七百七十五話 【天凛の月】の新しいメンバー

 カットマギーは頷いた。

 魔の右腕を連れてきた方々に向けて、


「昔からの知り合いさ。そして、皆。この黒髪の端正な顔を持つ槍使いが、わたしの宿命を取り除いてくれた偉大な盟主様だよ。さ、挨拶を」


 そう発言。

 そのカットマギーの魔の右腕の甲から魔剣アガヌリスの柄頭が見える。

 

 カットマギーが連れてきた方々が頷いた。

 その中で頭髪と髭がワイルドなドワーフが、


「ふむ!」


 気合い溢れる声を発して俺を凝視。

 厳つい顔付きで、ずんぐりむっくり感のある体型。

 が、若干、首と肩の骨格は他のドワーフと異なるか。


 耳は小さい。形は餃子とは違う。武人ハンカイの耳とは違う。

 ザガやボンの耳の形とも違う。ペグワースとも違うか。


 古代ドワーフの大魔術師ガレルハンさんも、耳の形が異なる。


 サイデイルの農業担当のドナガンと近いか。

 ヒッピア・モリモンにも近いかな。


 そのワイルドな髭を持つザ・ドワーフは、

 

「【天凜の月】の盟主様! わしは、アグアリッツ族ハドラゼンの息子ザフバン! ここらではザフバン・アグアリッツと名乗っている。よろしく頼む!」


 アグアリッツ族のザフバンさんか。

 蓄えた髭を胸元で畳むように頭を下げてきた。


 ザフバンさんに続いて他の方々も頭を下げる。

 礼儀正しい客人たちだ。俺も心を正すように――。

 拱手を行ってから、頭を下げた。 

 

 そして、俄に頭を上げてから、


「ザフバンさんとカットマギーの客人さんたち。魔塔ゲルハットにようこそ。俺が【天凜の月】の盟主。名はシュウヤ。渾名は槍使いです」


 カットマギーの連れの方々は、各自頷いた。

 すると、女性エルフの騎士さんが、


「お目にかかれて光栄です。【天凜の月】の盟主様――」


 と挨拶しつつ片膝で床を突く。


「同じく、盟主様、初めまして――」

「初めまして、【天凜の月】の盟主様――」


 戦士姿のエルフの男性と小柄獣人ノイルランナーも片膝で床を突いた。


 ドワーフの二人組も頷き合うと、フライパンを足下に置いて、


「ふむ、皆も覚悟を決めていたようだな」

「はい、そのようです」


 ザフバンさんと、女性ドワーフがそう語る。

 二人とも革の鎧とエプロンが似合う。


 その女性ドワーフが、


「わたしも名乗らせてもらいます! あっ、よろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

「ふふ、では! アグアリッツ族トミアカンの娘フクラン! 名はフクラン・アグアリッツです。【天凛の月】の盟主、シュウヤ様、よろしくお願いします!」


 笑みを送ってから、


「よろしく、フクランさん」


 ミエさんとは、また違うドワーフの女性がフクランさん。

 エプロンもザフバンさんとは異なって女性らしい花柄模様がある。


 そんな女性らしいエプロンの下には、黒色の防護服を着ているようだ。

 小柄獣人ノイルランナーが着ているものと似た忍者風の防護服。

 

 腰ベルトには包丁と刀が差してある。


 カットマギーは、そのザフバンさんとフクランさんを見て、


「見ての通り、ザフバンとフクランは夫婦。【アグアリッツの宿屋】を営んでいた」

「そうだ。店は畳んだ」

「その宿屋は、狂言の魔剣師の通り名のわたしが利用していた宿でもある。利用できた、貴重な宿と言えばいいのかな……あと、皆と知り合ったのは、わたしが狂言教と関わる前だったりする」

「へぇ」


 狂言教に染まる前の知り合いか。

 過去話にもあったが、東のサーマリア王国など、各地を放浪していたカットマギー。


 ザフバンさんとフクランさんは頷いた。


 片膝を突けて頭を下げていた小柄獣人ノイルランナーとエルフの戦士と騎士の方も頷いた。


 ザフバンさんは、


「おう! 再会した時には、チキチキバンバンと喋るようになっていたから、病気になってしまったと不愍(ふびん)におもうてな」

「最近は、ブツブツと嗤うような声も少なくなったので、逆に不気味なんですが……」


 女性ドワーフのフクランさんがカットマギーを見て語っていた。

 カットマギーの連れの全員が頷く。


 カットマギーは恥ずかしそうな表情を浮かべつつ、自らの首筋を魔の右腕で掻いていた。


 そのカットマギーは、


「ケケケッていう嗤いかい? もうその下りは説明したろう?」

「うん。けどね……」

「フクラン。それよりも、シュウヤ様にわしらのことを伝えよう」

「はい、ザフバン」


 ザフバンさんとフクランさんは頷き合う。

 そして、両者は、


「シュウヤ様。わしらは、カットマギーが言ったように、【アグアリッツの宿屋】という名の小さい店を上界に持っていた。料理人でもあるのだ。戦闘職業は<庖宰鍋釜師>である。で、あるからして、正式に【天凜の月】に加入を申し込みたい!」

