六百八十五話 セナアプアの銀の涙

 元気な黒猫ロロは、


「にゃお」


 と再び鳴いて表情が微妙に変化。

 尻尾でダッシュボードを叩く。


 その表情と行動から、


『わたしも外に出るっち!』


 と言葉が聞こえてきそうな印象を抱く。


「おうよ、黒猫ロロ! 外に出ようか」


 嬉しそうに瞳を輝かせた黒猫ロロは、


「ンン」


 と、肩に跳び乗ってきた。

 んだが、早速、俺の耳朶に悪戯を始める天邪鬼。

 甘噛みを繰り返す相棒ちゃんだ。


「――痛くはないが、くすぐったい!」

「ん、ロロちゃんには、シュウヤのお耳は美味しい食べ物?」

「ンンン、にゃ~」


 耳元で相棒の荒い鼻息を感じながら、


「エヴァ、相棒を調子に乗らせるな! 本当に耳が餃子化してしまう――」

「ふふ」

「あはは」


 エヴァとクレインの笑う声で、俺も心が弾む。

 そのまま――悪戯を繰り返す相棒の頭部に『この可愛いにゃんこめが!』と、キスを返した俺は――。


 キサラと一緒にコックピット席から離れた。


 射出機カタパルトに移動――。


 車内の真ん中にあったレーダマップを展開していた特殊な机は既にない。


 机は下に格納されている。


 横の機関砲のハンドルを含めた車内の色合いが射出機カタパルトの動きに合わせて変化。


 反応制御技術の一種だろう。


 背後から「ピピッ」とガードナーマリオルスの音も聞こえる。

 足下の射出機カタパルトから小気味いい金属音も響いた。


 車内の出入り口に向かう射出機カタパルトが自動的に調整された音か。

 続いて、後部のガルウィングドアが瞬時に開いてタラップが伸びた。


 ――ハイム川だ。

 水面からの飛沫と、その飛沫に反射する高感度エニチュードワイヤーシステムの明かりが眩しい。


 そして、ちゃんとフォド・ワン・ユニオンAFVは推進力を得ている。


 聞いていたように、大きいタイヤも内部に格納された状態だろう。

 タラップも、途中でスタビライザーのような部品に変形。

 フォド・ワン・ユニオンAFVの下の形は船尾のようになっていた。


 後部の左右に備わるハープーンガンと車内の横に付く機関砲。

 天井のキャノン砲が内部に格納した位置調整でボールタレットの位置は下に移行している。

 これらの銃の弾は豊富にあるようだから、銃に慣れるためにも皆に試し撃ちをやってもらうかな。

 ハープーンガンは弾頭が長いから撃ったら反動が有りそうで扱いは難しそうだ。

 機関砲はジャムることはないはずだから慣れる必要もなく扱えるとは思うが、蛇人族ラミアの赤ちゃんしか撃っていない状況もどうかと思うからな。


 そう考えつつ、魔力の帆としてのエネルギーを展開中の大本の光り輝くワイヤーを確認。


 ワイヤーの先端は、既にハイム川に入っている――。

 ワイヤーが沈むハイム川の表面から水蒸気的な霧が発生していた。

 ハイム川に触れていないワイヤー部位からは、灰銀色と赤色と青緑色が混じったエネルギー波が放射状に展開中。


 ――エネルギーの帆。

 美しい魔力の翼か、蝶の羽か、凧か……。

 形容することは難しいが、あのワイヤーのシステムをアクセルマギナが改良したと語っていたように、魔法防御フィールドも変化して、ちゃんと魔力の帆として機能している。


 魔法と宇宙文明の魔科学が融合したような……。

 トーラスエネルギーの防御技術を内包した高感度エニチュードワイヤーシステムのワイヤーか。


 全天候型の装甲車。

 水陸空と、フォド・ワン・ユニオンAFVの可能性は凄い。


『ふふ、綺麗な魔法翼。そして、この風と気持ちのいい水気です~』

『あぁ――』


 常闇の水精霊ヘルメに完全に同意だ。

 ――綺麗なハイム川。

 イルカかオットセイか、海の生物の群れもいる。


 頭部に角がある?

 モンスターか?

