホワイトナインは強さに序列があるんです。有名な大騎士序列一位グレートナイト・オブ・ワンが率いる親衛隊と守護聖獣が存在するお陰で【王都グロムハイム】は五百年は安泰だとか言われています』と、教えてくれた。


 俺が『その守護聖獣とは?』と聞くと、メリッサは、


『知能ある優しき古代竜エンシェントドラゴンです。代々王族の王太子がドラゴンテイマーとして古代竜エンシェントドラゴンの相手を務めています。竜魔騎兵団団長であり、竜騎士隊のトップですね』と、教えてくれたんだった。


 その過去のことは、皆には言わず、


「隠天魔の聖秘録を入手して使った時に、聖魔術師ネヴィルの仮面と連動した銀灰猫のメトが、大きな虎に変化した。他の二匹の異界の軍事貴族も大きくなったんだ」

「隠天魔の聖秘録、宝物庫の件だね。で、その異界の軍事貴族がもう進化を!?」

「進化というか、正確には力を取り戻したといったほうが正しいか。三匹とも体を大きくすることはできる。しかし、三匹とも完璧ではないかも知れない。そして、聖魔術師ネヴィルの仮面を装備した時に、聖魔術師ネヴィルと異界の軍事貴族の記憶を体感したんだ。最後は悲しい物語だった……」