「はい! わたしは旦那のザフバンの調理補佐と【アグアリッツの宿屋】の管理を担当していました。戦闘職業は<泡魔・隠包丁>。旦那とわたしも戦闘が可能です」


 店を畳んでくるなんて聞いていないが……。

 

 思わずカットマギーを凝視。


 カットマギーは『頼む』と言うような面を見せて、片手を上げていた。


 表情で語るカットマギー。

 俺も笑みで応えた。

 メルのように両手で鋏を造るようなポーズは取らない。


 ザフバンさんとフクランさんに向けて、


「<従者長>のカットマギーが連れてきた皆だ。喜んで【天凜の月】に迎えよう。そして、俺のことは、気軽にシュウヤと呼んでくれて構わない。本来は冒険者なんだ」

「はい、ご主人様は【イノセントアームズ】のパーティリーダーでもある」

「そう、わたしたちもメンバーよ、結成は迷宮都市ペルネーテ」

「はい、わたしたちの主力武器と防具は、その迷宮都市ペルネーテにある魔宝地図から出現した銀箱や金箱から得た物が多い」

「ん、シュウヤに助けられた出会いは忘れない」

「うん、懐かしい」


 皆、微笑む。

 ビーサは真剣な表情で聞いている。

 ミレイヴァルは仰々しく頭を下げているエルフと小柄獣人ノイルランナーを凝視中。


 すると、


「ありがたい言葉だ。皆々様、よろしく頼む。そして、気軽に盟主様を呼び捨てには、さすがにできん!」

「わたしもできません。シュウヤ様か盟主様とお呼びしても?」

「いいよ。なんならシュウヤやんでも」

「ぷ」


 とレベッカが笑った。

 ははは。


「やん? では、盟主様とお呼びします! わたしの名はフクランと!」

「わしは、盟主様か、盟主殿、または、シュウヤ殿と呼ばせてもらう」

「おう。ザフバンとフクラン、よろしく。で、やんは冗談だ。レベッカが調子よく語る時にそんな風に呼ぶからな」


 レベッカは細い腰に両の掌を置いていた。


「ふふん~」

「ん、シュウヤやんって、なんか可愛い」

「エヴァ、照れるから止してくれ」

「ふふ――」


 エヴァは、俺の右肩に頬を寄せてきた。

 そのエヴァの笑みと頬の感触に黒髪から漂ういい匂い、それらに胸がきゅっと高鳴ったのを隠すように――。


 ヴィーネとキサラに視線を向ける。

 そんな俺の心を読んでいるエヴァは、俺の右手をギュッと握りつつ「ん、シュウヤ。リツさんの髪薬が好き?」と聞いてくるから、「お、おう。エヴァの髪ならなんでも好きだ」と言ったら、「ん、知ってる!」と右腕をおっぱいで押さえてきた。たまらん!


「ちょっと、エヴァっ子!」

 

 レベッカもエヴァに対抗して身を寄せてきた。

 エヴァとも離れて、左足を半身後退。

 レベッカの体をスルー――。

 

 が、左手を強引に掴まれた。

 

「ふふん、爪先半回転はさせないから! 左手をゲット!」

「降参だ」


 左手をレベッカの好きなようにさせた。


『ぐぬぬ、レベッカめが、妾たちも振り回すつもりか!』

『ふふ、器様も喜んでいる様子ですから、我慢ですよ』

『楽しい~♪』

「ふふ、シュウヤ様、新しい仲間の誕生ですね」

「ご主人様、おめでとうございます」

「おう」


 そこで、ザフバンたちに、


「ザフバンとフクラン。この魔塔ゲルハットは、入手したばかりで、施設の詳細は植物園を少し見た程度で、まだ知らないことが多い。皆のほうが知っているぐらいだ」


 ユイ、レベッカ、エヴァ、キサラ、ヴィーネは頷く。

 レベッカとエヴァは地下を色々と見て回って、ヴィーネとキサラは地下のコアを見たようだ。

 

