八百一話 冒険者Aランク
頷いた。キッカさんは拱手的な挨拶をしてくれた。
急ぎ、<霊血装・ルシヴァル>の口元の防具を解除。
すると、キッカさんの背後の冒険者たちが、
「わ、魔装天狗の装備品?」
「右肩に竜の頭部の防具が出たり消えたりしたぞ?」
「どちらにせよ装備は一級品。やはり<英雄召喚>が可能な<召喚魔術師>系を内包した戦闘職業を持つ方なのだろう」
「肩は
「ンン」
キッカさんたちの防具の匂いを嗅いでいた。
見知らぬ匂いのチェックか。
「感動だ。英雄が目の前にいる……」
鎧がボロボロな冒険者の一人がそう発言。
すると、キッカさんは微笑んでから頭部を下げてきた。
肩に触れるぐらいの長さの髪が揺れた。黒色が基調で血色も混じってストレート気味。日本人的でかなり好みだ。髪が陽の明かりを受けて血色の部分が桃色に見えた。
美しいコントラストの髪。ハイネックブラウスが似合う!
胸元には小さいハート型の穴。素晴らしい衣装だ。
乳房の上部の一部を黒い衣服から覗かせている。
やや遅れて生き残った冒険者たちも敬礼してきた。
俺も、その皆様方に向けて拱手。アイムフレンドリーを意識。
冒険者たちは五人か。
二人は重傷を負っていたのか、鎧は派手に切れて穴も多いが肉体に傷はない。
ポーションか回復魔法で体の傷は回復したようだ。
茶色の髪の女性は腰にユイが好みそうな魔刀をぶら下げている。二刀流の使い手か。
黒色の髪の男性は片手斧を二つ。
金色の髪の女性は魔法使い。スタイリッシュな装備品からして秀才美人か!
白色の髪の男性は片手槌を持つが衣装は魔法使いっぽい。
戦闘職業は<魔槌師>系かな。
キッカさんは俺を凝視。
黒色と血色が混じる瞳は綺麗だ。
微笑むと瞳が一瞬揺らぐ。頬が朱色に染まった。
ハッとした表情を作るキッカさんは、可愛い素振りでレベッカとヴィーネに皆を見る。
また、俺に視線を戻して視線を鋭くすると、
「……シュウヤ殿とその仲間の優秀なパーティがラ・ディウスマントルの討伐をなされたのですね」
「はい。眷属に仲間たちのお陰でラ・ディウスマントルとその眷属モンスターを倒せました」
皆の顔は誇り顔。
「ンン」
エジプト座りの
喉声の鳴き方には気品があった。
モンプチをあげたくなったが、残念ながら、ここにはない。
「素晴らしい! 皆、聞いたな?」
「おう」
「素晴らしい成果!」
「あぁ」
「シュウヤ殿の召喚したミレイヴァルさんと黒髪使いの魔剣師マルア殿も命の恩人」
「ミレイヴァルさんとマルアさんがいたから、俺たちは大量のモンスターに囲まれても余裕を持って戦うことができたんだ」
「そうだとも! 光の騎士と黒髪の魔剣師の英雄たちを召喚できるシュウヤ殿は凄すぎる」
「とにかく、大勝利だ!」
「そうです。わたしたちも、仲間も、冒険者たちも、この網の浮遊岩に住んでいた者たちも、報われる……」
「サン、そんな顔をするな。冒険者、仲間として戦って死ねたんだ。本望だろう」
「そうだとも、冒険者のわたしたちが悲しんでも死んでいった者たちは浮かばれない。そして、わたしたちは自堕落に生きる評議員……資産家の冒険者ではない! わたしたち冒険者は、死ぬまでの間になにを成すか。が重要なんだ!」
キッカさんの言葉に皆、暫し沈黙。俺たちも頷いた。
わたしたち冒険者は、死ぬまでになにを成すか。
深い言葉だ。
「うん、そうよね。皆、冒険者として立派に生きた」
「そうだ。今は、素直に英雄たちを讃えよう」
「はい」