「そうかい……異界の軍事貴族は可愛い動物たちと聞いているが……悲しい秘話があるんだねぇ」


 頷きつつ竜頭金属甲ハルホンクを意識。

 裸になるギャグで暗い顔を笑わせるつもりはないが、クレインは動体視力が高いから、もろに股間を見ていた。


 が、指摘はしない。

 聖魔術師ネヴィルの仮面を装着した。


「この白銀の仮面が聖魔術師ネヴィルの仮面だ――」


 装着した仮面から漏れ出た魔力粒子は一瞬で俺を包む。

 白銀の衣装となった。

 蒼聖の魔剣タナトスと古の義遊暗行師ミルヴァの短剣も装備。


 蒼い魔剣と赤と蒼の刃が美しい短剣。

 我流の二剣流の構えを取る。


 ――短剣のほうは魔力が入り混じるから紫色の刃でもあるのかな。


「「おぉ」」

「きゃぁ、パオーンが見えたぁぁ」


 俺の姿を見た皆は、驚く。

 俺の裸は視認できなかったと思うが、女子兵士たちから甲高い声が響いた。何気に動体視力が高い女子さんたちがいるのか。


 そんな動体視力が高い女子かも知れないトロコンなど、【天凛の月】の兵士たちに、ドロシーも寄ってきた。


 第三の腕のイモリザも意識。

 ニョキッという感覚を右肘に得た直後――。

 その第三の腕の手に〝輝けるサセルエル〟を装備する。


 クレインはニヤリとした笑みを浮かべる。


「第三の腕か、いいねぇ」


 クレインは口笛にも似た声を発した。

 酒を片手に握ったまま自らの腰にぶら下がるトンファーを見る。

 武器は取らないが、その表情は完全に武術家だ。

 そんな武の雰囲気を醸し出すクレインを見ながら――。


 右手が握る蒼聖の魔剣タナトスを横に振るう。

 更に、古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を持つ左手を下へと振るった。


 ――振るい落としの<水車剣>。

 斜め下に向かう短剣の刃から洩れた魔力が目映い。

 紫色のロングソード的な剣線が、蒼聖の魔剣タナトスの発した蒼い煌めき線を斜めに斬り裂いた。

 そのブレた十字のような煌めきを――。


 第三の腕の手イモリザが握る〝輝けるサセルエル〟で、更に両断。


 続けざまにオゼ・サリガンのナイフトリックを行なった。

 が、さすがに短剣は慣れていない。

 第三の手の指と指の間から〝輝けるサセルエル〟が落ちた。


 構わず<魔闘術>と<血魔力>を強めて右太股を意識――。


 血を纏う右足のアウトサイドで〝輝けるサセルエル〟を蹴った。

 反動で持ち上がる〝輝けるサセルエル〟は宙空でキュルキュルと急回転――。


 その〝輝けるサセルエル〟目掛けて――。

 蒼聖の魔剣タナトスの蒼い刃を下から振るい上げた。


 〝輝けるサセルエル〟を持ち上げるように叩く。

 素早く蒼聖の魔剣タナトスの蒼い刃を宙空にZ字を描くように引き上げ――。


 持ち上がった〝輝けるサセルエル〟をまた下へと叩いた。

 更に、蒼聖の魔剣タナトスの蒼い刃で〝輝けるサセルエル〟の刃を引っ掛けるように下から掬った――。

 そのまま蒼聖の魔剣タナトスをぐるぐると回転させて〝輝けるサセルエル〟を回す。


 新体操選手が紐を回し扱うように――。

 〝輝けるサセルエル〟を蒼聖の魔剣タナトスの蒼い刃で螺旋回転させ続けた。


「わぁ、目が回る~」


 シウを見たら、シウ自身も両手を拡げて回っていた。

 可愛く、面白い子だ。


 その様子を見てから、左手を振るった――。

 古の義遊暗行師ミルヴァの短剣の刃が蒼と赤の軌跡を宙空に描く。

 体の重心を傾けつつ、横回転。


 爪先へと重心を移す。

 が、速やかにその重心を踵に移動させて、また爪先に重心を移す。

 上下、左右、振り子的な重心の扱いで、回転を続けながらの薙ぎ払い機動――。


 <豪閃>と<双豪閃>を行うような機動歩法だが、剣にも応用が可能な歩法だ。