 ザフバンは、


「カットマギーから聞いている。一応、一階と二階の各部屋は見させてもらった」

「おう、なら話は早い。部屋と施設は無数に存在する。ザフバンとフクランは大事な店を畳んだのなら、この魔塔ゲルハットでその店を再開したらいい。あと、【天凜の月】には、副長メルがいる。現在、副長メルは、迷宮都市ペルネーテを中心に活動しているんだ。黒猫海賊団もある。ホルカーバムには、<従者長>のカルード、ソレグレン派の吸血鬼でもあるポルセンとアンジェがいる。カルードはユイの父だ。覚えておいてくれ。そして、上界にある【宿り月】を用意したのは、その副長たちの功績でもあるんだ」


 キサラたちもいたからこそだが。


 頷いているザフバンとフクラン。

 

 ザフバンは、


「副長メル殿か、覚えておこう。そして、店の再開は考えていない。今は、【天凛の月】の料理番の末席として、がんばるつもりだ。中庭を掃除する担当でもいい。とにかく【天凛の月】に協力しよう」

「はい、わたしもザフバンと一緒に盟主様と【天凜の月】に貢献したい思いです」


 ありがたい。


「二人ともありがとう。掃除は大丈夫。知っていると思うが、この魔塔ゲルハットには、不思議なアギトナリラとナリラフリラの管理人がいるんだ。メンテナンスは任せていいだろう」

「分かった」

「はい、あの小人たちですね。ちゃんと話ができる方々だったのですね」


 フクランの言葉に頷いた。


「そのアギトナリラとナリラフリラの管理人に聞けば、たぶん、厨房の施設があるところに案内はしてくれる? と思う」

「了解した。中庭や一階のホールで掃除をしていた小人のような存在たちか。わしたちを無視していたが……」


 ザフバンはそう語る。


「無視か。実は、俺もよく分かっていないんだ、管理人たちのことは」


 アギトナリラとナリラフリラの管理人は俺たちには普通に接してくれているが、客人はスルーなのか?

 

 一応、ヴィーネたちに視線を向ける。


「管理人については、正直、分かりかねます」

「はい。関係しているだろう魔塔ゲルハットのコアの一つを拝見しましたが、魔塔ゲルハットの地下の岩盤といい、不思議なことだらけです」


 聡明なヴィーネとキサラがそう語る。

 クレインじゃないが、『然もありなん』だ。


「コアか。地下の試作型魔白滅皇高炉は楽しみだ。ということで、ザフバンとフクラン、一階と二階の吹き抜けには【魔術総武会】のカフェテリアの店があった名残がある。もし店を再開する気になったら、その一階で再開したらいい」

「あい分かった! 今は、この魔塔のことを学ばせてもらおう」

「はい!」


 快活な二人を見ていると、友のザガ&ボンを想起する。


 ペルネーテに帰ったら……。

 いや、【幻瞑暗黒回廊】を優先しようか。


「ご主人様。中庭にも空間が沢山あります。<邪王の樹>を用いての建設も可能かと」

「サイデイル的には造らない。造るとしたら、ペルネーテの自宅にあるアジュール用の小屋ぐらいのものか。ま、基本は、この魔塔ゲルハットの施設を有効活用しよう」

「分かりました。中庭には、魔法の射撃場を兼ねた訓練場もあります」


 訓練場か。

 ざっと見た時には分からなかったが。


 そして、先ほどからずっと黙りの小柄獣人ノイルランナーとエルフの戦士さんと騎士さんが気になった。


 その恐縮していそうな三人を見てから、カットマギーをチラッと見る。


 カットマギーは頷いて、


「ラタ・ナリとラピスにクトアンも同じさ。わたしと近い職業だから、闇ギルドの人材には合う」

「分かった」

「ほら、三人とも、萎縮せず、【天凜の月】の盟主、総長に、挨拶をするんだ」


 カットマギーはそう話を促した。

 

 小柄獣人ノイルランナーを注視。その小柄獣人ノイルランナーが頭部を下げて、


「――【天凛の月】の盟主様。俺はラタ・ナリと申す。見ての通り小柄獣人ノイルランナーである。そして、魔棍棒太刀魚タチウオを扱う。飛行術も扱える」


 顔を晒したラタ・ナリさん。

 尻尾から小柄獣人ノイルランナーだと分かるが……。


 顔はオフィーリアと同じ系統か。

 