「そして、感謝だ。シュウヤ殿、あの場にシュウヤ殿たちが現れなければ、わたしたちはマッジたちのようにラ・ディウスマントルの眷属に変化させられていた可能性が高い。何度も言うが、ありがとう!」
「はい、感謝――」
「俺も感謝を! シュウヤ殿たちに借りができた」
「あぁ、シュウヤ殿のグループへの大きな恩賞などを評議会に陳情しよう」
仲間と笑顔で語り合うキッカさんたち。
センティアの部屋の転移で魔塔ゲルハットに到着することが目的ではあったが、皆に貢献できたのなら嬉しい。
ギルドマスターに、一流の冒険者たちの言葉でもある。そして、俺たちも同じ冒険者だ。立場が同じなら俺も命の恩人に対して凄く感謝しただろう。
自然と、キッカさんたち全員にラ・ケラーダを返したい想いを得た。
そのキッカさんの腰に剣の柄頭が見える。
柄頭と柄は、黒漆の龍の意匠が目立つ。
鞘は銀色と銅色の魔力を帯びた鋼かな。模様が綺麗だ。
キッカさんの眉は細い。アイラインは薄い黒色でお洒落だ。
鼻筋は普通。唇の色合いは、少し紫と黒が混じる朱色。
いい匂いが漂ってきそうな化粧品を使っていそうだ。
頬に陽が射すと頬がキラキラと光る。
やはり、キッカさんはヴァンパイアハーフの怪夜魔族なのかな。
そのキッカさんと目が合う。
微笑むキッカさんは美しい。魅惑的な小さい唇が動いた。
「シュウヤ殿、英傑たちのパーティ名を教えてください」
「あ、イノセントアームズです」
「命の恩人のシュウヤ殿は、そのイノセントアームズのリーダーですか?」
「そうなります」
俺の言葉にキッカさんは数回頷いた。
その度に、黒色と血色の髪に陽が射して、髪のコントラストが変わる。
桃色、橙色、濃厚な深紅、暗紅色。とにかく綺麗な髪だ。
そのキッカさんは胸元に手を当てて敬礼。
強い眼差しを寄越しつつ、もう一度頷く。自然と頷きを返した。
キッカさんは、
「シュウヤ殿、暫し、冒険者ギルドマスターの鎮魂の儀を行うから付き合ってください」
「分かりました」
そのキッカさんは、また微かに頷く。
と、半身退いた。
仲間たちを見てから、網の浮遊岩を見るように周囲を見渡す。
そして、魔塔の斜め上を見ながら、
「……網の浮遊岩で暮らし育っていた無数の犠牲者と、散った戦友たちに、黙祷――」
傍にいる茶髪の女性が敬礼して、
「黙祷――」
俺たちも黙祷。思わず十字を胸元に作る。
<光の授印>が反応したから、先に目を開けた。
すると、周囲に淡い幻想的な天道虫たちが出現していた。
空を舞う天道虫は消えていく。
キッカさんたちも黙祷を終えた。
キッカさんは、俺の<光の授印>の明かりに気付いたように胸元を見て、周囲の天道虫を不思議そうに眺めてから、
「シュウヤ殿、ミレイヴァルさんから少し話を聞いていましたが、光神ルロディス様にも通じているのですね……」
「はい」
「<血魔力>といいシュウヤ殿と個人的に話がしたい……ですが、今は鎮魂の儀を進めます」
「どうぞ」
力強く頷いたキッカさん。
――速やかに鞘から魔剣を引き抜くや、魔剣の切っ先を陽に差し向けた。
剣に刻まれた魔印が輝く。
更に、魔力が濃い窪みの線から血が湧く。
血は刃文を表現しつつ剣の表面を流れて剣身の端から滴り落ちるが、その血は途中で美しく輝きを放ちながら大気に散った。
不思議と血は地面に落ちない。キッカさんは血が滴る魔剣を凝視。
頷いた。そして、
「塔烈中立都市セナアプアの冒険者ギルドマスターのキッカ・マヨハルトが今、この場で宣言しよう! シュウヤ殿が率いる『イノセントアームズ』の活躍でラ・ディウスマントルとその眷属モンスターは討伐された! シュウヤ殿たちと『イノセントアームズ』は〝網の浮遊岩の解放者〟となる!」
