八百四十三話 小型飛空戦船ラングバドル出発進行!

 キスマリさんは下から俺を凝視。


「自由という言葉は本当なのだな?」

「本当だ」


 キスマリさんは、そう喋る俺のことをジッと見続けてきた。

 そして、


「心は二つ身は一つ。シュウヤの言葉を信じよう。そして、安心した。だから、お願いだ。我を、この飛空戦船ラングバドルの乗組員として、暫くの間、雇ってくれ」

「……雇ってくれか。沙が軍門に降れと言ったが……決めるのが早すぎる」


 そう突き放すと、キスマリさんは頭部を左右に振って、


「……我はシュウヤたちに救われた。そして、神獣ロロディーヌの優しい顔を見て、昔を思い出した。更に言えば、今いる場所も時間も分からない状況。だから、親切にしてくれたシュウヤたちに……頼る他はない。頼む」


 キスマリさんはオプティマスさんのこともチラッと見てから俺を凝視していた。

 了承しよう。

「了解した。ズバリ聞くが、キスマリさんの目的は故郷への帰還か?」

 キスマリさんは少し動揺したような表情を浮かべてから、ゆっくりと頷いた。

「我のことを理解するのが早い。その通り。この戦船は速く優秀。この漆黒の悪魔に乗っていれば、いずれは我の故郷に帰還できるかと考えた。そして、ノアスが生きているのならば、我の顔に傷を与えたノアスを倒したい。我の仲間を殺した仇も討ちたい……」

 ロロディーヌを凝視するキスマリさん。

 一瞬、涙ぐむ。再び俺を見て、

「我は、ノアスが率いる飛空戦船団〝漆黒の悪魔〟も倒したい」

「分かった。仇か……で、故郷とは、魔界セブドラへの帰還ということか?」

「地上の故郷のことだ。大戦ばかりの魔界セブドラに帰る場所はもうない。破壊の王ラシーンズ・レビオダ様と憤怒のゼア様の影響で次元の闇渦となったのだ……」


 ……魔界セブドラの故郷は破壊されたのか。または住める環境ではなくなった?

 では、ノアスを討つ目的が第一。


「その仇のノアスとは当然俺たちは敵対していないが、その故郷のことと、キスマリさんの話が真実なら、君に協力しようと思う。といっても直ぐには無理だが。エヴァ、頼む」

「ん」

 

 エヴァがシルバーフィタンアスとハウレッツを離して、魔導車椅子のリムを操作――素早く前進し、


「手を触らせてね」

「承知」


 キスマリさんの片手の甲を触るエヴァは、


「キスマリ。故郷は大事?」

「あぁ。戻りたい」


 数回頷いたエヴァ。


「ん。シュウヤを信じる? わたしたちも」

「信じるしかない」

「ん、ノアスはどんな顔?」

「どんな顔……くっ……嫌な顔だ……」


 エヴァは体が震えた。その表情が一瞬凍り付く。

 あまり見たことのない色然とした険相な顔となる。


 少し心配してエヴァを凝視。


「エヴァ、大丈夫か」

「……ぁ、ん」


 と気を取り直したエヴァは頷く。

 俺を悲し気な表情で見た。


 急ぎ、


「エヴァ、無理なら」

「ううん。これは大事なことだから」


 エヴァの表情は力強く変化。

 そして、キスマリさんに視線を戻し、

 

「……ごめんね。仇の顔なんて、思い出させて。あと、これからもよろしく」


 エヴァの言葉を聞いたキスマリさんは四眼を巡らせて、怪訝そうな顔付きを浮かべる。


 それは『なんのことだ?』と言ったような印象だ。


 キスマリさんは俺とエヴァを交互に見て不思議そうな表情を浮かべてから、


「よろしくだ。しかし、車椅子とは、しかも骨の足? 足が悪いのか?」

「あ、ふふ、優しいキスマリ。わたしの足は大丈夫――」


 エヴァは俺の傍に来て――。


「大丈夫」


 と、短い言葉でキスマリさんのことを告げてきた。


 深くは聞かない。エヴァの能力のことはキスマリさんも後々分かると思うが、今は黙って頷いた。


 皆も傍にオプティマスさんがいるから黙っている。

 そのキスマリさんに、


「キスマリさん、この船のことは嫌ではないのか?」

「それはない。寧ろ良い船だ。勿論ノアスとその一味は憎い。が、船は船でしかない。魔道具と同じ。それに仇のノアスとその連中よりも……正直、魔界セブドラのほうが地獄であった」


