七百四十二話 <悪愚槍・鬼神肺把衝>と新しい魔法の骨鎧

 足下に相棒が来た。

 皆は喜んでいるような表情ではない。

 心配そうな表情だ。

 黒猫ロロは「ンン――」と喉音を鳴らしてから「ゴロゴロ」と喉を鳴らす。


 甘噛みする勢いで俺の脛に頭部をぶつけてくる黒猫ロロさん。

 その黒猫ロロの腹を優しく撫でるように――足を少しだけ動かして相棒の好きなようにさせた。


 そのまま皆に向けて、


「もしかして、心配かけたか?」

「うん。シュウヤだから安心は安心と言いたいけど、心配したわよ。で、その表情だと、あっさりと奥義を獲得して遊ぼうとか考えている表情ね?」


 レベッカはそう言いながら俺の右手をギュッと握る。

 安心させるため、「――おう」と右手を引っ張りレベッカを抱いた。

 抱かれたレベッカは微かに頷いて、


「まったく! 胸をキュンとさせることが上手いんだから! 奥義の獲得おめでとう……」


 俺の胸元で呟くレベッカの肩甲骨を左手で優しく叩いてからレベッカと離れた。


「他にも、<血魔力>を活かす分身の術とかを獲得?」


 レベッカが、マジ顔でそんなことを聞く。

 思わず笑った。


「ヴィーネもそんなことを呟いていた。俺は独鈷魔槍でトースン師匠の魔人像を突いたあと、分身でもしていたのか?」


 そう言いながらレベッカ的な腕の動きで、腕から光線を出すようなポーズを取る。

 その俺のポーズを見て『ふふ』と笑うレベッカは、


「うん」


 と頷いた。

 少しトースン師匠の幻想修業を思い出しながら説明するか。


 右腕の二の腕を見せて筋肉アピールをしつつ、


「分身系のスキルは獲得していない。魔人像を魔軍夜行ノ槍業と独鈷魔槍で突いて、秘伝書が自動展開したんだが、それは見てたよな?」

「うん、難しそうな文字がいっぱい書かれてあった」

「文字はシュウヤの頭部に入っていった」

「はい、ご主人様が前にお話されていた<古代魔法>を解読した時と同じですね」


 俺は『そうだ』と頷いてから、


「おう。そこから幻想修業に入った。最初は魔界セブドラへの幻想的な小旅行。俯瞰視点のまま魔界セブドラの戦場の各地を転移する光景が続いたんだ。その魔界の戦場には吸血神ルグナドの眷属らしき存在がいた。が、あれは、魔界騎士かも知れない。で、上からの俯瞰視点は、鷹にでもなった気分で爽快だった」

「沸騎士たちが語っていた魔界セブドラの戦場かぁ。しかも、吸血神ルグナドの眷属っぽい存在とは驚きね。吸血神ルグナド<筆頭従者長>は魔界にもいるのかしら……本当の選ばれし眷属?」

「確かではない。そう見えただけで、<血魔力>を扱える怪魔って種族の魔族の強者だったのかも知れない。とにかく、魔族の集団と集団の争いは神々が争っているように見えて凄まじかった。個人と個人の争いも凄かった。そして、そんな激しい戦いの光景が途中で終了すると、いきなりトースン師匠と一体化した感覚となった」

「へぇ、師匠と一体化って……ロロちゃんとの繋がりのような?」

「ん、タルナタムとか?」

「にゃ?」

「そうだな。相棒の<神獣止水・翔>的と言えばそうなるか。<銀河騎士の絆>とも似ている。ま、内実は少し違うから説明は難しい。で、本格的なトースン師匠と繋がった幻想修業が開始された。師匠と俺が戦った相手は鹿頭と羊頭の姿で、初見はグリズベルっぽい印象だった。狩魔の王ボーフーンの勢力に多い魔族か。樹海に湧く樹怪王の軍勢の鹿連中とも似ていたな」