「「網の浮遊岩の解放者!!」」
キッカさんたちが一斉に叫んだ。
「「ディウスマンダー、ディラバイラン、モヴァディアルの群れは、もうここには出現しない!」」
網の浮遊岩の解放者か。
女侯爵シャルドネからもらった指輪の
「そうだ! 真の英傑たちがイノセントアームズである! そして、戦友の仇と犠牲者の無念を晴らしてくれた英傑たちに強い感謝を――」
大きな声で感謝をしてくれた。
続いて、
「「感謝を――」」
「本物の英傑『イノセントアームズ』に幸あれ」
「「幸あれ」」
「讃えよう! 網の浮遊岩の解放者を! 英傑たちを! イノセントアームズを!」
「「讃えよう、イノセントアームズ!」」
「ラ・ディウスマントルの討伐おめでとう! そして、ありがとう」
「「おめでとう! ありがとう!」」
キッカさんたちの熱意溢れる気合い声。その勢いに照れる。
思わず、ヴィーネ、レベッカ、キサラ、エヴァ、ミスティ、ビーサ、ディアの顔を見た。皆も照れているようだ。
可愛い頬の色合いに朱色が多くなる。
「お兄様……英雄様……」
ディアは照れではなくデレたままか。
そのディアは急におろおろ。
視線を斜めに傾けてから、またすぐに俺を見てくると、
「きゃ」
と可愛い声を発して、なぜか顔をまた逸らす。
乙女心か?
分からん。
すると、先ほどと同じくミスティとエヴァが微笑みながらディアになにか耳打ちを始めていた。ディアは数回頷きつつ、俺を凝視。
少し眼鏡がズレていた。
眼鏡っ娘は可愛い。
ミスティの眼鏡とは大きさが違う。
少し遅れて、ヴィーネを見た。
すぐに冷静な表情となると、キッカさんと、そのパーティメンバーの観察を強めていた。
ヴィーネの聡明な秘書スタイルは素敵だ。
俺はキッカさんたちに向けて、
「ラ・ディウスマントルは完全な状態ではなかったようですが、無事に倒せてよかったです」
そう発言すると、キッカさんは眉を動かし、
「ラ・ディウスマントルの状態を知るということは、シュウヤ殿は上院評議員のネドーと知り合いだったのですか?」
「知り合いではありません。ネドーを潰した側です。世話人ガルファさんから分霊秘奥箱のことは聞いています」
「闇ギルド【白鯨の血長耳】の世話人ガルファ殿と知り合いだったのですね」
キッカさんはレベッカとヴィーネを見て、
「エルフの女性と肌の色が珍しいエルフの女性は血長耳の幹部でもある? あ、シュウヤ殿は闇の手合いの仕事も?」
「闇の手合いといいますか……【白鯨の血長耳】に所属はしていませんが、俺は【天凜の月】の総長だったりします。エルフのレベッカもダークエルフのヴィーネも【天凜の月】。ディア以外の皆がそうです。同時に、皆、冒険者パーティのイノセントアームズのメンバーでもある」
キッカさんは驚く。
同時に俺の足下に戻っていた
「黒猫……槍使い……」
呟くキッカさん。
「そういうことか!」
「噂に聞く……槍使いと黒猫……」
そのタイミングで俺の肩に乗った
「にゃおぉ」
ドヤ顔で鳴いた。
「その通り」
「強者の槍使い。そして、【天凜の月】と【白鯨の血長耳】の繋がりを意味する【血月布武】の名は聞いたことがあります」
「はい。ですから、エセルハードの【白鯨の血長耳】の緊急幹部会で、ガルファさんから『シュウヤ殿に、烈戒の浮遊岩の乱を鎮めてもらいたい』と言われまして、了承しました。そして、ついこの間、その騒乱の元となった烈戒の浮遊岩に向かい、魔人と会い、烈戒の浮遊岩の問題を解決。ですから、残り二つの浮遊岩の乱についてもガルファさんから聞いていたんです」