 道具を使う側の資質が問われるのは万国共通。


 が、この漆黒の悪魔には……。

 意識のようなモノがあると思うんだよな。

 しかし、あの感覚は俺やヘルメたちが特殊だから感知できたのか。


「ノアスの件は理解した。しかし、俺が悪党だったらどうするんだ」

「悪党ではないだろう?」


 即答か。

 顔に出ているわけではないと思うが。


「あぁ、が、悪と正義、正直分からない部分がある」


 俺の顔色を見たキスマリさんは笑顔を見せて、


「……ふはは、その語りこそが、まごうことなき真心だと分かる」

「真心か。たしかに嘘ではないが……」

「この会話が証明しているのだ。そんなとりつくろう必要はない。我を組み伏せたシュウヤは底知れぬ強さを持ちながら、深い愛と優しさを合わせ持ついい男であるのだからな」

「ん、キスマリ鋭い」

「強者には強者の勘があるのでしょう」

「ふふ、敵対的な存在だったら、ここまで相手にしてないでしょ。だから、キスマリさんの言葉が的を射ているわよ。ね? マスター?」


 と言われ、微妙に照れる。


「そうだな。で、キスマリさんを受け入れるとして、ここは南マハハイム地方の【塔烈中立都市セナアプア】。そして、俺たちは、まだこの船の運用をしたことがないんだ。それでも平気か?」


 六眼キスマリさんは再び笑顔を見せる。


 傷のある顔だが、いい笑顔で美しい。

 そのキスマリさんは、


「知れたこと。この操舵室に入れているシュウヤは、この戦船の艦長である」


 あ、たしかに。


「分かった。これもなにかの縁だろう――」

 

 と手を差し伸べる。


「……縁か。いい言葉だ。そして、懐かしい言葉でもある……ありがとう、シュウヤ――」


 キスマリさんは俺の片手を握って立ち上がった。


「ありがとう――」


 キスマリさんの掌の感触は結構ゴツい。

 彼女の腕は細いが、やはり魔剣を扱うだけはある。


 そのキスマリさんに、


「おう。早速、雇うよりも、キスマリさん、いや、キスマリを仲間として迎えいれたい」

「おぉ、な、仲間!」


 キスマリは少し驚く。

 笑いながら、


「いやか?」

「いやじゃない!!!」


 キスマリは頭部を振るって唾を飛ばすほど興奮している。そして、四腕で胸元を触り、頭を下げてから、


「是非とも仲間に加えてくれ!」

「おう」

「――シュウヤ、我は嬉しいぞ!!」


 と、気勢溢れる声を発した。

 キスマリは感慨深いといった顔付きだ。


「俺もだ」

「……〝今日の後に今日はない〟、我は驥尾(きび)に付す思いである……」

 

 キスマリは意味のありそうな言葉を語ると――。

 ロロディーヌを見て、四眼をうるうるとさせる。

 と、四つ目から涙を流した。

 やや遅れて眼球を失っているだろう二つの目元からも血の涙を流していた。


 六眼から涙を流したキスマリは斜め上に視線を向けて、


「ハフマジャ……キュテリマ、ミミゾリ……我は……」


 と呟く。

 故郷の出来事を思い出している?

 黒豹ハフマジャと仲間たちを思い出している?


「ん……」


 エヴァもキスマリの記憶を見たのか、涙を流していた。


 キスマリから小声で祈りの声が響く。

 と、微かに笑顔となった。


 そして、四腕で涙を拭う。

 そのキスマリに、


「改めてよろしく頼む。俺は槍使いでもあり、冒険者でもあるんだ」


 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


「おぉ。先の組技、擒拿術は<槍組手>の一部か……納得だ」


 四つの眼球で俺の魔槍杖を凝視する。

 その魔槍杖バルドークをキスマリに見せるように回転させていく。


 乱雲の矛。漏斗雲の矛を凝視。

 この紅い穂先は<柔鬼紅刃>のスキルで大きな紅斧刃の状態に変化させることもできるが、今はしない。


「紅い穂先は鋭そうだ。有名な魔槍なのだろう?」

「闇社会では有名かも知れない」


 そう俺が発言すると『当然っ』という印象の笑い声が漏れる。


 その皆が、


「キスマリさん、よろしく!」

「ん、よろしく!」

「「よろしくお願いします!」」

 