 その横回転中に蒼聖の魔剣タナトスを引きつつ、第三の腕の手を拡げて、宙空で回転中の〝輝けるサセルエル〟をキャッチ――。


 〝輝けるサセルエル〟を第三の掌の中で回転させつつ前進――。

 そして、左足の踏み込みから――。

 蒼聖の魔剣タナトスと古の義遊暗行師ミルヴァの短剣で前方の敵の胸を狙う。


 風槍流の<刺突>を行うように――。

 蒼い魔剣と蒼紫の短剣で虚空を連続的に突いた。

 が、反撃を受けたと想定、右半身をずらす――。

 右足をさげて続けざまに左足をさげて、さらに右足をサッとさげる。


 足下に小さい陰陽太極図の縁を描くように後退を続けた。


「ひゅぅ~」


 クレインの口笛が気持ちを高揚させた。

 同時に、足下からキュッキュッとゴムのような音が響く。

 アーゼンのブーツの裏はゴムではないから、この音が鳴るのは<血魔力>が擦れた音も混じるからだろう――。


 滑らかな機動で後退を続けたところで体を止めて、後転した直後、一呼吸。

 俄に三腕を構え直し、跳躍――蒼聖の魔剣タナトスを下に振るう。

 やや遅れて、古の義遊暗行師ミルヴァの短剣が、斜め下の空を突いた。


 ――着地際に魔剣で俺の首を狙う強敵魔剣師へのカウンターを想定。


 体勢を横にずらして魔刃を避けながら、第三の手が握る〝輝けるサセルエル〟で、その魔剣師の首を穿つ。

 そうして、左足の爪先で足下に半円を描きつつ、三剣を構え直して一呼吸。


 蒼聖の魔剣タナトスの蒼い刃越しにヴィーネとアイコンタクト。


 ヴィーネの銀色の瞳が瞬き。

 蠱惑的な銀色の虹彩だ。

 そのヴィーネの頬は朱に染まった。

 その瞳にウィンクを送ると同時に爪先回転を実行。

 後退後、キサラにもウィンクを送るや否やワンステップで横に移動。


「ぁ――」


 ヴィーネはあまり動じないが、キサラの巨乳さんがダイナミックに揺れたのを視認。

 その直後――踵から爪先へと重心を傾ける。


 ゼロコンマ数秒もかけず直進機動で前進――。

 拳を突き出すように三腕を突き出して――。


 <蓬茨・水月夜烏剣>を実行。

 一の槍の如く――突き出た蒼聖の魔剣タナトスから蒼い半月が四方に散った。

 やや遅れて左手が握る――。

 古の義遊暗行師ミルヴァの短剣から紫と蒼が混じる鴉が飛び去る。


 更に右肘の第三の腕の手が扱う〝輝けるサセルエル〟の刃から――。

 茨が絡む月と鴉の魔力がドドッと発生した。


 それらの月と鴉の魔力は生き物のように蠢きつつ四方八方に散る。


 風槍流の<刺突>と同じく、右腕ごと剣と化した突きの格好で静止を続けた。

 我流、光魔ルシヴァル三剣流と呼べる武術を止める。


 深呼吸をしながら構えを解いた。


「わぁ」

「「おぉ」」

「――すげぇ!」

「武術と白銀の衣装が格好良すぎる! 貴公子様かい!」

「幻想的な魔剣術でした!」

「跳躍したところなんて、格好良すぎる。盟主は、まさに『飛竜雲に乗る』だな!」

「お月様と鳥さんがいっぱい見えた!」

「おら、海賊を辞めてよかっただぁ」

「盟主の剣技は、八剣神王位上位を狙えるんじゃねぇか?」

「八槍神王上位級で、八剣神王の上位も狙える武芸者が、我らの盟主!?」

「――なんてことだ。我らの盟主様は偉大な槍使いでもあり、魔剣師でもあるのだな」

「強者の盟主がいる【天凛の月】に入って正解だ!」

「チョイジもビチも偉そうに語るが、武術をそこまで知らないだろうに、『蝸牛が日和を知る』だぞ! 下がれ」

「「了解」」


 男女の若い兵士たちはトロコンの指示に従う。

 宣言隻語だったが、見知らぬ諺があったような印象だ。


 トロコンは学があるんだな。


「シュウヤ様の剣術がまた高みに……独自の槍剣流の下地は、順調に整いつつありますね」

「あぁ、しかし、ついさっきの〝輝けるサセルエル〟で訓練を行っていた時といい、幻想修行の相手はいったい……少なくともわたしの動きではなかった。しかも、複数いたような……」