「樹怪王の軍勢ならサイデイルの周囲で何回も見た」

「はい、サイデイルを急襲してきた勢力の一つですね、何回も戦っています」


 キサラの言葉にサイデイルでの過去の戦いを想起する。

 樹怪王の軍勢には槍使い集団もいる。

 リーダー格に下半身が水棲動物っぽい鹿モンスター兵士もいた。


「そのグリズベルって、シュウヤが北の地域で旅をしたときに行ったアーカムネリス聖王国の周辺にいる魔族たちの名よね」

「ん、レベッカとも関係のある元ベファリッツ大帝国の皇都に拡がる魔境の大森林」

「あ、うん、ハイエルフ……」

「はい」

「ん、そして、現在も傷場から魔族たちは出現し続けている」

「傷場、魔界セブドラの出入り口ですね」

「ご主人様が持つ魔王の楽譜とマバオンの角笛を使えば、その傷場から魔界セブドラに進出できる。同時に、その傷場の確保は、ご主人様の大きな目標の一つ」


 ヴィーネは俺の心を読むように語る。

 俺は自然と頷いた。


「はい、魔界の諸侯たちも魔界側の傷場を巡り常に争い合う。地上から魔素と魂を得られる大事な源泉が傷場」

「うん。傷場の確保は、魔界セブドラ内での力の証明にもなる。と、アドゥムブラリも語ってた。それは重に理解しているけど……南マハハイムで活動していると、ベンラック村の事象と似たこと? ってぐらいの感覚でしか、今は理解ができないわ」


 俺も傷場は実際に見ていないから気持ちは分かる。

 魔境の大森林は遠いしな。

 ゴルディーバの里の北、マハハイム山脈の北。


 魔境の大森林とサデュラの森の周囲。

 南にある魔国イルハークの北にも傷場はあるようだが……。


「話を戻すと、鹿モンスターはグリズベルではなかった。トースン師匠が見破ったが、グリズベルに偽装した悪神デサロビアの眷属だったんだ」

「悪神デサロビアの勢力には、眼球おばけが多いとか、前に聞いたことがある」

「おう、その通り。その悪神デサロビアの眷属と激戦を繰り広げて、トースン師匠と一体化した俺が勝利すると……俺の視界は元通り。スキルも、あとから獲得したと理解できた。この間のネーブ村で六幻秘夢ノ石幢の四面を突いて行ったグルド師匠の幻想修業に近い事象。今回は、その幻想修行の感覚が拡大したような印象を受けた」

「分かる気がする。見ている側が心配になるぐらいに、途中からシュウヤの動きが激しくなったから」

「ん、新しい<刺突>のような動きも凄かった」


 エヴァはトンファーを出した。

 <刺突>のモーションを再現している。


 その可愛い動きを見て、笑みを意識しながら、


「皆には、分身しながら何かと戦っているように見えたわけか」

「ん、あと、シュウヤと魔人像の周囲に魔力の霧が発生していた」

「その魔力の霧の中で、半透明な独鈷魔槍を持ったシュウヤの分身体が、動きまくって消えたり出現したりしつつ<刺突>と<豪閃>? と蹴り技を使っていたの」

「はい、夢中になって見ていました」


 とキサラが語る。

 ヴィーネも頷いてから、


「そして、雷属性と闇属性を備えた骨刃の塵と、闇色と紫色の鬼の顔を模った魔力が、ご主人様の幻影を追うような動きを示していた。鬼のような姿の魔力はご主人様を喰うように見えたから正直、怖かった……鬼の顔は、魔界の神々とは違った印象を受けました」