 皆も元気よくキスマリを迎えいれてくれた。


「にゃおおお」

「にゃァァ」

「ワォォォン」

「プボゥ!」


 ハウレッツの鳴き方がポポブムっぽい。

 そのハウレッツはミスティの足下に移動している。


 ミスティは驚いて、一歩、二歩と、離れているが、その度に、子鹿のハウレッツはミスティについていった。


 ミスティは、


「はは、懐かれちゃった。わたしのくちゃくちゃな羊皮紙が好きなのね……」


 と発言すると、ハウレッツは「グモゥゥ~」と間延びした返事で鳴いていた。


 キスマリは、その様子を見て微笑んでから、


「よろしく頼む、皆!」

「おうよ。早速だが、キスマリには、俺が留守の間、この戦船を守ってもらう」

「承知した、艦長!」

「ンン、にゃお」


 相棒だ。

 

 キスマリの膝に頭部を寄せる。

 頭部から胴体の黒毛で甘えた黒豹ロロさん。

 そのままキスマリの背後に移動して、一対の後脚が伸びた。キスマリの背中に乗る? 否、キスマリのお尻の匂いを……。


「……ぬぁ!? な、懐かしい感覚だ」

「ふふ、ロロ様の歓迎の挨拶です」


 ヘルメも嬉しそうだ。


「あ、ありがとう、ロロディーヌ。もう大丈夫だ」

「にゃお~」

「あぅぁ」


 太股付近に相棒の頭突きを喰らって、あたふたしている六眼キスマリが可愛いな、格好がきわどいから、なんとも言えないが、そのキスマリに、


「故郷の名は?」

「名はノードアドレス。縦長の突兀岩の遺跡を元とした街。巨人系モンスターが多い雪山も近くにあるが、水は豊か。普段は凍っているが巨大湖を活かす漁業と農業もある。モンスターを狩る仕事も豊富だった。北の凱歌という吟遊詩人の歌が有名だった。可笑しなゴブリンと人族の冒険者たちが多い。南にレスターマインドという街もあった。そのノードアドレスとレスターマインドの一帯はゴブリンの支配地域の一部で、平和な時が多かったのだ……」


 ゴブリンが人族と仲良くしているのは、南マハハイム地方では考えられないが。


「長閑な印象を受ける……」


 少し間が空いてから、キスマリは頷く。そのキスマリに、


「外道のノアスはまだ生きていると思うか?」


 傷がある頬と二眼が動くと六眼キスマリは頷いた。


「……ノアスの一味は強かったから生きているとは思う。だが、分からぬ。死んでいるかも知れない。この漆黒の悪魔こと、小型飛空戦船ラングバドルは優秀な戦船だ。この戦船を捨てなければならないほど追い詰められた状況もオカシイ。戦闘が激しい白兵戦となっていたのなら、我も使っていたはず。だが、我は封じられたままの状況」


 とキスマリは発言。

 皆に視線を巡らせる。さすがにこれはないと思うが、


「中性子爆弾的な超兵器って線か?」

「なんだそれは」

「人型、生物の殺傷のみを目的とする小型の水素爆弾だ」

「そんな物が……」

「重水素系のエネルギーを用いた爆弾は強力です」

 

 アクセルマギナの言葉に頷いた。BGMを響かせる戦闘型デバイスと連動するように声の口調が少し変化していた。アクセルマギナの声は本体と右腕からも連続的にエコーが掛かって響く。当然、キスマリさんはアクセルマギナの本体を見てから、やや遅れて、ギョッとしながら俺の右腕の戦闘型デバイスを凝視。

 戦闘型デバイスの真上にホログラム映像のアクセルマギナの衣装は胸のマスドレッドコアが存在しているアクセルマギナの本体とは衣装が異なるがホログラム映像のアクセルマギナに驚いているんだろう。

 機械的な音声も聞いたことがないのかもしれないな、そうではなくて第一世代が残したであろう似たような装備を扱う存在たちを知っているのかも知れない。そのキスマリは俺とアクセルマギナを見ながら、