「あ、ヴィーネも幻想の修行相手が見えたのですね」

「あぁ、朧気に……」


 キサラとヴィーネは鋭い。

 俺が幻想修行相手に選んだホワインさんの姿を察知していたようだ。


 その観察眼の鋭いヴィーネに、


「ヴィーネ、頼む」

「はい――」


 意を汲んでくれたヴィーネは後頭部に手を回してポニーテールを崩し、両手を拡げて前進。

 片手には黄金色のゴールドタイタンの糸を握っていた。

 長い銀髪を見つつヴィーネの背後に移動したところで、速やかに竜頭金属甲ハルホンクを意識。


 速やかに暗緑色が基調のハルホンク衣装にチェンジしてから――。

 ヴィーネの肩に手を当て、


「ありがとう、ヴィーネ」

「はい!」


 皆に向けて、


「――黎明の聖珠仮面台も手に入れた。その仮面台に二十個の仮面を納めることができる」

「へぇ、二十個も仮面があるのかい。それぞれ効果が異なる魔防具の一種で、魔装天狗でもある?」

「そうだと思う」

「白銀の仮面はハルホンクが食べたわけではないんだね?」

「ングゥゥィィ、タベテナイ!」


 右肩と同化しているようにポンッと出現した竜頭金属甲ハルホンクの存在に、皆が驚く。片目に嵌まっている魔竜王バルドークの蒼眼が煌めいていた。


 クレインは瞬きを繰り返してから、


「その蒼い剣身の魔剣と蒼と赤の刃の短剣も、良い武器と分かる」

「蒼い魔剣の名は、蒼聖の魔剣タナトス。蒼と赤の刃の短剣の名が、古の義遊暗行師ミルヴァの短剣。両方とも聖魔術師ネヴィルの装備品だったようだ」


 クレインは頷いて、蒼聖の魔剣タナトスと古の義遊暗行師ミルヴァの短剣を凝視。


「古の義遊暗行師ミルヴァか……」

「クレインは、この短剣の曰くを知っているのか? 大魔術師スプリージオは【幽魔の門】に気を付けろと警告してきたが」

「義遊暗行師の名はある程度。正義の神シャファの秘密裏な執行機関、【義遊暗行士】、【暗行衛士】、【義遊暗行師会】が存在するのさ。そして、セナアプアでは、正義の評議宿の仕事を【白鯨の血長耳】から引き継いだのが、【義遊暗行師会】だ。だから、その正義の神シャファと関わる品だろう。正義のリュートを持つシュウヤに相応しい武器だと思う。そして、先の剣のスキルは珍しい部類と見たよ? 茨が巻き付いた月と鴉の魔力の刃には無属性だけではない、特殊な効果がありそうに見えた」

「剣のスキル名は<蓬茨・水月夜烏剣>」

「……良いスキル名。突きと袈裟斬りに変化が可能で、あの魔力の刃だ。防ぐのは中々に難しいはず。が、わたしなら……ふふ、あ、いい酒のつまみとなったさ」


 武人としての笑顔を見せるクレイン。

 笑窪がチャーミングだ。

 そして、頬はほんのりと赤い。


 酒を飲んでいるからだろう。

 リツさんとナミさんも、


「素敵な演武でした! そして、【髪結い床・幽銀門】の総長と話は付きました」

「はい、わたしも【夢取りタンモール】の長との話し合いを済ませています」


 頷いた。


「では、改めまして、【天凛の月】の盟主シュウヤ様。わたし、リツ・バーメントは、現時点を以て、【天凛の月】に正式加入致します!」

「わたしもシュウヤ様に忠誠を誓います――」


 二人は片膝で床を突く。


「了解した。【天凜の月】の盟主として、二人を歓迎しよう」


 周囲から拍手。

 シウも可愛く拍手した。


「二つの組織が【天凛の月】に加入!」

「素晴らしい! 【天凛の月】!」

「「【天凛の月】!」」


 兵士たちが熱い。


「頭をあげてくれ、リツとナミ」

「「はい!」」


 二人は素早く立ち上がる。

 周囲の兵士たちはハイタッチ。


 すると、耳元でヴィーネが、


「ご主人様、新しい仲間が増えて嬉しいです」

「俺もだ。【天凛の月】のセナアプア支部が拡充すれば、狂言教、【テーバロンテの償い】、【スィドラ精霊の抜け殻】、【血印の使徒】、【闇の八巨星】などの組織と連続的に同時に戦うことになっても揺るがなくなる」


 セナアプア支部が、俺がいなくても、サイデイルのキッシュたちのように皆で強力して戦える。


「「はい」」

「盗賊ギルドの【髪結い床・幽銀門】と特殊な魔法使い集団の【夢取りタンモール】の加入は、大いなる力となる。上院評議員のペレランドラと、その傘下の商会グループの加入も大きい」

「そうだな。ペレランドラが上院評議員の肩書きを活かして【天凛の月】セナアプア支部の顔役となれば、メルとユイの仕事も楽になる」

「はい。メルも本拠を移さずホルカーバムや湾岸都市テリアの戦力拡充に動けるようになるかも知れない」


 たしかに。メルもヴェロニカとベネットとあまり離れたくないだろうし。

 ま、転移陣を含めて小型飛空戦船ラングバドルに小型飛空艇ゼルヴァ十機と小型飛空艇デラッカーがある。

 そして、クナの転移陣も魔塔ゲルハットに設置予定だ。


 本拠云々は置いといていいのかも知れない。

 その思いを経て、


「……これも、皆のお陰だ。ありがとう――」


 と、皆に礼を述べた。


「盟主! わたしたちこそ、ありがとうございます」

「「ありがとうございます」」


 キサラも、


「天凜の魔剣師となった<従者長>カットマギーの戦力も大きいです。狂言教が強者の集まりだとしても、<従者長>となったカットマギーならば、一人である程度は対処可能となるはず」