 鬼か、古い鬼神とか飛怪槍のグラド師匠が語っていたが。

 俺が獲得した<魔槍技>は古い鬼神と繋がりがあるのかも知れない。


「よし、その新しく獲得した技を見せるとしよう。そこの奥に向かう通路は広いから――」


 そう言いながら魔槍杖バルドークを右手に召喚。

 その魔槍杖バルドークを持ち上げた。

 腕と体で魔槍杖バルドークを回転させつつ首の後ろに柄を運ぶ。

 ――そのまま上半身を前後させた。

 魔槍杖バルドークが首の周りを勢いよく回る。


「うは、なんて器用っていうか……凄い」

「ん、槍の武王!」


 そんなエヴァの声を聞いてから笑顔を送る。

 魔槍杖バルドークの柄に両手を掛けつつ半身の姿勢で動きを停めて、皆を見た。


「ふふ、素敵です」

「使者様~、カッコいい~」

「キュッ!」


 イモリザの頭部が気に入ったヒューイがイモリザの頭部を突く。

 その様子を見つつ魔槍杖バルドークにぶら下がる案山子をイメージして、風槍流『案山子通し』を実行――回りながら魔人の像たちが並ぶところから素早く離れた。


 奥に向かう広い通路に移動が完了。


 そこで、呼吸を整えた。

 ふうっと息を吐きながら――。


 左腕と左脇の間に魔槍杖バルドークの柄を落としつつ、

 右手を前に出して風槍流『右風崩し』の構えでポージング。

 風槍流『支え串』とは少し違う。

 間を作ってから右足、左足を交互に前に出して歩く――。

 右手に魔槍杖バルドークを移すと横回転。

 その回転させた魔槍杖バルドークを右腕と右脇で挟みつつ嵐雲の穂先を前方に運ぶ――。

 腰を沈めて自然体のまま下半身を重視した風槍流の基本の構えから――。

 <魔闘術の心得>を意識。


 また少し歩いた。


「風槍流の演武から、奥義を見せるつもりなのね――」

「ん! 興奮する!」

「わたしも<光邪ノ使徒>の第一の風槍流使いになる!」

「ンン、にゃおぉ~」


 皆が寄ってくるが構わず――。

 血魔力――。

 <血道第三・開門>。

 <血道第四・開門>。

 連続解放――。

 <血液加速ブラッディアクセル>――。

 <霊血の泉>を連続発動――。


 霊氣が宿る光魔ルシヴァルの血が一瞬で俺の周囲に拡がった。

 <霊血装・ルシヴァル>も発動。

 <血魔力>を意識しながら呼吸すると、口元から深紅の粒子が散った。

 魔槍杖バルドークに右腕の<血魔力>を吸わせていく。


「わ、血のマント?」

「閣下のルシヴァル宗主専用吸血鬼武装!」

「<霊血の泉>が強くシュウヤに反応しているだけ?」

「血のマスク~♪」

「にゃごぉぉ」

「とにかく凄まじい<魔闘術>の闘氣……<血魔力>か。やはりご主人様は光魔ルシヴァルの宗主様だと理解できる!」


 聖櫃アークの反応のある通路の奥に向けて左足を前に出す。

 そして、右足の膂力だけで『片切り羽根』を実行――。


「――速い、片足の魔脚だけで、前に転移したように見えた」

「ん、凄い歩法――」

「にゃ、にゃ、にゃ」

「キュゥゥ♪」

「使者様のダイレクトアタックゥ♪」

「あ、魔槍杖がシュウヤ様の<血魔力>を吸っています!」

「……右腕が痛々しい」

「<紅蓮嵐穿>の時もそうよね」

「ん、成長している神殺しも可能な奥義の一つだと思うから、リスクはある」

「はい、しかし、魔槍杖バルドークは、ご主人様だから、靡いているように見えます。不思議ですが……竜頭金属甲ハルホンクが目覚めた切っ掛けも魔槍杖バルドークにあるように思えますし」


