七百五十八話 大魔術師キュイジーヌの贈り物と〝魔法紋・グレイホークの証人〟

 鬼神キサラメ骨装具・雷古鬼を竜頭金属甲ハルホンクに吸収させずにアイテムボックスに戻した。

 同時に、


「フィナプルス、戻っていいぞ」

「はい」


 フィナプルスは瞬時にフィナプルスの夜会に戻った。

 魔界四九三書。

 すると、タルナタムを見上げていた大魔術師キュイジーヌさんが、


「凄いわ。それが魔界四九三書の一つ。しかも本契約を果たしているということは、大魔術師級の精神力と魔力を有していることを証明している。そして、六つの魔眼を持つ怪人さん。体の中に霊魔炎系の秘宝類があるわね? 不思議ぃ~♪」


 タルナタムが体内に持つ狂怒ノ霊魔炎を指摘してきた。

 獄星の枷ゴドローン・シャックルズは見た目から蒼炎のような魔力が宿っているから見た目で分かったかな。

 タルナタムを見てから、


「おう、タルナタムだ」

「ふふ。タルナタムさん。わたしは主様のお友達だから攻撃は無しよ? そして、【天凜の月】の盟主様――先ほどは調子に乗って攻撃をしてごめんなさい」


 大魔術師キュイジーヌさんが謝ってきた。

 深いお辞儀をしてから、頭部を上げてくる。


「別にいい。俺を試しただけだろ?」

「ふふ。やっぱり分かる?」

「そりゃな。追尾が可能な魔法の攻撃だけ。俺に追撃できるタイミングは幾らでもあった」

「うん♪」

「あの攻撃、アルルン系といったか、死蝶人系のスキルか魔法か?」


 俺がそう聞いた直後、大魔術師キュイジーヌさんの眉がピクッと動いた。


「……そ、そうよ。よく分かるわね……」


 少し怯えたような表情に変わってしまった。

 無難に、


「まあな。で、謝ってこの場に残った理由は、俺たち側に付くということだな?」

「うん。いい?」

「いいぞ」

「やった♪ でも、素敵な【天凜の月】の盟主には、眷属の女がいっぱいかぁ。わたしにはチャンスがないのかな~」


 そんな発言をしながら、ウィンクを繰り出す。

 刹那、周囲の空気が寒くなった。


「元々ないかと」

「はい、却下却下~、綺麗な髪の毛が魅力的だけど、却下~」

「ん! 長い杖の手品師~」

「ないわね」

「器に近寄るな、奇術師女め!」

「「ないです~」」

「器様が一番~」

「それは、陛下の一存かと」

「えぇ?」

「精霊様! 水に埋める許可を」

「ふふ。閣下が許可を出したらいいですよ」

「ヘルメ、面白がって話をふるな」


 まったく、水に埋めたら死んじゃうだろうが。

 水中呼吸の風属性の魔法か水属性の魔法で平気だとは思うが。


 すると、


「ピュゥゥ~」


 頭上を飛んでいた荒鷹ヒューイが急降下。

 タルナタムの頭上を旋回してから中央のシオンを囲うブロックの障壁付近に向かう。

 近くの石畳の上に着地した。

 その石畳の上には溶けたアイテム類が散らばっている。

 荒鷹ヒューイは、それらの溶けたアイテムを啄み始めるや、体を輝かせた。


「ヒューイ~、あまり変なモノを喰うなよ~」

「キュゥ~?」


 そう鳴いてから頭部を向けてきた。

 額にある三つの∴を輝かせている。

 

 麻呂った眉毛!

 戦国武将でいう、今川義元的な荒鷹ヒューイの眉毛は可愛い。


 すると、荒鷹ヒューイは魔力を吸収したのか、猛禽の体を少し大きくさせた。


「ングゥィィ、ピカピカ、タベラレタ!」

「にゃ~」


 黒虎ロロ竜頭金属甲ハルホンクに同意するように鳴いた。


 そんな黒虎ロロさんの面頬が渋く赤色に輝いた。


 アドゥムブラリの面頬。

 アドゥムブラリの面頬は黒虎ロロの頭部から離れた。


 元の単眼球体のアドゥムブラリに戻った。

 一対の小さい翼をばたばたと羽ばたかせている。


 近くには〝偽魔皇の擬三日月〟も浮いていた。

 そのアドゥムブラリが、


「黒き神獣よ! 暢気のんきに鳴いていないで突っ込んでほしかったぞ! 俺たちも、あの溶けたアイテム類を食べていたら、パワーアップできたかも知れなかった」

「にゃ? にゃお~」


 黒虎ロロ的に『そうにゃのか? しらんがにゃ~』


 と言っているような気がした。


「ふむぅ。ま、仕方なし。しかし、主よ。荒鷹ヒューイは俺と同じく武装魔霊の能力を持つのか?」

「さぁな。<荒鷹ノ空具>の力の一部かも知れない。大本がヒューイ・ゾルディックという怪物。いや、もっと前は荒神ヒューイか。そのヒューイをゾルディックから取り出した時、シュレの桃色魔力も合わさっている。あの時、ビアの剣に宿る八大龍王ガスノンドロロクン様も……『ふむ。得体の知れないモンスター。<大蛇龍だいじゃりゅう・鑑識>では、名はヒューイ・ゾルディック。東邦のサザナミで大暴れし、島と海を荒らした災厄級とな? 属性は水と闇に……むむ? 途中から<大蛇龍だいじゃりゅう・鑑識>をはじいてきおった』と、ヒューイ・ゾルディックを鑑定していた」