「そうでしたか。といいますか、烈戒の浮遊岩の乱を鎮めたのですか?」
「はい」
キッカさんは口をぽかーんと小さく開けたままだ。
冒険者の仲間たちも、皆驚く。
まさに、鳩が豆鉄砲を食ったよう。
「キッカさんも闇ギルドの【白鯨の血長耳】と繋がりが?」
そう聞くと神妙な顔付きで頷いた。
キッカさんは、
「は、はい。総長レザライサ、世話人ガルファ、軍曹メリチェグ、戦闘妖精クリドスス、魔弓ソリアード、魔速断レレイ、鉄鎖エキュサル、法霊魔ヴェガ、短魔斧ベベサッサなど、過去には色々とあったのです」
最高幹部たちの名か。
あまり知らない名があるが、エセルハードの戦いで活躍していた方々かな。
この場にいるキサラ、レベッカ、エヴァは何人か知っているはず。
「世話人ガルファさんとは、この網の浮遊岩の件で、事前に話し合いが?」
「はい、ありました。世話人は……」
『完全ではないが、ラ・ディウスマントルは魔界セブドラの諸侯に連なる存在と聞く。然しもの冒険者たちでも討伐できるのか疑問だ。我らと関わる【魔術総武会】のセナアプア支部の争いが終わるのを待ち、素直に、大魔術師アキエ・エニグマか、大魔術師ガレルハンの力を借りるべきだと思うがの……冒険者のみで倒せる存在だとしても時間はかかるであろう』
「と、忠告をしてくれました」
「ガルファさんらしい言葉です」
「はい。しかし、網の浮遊岩から出たモンスターが周辺地域に進出する事件が多発」
頷いた。
「【血銀昆虫の街】には魔界セブドラの神々を信仰する宗教団体も多いと聞きます」
と発言すると、頷いたキッカさん。
「そうです。【テーバロンテの償い】と【血印の使徒】の邪教が早速反応して争いあっていたように、ラ・ディウスマントルと連係を取る団体が出現していたら、塔烈中立都市セナアプアは混乱を深めたでしょう。ですから、モンスターを大量に生成可能なラ・ディウスマントルを早々に倒すべく、わたしたちがギルド側の【ギルド請負人】として、他の冒険者たちと一緒に、網の浮遊岩の解放を目指す緊急依頼に参加していました」
キッカさんの言葉に頷いた。
キッカさんのパーティメンバーも頷く。
そして、
「シュウヤ殿が倒して、わたしたちが苦戦した災厄級のラ・ディウスマントルですが、実は他にも、分体のラ・ディウスマントルがいたんです」
転移とは別の分身がいたのか。
「その分体はネドーが用意した分霊秘奥箱と関係が?」
「今となっては分かりませんが、ラ・ディウスマントルの能力かも知れません」
「その分体はキッカさんたちが倒した?」
「はい。他の眷属モンスターのディウスマンダー、ディラバイラン、モヴァディアルなども倒しました」
キッカさんは凄腕と分かる。
血の滴る魔剣、血の魔剣が気になる。
俺の視線を感じたキッカさんは微笑むと、鞘を触ってから、俺を見て、
「しかし、その分体を調子よく倒し続けて強行突破したことが判断を誤ることに……わたしたちが倒したラ・ディウスマントルの分体とは異なり……本体のラ・ディウスマントルは異常な強さでした。冷気を帯びた魔力の奇襲を浴びたAランクの冒険者パーティが一瞬で全滅したのです」
「あの暗黒魔力の奇襲は怖い」
「はい。しかも一瞬で、そのAランク冒険者たちがディウスマンダーの亜種に変化。わたしたちに襲い掛かってきた」
え、仲間が一瞬でモンスター化とか……。
洗脳なら分かるが、怖すぎる。
モンスター化の攻撃は暗黒魔力の……。
<闇冷覇転魔>か?
<闇冷魔蜘蛛槍>を喰らうと蜘蛛化?