 ハイム川にもモンスターはいるからモンスターかな。


 その未知のイルカが飛び跳ねる。

 ん? その下のハイム川で、人魚的な生物が見えたような。


「ングゥゥィィ」

「ハルホンク、魔力の反応も様々だな。が、食べることはなしだ」

「ングゥゥィィ、オオキイ、マリョク、アッタ! ゾォイ」


 傍にいるキサラが竜頭金属甲ハルホンクを凝視。

 不思議そうにハルホンクを見る。


 俺はキサラから視線を外して、再び、ハイム川を確認。

 ハイム川の右上から右下のほうに向かう軍船と貿易船にヨットのような形の船が見える。

 行き先は位置的に古都市ムサカ方面か。

 まだ戦争は続いている。

 飛び地を得た形のオセベリアだが、これからが大変だろう。

 無理に領土を維持しなければならない理由が塔雷岩場を巡る争いからも、あるんだろうとは思うが……。


 あの軍船とヨットの高速船は、何かの任務を帯びていることは確実か。

 海賊船には見えないが、十二大海賊団って線もあるか。

 魔力を有した軍船とヨット。


 レイが操縦する魔導船のような速度は出ていないが、速いほうだろう。

 マジマーンのカーフレイヤー号も速かった。

 その二人はメル組。

 ホルカーバムでカルードを降ろし、もう既にペルネーテに戻っている。


 やはりハイム川は広い――。

 ――海に見える規模の大河。

 このまま外に飛び出て飛翔するのも楽しいかも知れない――。


 刹那、小型オービタルを出す。


「ひゅ~。それがエヴァも言っていた、ばいくって乗り物かい?」

「そうだ、これで『バリバリ伝説』を行う」

「ん、シュウヤ。魚モンスターから、ばりばりを喰らわないように、魔力消費に気を付けて」

「あぁ、ほどほどにして途中で遊ぶのを止めるさ」

「ん」


 と、背中越しに、二人に答えた。

 小型オービタルの車輪が射出機カタパルトに嵌まる。

 その小型オービタルに跨がった。

 衣装も革ジャンスタイルに切り替える。

 イメージは、アキレス師匠からもらった頃のジャケットだ。

 黒を基調として、相棒の腹にある小さい神獣マークと同じマークを俺なりにイメージして付けた。


「ンンンンン――」

「ングゥゥィィ、スコシ、イタイ……」


 肩にいたロロディーヌは興奮して前足を竜頭金属甲ハルホンクに当てている。

 足が俺の肩に持ってかれたからだろう。

 ハルホンクの衣服が竜の口がある肩に吸われる刹那の間も、しっかりと、神獣としての視力と動体視力で、捉えていたからこそ、その吸い込み口に向かう衣服を見て、不思議だと、興奮してしまったはず。

 