「ノアスもそのような喋る魔道具を使っていた」

「へぇ」

「マスターとわたしのような存在は珍しいと思いますが……」

「インテリジェンスアイテムは様々に存在します」


 オプティマスさんはそう言いながら俺の右腕の戦闘型デバイスとアクセルマギナの体の胸のマスドレッドコアを凝視していた。インテリジェンスアイテムは多種多様だ、アルルカンの把神書もいる。


 <神剣・三叉法具サラテン>と<武装魔霊・紅玉環>のアドゥムブラリもだな。


 すると、<神剣・三叉法具サラテン>の三人娘たちが、この操舵室&司令室の感想を言いながらコーヒー豆の匂いを嗅ぐ。そして「この取っ手が回せる魔機械が気になるぞ」と、沙が発言。


 羅がコーヒー豆を摘まんで「マズイ」と発言している。少し可愛かった。沙は奥の間に低空飛行で移動しては体を悩ましい動きで回転させながら謁見室のような空間を見て中央の豪華な席に華麗に座る。


「ここは妾の席だ!」

「そこは沙の席ではないですよ。器様専用でしょう」


 羅と貂も足下から波紋のような魔力を発生させつつ、ステップを踏んで謁見室のような場所に向かう。

 華麗だ。


「そうなのか。あ、見ろ。浮遊岩が入ったチッコイ部屋があるぞ!」

「それはエレベーターだ。ま、浮遊岩でもいいが。で、見学は自由に続けていいが、沙、羅、貂、漆黒の悪魔の運転に興味があるのなら、俺の傍に来い。今から試す」


 皆に視線を巡らせつつ操縦席に移動。


「「はい」」

「興味はある!」

 

 沙と羅と貂が素早く低空飛行で飛来。

 

 羅は、舵と操縦桿にハンドルが並ぶ操縦席を凝視。


「フォド・ワン・ユニオンAFVで見たような操縦席もあります」

「おう。卍の魔力層が囲む席が艦長席のようだ。黄金のカードを嵌める認証ボックスもある」

「天井の黒いイカは……」

「イカではないと思う」

「ンン」


 黒豹ロロがイカ耳になった。


「ンン、にゃァ」


 銀灰猫メトも真似をしてイカ耳になった。

 笑いながら、


「相棒、イカ耳にならんでいい。で、そこの卍の魔力層はセキュリティーかな? 黒い管は操縦システムの一環だろう」


 すると、アクセルマギナが、


「ナノセキュリティは特に感じませんが、第一世代が高度すぎるのか、わたしの機能が古すぎるのか、新しすぎるのか……」


 困惑した表情だ。胸元のマスドレッドコアが少し点滅。

 俺はビーサと目配せ。


 すると、ビーサが、


「師匠、その黒い管は、もしかしたら変形のドパルアーニューシステムに近いシステムかも知れません」

「黒い管が俺の肌に付着する可能性がある?」

「はい」

「一種のブレイン・マシン・インターフェース?」

「その可能性もあります」


 へぇ。


「三つの器官を活かした操縦システムの名が、ドパルアーニューシステムなんだよな?」

「はい。三つの器官のオウル器官、ファガル器官、レッド器官に合う操縦システムがドパルアーニューシステムです」

「現在、特殊なメリトニック粒子とバイコマイル胞子は感知していませんが、この小型飛空戦船ラングバドルは、高度文明だった第一世代と呼ばれている古代宇宙文明が開発した宇宙戦艦の可能性があるかと」


 アクセルマギナがそう発言。

 バベル卍聖櫃アークの遺産か。

 知的生命体ミホザではなく知的生命体バベル? と予想はしたが、違うかな。


「もし、バイコマイル胞子の結晶が放出されるのなら、アクセルマギナさんの言う通り高度なワープドライブ航法システムを備えた船かも知れません。他には違法ワープドライブ航法システムの可能性も」

 

 頷いてから黄金のカードを見せて、

 