 右腕ごと魔槍杖バルドークが震えて嗤い声を発した。


「カカカッ」


 乾いた嗤いだ。

 が、不思議といやな感じはしない。


 さて、皆の解説を聞いて気合いが入った。


 ――体幹を意識。

 全身の<血魔力>を更に強めた。

 ふぅぅと息を吐いた。

 臓腑から溢れた<血魔力>の血が全身の血の巡りを早めた。


 <血魔力>が俺を強くする。

 竜頭金属甲ハルホンクの軽装の防護服を越えて<霊血の泉>としての光魔ルシヴァルの俺の血が体に入ってくる。

 筋肉が増強したような感覚を受けながら……。

 魔槍杖バルドークを握る右腕と腰を捻る。

 左腕を前に出した。その指と指の間に通路が見えた。

 壊れた石塔が通路の端に並ぶ。

 奥は斜面で坂かな、クリスタルの柱も見えた。

 なんの聖櫃アークがあるのやら。

 そして、腰に溜めた筋肉の力を、魔槍杖バルドークを握る右腕へと送りつつ背中側へと魔槍杖バルドークを引いた。


 間を空けた。

 よしっと気合いを入れた刹那、左足のアーゼンのブーツの底で、魔法の反応を示す床を貫くような踏み込みから――。

 右手が握る魔槍杖バルドークを前に突き出した。


 その一弾指――。

 <悪愚槍・鬼神肺把衝>を繰り出した。

 右腕が握る魔槍杖バルドークから<血魔力>が吹き荒れる。

 同時に俺自身が前方へと風を運ぶように魔槍杖バルドークごと移動――<紅蓮嵐穿>の機動に近い。


 同時に紅色の嵐雲の穂先が膨れては収縮するのを刹那の間に繰り返す。


 膨張と収縮を繰り返す嵐雲の穂先。

 嵐雲の形が解かれるように髑髏模様の魔力が迸る。

 刹那、魔槍杖バルドークの柄から鱗を纏ったオーラが出現すると、穂先から出た髑髏模様を吸収して魔竜王の頭部となった。


 更に、邪獣セギログンの幻影が出現。

 が、魔竜王の頭部がその邪獣を喰らうと、虎邪神シテアトップの小型の幻影が柄から飛び出て魔竜王の頭部に絡む。


 他にも今まで倒してきた魑魅魍魎が出現。

 それらの魑魅魍魎の魔力の幻影が魔槍杖の穂先を起点に、扇状へと展開し、その空間を浸食。

 続けて、魔槍杖の穂先から鬼のような顔の幻影が出現。

 その鬼の顔が、扇状に出ていた魑魅魍魎の魔力を吸収しつつ前方に向かうと、鬼の顔は、紫色と血色の炎となった。その紫色と血色の炎は閃光を放ちつつ大爆発。

 大爆発の影響で通路の一部と壁が吹き飛んだが、その大爆発は魔槍杖バルドークの穂先に吸い込まれて一瞬で消失。

 そして穂先はゼロコンマ数秒も掛からず元の嵐雲の穂先に戻っている。


 膨張と収縮を繰り返す肺のような動きをしていた穂先が、大爆発を吸収したようだ。


 紫色と血色の大きい炎にも見えたが、幻?

 いや、幻ではない。

 残りの火花のような炎の粒に触れた壁の一部は……。

 溶けて消えていた。

 残った壁には紫色の鱗がこびり付いた炎が縁取る鬼のマークが刻まれているが……。


 あの鬼のマークは? 

 と疑問に思った直後――。

 鬼のマークの真上に鬼の紋様が浮かんでは爆発。

 ――真下の壁が消し飛んだ。


 鬼の顔の炎か。

 本元の突きといい、威力がある。

 機動は<紅蓮嵐穿>と似ているが違うな。

 扇状に前方に向かう指向性のある大爆発と肺のような動きの穂先。

 派手な薙ぎ払い系の<魔狂吼閃>とも違う。


 その魔槍杖バルドークの柄を確認。

 紫色の鱗は輝く。

 その魔槍杖バルドークを振るって踵を返した。


「――これが新しい<魔槍技>の<悪愚槍・鬼神肺把衝>だ」

「ん、最後、鬼神系の顔だと分かった!」

「うん、その顔が血色と紫色の炎となって前方に突出して、爆発する技!」


 さて――掌の上で柄を回転。

 手の甲に運んだ魔槍杖バルドークは回転を続ける。

 回転する魔槍杖バルドークは風を孕んだように重低音を響かせた。


「さっきの魔槍杖バルドークの穂先は生きているように見えた。今はもう嵐の雲? のような螺旋した形に戻ったけど、あ、遅れて爆発した鬼のマークの攻撃は、乱戦時に効果を発揮しそう」