 今も、『にゃぁんだ! このりゅうの口!』と言わんばかりに肩の竜頭金属甲ハルホンクの口を前足で叩いていた。


「相棒、遊んでないで、乗れ」

「にゃ――」


 鳴きながら小型オービタルの操縦桿の中央部に前足から乗った。

 ディスプレイの上に猫の足跡の軌跡としての肉球のマークが次々に浮かぶ。

 と、チャイルドシート的なハーネスっぽい網がついた小さい席が、操縦桿の真上に展開した。


 前にも相棒の肉球マークに反応を示していたが……。

 よく見たら相棒の四肢とディスプレイにあるマークが重なって反応を起こしているようだった。

 こんな密かな機能があるとは。

 小型オービタルも独自の機能が他にあるってことかな。

 アクセルマギナを乗せたらバージョンアップを施してくれそうだが、ま、後々だ。


 しかし、小型オービタルを作った開発チームの中に猫好きがいたってことか。

 すると、傍にいるキサラが、


「シュウヤ様、それが、ばいく。そのばいくに乗って飛翔を?」

「そういうこった。前にも教えたが、こういう時に喋る言葉がある」

「ん、いきまーす?」


 後方からのエヴァの声。

 俺は小型オービタルのハンドルを意識しつつアクセル――。


「――おう、シュウヤ、行きまーす――」

「あ、シュウヤ様!」


 小型オービタルに乗った俺は、フォド・ワン・ユニオンAFVから飛び出た。

 同時に<邪王の樹>を意識――。

 タイヤが触れるか触れないかの前方の位置に細い樹の道を一気に生成――。

 その樹の道に着地するや否や、小型オービタルのアクセルを全開にして加速した。

 小型オービタルの加速に合わせて、ハイム川を横断する勢いで樹の道を伸ばし続けていく。


 夜のハイム川の風が気持ちいい――。


「ンン――」


 操縦桿の真上に座る相棒も楽しそうだ。

 チャイルドシート的な席に座りつつ一対の小さい触手で風を抱きしめるように宙を泳がせた。


 ――ハイム川の夜風は気持ちいい。

 相棒も気持ちいいはずだ。


 相棒はリラックスした様子だ。


 ……魔霧の渦森を想起。

 坂道を駆け下りた時を……。

 黒猫ロロとポポブムと一緒に、あの霧から脱して坂を駆け下りた時は……。

 最高に気持ちよかったからなぁ。


 蒼穹を抱くような気持ちだった。


 黒猫ロロと一緒に土手に座りつつハイム川の夜景を見ていた頃もあった。


 ホルカーバムに向かう時か。

 懐かしい。


「――シュウヤ様、速い! しかし、樹の橋をハイム川に生成してしまうとは凄すぎる」

「俺も魔力と精神はかなり成長しているからな、まだ余裕な範囲だ。自然に回復する速度も速まっている」

光と闇の運び手ダモアヌンブリンガーのシュウヤ様だからこそ可能な御業かと」


 キサラは魔女スタイルで飛翔中。

 キサラは微笑んでくれる。

 その微笑みと言葉に応えつつ……。


 小型オービタルの速度を緩めた。


 そして、航行するフォド・ワン・ユニオンAFVの背後を確認。


 エネルギーの帆が綺麗だ。

 水陸両用フォド・ワン・ユニオンAFVに乗っている皆に向けて、


『エヴァ、俺たちはゆっくりと警戒に入る』

『ん、分かった』


 <分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>を実行。


 キサラは宙空でターン。

 ダモアヌンの魔槍を跨いだまま飛翔していく。


 俺は再び<邪王の樹>を実行。

 小型オービタル用の樹の道を作る。


 湾曲した樹の道だ。

 その湾曲した樹の街道を、俺と相棒を乗せた小型オービタルは駆けた。


 よし――。

 太股に力を入れて小型オービタルを挟みつつ前輪と後輪に力を伝えるように下に押し込んでから――。


 その反動を利用――。

 小型オービタルで跳躍を行った。


 その跳躍機動中に腰を捻る。

 小型オービタルごと横回転しつつ周囲の夜景を楽しむように視界を切り替える――。


 塔烈中立都市セナアプアが視界に入る度に注視する。


 ――綺麗な魔塔の群れ。

 ――夜の工場を遠くから眺めているような光の芸術だ。


 そして、ヴィーネはまだか。

 沙、羅、貂の<神剣・三叉法具サラテン>もまだ来ない。


 直後、その魔塔の群れの中に魔素を探知。

 ――追っ手か。


 俺たちもそれなりの速度を出していたが、追跡者も速い。

 まさか<分泌吸の匂手フェロモンズタッチ>に反応した敵の類?


 ヴァンパイアハンターが空を飛ぶ?

 塔烈中立都市セナアプアならありえるか。

 戦神教団とか神界系のブーさん一族の可能性も……。


 ブーさんは光輪の武器アーバーを俺にプレゼントしてくれた。

 あのブーさんはペルネーテの上空で魔界と邪界の連中を監視していた。


 この塔烈中立都市セナアプアにも上空から監視しているブーサン一族がいるとか?