「キーの黄金のカードを認証ボックスに嵌めたら分かるだろう。起動したらのお楽しみってことで、相棒!」


 黒豹の姿だったロロディーヌ。

「ンン」


 と喉音を発して黒猫の姿になった。

 後脚で首元を掻いてから――走って俺の傍に来ると跳躍。

 肩に乗った。俺の肩を肉球でふみふみする感触がなんとも言えない。

 少し荒いゴロゴロ音も響く。


「ンン、にゃ、にゃ、にゃお~」


 黒猫ロロの息遣いが可愛い。


 そして、オプティマスさんとアイコンタクト。

 キサラとヴィーネともアイコンタクト。

 エヴァとレベッカとミスティとディアともアイコンタクト。


 銀灰猫メトとシルバーフィタンアスとハウレッツは走ってきた。

 銀灰猫メトたちは魔受貝のディプレイの傍に移動。

 

「んじゃ、魔力層に踏み込むから、気構えしておいてくれ」

「ん」

「「はい」」

「うん!」


 艦長席&操縦席のエリアに足を踏み入れた。

 卍の魔力層は操縦席に吸い込まれるように消える。

 同時に操縦桿が少し拡大。真上に幻影の卍が浮かぶ。

 一瞬、仏像の幻影が見えたような気がした。

 めでたい印として受け入れよう――操縦席に座ると自然とシートベルトが展開。

 インスツルメントパネルと地続きの認証ボックスにキーの黄金のカードを差し込む。

 と、瞬時に黄金のカードは認証ボックスの中に埋まる。

 樹木のシートベルトに見えるがゴムのような柔らかさがあるシートベルトだ。

 席が上部に動いた。


「動いた!」


 一気に戦闘機風のコックピットを想起する。室内が輝いた。

 黒い管のようなモノは俺の頭部に付着。

 その刹那、視界に新しい視野を得た。


 更に操縦席の天井が自動的に低くなる。

 目の前のインターフェースが変化。

 舵が備わるコントローラー型の操縦桿に合わせたシンプル化か。


「シュウヤと隣の席の間の幅が狭まった」

「ここの部屋も横にズレた?」

「あ、本当!」


 同時にボゥ~という法螺貝的な音が響く。

 神社の神様から歓迎された時のような音と似ている。


 が、聞こえたのは俺だけのようだ。

 コントロールユニットの一部だと思われる黒い管が付着したからか。


 ――へぇ。


 外部の高精細な魔撮貝カメラが映し出す映像と、実際の操縦桿が組み合わさる仕組みか。

 握りやすい操縦桿に合わせた造りで、非常に面白いコントローラーシステムだ。


 ヘッドマウントディスプレイとは違う。

 これが漆黒の悪魔の操縦システムか。

 未来のコントローラーシステム?

 システムと呼べるのか、DNAとRNAが関係している?