<闇冷烈炎獄弩槍>を喰らっていたらどうなっていたんだろう。
キッカさんのパーティメンバーも、
「キッカの言うとおり、【剣烈マッジ】は油断していたわけではないからね。あ、わたしの名はサンよ。通称二魔刀のサン」
茶色の髪の女性。
二刀流の使い手の名はサンさんか。
「俺はハカです。お見知り置きを」
「わたしはエミア。副ギルドマスターの一人。因みに、もう一人いる副ギルドマスターは下界の冒険者ギルドに待機中よ」
エミアさんも美形だ。
金色の髪に赤いリボンがある。
魔法使い系、大魔術師のような存在だろうか。
腰ベルトと連結したポーチと箱には色々なアイテムが入っている。
肩から覗かせる背負い袋は近未来的な魔機械のアイテム。
中世のローブと未来的な装備が似合う。
背中の魔機械は貝殻が密集したような鱗金属だが、やはり、エセル界の品物だろうか。
あ、ミスティに修理を頼んだエセルジャッジメント魔貝噴射と似たような空を飛翔できる魔機械かも知れない。
「俺はドミタス」
ドミタスさんは白髪でかなり渋い顔。
その皆さんに、
「よろしくお願いします」
一礼。
そして、眷属たちとディアとビーサに視線を向けて、
「皆も挨拶を」
「「はい」」
「了解」
「ん」
と<
「なら、はじめはわたしから! 冒険者&【天凜の月】でも活動中のレベッカです。シュウヤの<
「同じく、名はヴィーネ。<
「わたしの名はビーサ。後頭部の器官で分かると思いますが、人族ではありません。魔族でもない。宇宙の彼方に存在する他の惑星出身。そして、
ビーサは腰のラービアンソードの柄に指を当ててアピール。
隣のキサラはダモアヌンの魔槍をサッと伸ばし、髑髏の穂先に<血魔力>を集結させる。
「わたしの名はキサラ。<
「ん、エヴァです。冒険者。<
「わたしの名はミスティです。【天凜の月】は少しだけ手伝ったことがある。冒険者と講師でもあります。そして、
「あっ、えっと、ディアです。魔法学院ロンベルジュの生徒です。冒険者カードはあります」
皆が自己紹介。
キサラを注視したキッカさん。
「皆さん、よろしく。そして、【天凜の月】の四天魔女! 噂は副長メルの名と共に聞いていました。大魔術師アキエ・エニグマと戦ったことも聞きました」
「はい。わたしも冒険者ギルドマスターが吸血能力がある凄腕の魔剣師だと聞いていました」
「その通り、わたしはヴァンパイアハーフ。忌み嫌われることの多い魔族側」
「ご安心を、シュウヤ様を見たのなら分かると思いますが、わたしたちも吸血能力を有し、魔族の一面を持ちますから」
「魔族の一面……」
キッカさんはキサラのアイマスクから覗く蒼い双眸を凝視。
ニコッとしたキッカさん。
白絹のような髪を揺らすキサラも微笑む。
修道服ではなく、ノースリーブの黒衣装。
二人は美人さんだから、絵になる。
すると、大魔術師っぽいエミアさんが、
「話を邪魔するようで悪いが、キッカ、そこの【幻瞑封石室】が開いたまま安定しているのは、どういうこと?」
「さぁ、分からない」
センティアの部屋の隣にある石室か。
「分からないのか。なら、あの隙間から覗く異界が噂に聞く【幻瞑暗黒回廊】なのか?」
「たぶんだが、【幻瞑暗黒回廊】だろう」
「【幻瞑封石室】が安定しているなら
エミアさんは手元に四角い石板を召喚。
石板は掌の大きさで、印籠的。
表に五行の陣のような模様も記されていた。
キッカさんは、微かに頷いた。
「あぁ、今は……大丈夫だと思う」
そう語ると……。
再び【幻瞑封石室】の石室のほうをチラッと見てから隣のセンティアの部屋を見る。
キッカさんは思案顔。
冒険者ギルドマスターとしての顔色。
美人さんだから、その顔色もいい!