 ビアが扱うガスノンドロロクンの剣。

 その剣に宿る八大龍王ガスノンドロロクン様の真似をしていると、


「にゃ~」


 

 黒豹ロロが俺の脛に頭部を衝突させてきた。

 尻尾も立てている。

 

 すると、右肩の竜頭金属甲ハルホンクが魔竜王のそう眼をきらめかせて、


「ングゥィィ、マリョク、アル、タマタマ、メダマ! オイシソウ!」


 浮遊中のアドゥムブラリを指摘した。


 アドゥムブラリは単眼球をかすようにジロッと右肩の竜頭金属甲ハルホンクにらむ。


 そのアドゥムブラリが、


「ハルホンク、俺はタマタマ目玉じゃねぇ! そして、タマタマ、タマタマと、何度目だ。いい加減、俺は食い物じゃねぇと理解しろ」

「主! 目玉焼きにする!」

「タルナタムまで俺を! まったく、食い物じゃねぇと言っているだろうが!」

「ムハハ、アドゥ~、ウマカッチャン、ゾォイ!」

「焼き焼きタイム?」


 竜頭金属甲ハルホンクとタルナタムが連動した。


「まったく……ハルホンクめ、笑って楽しんでやがる! なにがウマカッチャンだ! 変な汁も飛ばすな! タルナタムも乗るな! そして、お前のような魔界騎士的な能力はないが、主の眷属の中では大先輩なんだぞ。もっと俺様に敬意を払え!」

「ワカッタ! だいセンパイ!」


 タルナタムはゆったりと四腕を動かして、単眼球体のアドゥムブラリに敬礼。


「よーし、いい面構えだ。今度はお前と合体するか!」

「主、だいセンパイ目玉が虐めてくる!?」


 タルナタムが俺に助けを求めてきた。

 アドゥムブラリと合体するのは嫌らしい。


「ふふ」

「ん、タルちゃんとエロピコ大魔王の交流は面白い」

「うん」


 と皆が笑った。

 よかった。

 

 スルーしていたが、大魔術師キュイジーヌさんと皆の雰囲気がヤヴァかったからな。

 すると、大魔術師ダルケルさんとアモアススさんが、


「インテリジェンスアイテムは武装魔霊か、瓢箪の上に生えている魔法生物もいるが……」

「わたしはリサナです♪」

「ほぅ、これまた美乳の持ち主」

「ゴホンッ、ダルケル。あまり美女を凝視するものではない」

「すまぬ。では、武装魔霊を……魔界セブドラ系のアイテムでも珍しい。【天凜の月】の盟主には、槍使いという渾名があるが……召喚系の戦闘職業もあるのか。実に多彩」

「うむうむ。単眼球体が本体として、アイテムに変身する能力。そして、ブーメランの武器か。ガルブ系のモンスター、悪神デサロビア系の魔族、魔命を司るメリアディ系の、アムシャビス族などの力も有しているのかのぅ」


 注目を浴びているアドゥムブラリは嬉しそうにくるくると回って、眷属たちの間を飛翔する。

 マルアが嬉しそうに腕を伸ばすと、アドゥムブラリも応えてマルアの手の甲にキスをするように、単眼球体を当てていた。

 そして、単眼球体から生える翼をバタバタと動かして飛翔しつつ虹彩を変化させる。


 浮遊しながら大魔術師たちを凝視して、


「大魔術師たち! 俺の姿からそこまでの分析が可能なのか。俺に興味を持ったな? だが、主以外になびくつもりはないからな!」


 そう早口でしゃべるアドゥムブラリ。

 転移するような速度で、俺の紅玉環の中に戻った。


 大魔術師の二人は少し驚いたような表情を見せてから微笑む。

 好々爺の雰囲気があって和む。


 そのお二人は、俺の指輪を凝視。


「ふむ。指輪の魔道具に宿る武装魔霊。中々の代物じゃのぅ」

「ダルケルの使役している武装魔霊は魔霊イナの歯の飾り玉だったかの」


 ダルケルさんの周囲に浮かぶ眷属の元を指摘したのはアモアススさん。


「ふむ。その単眼球体のような存在ではないが、その通り」


 ダルケルさんがそう語る。

 碁盤の端に着地した小さい丸い眷属は、丸い胴体に背中に翼を有した人形のような存在だ。


 鳥的でもあるし、不思議な形。

 魔霊イナの歯の飾り玉らしいが、腕輪かネックレスか分からない。


 すると、大魔術師キュイジーヌさんが、


「盟主の装備類も気になるわ。神槍、聖槍は言わずとも、右腕の腕輪風のアイテムボックス、右肩の喋る竜のポールショルダーも極めて珍しい装備品よね。古代ドワーフの大魔術師ガレルハンも興味深そうに見ていたし……腰には魔界セブドラに関わる書物が他にもある。お宝に興奮した大魔術師スプリージオが取り乱したのも分かる」