 人族の血が濃いようで、毛並みは薄い。

 が、右瞼と右顎が少し削れていて、少し迫力がある。


「ラタ・ナリさん、よろしく。カットマギーと暗殺業を一緒にこなしていた方でしょうか」

「はい。しかしながら、その暗殺業は昔の昔。【アグアリッツの宿屋】の用心棒の仕事歴のほうが長いのです。そして、皆と同じく【天凛の月】の末席に加えていただきたい」


 そう語ると、忍者っぽい衣装が少しはだけた。

 腰の前が少したるんで、ローブのようになる。


 胸元から黒装束を覗かせた。

 太股と腰の横は帯でキュッと締まる。

 ユイの戦闘服や外套とも違う。

 魔法使いや軽戦士が身に着けるような、珍しい鎖帷子系の衣装か。

 

 魔棍棒太刀魚か。

 柄は樹の茶色と肌色が多い。

 その柄には、黒い粒状のモノが無数に嵌まっている。

 錆漆法を用いたような模様で、すこぶる綺麗だ。


 柄の上部と下部には、太刀魚と名があるように魚の背鰭の長い意匠が、白銀色の輝きを放って目立ちつつ穂先と石突を囲う。


 その穂先と石突の中心には魔宝石のような黒い塊が嵌まっているようだ。


 黒い塊は、飾りではないだろう。

 石突は、魔槍杖の竜魔石のようで硬そうだ。


 あの黒い塊から魔法を飛ばせる?

 隠し剣氷の爪的なギミックがありそう。


「歓迎しよう。魔棍の使い手ですか。槍使いでもある?」

「はい。盟主様も先程仰っていましたが、噂で槍使いと聞いています」

「ンンン、にゃ~、にゃお~」


 背後から相棒の声が響く。

 ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の前で、律儀に俺たちを待っていたようだな。

 

 ラタ・ナリさんの足の匂いと、魔棍棒太刀魚の匂いを嗅いでは、ドワーフ夫婦とエルフの二人の匂いも嗅いでいた。


「匂いを嗅ぐことに夢中な黒猫は、俺の相棒だ。名はロロディーヌ。愛称はロロ」

「ンン――」


 相棒はザフバンとフクランの足へと順繰りに頭を衝突させる。


 そして、俺を敬う体勢の女性エルフと男性エルフの長い耳の匂いを嗅ぎ始めた。

 

 長い耳を嗅がれたエルフたちは、くすぐったいような面を浮かべつつ我慢して、首下を震わせている。

 

 気持ちは分かる。

 相棒は耳たぶを甘噛みすることが好きだからな。


「相棒、匂いチェックはそのへんで仕舞いにして、戻ってこい」

「にゃお~」


 黒猫ロロは肩に戻ってきた。

 黒猫ロロの様子をにこやかに見ているエルフたちを見て、


「君たちも、俺たちの【天凛の月】に加入を望むんだな?」

「はい、お願いします! わたしの名はラピスです。武器は槍が得意ですが、なんでも使えます。元は賞金稼ぎを兼ねた冒険者でした。過去カットマギーに命を救われた恩義があります。そして、ラタ・ナリとも暗殺の仕事で組んだことがあります」


 ラピスさんか。

 盾のないキッシュ的な印象。

 頬のマークは魔獣に乗ったエルフ。


 あまり見たことのない氏族のマーク。

 隣の男性エルフの頬には、亀のマークだ。


 その男性エルフは、


「俺の名はクトアン。王剣流、飛剣流などの剣術が得意です。皆と同じく、海賊と海賊の争いに巻きこまれてしまったところを、海商の用心棒の仕事をしていたカットマギーに救われた経験があります。そして、ラタ・ナリと同じく、【アグアリッツの宿屋】の用心棒の仕事をしていました」

「了解した。ラタ・ナリとラピスにクトアン。【天凛の月】に迎えよう」

「「「ありがとうございます」」」

「おう。もう仲間だ」

「仲間、嬉しい言葉だ。これで、仕事場を破壊した連中も手出しができなくなるだろう」

「うん。これでわたしも躊躇なく仇を追える土台を手に入れたことになる」


 ラピスさんがそう語る。

 