そんな美しい顔のある頭部を微かに左右に振ってエミアさんと視線を合わせると、
「エミア、その件は後回しでいいだろう。が、エミアとドミタス。ラ・ディウスマントルが、あの【幻瞑封石室】に何かを仕組んだかも知れない。そして、【幻瞑暗黒回廊】から何か出現するかも知れないからな。注視を続けてくれ」
「了解」
「分かった。ま、魔槍使いでありつつ<召喚術>や王級の魔法も扱えるとんでもない高度な戦闘職業を持つと推測できる英雄のシュウヤ殿が興味を示していない時点でな? その【幻瞑封石室】は大丈夫だろ。それよりも、となりにある巨大な箱のような部屋が気になる」
そう発言したのは、おっさん。
ドミタスさんだ。
腰にメイスをぶら下げている。
先端の鋼の球体には複数の刃の粒が付着している。
虹色の鎖帷子の上に薄いシースルー系の魔法衣装を羽織る。
戦闘職業は不明。
そして、体内魔力の操作が巧み。
<魔闘術>は完全に達人の域か。
かなりの強者だ。
さて、冒険者カードの依頼について、ついでに聞いてみるか。
「キッカさん。実は網の浮遊岩に関する依頼は冒険者ギルドで受けていないんです」
「ではどうして、あ、ならば、網の浮遊岩の乱の緊急依頼を受けていたことにしましょう。冒険者カードはありますか? なくとも今、この場で渡しますが」
お、あっさりと可能になった。
「あります。ビーサはないのでお願いします」
速やかにアイテムボックスから――。
ギルドカードを召喚してキッカさんに手渡した。
キッカさんは俺の冒険者カードを見て、
「分かりました。そして、シュウヤ殿の……依頼達成数は五十四。【天凜の月】の総長でありながらもそれなりに経験を踏まれているようだ……分かりました。皆さんのカードもください」
皆、冒険者カードを取り出して、キッカさんに手渡す。キッカさんは「たしかに。ビーサさんはこちらで用意します」と発言してから、
「エミア。聖ギルド連盟のギルド憲章を用意。そして、今、この場でギルマス権限を発動する。皆、それぞれの憲章オリミールを出せ」
ギルドマスターらしい口調だ。
同時に、小声でレベッカがビーサに冒険者カードのことを説明。魔塔ゲルハットである程度聞いていたようだ。
エミアさんは、
「うん。皆の思いを憲章オリミールに込めましょう。滅多にない機会だし、いいわね、皆」
エミアさんがそう発言。
「勿論だ」
「当然だろう」
「うん」
すると、【ギルド請負人】たちはキッカさんを中心に円陣を組む。
「副ギルドマスター、エミア・ゼピィルス。憲章オリミール・珠玉守――」
「ギルド裏仕事人、サン・ジェラルド。憲章オリミール・珠斬攻――」
「ギルド裏仕事人、ハカ・ヨミラン。憲章オリミール・珠目罰――」
「ギルド裏仕事人、ドミタス・ラオンイングラハム。憲章オリミール・珠守樹――」
キッカさんも懐から――ガイガーカウンター的なアイテムを出す。
先端に、小さく欠けた水晶玉が付いている。
大きさは名刺ぐらいの大きさ。
憲章オリミールか。
皆、その憲章オリミールを突き合わせた。
先端の欠けた水晶同士が合わさると、一つの星座が記された水晶玉となった。
「秩序の神オリミール様に感謝を――ギルドマスター権限発動――<聖刻星印・ギルド長>」
水晶玉から秩序の神オリミール様を意味するっぽい星座を差す魔力が真上に迸る。
魔塔を突き抜けた光の魔力。
すぐに収斂して小さい焔となった。
キッカさんは、焔に俺の銀色のカードを載せると、瞬時に俺の銀色のカードが燃えて溶けた。続けて皆のカードも焔に付けた瞬間に溶けた。
溶けた物質は極彩色に変化。その虹色の物質は、真上に光を放つと、星々と通じたように憲章オリミールの焔が強まった。
刹那、虹色の物質は複数の黄金のカードに変化し、銀色のカードが一枚となった。
同時に憲章オリミールの水晶玉から出ていた焔が消える。
「「おぉ」」
皆、驚く。俺も驚いた。
キッカさんたちは素早く憲章オリミールを引いて懐に戻した。
キッカさんは俺の黄金のカードを掴むと、渡してくれた。皆にも黄金のカードを手渡していった。
その冒険者カードを確認。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:網の浮遊岩の解放者:など複数。
種族:人族:??