 そう発言。


「ま、殆ど珍しい装備品だと思う。そして、その大魔術師ガレルハンってドワーフは去った中にいた大魔術師の一人か」

「そう。エルンストと違ってセナアプア支部では珍しい古代ドワーフの大魔術師ガレルハン。あの方も忙しいから♪」


 頷いた。

 そこで、改めて、


「しかし、賢者ゼーレを倒した俺は、【魔術総武会】の敵になるんじゃないか?」

「それはない。皆あまり賢者ゼーレと親しい仲ではないから。でも、去ったばかりの大魔術師の中にはネドー派の者もいるし、賢者ゼーレと親しい間柄の大魔術師もいる。その連中は【天凜の月】と盟主のことを恨んでいるかも知れないわ」


 ネドー派か。

 そりゃ仕方がない。


「賢者ゼーレの立場は大体分かった。【魔術総武会】のセナアプア支部の幹部の派閥は一枚岩ではないってことだな」

「う~ん、それは一概には言えない。【魔術総武会】のセナアプア支部も纏まる時は纏まるから。でも、今回の懲罰委員会のように争うこともある」


 大魔術師キュイジーヌさんの言葉に、大魔術師ダルケルさんと大魔術師アモアススさんは頷いた。


「シオンを介抱している二人組はアキエ・エニグマと仲がいいわよ。ま、簡単に言えば派閥争いね。大魔術師の一人も言ってたけど内輪揉め。そして、わたしもこれからはアキエ・エニグマの派閥に入る♪ 同時に【天凜の月】の盟主とも個人的に仲良くしたい♪」

「陛下が許したとはいえ、随分と調子がいいですね……」


 ミレイヴァルがそう発言。

 皆もミレイヴァルと同意見らしい。


 鋭い視線を大魔術師キュイジーヌさんに向けた。

 美人ってのもあるが、俺を攻撃したことが許せないのかも知れない。


 そして、さっきのような雰囲気に戻る。


「ミレイヴァルも皆も気にするな。キュイジーヌさんを信用しているわけじゃない」

「ふふ。では、信用を稼ぐとして、友好の印の証明をしましょう。わたしは魔塔ナイトレーンに戻るわ。これもあげる」


 長い杖をくるくると回して、杖の後端で地面を小突いていた。

 すると、懐から箱を取り出して、投げてきた。


「――この箱は」

「ご主人様――」

「大丈夫よ。青白い肌が美しい珍しいエルフちゃん。爆発ポーションでもないし、触れただけで粉が舞う毒物でもない」

「分かった」


 箱を開けると、金色と銀色の小骨が三つ入っている。


「なんだこれ」

「魔界セブドラと神界セウロスとエセル界。それが関係したセナアプアの、とある浮遊岩でしか採取ができない龍魂雷魔犀の骨。とある魔金細工師と錬金術師が協力して濃縮した逸品。食べたらあらゆるステータスが上がる。分身を生み出すことができるスキルも得られる可能性があるとか聞いているわ。更に、ここの地下には、魔塔ゲルハットと地下コアに繋がる新型の試作型魔白滅皇高炉がある。その高炉では色々なアイテム類に関する錬金術が可能だから、その龍魂雷魔犀の骨で武器防具の強化も可能となる」

「それは凄い。ありがとう」

「うふ♪ 友好の印の一つだから、惜しみなく使ってね♪」


 大魔術師キュイジーヌさんは良い人に思えるが。

 するとエヴァが、頷いてから、


「ん、ありがとう。でも、危険そうな魔塔ナイトレーンに戻るのは、大魔術師アキエ・エニグマのため?」

「そうよ。【天凜の月】の盟主に対する友好の印は、それだけではない。わたしも大魔術師の一人として動くつもり。魔塔ナイトレーンも一悶着もんちゃくありそうだからね♪ 大魔術師ケルメスも語っていたけど、本会議の執行部隊の派遣がセナアプアに決まっても貴方たち側に味方するから、その際はよろしく♪」

「ん、分かった」

「エヴァ、いいの?」

「ん、味方になるならいい。大魔術師キュイジーヌさんの贈り物は本物。態度は、エッチだけど、あの瞳には深い誠意がある!」


 エヴァが珍しく力強く語った。

 大魔術師キュイジーヌさんはエヴァの言葉を聞いて、驚いたような表情を浮かべる。

 

「……ありがと。ふふ。わたしの目を見てそんな言葉を聞かせてくれたのは、ラテリル以来かしら……同じ黒髪で紫色の瞳だし……ラテリルと同じ不思議ちゃん? そして、黒髪のエヴァさんは善い子のようね♪ そして、そこの二人の大魔術師――」