「元々凄まじい強者がカットマギーだからな。素でヘルメと<神剣・三叉法具サラテン>たちを相手に生き延びつつ、俺と空中戦をこなす。とんでもない魔剣師だ」

「はい。確実に強者」

「鬼婦ゲンタールの魔腕と魔足の移植を錬金術師マコトから受けて成功しているのも大きいかと」


 頷いた。が、油断はできない。


 狂言教の長老のことは話に聞いただけ。

 強者も多種多様だ。


「<魔甲屏風>も獲得し、ご主人様から魔剣アガヌリスを得た。あの時は少し嫉妬しました」


 嫉妬したんかい!

 と、逆水平チョップ的なおっぱいへの攻撃は、ヴィーネには繰り出さない。

 無難に頷く。


「そして、ペレランドラは<血魔力>も得ているようですから、ある程度は期待できます」


 そう発言しつつペレランドラを凝視。

 笑顔のペレランドラだったが、眉間に皺を作りつつ決意したような表情を見せると、片手を泳がせて、「ドロシー下がって」と告げる。


「はい」


 ドロシーは俺をチラッと見てから後退。

 ペレランドラは、


「まだ血の操作はおぼつかないですが――」


 魔力を活性化させる。

 体から放出されていく魔力の中には<血魔力>が混じっている。


 その<血魔力>の形は小魚?

 不思議だ。その小魚の<血魔力>は、ペレランドラ自身の普通の魔力を喰らうように吸い込む。


 その途端<血魔力>はメカジキの形となった。


「「おぉ」」


 皆、驚く。

 初めて成功したような雰囲気だ。


 が、そのメカジキのような<血魔力>は霧散。


 リツとナミが、そんなペレランドラを見て、


「惜しい! 処女刃を使い<血魔力>の操作を学べば、その<茲茲血魚>を使いこなせそうね」

「うん。襲撃時にわたしも対応できればと、少しずつ努力を重ねていますが……ただ、戦闘に<茲茲血魚>を活かせるかは微妙です」

「その<茲茲血魚>はどんな効果が?」

「一応は攻撃にも使えますが、交渉時に相手を威圧しては、一定の範囲に血の匂いを放ちつつ、幻惑を掛けることが可能になるようです。同時に<権謀術数>の効果が上がります」

「<銀蛾斑>のような混乱を与える?」

「あくまで話術の範囲内のようです」


 ペレランドラならではの<血魔力>か。

 まぁ、初期の段階だから、これからだろう。

 そのペレランドラは、


「襲撃時は使用しましたが、あまり役に立たず。クレインとゼッファさんとキトラさんがいなければ……あ、二人も色々と助かったわ。借りはちゃんと返すから」

「当然! では借り・・に期待」

「うふ。借り・・かぁ……癒やしのケルミアージュのスイートルーム?」

「リツ……それは……」

「さすがにビビッたマージュちゃん。さすがに、超VIPが利用するケルミアージュは無理かな?」

「うん。一晩で白金貨が数十枚吹き飛ぶって噂」

「あ、でも、ナミは前に一度体感しているとか?」

「はい、大富豪ビヨンドさんの悪夢を取り除いた礼としてです」


 リツとナミのお色気満載の女子トーク。


「面白い会話だが、そこまで」

「そうですね。では盟主、明日改めて、【髪結い床・幽銀門】の総長と髪結い師を連れてきます」

「はい。わたしも明日、【夢取りタンモール】の長の夢取師ギンガサと仲間たちを魔塔ゲルハットに連れてきます。プレゼントできる夢も増えましたので、期待していてください」

「夢で能力強化が可能なのは楽しみだ」

「――施術もサービスしますから♪」


 ナミが魅力的すぎる。

 細い腰を捻って、右手を後頭部に移し、髪を持ち上げていた。


 豊かな乳房を揺らしているし……。

 素晴らしいポージング!