 ま、それは違うよな。

 やはりペレランドラと敵対している評議会、評議員が持つ空魔法士隊だろう。

 評議会の上院評議員議長ネドーって親玉を叩きに戻りたいが、その時間はなさそうだ。

 ドイガルガも狙いたいところだが……。


 その魔素の集団の姿が見えた――。

 同時に<魔闘術の心得>を意識。

 体を巡る魔力の強弱を意識しながら深呼吸をしつつ魔手太陰肺経の動作を繰り返す。


 すると、美しいセナアプアの夜空に空魔法士隊の連中の影、いや、姿を視認。


 杖を跨ぐ者と杖を必要としない飛行術を持つ者。

 アイテムで飛行する者は少数。

 先頭の人物は他とは違う帽子とマントを装着中。

 両手に短杖を持つ。


 強者の雰囲気がある、空戦魔導師かも知れない。

 そんな魔法使いの集団だ。


 俺はエヴァに向けて、血文字で、


『背後、塔烈中立都市セナアプアの方角から敵集団だ』

『ん、操縦はアクセルマギナちゃんに任せる。わたしは先生と一緒にドロシーとペレランドラを守る』

『おう』


 血文字を寄越したエヴァが乗る航行中のフォド・ワン・ユニオンAFVは俺たちの背後を航行。

 エネルギーの帆は、ハイム川の風を捉えて、それなりのノット数が出ているが、あまり推進力は高くない。

 わざと速度を落とした感がある。

 ま、アクセルマギナには考えがあるってことだろう。


 視線を上げて、飛来してくる集団を見ながら、


「――相棒、キサラ、あれはどう考えても敵だ。やることやって、ヴィーネたちを待つ」

「ン、にゃお~」

「はい――」


 相棒とキサラは俺の左右から飛翔。

 ロロディーヌは黒豹の大きさに変身。


 漆黒の胴体から一対の大鷹が持つような翼を生やしつつ旋回――。

 この塔烈中立都市セナアプアの周囲は気圧差が異なるのか、断熱膨張が普通ではないところがあるようだ。

 ところどころで変な形の水滴の塊が翼の近くから落下していく。


 ロロディーヌの飛翔が気になったが――敵を注視。

 俺たちが分散したのを見た、敵方の、帽子とマントを装着した人物は途中で静止。


 短杖の先を俺たちに伸ばす――。

 指示を出したか。


 その人物の指示に従う空魔法士隊だと思われる魔法使いたちは左右に分かれた――。

 指示を出した人物の背後で停止しているグループもいる。


 三つに分かれた――。

 それぞれ小隊規模。


 中央の指示を出すリーダー格が率いる部隊の数が多い。


 相棒とキサラを個別に叩きつつ包囲しながら戦う戦術だろう。


 一糸乱れぬ動きに、古代狼族のダオンさんの言葉を想起する。


『お前たち――狼半翔! 双月五式の構えを取れ――』


 と、古代狼族の独自オリジナル戦術名を叫んでいた。

 空魔法士隊の戦術名は知らないが、空魔法士を養成する魔法学院で、色々と学んだ結果だろう。


 相対相手の集団がルマルディの後輩か先輩か、知り合いでないことを祈る。


 そして、戦術なら俺も少しは勉強したい――。

 と――《火球ファイヤーボール》と《風槌エアハンマー》が迫った。


 ――小型オービタルを加速させて、それらの魔法攻撃を避ける。


 <邪王の樹>で湾曲した樹の道を生成――。

 イメージは遊園地にあるような螺旋道――。

 その螺旋道の樹の道を、小型オービタルで駆けつつ右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 そんな俺の小型オービタルの前進する速度に合わせた《火球ファイヤーボール》が迫った。