 大魔術師キュイジーヌさんは視線を強めると、燕尾服のポケットから魔法のマークが記された魔法の紙を取り出す。


 その魔法の紙に、指に魔力を集結させつつ文字を書いた。

 そして、その魔法の紙をダルケル爺さんに向かわせる。


「〝魔法紋・グレイホークの証人〟の魔法制約書。だから、ダルケル爺さんとアモアスス爺。ちゃんと覚えておいてね♪」


 宙を浮いて移動した〝魔法紋・グレイホークの証人〟の魔法の紙をダルケルさんが受け取った。

 グレイホークか、まさかな……。

 と思いつつ龍魂雷魔犀の骨をアイテムボックスに仕舞った。


「しかと受け取った」

「ふむ。いい覚悟じゃ、キュイジーヌ!」


 あの〝魔法紋・グレイホークの証人〟に書いたことを破ると、キュイジーヌさんはかなりの痛手を受けるんだろうか。


 そのキュイジーヌさんは、右腕と左腕を右に伸ばしてのポージング。


 左手の人差し指と中指が揃っていた。


 変わったキュイジーヌ立ちを披露。

 そのキュイジーヌさんは、俺にウィンクしてから、

 

「それじゃ、先にシオンたちに挨拶してくる」

「おう」


 シオンの下に移動していった大魔術師キュイジーヌさん。

 宙空で、一回転しては投げキッスを寄越よこす。


 小さい唇から発生したハートマークの魔力が直進。

 一瞬で俺の胸元を貫くかと思われたが、光線の矢が、そのハートマークを射貫いて割った。


「ちょっとぉ? 変な虫がついていないでしょうね」

「魔法の効果はないと思うぞ」

「ん、ハートの魔法ミサイルで、異性をとりこにする魔法だった?」

「キュイジーヌさんは美人さんだから、その点は魅惑的だ」

「ご主人様――」


 翡翠の蛇弓バジュラを一瞬で仕舞っていたヴィーネから頬にキスを受けた。


 直ぐに――。

 そのヴィーネの紫色の唇を奪う――。


 肩を抱きつつキス返しを実行――。

 ヴィーネの唇を優しく労った。


 が、周囲の気配が変わる。

 ヴィーネからサッと離れた。

 

 ヴィーネは唇を突き出してきたが、すまん――。

 

「ふふ――」

「油断していたら、いきなりキスとか!!」


 レベッカの蒼炎を纏った腕を避けて、


「タルナタム、戻れ――」

「ワカッタ!」

「ピュゥ~」


 タルタナムが戻った獄星の枷ゴドローン・シャックルズを仕舞う。荒鷹ヒューイは翼を羽ばたかせて急上昇。

 魔塔ゲルハットの上方に向かう。


 魔塔ゲルハットの表面を真っ直ぐ。

 そのまま湾曲した硝子面を沿うように飛翔していった。


 飛行姿はカッコいい。

 魔塔ゲルハットの湾曲した面の頂上はどんな造りなんだろう。


「もう! シュウヤ! でも、ヒューイちゃんも魔塔ゲルハットが気になるようね」

「ん、魔導車椅子に席を用意したのに飛んでいった」


 残念そうに語るエヴァの言葉に頷きつつ――。

 

 シオンを守る障壁の向こう側を見た。

 横に幅のあるスロープ付きの階段がある。


 公園のあるような美しい階段。

 その階段から先の空間も中々の広さだ。


 絨毯じゅうたん的に色違いの石畳が玄関まで続いている。


 その色違いの石畳の両側には樹と石灯籠がまばらに並んでいる。

 結婚式でも行えそうな通り道だ。

 その左右の石灯籠と樹を越えた先も少し広い。

 神具台の前に備わるような小さい石碑もあった。

 所々に地下から突き出た大きい配管がある。

 下に向かう階段もある。

 大魔術師キュイジーヌさんも語っていたように、地下の施設もあるようだな。

 そして、魔高炉も聞いたことのない代物。

 

 ミスティも試したくなるだろう。


 右には馬車が止められるスペースもあった。


 魔法ギルド特有の〝天秤と杖と腕のマーク〟の立体的なオブジェも幾つか配置されてあるし、郵便受け的な石塔も近くにある。


 配管と神具台のような石も、すべて統一性があるフォルムのオブジェばかりだ。

 センスがいい。

 玄関は硝子かアルミのような色合いの両扉。

 両側にコリント式のような太い柱頭があって渋い。

 

 さて、


「魔塔ゲルハットの中に入る前に、俺たちもシオンたちと話をしよう」

「待って」

「キスか?」

「ちょ、う、うん! って違う。捕まったと聞いた大魔術師アキエ・エニグマのことよ」

「そっか」

「ばか、そんな顔しないで、あとでね」

「おう」

「ふふ」


 レベッカの笑顔が可愛い。


「はい。アキエ・エニグマのことをお話しましょう。そして、キサラを翻弄したあのアキエ・エニグマが素直に大魔術師たちに捕まるとは、俄には信じられません」


 たしかに怪しい。

 俺と戦える存在が大魔術師アキエ・エニグマ。


 あの異界の万古獣ラモンを使役できる存在だ。

 会議中のアキエ・エニグマが、大魔術師たちから不意打ちを喰らうにしても、アキエ・エニグマに魔法攻撃を喰らわせようとした段階で、手痛い反撃をアキエ・エニグマが繰り出しそうな印象はある。