「ん、シュウヤがまた強くなった」

「はい! 強く美しい。シュウヤ様の槍武術はずっと見ていたくなる。不思議な魅力があります」

「紅色と紫色の軌跡が凄く綺麗」

「ん、シュウヤの武術は芸術!」

「わたしも負けていられない……強くならねば」

「ん」

「わたしも修業をがんばるかな!」

「……ご主人様の背中はわたしが守るのだ」

「ふふ、わたしが支えて見せます……」

「使者様の門番長&第三の腕ですから、いっぱい支えます♪」

「……イモちゃんに負けているような気がしてきた」

「ん、何気に、イモちゃんが傍にいる期間が長い?」

「うふ♪」


 イモリザは嬉しそうに微笑むと、ヒューイを乗せた銀髪の形を少し変えた。

 方向を指す銀髪。


「使者様~、奥に行きますか?」

「おう。あ、ちょい待った。骨の塊を拾っとく」

「あ、骨の塊はトースン師匠のアイテム?」

「呪いは無さそうに見えるけど、結構な魔力の内包量よね」

「――やはり武器でしょうか」

「ん、新しい骨の魔槍に変化とか?」


 皆はそう予想するが、果たして――。

 トースン師匠の魔人像があった場所に素早く戻る。


「そうかも知れない――」


 と、片膝を地面につけて魔力を内包した骨の塊を拾った。

 立ち上がりつつ皆に骨の塊を見せる。


「キューブ?」

「表面はゴツゴツしている」

「ンン――」


 黒猫ロロが反応した。

 肩に乗ってくる。

 鼻息が少し荒いから可愛い。


 前足を少し前に伸ばしている。

 骨の塊でアイスホッケー遊びをしたいんだな。

 クリームパン的な肉球で叩かせるわけにはいかない。


 すると、レベッカとキサラとヴィーネが、俺の肩で興奮気味な黒猫ロロの体を撫でていった。

 黒猫ロロの撫で撫で大会だ。

 エヴァとイモリザもその撫で撫でに加わろうとしている。

 皆に触られて頭部を引いた黒猫ロロさん。


 髭がさがって機嫌が悪い。


「ンン、にゃ」


 俺の背中から地面に降りた。

 皆の足に肉球パンチを当てては俺にも肉球パンチを当てている。


 そのクリームパンの肉球からパワーを得た。

 皆も同様のようだ。

 笑っている。


 そんな皆に向けて、


「奥の聖櫃アークを調べる前に、この骨の塊に魔力を送って試すとしようか」

「ん、魔軍夜行ノ槍業は、その骨の塊には反応してないの?」

「あぁ、うんともすんとも反応しない。魔軍夜行ノ槍業に棲まう師匠たちとの修業は、八人の師匠たちの力を消費するんだろう。魂的な力を消費しているのだとしたら、八大墳墓をさっさと目指したほうがいいのかも知れない……ま、そんなことは八怪侠たちは言っていないから気のせいかも知れないが」