 右手に魔槍が出現。

 腕輪とベルトが光ったから、アイテムボックスか。


 <武器召喚>スキルかな。


 ミレイヴァルが反応して、聖槍シャルマッハを出していた。

 ラタ・ナリさんと同じく槍使いだし、気になるようだ。


 そのラピスさんは、片膝を床につけたまま、鎧の胸元に手を当て、


「では、宣誓をします! わたくし、ラピス・セヤルカ・テラメイ、古今の神界の神々セウロスホストにかけて、【天凛の月】に忠誠を、盟主のシュウヤ様に忠誠を誓います」

「同じく、宣誓を! このクトアン・アブラセル! 古今の神界の神々セウロスホストにかけて、【天凛の月】に忠誠を、盟主のシュウヤ様に忠誠を誓います」

「俺も宣誓を! このラタ・ナリ、戦神ヴァイス様に誓おう!! 【天凛の月】に忠誠を、盟主のシュウヤ様に忠誠を誓います!」

「わしも行う! 戦神ヴァイス様の名にかけて、アグアリッツ族ハドラゼンの息子ザフバンは、【天凛の月】に忠誠を、盟主殿のシュウヤ様に忠誠を誓う!」

「わたしも! アグアリッツ族トミアカンの娘フクラン! 戦神イシュルル様の名にかけて、【天凛の月】に忠誠を、盟主シュウヤ様に忠誠を誓います」


 皆からの忠誠はありがたい。

 礼儀には礼儀。


 ラ・ケラーダの想いを込めて――。

 左手に神槍ガンジス、右手に聖槍アロステを召喚。


「俺も誓おう。いかなる時も、アグアリッツ族ハドラゼンの息子ザフバンとアグアリッツ族トミアカンの娘フクラン、ラタ・ナリ、ラピス、クトアンに居場所を与え、名誉を汚すような奉仕を求めることはしない。そして、自由の精神と笑いの精神を大事にする。これを――」


 斜め上に穂先を掲げた。


「この神槍ガンジスと聖槍アロステと水神アクレシス様と光神ルロディス様に誓う」

『ふふ』


 神槍ガンジスと聖槍アロステに光が差した。


「ンン」


 肩の相棒も触手を伸ばした。

 触手の先端から骨剣がニュルッと出ると、神槍と聖槍の穂先と衝突。


 燕の形をした魔力の火花が散った。雪の結晶のような形の魔力に変化する切ない消え方で美しい。


 周囲から自然と拍手が出た。

 俺はパッと両手から武器を消す。


「にゃおおお~」


 相棒は皆の拍手を聞いて、調子に乗ったのか、燕の形をした魔力粒子の火花に向けて触手骨剣を突き出していた。

 

 動作は戯れる猫ソノモノ。

 

 だが、神々しさもあるという。


「ふふ、黒猫のロロちゃんだけど、神獣だと分かる光景よね。魔力の火花が綺麗」

「あぁ」


 ユイは肩にいる黒猫ロロの鼻先に指を当ててから、


「そして、幹部候補は大歓迎。皆、改めてよろしく」

「にゃお~」

「はい、よろしくお願いします」

「当然だ。最高幹部殿」

「ふむ。ユイ殿、メル殿によろしく伝えておいてくだされ」

「分かったわ」

「皆さん、おめでとう! そして、わたしも歓迎します」


 キサラもダモアヌンの魔槍を掲げた。


「ありがとうございます。貴女は、噂に聞く……【天凜の月】の最高幹部が一人、四天魔女のキサラ様ですね」

「はい! 偉大な光と闇の運び手ダモアヌンブリンガーで在らせられるシュウヤ様の<筆頭従者長選ばれし眷属>です」

「【天凜の月】は、神界と魔界の神々を信仰している黒魔女教団の勢力を取り込み、このセナアプアで、黒魔女教団の再建を果たすつもりなのですか?」


 そう聞いたのは、ラピス。


「どこだろうと、再建は果たすつもりだ。キサラとジュカさんがいるんだからな」

「シュウヤ様……」

「そうでしたか、分かりました」

「ほぉ? 教団については分からんが、カットマギーから聞いて眷属については知っている。皆、その光魔ルシヴァルの一族と関わる者たちなのだな」

「そうなる。ザフバンも、俺の眷属化を望むなら考えるぞ。ま、後回しとなるが」

「おお! 血の眷属となれば不死系の種族になることは聞いている。しかし、魅力的ではあるが……まだ【天凛の月】に入ったばかりだからな。それにわしの祖先たちの氏族を捨てることになるのは、な……」