 そう考えたところで、ユイと目が合った。

 ユイは自身の唇に指をあてて、


『あと・で・わたし・も・キス』


 小さい唇だけで、そんな念話をするようにメッセージを伝えてきた。


 そのまま可愛い素振りで頷いたユイは、


「もしかして、わざと捕まったとか? アキエ・エニグマはシュウヤの行動を予測していた?」


 そう発言。

 エヴァたちも微笑んでから頷いた。


 俺が何回も頷いていた首の動きが面白かったようだ。


「ん、アキエ・エニグマとシオンの作戦?」


 そう聞いたエヴァ。

 紫色の瞳は、二人の大魔術師の方を向いている。


「分からないが、ありえる」

「ふむ」


 二人とも疑問顔を浮かべる。 

 その大魔術師アモアススさんと大魔術師ダルケルさんは、やはり不思議だ。


 アモアススさんの背後には無数の籠が浮いている。


 籠の中で飼われている生物たちは、見る度に違う動きをする。

 一種の不思議動物園か。という位に様々だ。


 幻想動物と植物。

 小さいモンスターに、クリスタルの内部で生活している小人と妖精もいる。

 不思議テイマー大魔術師アモアススお爺さんだ。

 

 大魔術師ダルケルさんもモンスター系の眷属を二匹従えたままだ。

 そして、魔道具と予想できる碁盤を浮かばせていた。


 すると、ヴィーネが、


「ありえるかと。他の大魔術師たちと戦えば消耗は必定」


 キサラも、


「シュウヤ様が腕に傷を負ったように賢者ゼーレは強い。他の大魔術師たちも強いでしょう。キュイジーヌや、灰色ローブの大魔術師の爺さんからは特に強さを感じました。そんな大魔術師たちと戦えば、アキエ・エニグマも無事に済まないと予想できる。だからこそ、魔塔ゲルハットを餌に……」

「閣下に巨大な魔塔をプレゼントした理由ですね。納得です」


 ヘルメがキサラとヴィーネの言葉に納得していた。

 ヴィーネも、


「うむ。アキエ・エニグマは魔塔ナイトレーンで力を温存。そして、【魔術総武会】のセナアプア支部の幹部たちとご主人様が衝突すると予測していた可能性が非常に高い。そして、アキエ・エニグマはペレランドラを救ったご主人様の行動を見ている」


 美人の三人は頷きあった。

 そのユイが、


「……シュウヤと一度戦ったアキエ・エニグマ。シュウヤの気まぐれっぽい性格の中に、一本の男らしい筋があるって、分かっちゃったかな」


 そう発言して俺にウィンクを寄越す。

 耳の裏に通していた黒髪がズレて、短い黒髪が靡いた。

 

 可愛い。

 ユイは、ちゅっと唇を窄めてくれた。


 ヴィーネとのキスが影響したようだ。

 分かっているが、ドキッとしちゃうがな!

 

「はい。前にもアキエ・エニグマのことで語りましたが、ネドー派とのいざこざの前に、ご主人様の小さなジャスティスの精神を少なからず理解したのかも知れない。ペレランドラが下界の貧しい人々を影ながら救っていたことは、有名でしたからね。そんなペレランドラとネドーの派閥が争っていたのを近くで見て機会を窺っていたアキエ・エニグマ。ご主人様と【血長耳】の介入で、一気にペレランドラ側へと形成が傾いた機会に参戦したように一見見えますが、実は、前々からペレランドラのことを良く思っていた可能性があります。同時に【魔術総武会】のネドー派の大魔術師たちを潰す機会を狙っていたのでしょう」

「そうですね。前に予想していたことが的中しました。そして、シュウヤ様の言葉を借りるならば『一石二鳥』。だからこそ大魔術師アキエ・エニグマは、リスクを承知でシュウヤ様に味方した。魔塔ゲルハットのプレゼントもその一環。あの時、空戦魔導師と空魔法士隊を多数屠った事とも符合します。評議員の権力が集中しているネドー派が弱まれば、【魔術総武会】のセナアプア支部のアキエ・エニグマと敵対する派閥も、その影響を受けて弱まる」


 キサラとヴィーネが語り合う。

 キサラを眷属化した時の会話が脳裏にチラついた。


 そして、この<筆頭従者長選ばれし眷属>の二人が、美人天才軍師に見えてくる。

 

 皆一緒に頷いていた。

 ユイも、


「辻褄が合うし、その予想は正解だと思う。シュウヤの強さを知るアキエ・エニグマの行動予測。わざと捕まって、魔塔ゲルハットを餌にセナアプア支部の幹部たちの行動を促していたのなら、シオンもその役回り?」


 俺は頷いて、


「シオンに聞かないと分からないが、たぶん正解だろ」

「はい。シオンかアキエ・エニグマのどちらかが、囮役かけしかけ役だったんでしょう。或いは二人とも違った役回りができるような作戦だったのかも知れない」

 