 その《火球ファイヤーボール》の真芯を捉えるように――。

 横からバットを振るうように魔槍杖バルドークを振るった――。


 ――その《火球ファイヤーボール》をぶった切る。

 二つに分かれた《火球ファイヤーボール》が樹の道を削って散る。

 俺にも小型オービタルにも火花が降りかかった。

 が、そんなことより《火球ファイヤーボール》の威力に驚いた。


 レベッカの蒼炎弾並みに重い。

 威力のある魔法の反動が、嵐雲の形の紅矛と柄を震動させた。


 小型オービタルの速度を速めるが即座に対応する空魔法士隊。

 こりゃ勉強する暇はなさそうだ――。


 遠距離集団戦にかけちゃ向こうがプロ。

 俺は魔法使いの戦術に関しては、ずぶの素人だ。

 個人での立体機動戦は迷宮都市ペルネーテで狭い範囲ではある程度慣れてはいるが――。


 空中の集団戦の勝手は違う――。

 《風槌エアハンマー》が前髪を掠めて耳が削れた。

 強力な《風槌エアハンマー》――。


 痛いが……。

 俺も大魔術師ゼレナードを倒した。

 ――白色の貴婦人との空中戦を活かす。


 <邪王の樹>で生成した樹の道を狙う空魔法士隊のメンバーも出てきた。

 小型オービタルの速度に合わせる空魔法士隊の魔法技術は高い。


 <邪王の樹>で穴を塞ぐことはせず先に先に幾重にも分岐した樹の道を作るが、悉く、破壊。

 ただの樹の道だが、子分の『ピクミン』的な樹が破壊された気分になった。

 しかし、こんな優秀な集団とヴィーネは戦っていたのか。

 装備も優秀で激強いヴィーネが、一時、守戦に回るほどの集団だから当然か。


 小型オービタルの速度に合わせて飛来する《風槌エアハンマー》を捉える。

 ――魔察眼だと眩しいぐらいの輝きを放つ《風槌エアハンマー》。


 一級魔術師だったゾルの攻撃を思い出しつつ左手に出した血魔剣に魔力を送る。


 ――骨の杯が密集した十字の柄から血が迸る。

 ――ブゥゥゥンと音を響かせつつ左手に出した血魔剣を振るった。


 <血外魔道・暁十字剣>で――。

 横から飛来した《風槌エアハンマー》を薙ぐ。

 真っ二つになった《風槌エアハンマー》の一部が俺の黒ジャケットと衝突――。


 衝撃ですこぶる痛かった。

 が、神話ミソロジー級の防護服の竜頭金属甲ハルホンクだ。

 体に傷はないが、小型オービタルの表面には少し傷が付いた。


 空魔法士隊は手慣れてきたのか、俺に集中攻撃。

 小型オービタルを加速させつつそれらの魔法攻撃を避けては――。

 血魔剣で魔法攻撃を切り、回転させた魔槍杖バルドークで魔法攻撃を弾く。

 小型オービタルのフロントフォーク的な部位の左右から魔力粒子が迸った刹那、左からポーションが飛来。


 と、ポーションが破裂して爆発――。

『――ヘルメ、<精霊珠想>』

『はい』


 俺の左目から出たヘルメの<精霊珠想>が爆風を吸収してくれた。

 怖かったが、怖がっている暇はない。

 前輪と後輪の擦れた面から熱を感じさせる勢いで小型オービタルを加速させる。

 水蒸気的な爆風から抜けるように出た俺と小型オービタル――。

 連続的に飛来する魔法攻撃の大半を避けた――。


 小型オービタルの速度を落とすためか、樹の道は槍礫に破壊されたが――。


 <邪王の樹>が作る樹の道をフェイク代わりに<導想魔手>を小型オービタルの足場に利用――。

 小型オービタルのタイヤが<導想魔手>の表面で急回転。

 一気に前に出て宙に飛び出た小型オービタルは慣性計測装置も優秀だ。


 魔力を備えた宇宙文明のセンサーによる姿勢制御技術のお陰だろう。


 小型オービタルはバランスを維持する――。

 その跳んだ先の下に<導想魔手>を再び生成――。

 <導想魔手>を前輪と後輪が捉えては――。

 再び小型オービタルのアクセルを捻って加速させる――。

 前輪に迫る《火球ファイヤーボール》を避けるため前輪を持ち上げた小型オービタル――。


 そのウィリー機動を活かす――。


 馬ならクールベットの馬術――。

 前輪が浮いたまま小型オービタルの後輪で<導想魔手>を蹴った。


 宙に再び作った<導想魔手>を足場に――跳ねて、跳ねての蛙のような機動で飛翔的なバイク機動を繰り返す。


「にゃごぁ」


 相棒の攻撃した時に発しやすい声が聞こえた。


「――あの乗り物はなんだ、獣か?」

「前輪と後輪から呼吸するように吐き出す魔力もある!」

「――樹を吐き出しているようにも見えるぞ」


 上体を反らして《火球ファイヤーボール》を避けた。

 今の俺が乗る小型オービタルの姿が、敵から獣の四肢が躍動しているように見えている?


 飛来した《風槌エアハンマー》を血魔剣の<水車剣>で斬った。

 再び<邪王の樹>で樹の道の生成を続けながら<導想魔手>の上でアクセルを捻る――。

 