 俺の遺産高神経レガシーハイナーブがまだ追いつけていないような感覚もある。


「アクセルマギナとビーサも空いている操縦席に座ってくれ――」

「はい!」

「はい、マスター!」


 ビーサとアクセルマギナが横の操縦席に座った。


「わたしたちにはその黒い管のシステムはでないようですが、操縦桿と卍の幻影は同じように変化しました」

「外の映像とリンクしている映像は俺専用ってことか」

「そのようですね」


 舵のほうでも動かせるようだが、主にはこのコントローラーとしての操縦桿だろう。


「んじゃ、前進を意識しつつ出発――」

「にゃご~」


 相棒の声に合わせて、操縦桿を少し引いた。

 グンッという勢いで小型飛空戦船ラングバドルが斜め上に前進。


「出たーっ、船体が動いた!!」

「小型飛空戦船ラングバドル出発進行!」

「わぁ~、不思議~」

「ロロちゃんとはまた違う~」

「飛行は遅いですね~」

「ロロちゃんのほうが速い!」

「ンン」

「まだまだ速度は出してないから、相棒のほうが速いのは当然だ。右に――」


 と、右斜め上に旋回。

 飛翔する空魔法士隊などが多いから、ここは慎重に――。

 レーダーが備わるのか。

 小型飛空戦船ラングバドルが自動的に方向を調整してくれたようだ。

 そのままゆっくりと進み出す。

 少しずつ高度を上げて摩天楼の景色が遠のく。

 このまま塔烈中立都市セナアプアを離脱するのもいいが、魔塔ゲルハットに向かうとしよう――。


「シュウヤ、もう操作に慣れたの?」

「偵察用ドローンの視界を体感済みだからな。けっこう楽だ。アクセルマギナとビーサも動かしてみろ。広いところに出る」

「「はい」」


 交互に二人に操作を任せて俺は新しい視界から外の景色を堪能。


「師匠、操作を任せます」

「おう」


 皆の感想がガヤガヤ五月蠅いが、操作に集中――。

 漆黒の悪魔の外部の映像と実際の視界が合わさる視界はリアルタイムに更新中。

 相棒に耳朶と肩に触手でバシバシ叩かれて、愛のある肉球判子ちゃんを押されたが良しとした。

 風を感じるような感覚のまま、漆黒の悪魔の操縦棍を傾けて操作――。

 船体がぐいっと曲がる、浮いたような感覚だが直進している。

 だれか分からない方々が仕事を行う魔塔の上スレスレを飛行――。

 ――斜め下側の窓硝子に小型飛空戦船ラングバドルに備わる無数の噴射ノゾルから発生した風の衝撃波が当たっているが、窓硝子は振動しているだけで壊れていない。


 よかった。

 塔烈中立都市セナアプアの魔塔はどれも頑丈だな――。

 

 エセル大広場の真上に向かった。瞬時にエセル大広場を通り抜ける。

 低空飛行はしない、魔塔ゲルハットに直進――。

 魔塔ゲルハットに近付いたところで、アギト、ナリラ、アギトナリラの管理人たちに囲まれたが、無事、魔塔ゲルハットの頂上に到着。

 

 船首が植物園にぶつからないように、屋上庭園の端に寄せた。

 高速機動が可能な巨大ダンプカーを操縦している気分だ。そして、『小型飛空挺デラッカーとは違うのだよ! デラッカーとは!』と叫ぶべきか?

 

「着いた!」

「ん、機動が凄かった。ぎゅ、ぎゅーんって」

「うんうん、短かったけど、凄く楽しかった~」

「ん」

「マスター、表面を溶かした魔機械だけど、回収したい」

「ん、外は大丈夫だと思うけど、中身は……」

「夢追い袋に回収しとくか?」

「大丈夫、側を持って回収するから。中身の液体の分析と、臓器の入れ物の解体を試作型魔白滅皇高炉で色々と試したい。挑戦していい?」

「おう、ミスティならできるだろう」

「そうね。血鍵とか気になるし」

「うん。皆にも協力してもらうかも。レベッカの蒼炎もね」

「あ、わたしの蒼炎?」

「そう。かなり特異な炎の能力なのよ? ドラちゃんたちも扱えるし」

「ん、光魔ルシヴァルのハイエルフ! レベッカは凄い!」

「ふふ、協力する! ミスティ、降りよう~」

「シュウヤ、先に降りるわ。あ、見て、下に皆、カットマギーたちと一緒にペレランドラたちがいる!」

 

 ユイがそう指摘。


「「おぉ」」

「商会の交渉が終わったのね」

「生きていた上院評議員ペレランドラ。ネドー側を徹底的に潰した理由ですか……」


 あ、しまった。まだペレランドラの件は秘密だったが、魔力豪商オプティマスさんとは仲良くなるつもりだから、いいか。相棒はオプティマスさんに片足を上げて挨拶している。


「うん。シウちゃんも不思議そうに見てる~」

「あはは、【魔金細工組合ペグワース】の人たちがこの小型飛空戦船ラングバドルを見たら驚くのも当然」

「ここが魔塔ゲルハットか! あの小人のようなモノはなんだ! こっちの映像には蛸頭もいるぞ! モンスターか!!」

「キスマリちゃん。あれは管理人たちとミナルザンだから、大丈夫」

「ミナルザンはカットマギーがちゃんと説明してくれていると思うけど……理解していないとヤヴァいわね。あ、マスター、お先に~」

「おう」

「ご主人様、操縦をありがとうございました。この黒いのを外します」

「シュウヤ様。お手を――」


 と、ヴィーネとキサラが頭部に貼り付いていた黒い素子を外してくれた。感触は少し冷たくて気持ち良かったが、ヴィーネとキサラの手の柔らかい感触には負ける。そんな愛しい二人の手をギュッとしてから、


「俺たちも外に出よう」

「「はい」」

「にゃお~」

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