 ザフバンがそう語ると、隣の小柄獣人ノイルランナーのラタ・ナリが、


「ドワーフらしい考えだ」

「ラタ・ナリとクトアンにラピスも、眷属化を望むなら考えるぞ」

「え、それは……」

「マジか。あ、いえ、今は遠慮しときます。【天凛の月】に入れただけでも命が繋がった現状がありますから」


 小柄獣人ノイルランナーのラタ・ナリとエルフ戦士のクトアン・アブラセルがそう語り合う。


 ラピスも、


「うん。盟主様とは出会ったばかり。こうして話をしてくれているだけで、ありがたいんだから、ね、ラタ、クトアン」

「あぁ、そうだとも」

「はい」


 ラタ・ナリとクトアンは頷いた。

 まぁ、エルフの美人さんが言うように、これからか。


 そのラピスは、


「盟主様。わたしたちの仕事と因縁絡みで、【天凛の月】に迷惑が掛かるかも知れないんです」


 ラピスはそんなことを語る。


「別にいい。カットマギーもそのつもりで連れてきたんだろ?」

「さすが盟主、ご名答。わたしが個人的に動けばいいんだけどね。しかし、個人でできることには限度がある。それに、元はと言えば、わたしも関わっているからねぇ……」

「聞かせてくれ」

「勿論さ、狂言教に染まったわたしを……狂ったわたしを見捨てず、陰で支えてくれていたんだ、皆が……」

「なに言ってんだ、わしたちは、お前に命を救われた過去があるんだ。当然だろう」


 ザフバンが語る。

 カットマギーは涙目だ。

 そのカットマギーは、


「ありがとう。セナアプアで、敵しかいない状況で大暴れが可能だったのは、皆のお陰だったのさ。勿論、評議会側が用意した双剣フゼルが表で活躍して、わたし自身はメイバルと組む仕事が多かったってのもあるがね。だが、わたしは暴れすぎた。わたしを狙う闇ギルドとチンピラたちが、ザフバンたちの宿屋への襲撃を開始した。だから、【天凛の月】に入れば、自ずと皆を救えると思ったんだ」


 皆は優しげに微笑む。

 狂言の魔剣師にも秘話があったと。


 悪にも悪になる理由があるんだよな。

 そのザフバンは、


「カットマギー、こうしてお前の厚意に甘える形だが、宿屋には色々とあるんだ。他にも【幽鬼狩り】と【外法狩り】に絡まれてな」

「わたしに絡んできた闇ギルド以外にも敵がいたのか」


 皆、頷いた。


「うん。わたしの因縁絡みもある」

「俺もだよ」

「俺もだ。暗殺業をやっていた。お前に救われた経緯は知っているだろうに」

「わしら夫婦にも商売敵はいる」

「はは、そうだったのかい」


 カットマギーの笑顔を見ると、どこか救われた気がする。

 すると、


「ンンン――」


 相棒の甲高い喉声だ。

 ユイの人差し指で遊んでいた。

 そのまま自らの頬を、ユイの人差し指で一生懸命に擦り出す。


 ザフバンの声に応えている?

 

 ま、歓迎しているんだろう。


「ん、幹部の人数が増えれば、わたしたちがセナアプアを離れることになっても安心できる」

「うん。【白鯨の血長耳】と【魔塔アッセルバインド】の同盟に、【髪結い床・幽銀門】と【夢取りタンモール】などの組織が加わるし」

「はい、メルも喜ぶはず。幹部候補が増えれば、あらゆる仕事がスムーズに運ぶ」

「しかし、まだまだ少数精鋭なのは否めないかと」


 エヴァ、レベッカ、ヴィーネ、キサラがそう語る。


「カリィとレンショウは言わずもがな、宿り月の鼬獣人グリリのトロコンは、あの世話人と揉めて生きていたんだから、相当な強さだろ?」

「うん。魔刀の腕は一流よ」


 ユイが発言。

 神鬼・霊風の握りを変えていた。

 同じような武器を扱うトロコンとは気が合うのかな。


 ラタ・ナリも少し顔色を変えた。


「ん、カリィとレンショウも敵が多いけど、強い。下界で【血長耳】と【魔塔アッセルバインド】と連携していた」

「ペレランドラの護衛に出ている【狂騒のカプリッチオ】も強いわ」

「はい、それはそうですが、強い幹部も個人でしかない。上界と下界に浮遊岩もある。この都市は、とても広いですからね」


 浮遊岩もなんだかんだいっていっぱいあるからなぁ。

 俺たちが権利を得た烈戒の浮遊岩もある。


「【闇の八巨星】グループの襲撃も考えておかないと」


 ユイがそう発言。

 頷いて、


「【テーバロンテの償い】と殺し屋の【八本指】か」

「はい。下界の【血銀昆虫の街】には【魔扉】とライカンの勢力も多い。ネドー側の残党もいるでしょう。【血銀昆虫の街】は倉庫街と港街と武術街に宗教街とも繋がる激戦区。【血長耳】と関係が深い下界管理委員会の指示で動く傭兵と賞金稼ぎに【ペニースールの従者】にも強者はいますが……まだまだ数は少ないと聞いています」