 ナミ、グッジョブ!


「おう!」


 が、俺の視線を遮るヴィーネさんがドアップ。やや桃色が混じる唇が魅惑的。


 その魅惑的な唇を少し震わせると、


「……ご主人様、ナミのおっぱい施術はまだ危険です。わたしと一緒に楽しみましょう。そして、わたしのほうが気持ちいい方面が強いかと思います」

「ヴィーネよりも、ソッチ方面の施術なら自信がありますよ」

「それは眷属だけの特権かい? わたしも早く眷属化しとくれよ」

「けんぞくかー! わたしもー」

「え、わ、わたしも……」

「ふふ、皆にお慕いされていますね。わたしも負けていられない……」


 おっぱい教的に揺るぎない心で応えるほうが俺らしいと思うが、

 ここは【天凛の月】の長として、


「ヴィーネとキサラ、真面目に語るなとツッコミが来そうだが、今は良い子もいる。夜の楽しみは後だ。ってことで、ナミとリツ。夢取師ギンガサさんたちと【髪結い床・幽銀門】の総長さんと仲間たちによろしく伝えておいてくれ」

「「ハイッ、盟主様!」」


 ナミとリツは離れる。

 ヴィーネとキサラは優しく微笑んだ。


 横で寛ぐペグワースたちに混じろうとしているナミとリツに、


「【天凜の月】の副長メルとユイたちに、縄張り関係の説明をしてもらうことになると思う」

「「分かりました」」


 そこで、クレインに目配せしてからペレランドラを見て、処女刃を渡して、


「さぁ、中層の奥に移動しよう、ペレランドラ」

「はい――」


 と、ペレランドラの手を掴んで足早に拱門を潜り浮遊岩の踊り場に戻る。

 上から降りてくる浮遊岩があったが、無視。


 竜頭金属甲ハルホンクを意識。

 ――牛白熊の素材を活かす。

 白シャツと白ズボンの軽装にチェンジ。

 そのままペレランドラの汗ばんだ手を引っ張るように、迂回して中層の通路を進む。


 通路の横には相棒が猫草と間違えた植木が並ぶ。


 左側には手摺てすりと吹き抜けがある。

 右側には部屋があるが、硝子張りが多い。


 床は硝子のような工芸品に近い。

 地下とは、素材からしてまったく違うと分かる。


 床の中には小川が流れているし、非常に清々しい。

 お、ちょうどいい部屋を発見。


「ペレランドラ、ここの部屋にしよう」

「高級なホテルの一室のようですね」

「おう。寝台の前のちょいと空いている間で行うとしよう」

「はい」


 笑顔のペレランドラは足早に移動。

 速やかに上着とスカートを脱いだ。


 服のたたみ方がお洒落しゃれだ。

 下着一枚でお尻さんが見えているが、上品さが際立つ。


 急ぎ、<邪王の樹>で大きな盥を生成。

 その大きい盥を<導想魔手>で持ちながら――。

 ペレランドラがいる空間に移動。


 ペレランドラの足下に大きな盥を置いた。


「さぁ、ここに入ってくれ」

「あ、シュウヤ様……」


 裸のペレランドラは寄りかかってくる。


「前にも増して体が温かいです」


 そのペレランドラの背中を片手で支えながら、


「マージュ……準備はできたな?」

「はい」


 ペレランドラは離れた。

 金色が混じる瞳で俺を見上げながら、

 右腕を上げる。

 二の腕に処女刃が嵌まっている。


 腋と脇腹に豊かな乳房が綺麗だ。

 が、エロい心は、エロ紳士の心で封印――。


 ペレランドラが抱きついてきた。


 ――封印はあっさりと天元突破、螺旋エロパワーは偉大だ。


 そのペレランドラは、


「ふふ、シュウヤ様、無理しないでいいのですよ」

「あぁ」

「男の証明です。薄着になっていたのも、わたしに女として期待してくれた証拠。嬉しかった」