 小型オービタルは加速して宙に飛び出た――。

 <導想魔手>から焦げ付いたような匂いが漂ったが、ま、気のせいだろう。


 その直後、飛来する魔法を<精霊珠想>で吸い込んでから小型オービタルを反転させつつ魔槍杖バルドークを振るう。


 《風槌エアハンマー》をぶった切る――。


 続けざまに血魔剣で<飛剣・柊返し>を実行――。

 重い手応えのある《火球ファイヤーボール》を切り刻む。


 デュラートの秘剣でもよかったが――。

 手が痺れているが血魔剣をこのまま使うか。


 魔法と<光条の鎖槍シャインチェーンランス>と<鎖>は、まだ使わない。


 わざと小型オービタルの速度を落とす。

 魔法に対処。

 敵の飛翔速度を測る――。

 あまり隙がない。

 こちらから攻撃魔法を繰り出して隙を作り出す正攻法が正しいか。


 俺の<魔闘術>と同じように、その飛翔技術は洗練されていた。


 対飛行集団に特化した戦術。


 塔烈中立都市セナアプアの中立が保たれていた理由の一つ。


 そして、空魔法士隊の一隊が城塞都市ヘカトレイルに侵入しては、堂々とルマルディを追った理由か。


 空極のルマルディが俺に対して、警戒を促していた言葉も想起した。


 その空魔法士隊の面々が、


「血の炎が迸る十字架の柄! 魔剣師か!」

「あの樹の魔法に、空を飛ぶ車輪具など、情報にない!」

「構うな、このまま包囲し慎重に攻撃を続けろ――」


 二つの短杖を持つ隊長クラスが叫ぶ。

 あの帽子の隊長さんと直に戦いたいが――。


 まだだ、空魔法士隊の面々の動きを見る。

 副長らしき存在もちらほらといる。

 隊員も含めて表情と視線と魔力操作の流れは、いつもの戦いと違う。

 攻撃の予測と、どの方角に飛行しやすいのか、読み取ることは難しい。

 魔闘術系の魔力操作の技術も皆、規則正しい。


 ――厄介だな。


 が、何かしらの魔力の流れ、個性と呼ぶべきくせがあるはず。

 筋肉の動きのくせ、仕種があるはずだ――。


 陣形に合わせて魔力と速度に強弱をつけている?


 エセル界の装備は分かるが――。

 明らかに〝宇宙文明〟のナパーム統合軍惑星同盟の連中が持っていそうな『ジェット・パック』的な装備品から噴射した推進力で加速している副長らしき人物もいる。

 

 他の魔塔の上部に宇宙船的な戦闘艦が停泊していたようにミホザ星人が残した第一世代の遺産を、レアパーツの回収を進めていた勢力がいたようだ。

 

 ハートミットはミホザを古代種族の異星人の勢力の一つと語っていた。

 俺の戦闘型デバイスを装備していた銀河戦士だったゼン・ゼアゼロさんの経緯を含めて、ミホザ星人以外にも、第一世代の異星人が残したレアパーツ的な装備品はあるかもな――。

 

 単に、俺たちが持つような迷宮都市産の宝箱のアイテムかも知れないが――。

 ――《風槌エアハンマー》を避けた。

 

 だからこそ、空を踏まえた集団戦の経験は今後の糧となる。

 できるだけ学ぶとしよう。


 続いて、<霊血の泉>を発動。

 ルシヴァルの霊気を帯びたような深紅の輝きを帯びた血が周囲に拡がる。

 <霊血装・ルシヴァル>も備えた。


 すると、金髪の副長らしき女性が、


「喰らいなさい、エゼルバの雷刃を!!」


 そう叫ぶと片手を振るう。

 片手が握る水晶から《雷鎖チェーン・ライトニング》と似た稲妻の魔法が出現。


 ヘルメの<精霊珠想>の防御層の質が変化する。


 かなり強力な魔法と判断した。

 が、稲妻の魔法は軌道が変化――。


 電光石火の勢いでキサラに向かう。


 フォローが間に合わない。

 が、キサラはキサラ。

 跨いでいたダモアヌンの魔槍を即座に振るいつつ――。


「――ひゅうれいや、謡や謡や、ささいな飛紙……」


 と、<魔謳>を披露しつつダモアヌンの魔槍を目の前に掲げた。その柄の穴からフィラメントが四方に展開すると、展開したフィラメントは絡み合って重なって、大きな盾となった。