 緊迫した状況でのアジテーターか。

 アキエ・エニグマとシオンの作戦。

 アキエ・エニグマとシオンは策士かな。


「なるほどねぇ、頭がいい! 賢者ゼーレの【武式・魔四腕団】とわたしたちがぶつかることを想定していたってことね。同時に他の大魔術師たちに、シュウヤとわたしたちの実力を知らしめることができる」


 レベッカの言葉に頷いた。

 正解ならアキエ・エニグマはクナっぽい。

 隣のヴィーネが、


「ご主人様の戦いを聞いただけの方々と、実際に目にした方々の間には、大きな差がある」


 そう発言。

 俺たちは、鑑定系のスキルを弾く。


「魔察眼からの推察も、一見では中々に難しい」

「はい、【武式・魔四腕団】の方々も判断を間違えた。同時に、その隊長や兵士たちの気質も読んでいたアキエ・エニグマの狙い通りでもあるでしょう」


 魔察眼と掌握察から得られる情報はかなり重要だ。

 そして、アキレス師匠から<魔闘術>を含めて色々と教わった。


 アキレス師匠に感謝だな。ラ・ケラーダ!

 

「そうですね。千年以上生きている大魔術師なら、ご主人様の行動を予測するようなスキルを獲得していてもおかしくはない。もしくは魔道具もありそうです。ゼーレにはなかったようですが、アキエ・エニグマは、その予測スキルのようなモノを持つのかも知れない」

「はい、アキエ・エニグマならありえる。わたしの百鬼道を欲しがっていた頃よりは確実に強いです。しかし、<筆頭従者長選ばれし眷属>となった今なら……倒せるか、分かりません」

「ん、キサラは強いのに、そんなキサラにそう言わせるアキエ・エニグマなら、たしかに、もっと凄いスキルや魔法、特別な魔術もありそう」

「カザネのような<アシュラーの系譜>とか?」

「ん、そう」

「未来予測的なスキルでしょうか」

「あくまでも予測系のスキルなら……」


 ヴィーネが、そう発言しつつ目配せする。

 光魔ルシヴァルが鑑定を弾くことは大魔術師たちには告げるつもりはないようだ。


 頷いていたレベッカも神妙な顔色となってから、


「強かな大魔術師アキエ・エニグマ! 皆の読みが正解なら、さすがの読みよ! ヴィーネとキサラにユイ!」

 

 そう発言して皆とハイタッチを繰り返すレベッカ。

 ユイとエヴァと相棒に続いて、ヴィーネと手を握り合うと互いに笑顔。


 元ハイエルフさんと元ダークエルフさんが地上で握手の巻き。

 レベッカとヴィーネは美人さんだから絵になる。


 しかし、さすがの皆だ。

 ヴィーネも魔導貴族同士の戦争とダウメザランの地下社会を生きただけはある。

 

 ユイも旅をして戦いを重ねて、【天凜の月】のセナアプア支部をメルに変わって短期間ではあるが切り盛りしてくれている。そのせいか、色々と思考力が増しているような印象だ。

 ま、エヴァとレベッカと交代する形も多いが。


 キサラは元々が凄い。

 ゴルディクス大砂漠地方のダモアヌンの山麓にある黒魔女教団の総本山で、仲間たちと修業を繰り返して、四天魔女になった。


 その四天魔女の一人として……。

 犀湖都市、砂漠都市ゴザートなど、砂漠のオアシスで、黒魔女教団十七高手と一緒に犀湖十侠魔人たちと八星白陰剣法を巡る戦いを繰り広げていた。


 血骨仙女たちとは、砂漠仙曼槍を巡る戦いも経験している。

 メファーラの祠に通っていたことも聞いている。


 古代遺跡ムーゴが砂漠に埋もれている話は興味深かった。


 マルアも数回『うんうん』と可愛い調子で頷いた。

 その度に髪の毛の長さが微妙に変化する。

 パーマ系のソバージュにクルクル毛。

 すると、黒豹ロロが頭部を上下させつつ「カカカッ」とクラッキング音を鳴らし始める。


 だが、マルアに戯れない。

 遠慮しているのか? 珍しい。

 