 ヴィーネの語ることはもっともだが、


「ま、その辺りは【白鯨の血長耳】と【魔塔アッセルバインド】にお任せだ。サキアグルの店主と繋がる【ローグアサシン連盟】もある。あ、新入りなら、猫好きビロユアンもいたはず。ビロユアンはどうした?」

「飛行術の魔法書の件でルシュパッド魔法学院に向かってくれている」

「うん。ルシュパッド魔法学院は、オーナーと【緑風艦】が潰れて混乱中と言っていたから、色々と融通が利くタイミングで、魔法学院の上級顧問と連絡を取るようよ」


 ユイとレベッカがそう語る。

 

 飛行術の魔法書が手に入るのは嬉しい。ロンベルジュとルシュパッドが【幻瞑暗黒回廊】で繋がっている可能性もある?


 ま、その件はこのあとだな。


「他にも、レフハーゲンの豪商五指の【不滅タークマリア】が持つ狂言教もいます。魔塔エセルハードでは、【不滅タークマリア】と狂言教の兵士たちも多かった」


 サーマリア王国のレフハーゲン。

 ムサカよりも東方の都市。

 

 しかし、狂言教か。

 自然と皆、カットマギーを見る。

 カットマギーは頷いた。


「【狂言教】と関わる【不滅タークマリア】の人員は、魔塔エセルハードの戦争で大きく減ったから、直ぐには行動に移さないと思う。が、わたしを浚った能力といい、あの十二長老たちは、普通じゃないからねぇ……必ず、わたしを追ってくるはずさ……だ・け・ど、ケケケ……もう、昔のわたしではないからねぇ。そして、皆もいる」


 皆、頷いた。

 そのカットマギーの表情は嗤っているようで嗤っていない。

 雪辱を果たそうとする思いだろう。


 ユイとヴィーネが、


「狂言教か。来たら来たで、斬る」

「ユイがここに残るなら安心です。しかし、長老という存在は、邪神の使徒クラスの強さを持つかも知れない。魔人ソルフェナトスという前例もあります。ですから、わたしもセナアプアに残るべきでしょうか」

「ヴィーネ、【幻瞑暗黒回廊】は見たくないのか?」

「見たいです!」

「なら、来い」

「ふふ、はい!」

「ふぅ……分かりきった会話とヴィーネとシュウヤの視線に、愛があるんだけど!!」


 レベッカが嫉妬。


「当然だろう。そういうレベッカにも愛を向けているぞ?」


 途端に、頬を朱に染めるレベッカ、


「あ、はい」


 そう小声で発言すると、急に大人しくなった。可愛い。


 少し微笑みながら、


「【魔術総武会】もまだまだ不透明なことが多い。魔塔ナイトレーンで幽閉中の大魔術師アキエ・エニグマがどうなったか」

「賢者ゼーレと【武式・魔四腕団】たちを倒した手前、気になるけど、【魔術総武会】同士で解決するべき問題だと思う」

「ん、ケイとシオンとインベスルと【武式・魔四腕団】の生き残りがいる」

「そうそう。あの精霊様のおっぱいに夢中だったお爺ちゃん大魔術師さんたちがいるし、キュイジーヌもいる、大丈夫でしょう」

「それもそうだな」


 そこで、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡をチラッと見てから、ユイを見て、


「ユイ、新入りたちを頼む」

「うん、任せて。メルに血文字で送っとく。その副長のメルに会う時間があったら、直に報告をよろしくね。ホルカーバムで【血印の使徒】と戦う父さんにも血文字で連絡しとくから」

「分かった。ミレイヴァル、アイテムに戻ってくれ」


 薄桃色の虹彩が美しいミレイヴァル。


「はい――」


 声は吸い込まれるように消える。

 そのミレイヴァルの声を取り込んだように、アイテムに戻った銀色のチェーンが付いたボールペンと似た小さい杭の閃光のミレイヴァルは、俺の腰に絡み付いた。


「一瞬でアイテムと化すって、召喚武器を超えているような気がする」

「フィナプルスの夜会と同じく凄まじいアイテムだってことだ。よし、サイデイル経由でペルネーテだ。行こうか」

「「はい」」

「ピュゥ~」

「あ、ヒューイちゃん」


 ヒューイはヴィーネの背中と合体。


「ヒューイちゃんはヴィーネの背中ばっかり!」

「今度お願いしてみたらどうだ?」

「うん」


 そうレベッカに言ってから――。

 ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡に魔力を込める。

 そのゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を潜り、サイデイルの自宅の二階に戻った。


 サイデイルの寝台近くで怪しい動きをする小熊太郎こと、ぷゆゆがいた。

 