 エヴァはそう聞くと魔軍夜行ノ槍業を凝視。

 少し不安そうに魔軍夜行ノ槍業を眺めてから、俺が持つ骨の塊に視線を移す。


「なら、骨の塊は別種のアイテム類。危険かも」

「あぁ」

「ンン――」


 また俺の肩に乗った相棒だ。


「ん、骨だから骨の刃がでる? 骨の怪人が出たら、痛い思いをする」

「にゃ~」


 相棒がエヴァの声に合わせて鳴いた。

 エヴァは俺を見たまま。


 相棒はツマラナイというように下に降りた。

 エヴァの足に肉球パンチをしてから甘えるようにエヴァの金属の足に頭部を寄せて擦っていた。

 そんなエヴァを見ながら、


「ま、試すだけ試す」

「使者様の血を吸うとかですかね~。ならば眷属的なモノに変化の可能性も、わたしを作ったように<霊呪網鎖>の出番でしょうか」

「あ! 忘れてた。そういうやり方での眷属化とかもあった!」


 と、手を叩くレベッカは面白そうに俺の掌にある骨の塊を見る。


「今はただの骨の塊だ。どうなるかは分からないが……」


 ヴィーネも俺の傍に来て骨の塊に指を伸ばすと、


『触れていいですか?』


 と言うような表情を寄越した。


「いいぞ」

「何かありそうな気配があります。二十四面体トラペゾヘドロンのようなアイテムだったら……」

「もしそうだったら凄い」

「骨怪人、タルナタム的な存在が潜んでいるって可能性も」

「そうだな。ま、試す」

「「はい」」


 皆の返事を聞いてから――。

 骨の塊に魔力を送った。

 イテェ――。

 骨の塊は細かな骨の刺を瞬時に生やして俺の掌を刺していた。

 更に、その骨の刺から俺の魔力と血を吸った骨の塊は、輝く。

 その刹那、骨の塊は骨の板に変化した。

 骨製の魔術書か?

 表面には鬼の顔のデザインが施されてある。

 その鬼の顔の中心には、文字のタイトルと、指をはめ込む窪みがある。


 すると、右肩に違和感、相棒ではない。


「ングゥィィ、マリョク、ガ、タクサン!」


 竜頭金属甲ハルホンクの声だ。


「ハルホンクに喰わせてみるのも一興か」

「食いしん坊のハルちゃんに喰わせるのは、まだあとよ、気になるし」

「ん」

「ングゥィィ……」

「鬼の顔の形はさっき浮いていた魔力の幻影に似ているわね。武器かと思ったけど魔造書かしら? 文字もあるけど、シュウヤは読める?」

「『鬼骨・魔霊氣』と読める。この窪みに指を嵌めろってことだろう」

「ん、何かの武器か防具?」

「たぶんそうよ! 何か、ワクワクしてきた」

「俺もだ。<悪愚槍・鬼神肺把衝>と関係するか不明だが……よし、血か魔力を、この鬼の顔の骨の板に送るとしようか――」


 骨の板の鬼の顔の窪みに指を置いた。

 そして、押印をするように指から魔力を、その骨の板に送る。


 俺の魔力を得た骨の板は――。

 骨の鎧を形成。

 その浮いたままの骨の鎧から魔線が迸り、魔線が俺に付着。

 魔線と骨の鎧は鬼の造形の魔力の幻影を発しつつ――。

 胸甲に上腕と前腕の筒に近い防具と肘当てなどに分離。

 分離した銀色と金色と白色が混じる骨防具は俺の体の各所に付着する。


 竜頭金属甲ハルホンクの軽装に合うかも知れない。

 魔線の動きは<導魔術>を扱っていたソルフェナトスの魔線っぽい。


「ングゥィィ!」

「で、食べたそうなハルホンク。が、暫し待てだ。お手をしたら、いや、違う。この新しい鎧は、今のハルホンクの衣装と合うから、このままでも好いような気もするが」

「ングゥィィ」


 胸甲のデザインがいい。


「今のハルホンクの衣装は白襯衣シャツの七分袖の軽装だし、紫色と白色が混じる竜模様のインナーとも合いそうね」


 レベッカが興味深そうな表情で語る。

 俺は頷きながら、脇をチェック。

 銀色と金色の薔薇の模様が刻まれた肋骨の隙間から魔風が出ていた。

 ソルフェナトスも脇の位置から魔力を噴出させていた。

 胸元には鬼の面の紋様がある。

 鬼神のマークだろうか、渋い。


「ふふ、素敵な魔法の骨の鎧です!」

「血鎖鎧とは違うけど、紫色の魔力がなんとも言えないわね、渋い」


 光魔ルシヴァルの<筆頭従者長選ばれし眷属>のファッションリーダーのレベッカが褒めてきた。


 中々に良い鎧だ。

 効果は防御力が高いことは分かる。

 魔力も上がった。

 速度はどうだろうか。

 すると、


「にゃおぉ」


 と鳴いた相棒の上唇が可愛く震えている。

 ウィスカーパッドから生えた白髭は上機嫌だ。

 門歯を少し見せたドヤ顔の黒猫ロロさん。


 腹に赫く魔力の腹帯があった。

 子猫バージョンだから小さい。


「わ、ロロちゃんも鎧を!」

「ふふ、小さい腹巻き?」

「赫く炎から溢れる燕型の炎が可愛いですね」

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