職業:冒険者Aランク
所属:なし
戦闘職業:槍武奏:鎖使い
達成依頼:60
冒険者Aランクに変化。
依頼達成数が五十四から六十に増えていた。
おお、俺はついに冒険者Aランクに……。
「ん、Aランクになった!」
「わたしも!」
「濃厚な魔力を内包した黄金素材のカードを生成……レア金属、セブンズシロンと似た魔鋼か。あの水晶を有した魔機械は白金などの高エネルギー魔粒子を増幅させることに特化した魔造レプリケーター? あ、神々ならばシャーマン系の能力の可能性もあるのか。しかし、わたしも貴重な素材と推測できる黄金素材のカードをいただいていいのでしょうか」
「気にするなビーサ。俺の弟子なんだからな」
「はい! ナ・パーム・ド・フォド・ガトランス!」
「……ビーサさんのそれはラ・ケラーダ的な挨拶なのよね」
「ふふ、はい」
「冒険者ギルドと冒険者カードって、昔から極自然に存在しているからあまり意識していなかったけど、瞬時にギルドカードを生成できるのは知らなかったわ」
レベッカがそう発言。
ヴィーネ、エヴァ、キサラも頷いていた。
キッカさんとエミアさんは、
「聖ギルド連盟と関連したギルドマスターと副ギルドマスターなら、憲章オリミールを大概は持っていますので、造作もないことです。ただし、今回は例外だと思ってください」
「へぇ、納得。これでディア以外は皆Aになったようね」
「え、わたし、EランクだったのにBランクに……大丈夫なのでしょうか」
「ふふ、ま、いいんじゃない? 元々成績優秀。実際にラ・ディウスマントルの眷属モンスターを倒す皆の傍にいたし。そして、魔法学院ロンベルジュの冒険者の試験成績がトップクラスになることは確実」
「それはそれで他に打ち込めるので嬉しいですが……」
「いいのいいの。これからがんばったら色々と経験を踏めるわ」
ディアに話をするミスティは講師らしい。
そして、キッカさんが、
「おめでとうございます! シュウヤ殿たちは緊急依頼を成し遂げた!」
「おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
エミアさん、サンさん、ハカさん、ドミタスさんがそう言ってくれた。
俺も、
「こちらこそありがとうございました、セナアプアの冒険者ギルドの方々。正直ランクアップは嬉しい」
アキレス師匠……。
「やったわね。成長した感がぐっと出た」
「ん! 嬉しい!」
「はい。ユイたちにも受けさせて上げさせてあげたかった」
「それはそうだな」
「あ、シュウヤ殿。まだ仲間がいるのでしたら、特例で、のちほど冒険者ギルドに来ていただければ、事務のほうで手続きを済ませておきますので」
「「おお」」
「ん、ふとっぱら」
「うん。でも、キッカさんたち、魔力を消費したように見えたけど、大丈夫なのよね?」
「大丈夫です」
「はい。ポーションを飲めば済みますから」
「そっか、なら良かった」
レベッカはまたカードを見る。
ニヤニヤしていた。
が、すぐに誇らし気な顔付きになる。
さて、キッカさんに視線を向けた。
「個人的な話というのは……」
「……時間は大丈夫でしょうか」
「大丈夫です。俺もキッカさんが気になる」
「あ、ふふ、それは嬉しい……」
皆から一瞬殺気染みた感覚が背中に走るが、
「皆、少しキッカさんと個人的な会話をしてくる」
「……ちょっとぉ? わたしも個人的な話があるんだけど」
蒼炎ハンマーを浮かべるレベッカさん。ツッコミ待ちでワクワクしたような面だ。
気持ちは分かる。
「ん、わたしも」
「はい、シュウヤ様、わたしも」
「ご主人様、わたしも付いていきます」
「ふふ、皆も同じ気持ちね。夜王の傘セイヴァルトを見ているから」
「ん」
「はい、リフルが管轄していた魔迷宮にあったアイテムは二つ」
「そうそう」
皆の言葉を聞いたレベッカさんは蒼炎ハンマーを仕舞うと、
「うん。ヴァンパイアハーフと光魔ルシヴァルの繋がりは皆が気にしている。あと、シュウヤはスケベだから、ぜったい、怪しいことになるからね」
ごもっとも!
「ということで、キッカさん、怪しいことをしに――」
スコーンッと後頭部にスリッパ的な快音が走る。
「ふふ、ひさしぶりに決まった」
レベッカさんのカリッとサクッと
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