「おう」


 俺の唇を凝視してきた。

 可愛い女性の反応だ。

 そして、体をより密着させてきた。

 ダイレクトに股間に刺激を受ける。


 ペレランドラは目を瞑り、顎を上げた。

 お望み通りに唇を奪って魔力を送る。


 ペレランドラは体がビクッと震えた。

 だらりと体が弛緩しかん、細い体が余計柔らかくなった感覚だ。


 唇を離した。


「……アァァ」


 ペレランドラは喘ぐ。

 恍惚とした表情のまま俺と目が合うと――。


 また体を震わせた。

 ペレランドラは力を失ったように、俺の片腕にもたれかかった。

 そんなペレランドラを支えて、彼女の準備が整うのを待つ。


「……優しいシュウヤ様、すみません。今、処女刃を使います」

「おう」


 ペレランドラは二の腕に嵌まっている処女刃のスイッチを入れた。

 二の腕に鋭い刃が食い込むぐにゅっという卑わいな音が響く。


「――ぐっ」


 よほど痛かったのか。

 ペレランドラは眉間に皺を造る。


 腕をだらりと下げていた。


「今更だが、傷に慣れていないんだったな。止めとくか?」

「馬鹿にしないでください。わたしも眷属の一人、続けます――」


 失礼なことを言って、怒らせてしまった。

 ペレランドラは処女刃から受け続ける痛みを我慢しつつ血の儀式を続行した。


 ペレランドラの血が盥に溜まりつつある。


「悪かった、ペレランドラ。馬鹿にしたつもりはない」


 俺の顔色を見たペレランドラ。

 一気に痛みが引いたような表情となった。


 母性が愛しいペレランドラ。

 なんとも優しい顔となる。


「ふふ、分かっています。優しいシュウヤ様の気持ちは、に理解していますから――この命を捧げる思いで続けます――」


 ペレランドラの覚悟を受け取った。

 暫し待とう。



 ◇◇◇◇


 何回も何回も痛みを味わい続けるペレランドラ。

 大きな盥がペレランドラの血で満杯になる度、その血を吸い取る。


 俺もペレランドラに協力するように血を送って上げた。

 その度に感じたペレランドラ。

 鳥肌が立ったペレランドラは紅潮。

 凄く興奮したまま俺を襲うように噛みついてきた。

 そのままイヤらしい展開となる。


 ロロディーヌが呆れる情事に発展。


 そうして、一日後。


「あぁ――あ、感覚が! やりました! <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>――」

「おぉ」


『あ、ペレランドラの血の匂い』

『やったのね。少し時間が掛かって心配したけど』


 レベッカとユイが逸早く察知。続けて、


『ご主人様との濃厚な時間は羨ましい。が、これも第一の<筆頭従者長選ばれし眷属>の務め……そして、おめでとう、ペレランドラ。そして、正式に皆の新しい家族となった! わたしは嬉しい! 姉者を得た気分だ……』


 ヴィーネ……。


『ん、おめでとう。新しい家族!』

『へぇ、血の家族イベント炸裂! ペレランドラさんとまだ会ったことはないんだけど、おめでとう! メルだけでなく、わたしも会いに行きたいんだけど、わたしにはわたしの道がある。だから、血文字だけでもペレランドラさんに家族の気持ちを送るから!』

『はい、ヴェロニカさん』

『うん、ペレランドラ、光魔ルシヴァルの<従者長>としての成長おめでとう。そして、ペレランドラの血道の開花に幸があらんことを!』


 ヴェロニカ先輩らしい血文字だ。

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