「ぷゆ? ぷゆゆ!」


 小さい恐竜がくっ付いた杖先を差し向けてくるし。


 まったく。


「よ、ぷゆゆ。また今度な。そこの寝台のじゃらじゃらの骨の残骸は片付けとけよ? シーツの染みもちゃんと洗え。分かったな?」


 俺がそう言うとぷゆゆは怒ったのか、杖を放って、ふがふがと鼻息を荒らしつつ興奮して近付いてきた。


「――ぷゆゆ! ぷゆぅぅ~、ぷ!」


 ぬいぐるみのような手を出した。

 掌には、ちっこい肉球。

 毛が肉球の間から乱雑に短くボッボッと生えている。


 その掌には、キノコがあった。


「ん? 松ぼっくりを食べろ? あぁ、マッシュルームか。松果体にいい食い物ってか? 惑星セラにフッ素塗れな歯磨き粉なんてないぞ?」

「ぷゆゆぅ~?」

「にゃお~」

「ぷゆ!」


 と、黒猫ロロが触手で掴んで、口元に素早くそのマッシュルームを運ぶ。

 ペロッとマッシュルームを食べていた。

 

 すると、黒猫ロロは口から小さい火を吐く。

 辛かった? 同時に小さい黒猫ロロの体から魔力のオーラが出現。

 

 おぉ、魔力が増えたのか。

 

「ぷゆゆ、偉いな。ありがとう」

「にゃおお~」

「ぷゆ……ぷゆゆん」


 ぷゆゆは、照れを隠すように、寝台の上に散らかした変な儀式用具を放って、すたすたと横を歩くと、キャットウォークを登って屋根裏に向かう。と、直ぐに屋根にある猫用に作った小さい扉の開閉音が響いてきた。


 また、あの扉の開け閉めを繰り返す、謎の遊びか。

 ぷゆゆには面白い遊びらしい。

 実際に扉の開け閉めを行う遊びを見たら、その動作がコミカル過ぎて面白いとは思うが、ぷゆゆは、どんな心境なんだろう。

 遊びと思いきや実は、種族に纏わる儀式の一環なのか?


「シュウヤ、キッシュたちに血文字で連絡したから、ペルネーテに行きましょう」

「おう」

「ん」


 黒猫ロロがぷゆゆに釣られそうになったから、レベッカが押さえてくれた。

 このサイデイルの家の二階を見回すように、パレデスの鏡の十六面を確認。

 隣にはゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の片方がある。

 

 よし、二十四面体トラペゾヘドロンを用いよう。

 ペルネーテの自宅に設置してあるパレデスの鏡は一面――。


 二十四面体トラペゾヘドロンを出して、掌で転がす。

 その一面の溝を指でなぞった。

 ――二十四面体トラペゾヘドロンが光りつつ急回転。


 回りに回る二十四面体トラペゾヘドロン

 ガードナーマリオルスのように回った二十四面体トラペゾヘドロンは光を放出しつつ面と面が重なり合って折り畳まれた。刹那――。

 光の塊は拡がりつつ光の筋が弧を描いてゲートを形成。

 光のゲートの中にはペルネーテの自室が映る。

 久しぶりのペルネーテの部屋だ。寝台と、その近くに……。


 メイド長のイザベル。

 副メイド長のクリチワ。

 副メイド長のアンナ。


 がいた。皆、がんばっているようだな。

 ミスティは、まだか。

 

「行こう――」

「にゃ~」

「「はい」」


 一瞬で、ペルネーテに戻ってきた。

 ――ふぅ、この空気感はいい、やはり、ペルネーテだ!


『ふふ、千年ちゃんの鼓動が聞こえます』


 歌う植木があったな。

 演歌にラップにブルースと多才な植木。

 千年植物サウザンドプラント


「ご主人様! 皆様、お帰りなさいませ」

「「お帰りなさいませ」」

「ただいま」

「たっだいま~」

「ん、リリィたちがんばってるかな」

「うん。ベティさんのお店も気になる」

「ん、けど、魔法学院ロンベルジュのことを優先する」

「寝台は昔のままですが、箪笥と箱に内装が豪華……金貨の袋も凄いことに」


 とヴィーネが発言。

 

「壁紙がオシャンティ~」


 センスのいいレベッカもそう発言。

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