 そのマルアは、


「難しいことはわかりませんが、お姉様方の予想は当たっていると思います!」


 と力強く発言。髪の毛が上に伸びた。


「にゃ~」


 黒豹ロロが我慢できず跳ねた。

 イターシャも飛ぶ。

 すると、貂の長い尻尾も上がった。


 相棒の動きに合わせている。


 すると、ヘルメがいつものポーズを決めて、


「――<筆頭従者長選ばれし眷属>たちの予想は正解でしょう!」

「ふふ。見事なヘルメ立ちぞ! そして、妾も皆の予想は当たっていると思う」


 沙がそう発言したところで、大魔術師ダルケルさんが、


「わしも発言したいがいいかの?」


 その大魔術師ダルケルさんは、浮いた碁盤に座っている。


「どうぞ」

「ふむ」


 大魔術師ダルケルさんは、キサラのくびれた腰をチラッと見た。

 ベルトにぶら下がる百鬼道か。


 そんな大魔術師ダルケルさんは、


「感心したのじゃ」

「ふむ。さしものアキエ・エニグマも魔塔ナイトレーンの作用が効いたからこそだと思っていたが……【天凜の月】のメンバーには切れ者が多い」


 大魔術師アモアススさんがそう発言。


「【魔術総武会】の我らよりも、今来たばかりの【天凛の月】の幹部たちのほうが、我らを知っているように思えてくるのじゃ」

「大魔術師のような存在も複数おるようじゃからの。それも当然か」

「ふむ。魔法力云々もだが、優秀な知恵に機知さを持つ皆様方なのじゃな」


 お爺さんの二人組はそう語ると、<筆頭従者長選ばれし眷属>たちを見る。


 皆、照れたような表情を浮かべていた。

 エヴァは恥ずかしいのか、視線が泳いでいた。


 ビーサは誇らし気だ。

 <神剣・三叉法具サラテン>たちも笑顔満面。

 

 さて、外の門番たちも呼ぶか。


「カットマギーとイモリザ~! 戻ってこ〜い。門番は今はいい」

「了解~、凍った鋼鉄馬車と投降した【武式・魔四腕団】の仮面防具を装着した兵士たちはどうするんだ~?」

「はーい。使者様、戻ります~」

「あぁ、連れて来い!」

「了解~」

「はーい」


 カットマギーとイモリザがぞろぞろと【武式・魔四腕団】を連れて戻ってきた。

 この【武式・魔四腕団】の管理はシオンに丸投げかな。

 ま、取りあえず、大魔術師ダルケルさんに、


「ダルケルさんとアモアススさん、まずはシオンたちと話をされては?」

「そうじゃな、そうさせてもらう」

「俺たちは魔塔ゲルハットの中身を確認させてもらいます。あ、その前に、シオンとも話をしますが」

「当然じゃ。【天凛の月】の盟主は、この魔塔ゲルハットの支配権の権利書を持つに相応しい」


 ダルケルさんとアモアススさんはそう語るとシオンの下に先に向かう。

 俺も一歩、二歩と、歩み始めた。


 が、


「ん――」


 エヴァが俺の左手を握った。


「どうした?」


 エヴァは俺の左手をジッと見てから、


「ん、シュウヤ。賢者と戦って左手が……」

「あぁ、いつものことだ」

「ん、嘘!」


 エヴァは俺の左腕を引っ張った。

 自らの胸元に押し当ててギュッと抱きしめてくれた。

 

 優しいな……。

 心が温まる。


 そのエヴァは、


「シュウヤ、やせ我慢。凄く痛かったという感覚が残ってる。でも、がんばった」


 天使の微笑を浮かべて褒めてくれた。

 照れるが、紫色の瞳は揺れている。


 心配してくれているんだろう。

 そんな愛しいエヴァに、


「ありがとう」


 『愛してる』と心の中で思って伝えた。

 エヴァは頬を赤く染めていた。


「はいはい――ツッコミづらい雰囲気をつくらんでよ! わたしも癒やしてあげるから――」


 訛った声が面白いレベッカさんだ。

 そして、そのツッコミのタイミングは分かっていた。


 素早く爪先半回転で、レベッカのツッコミを避ける。


 そして、


「ふはは、蒼炎拳、もとい蒼炎神の継承者レベッカさんよ、ツッコミ速度が甘い!」


 そう言って笑いながら、皆から離れて、


「さぁ、シオンたちのとこに行こうか。相棒、行くぞ~」

「にゃお~」


 先にシオンたちの下に向かった。

 背後から、


「ん――」

「まったく、当然甘いにきまっているでしょうが! 素直にわたしの抱擁を受け止めろ~、気まぐれエロ盟主!」

「ふふ、行きましょう~」

「ご主人様! わたしとの抱擁の続きを~」

「皆さんの熱い思いをビシバシと感じますね。わたしもシュウヤを見ると心が踊る……そして、皆さんの想いも銀河戦士カリームの超戦士として学ばなくては――」


 ビーサは乙女な宇宙の戦士だ。


「デュラート・シュウヤ様~、隣をゲット~」

「わたしが陛下を守る!」

「前進~、GOGO♪ GOGO~♪ いえぇい♪」

「――ひゅうれいや、謡や謡や、ささいな飛紙……」


 イモリザ音頭にノッタのか、微笑を湛えたキサラは走りながら<魔謳>を実行。


「はい~」


 エヴァと交代するように、俺の左手をゲットしたマルア。

 ミレイヴァルは俺の頭上に浮かんでいた。

 リサナも飛翔する。


 そのままマルアの笑顔を見ながら、シオンたちがいるブロック障壁に近付いた。


 宙空にいた大魔術師キュイジーヌさんは、ブロック障壁の向こう側にいるシオンと会話していた。


 その大魔術師キュイジーヌさんは振り向いてくる。

 俺たちに会釈して杖を掲げた。


 すると、パッと転移。

 燕尾服のスカート部位をはためかせつつ飛翔していった。


 すると、亀のような老ドラゴンが展開していたブロックの障壁が消える。

 

 大魔術師シオンとトトリーナ花鳥の弁当を買った二人の大魔術師が見えた。黄色い角を持つミニドラゴンも一緒だ。


 宙空に、どこからともなく亀のような老ドラゴンが出現し、老ドラゴンらしく、ゆったりとシオンたちのもとへと降下していった。

 

 亀のような老ドラゴンは、ブロック障壁と一体化するスキルか魔法を繰り出していたのか。


 その亀のような老ドラゴンは、頭部から出臍でべそのような角をにょろっと生み出す。

 表面には魔力が内包された漢字が記されている。


 面白い、出臍でべその判子の角か?


「わしゃわしゃ」

「シュシュ」


 二匹のドラゴンは互いに変な鳴き声を出し合った。

 そして、亀のような老ドラゴンは、面白い出臍でべそ判子の角を、黄色い角を持つミニドラゴンの角に衝突させていた。


 挨拶か。

 その挨拶の仕方は、ネコ科の挨拶とは違う。

 角をぶつけ合ったあとは、体の匂いを嗅ぎ合いつつ体の一部を噛み合う。

 

 血が流れているし、痛そう……。


 ま、姿は小さくとも、四肢を持つドラゴン同士か。


 鱗に牙の穴が開いて、血を流すほどの噛み合いとなったが……。

 二匹の小さいドラゴンは体内の魔力が活性化?


 そして、亀のような老ドラゴンを使役する大魔術師アモアススさんと、黄色い角のミニドラゴンを使役する大魔術師インベスルさんは笑顔のままだ。


「ありがとう、アモアスス。ラ・ドオラが少し強くなった」

「わしもだ、インベスル。ジョージも強くなった、ありがとう」


 大魔術師インベスルさんの飼うミニドラゴンは雷を司る女神様の名か。


 俺の雷式ラ・ドオラの短槍も黄色いし、雷神ラ・ドオラ様と黄色い角は関係が?


 そして、亀のような老ドラゴンの名はジョージか。

 

 すると、亀のような老ドラゴンのジョージが「わしゃわしゃ」と鳴いた。


 黄色いミニドラゴンのラ・ドオラから離れて、


「わしゃわしゃ」


 と不思議な鳴き声を連発しては、四肢を甲羅の中に仕舞うと、ゆったりと浮遊しつつ、皆に向けて挨拶でもするように、頭部を鳩のように前後させる。


 長い髭がゆれては「わしゃわしゃ」と鳴いた。

 そのままゆらり、のんびり、どこ吹く風と、哀愁を漂わせて、大魔術師アモアススさんの籠の中へと戻り、その籠の中にある岩の風呂に入っていた。


 見た目は、温泉に入ったお爺さん。

 亀のようなドラゴンのジョージは面白い。


 籠の中の無数の動植物たちが、ジョージを迎えるように、特徴のある声を発して鳴いていた。

 

 一方、黄色い角を持つミニドラゴンのラ・ドオラ。

 その角をくるくると回してから――。


 大魔術師インベスルさんの足下に移動。

 

 黄色い角が、猫の耳のように柔らかくなっていた。

 硬そうに見えたが、実は粘土のように変化が可能なのか?


 バリアのような魔法防御バリアも展開していたし……。 

 あの黄色い角には、アドゥムブラリ系の能力でもあるんだろうか。


 あ、犀の角のように、実は毛の塊とか? 


 ミニドラゴンのラ・ドオラの内臓は半透明で不思議で可愛らしい。


 ペットにほしい。

 

 だが、相棒とイターシャがいるから我慢しよう。

 レベッカのレムランの竜杖にも、ナイトオブソブリンとペルマドンの二匹のドラゴンがいるからな。


 そんな変わったラ・ドオラを使役している大魔術師インベスルさんの隣には、シオンとエルフの女性大魔術師がいる。


 シオンは一礼。

 シオンは笑みを浮かべてから、


「皆、ありがとう」

「ふむ。直ぐに助けてやれなんだ。すまん」


 碁盤から降りた大魔術師ダルケルさんはシオンに謝った。

 ダルケルさんは、頭を上げても表情を曇らせていた。


「ダルケル爺。謝らないでください。ボクが懲罰委員会の命令に抵抗しただけ。内緒にしていたけど、アキエの作戦でもあったんだ」


 皆、シオンの言葉に頷いた。

 大魔術師ダルケルさんと大魔術師アモアススさんは数回頷いて、俺たちを見てから、小さく拍手。


「皆様方の予想は的中ですな」

「【天凜の月】の盟主と最高幹部たち、見事。そして、わしらも知らず知らずのうちに、アキエ・エニグマとシオンの策にはまったということ。しゃくではあるが……見事な作戦だ、シオン」


 大魔術師アモアススさんがそう発言。

 籠の中の幻獣や魔法生物に動植物たちが騒ぎ出す。

 相棒もクラッキング音を鳴らしていた。

 

「とんでもない。ボクも一枚噛んでいるけど、アキエが主力だから」


 シオンがそう喋る間に、相棒の胸元を押さえて、

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