 何回も見たことがある『籐牌とうはい』的な盾。

 鬼の顔の盾だ。

 その大きな盾で、エゼルバの雷刃稲妻をしのぎきった。


 が、威力あるエゼルバの雷刃稲妻だ。

 キサラの魔女衣裳が裂けて体から血が迸った。


 刹那、左側が一気に熱を帯びて明るくなる。

 相棒の炎だろう。

 今戦っている空魔法士隊も優秀だとは思うが、一度、ヘルメと一緒に優秀な空魔法士隊と戦ったことのあるロロディーヌだ。

 知恵のある神獣と相対した空魔法士隊の面々は南無かな。

 左側の魔素の気配が一気に少数になった。


 その神獣ロロディーヌが対峙している集団や俺自身が対峙している集団よりも、負傷したキサラが気になった。


 キサラは『大丈夫です』と微笑みを寄越す。

 傷は絆創膏のような紙人形がもう塞いでいた。


 その絆創膏は新しい黒衣装によって見えなくなった。

 新衣裳のキサラは、直ぐにダモアヌンの魔槍を振るう。

 白絹のような髪を揺らしつつ手首の数珠から鴉を出す。

 腰の魔界四九三書の一つ、〝百鬼道〟が光った。


 キサラは百鬼道の何番か不明だが、連続して魔術を使ったか?


 四方八方に飛翔した鴉の群れが魔法士隊の視界を封じた。

 ――敵の空魔法士隊に混乱を呼ぶ。

 続いて、無数の紙人形がその混乱した空魔法士隊に付着していく。


 <魔倶飛式>を親分とする<飛式>か。


 と、俺にも攻撃が――。

 眼前の《火球ファイヤーボール》をぶった切る。


 続いてまたキサラのほうに視線を向けた。


 キサラと戦っていた空魔法士隊に付着した色違いの紙人形は爆発し、炎上。


 爆発した空魔法士隊のメンバーは無言のまま墜落。


 爆発が小規模で、まだ生きている空魔法士隊は、鴉に襲われて誘導を受ける。

 おどろおどろしい紙人形が付着した空魔法士隊は、動きがとろい。


 エゼルバの雷刃を繰り出した水晶を持つ金髪の魔法使いも動きを止めた。


 ――直後。


 加速したキサラ。

 迅速な勢いで金髪の魔法使いとの距離を詰める。

 その勢いのままダモアヌンの魔槍を振るう――髑髏模様の刃から迸る魔力の紋様が金髪の魔法使いの首に向かった。


 それは、ダモアヌンの魔槍の刃を、相対相手の首へと誘うような動き。


 刹那、金髪の魔法使いの首に、そのダモアヌンの魔槍の刃が吸い込まれた。


 金髪魔法使いの首が吹き飛ぶ。 

 キサラは横回転しながら――。


 その首を刎ねたダモアヌンの魔槍を両手で回転させつつ自身に鴉を纏わせる。


 すると、自身が紙人形と化した。

 ――幻術か?


 ――刹那。


 キサラは転移したような動きから<刺突>を他の空魔法士隊の男に喰らわせていた。


 ――凄いと感心しながら――。

 俺に飛来した《風槌エアハンマー》を避けた。


 その《風槌エアハンマー》を寄越したリーダー格をチラッと見てから、キサラと相棒の様子を見る。

 ロロディーヌは尻尾無双だったから、ま、見なくても大丈夫か。

 再びキサラの空域を重視――そのキサラは鴉の群れと<飛式>を応用している。

 敵の視界を塞ぎ、動きを止めて攻撃。

 そして、誘導か。


 さすがは、四天魔女キサラ。


 そう言えば対魔術師戦には<飛式>が必須だと語っていた。


 クナの治療といい魔手太陰肺経を教えてくれているキサラは、やはり凄い女性だ。


 ――尊敬しか浮かばない。


 心でラ・ケラーダを送る。


 ゴルディクス大砂漠の経験に、塔烈中立都市セナアプアでの戦闘経験&空戦魔導師を超えた強さを持つ大魔術師アキエ・エニグマと戦い続けているだけはある。


 俺も迅速にやるとしようか――。

 《火球ファイヤーボール》と《風槌エアハンマー》がウザい。


 盛大に光魔ルシヴァルの血を込めた血魔剣を振るいつつ――。

 ――<血外魔道・石榴吹雪>を発動。

 血魔剣から血の石榴が出現するや否や、転々と、宙空を転移しつつ消えては現れる血の石榴となって、空魔法士隊を追跡しては、空魔法士隊の誘導を行う。

 各所で<血外魔道・石榴吹雪>の血の石榴が爆発。

 防御魔法に失敗し血の石榴が直撃した魔法使いは体が吹き飛ぶ。

 手足を失った魔法使いは「うぎゃぁぁ」と墜落。

 杖が折れた魔法使いも「あぁぁぁああああ」と、墜落。

 <血外魔道・石榴吹雪>の対応に追われた空魔法士隊の面々。

 更に遠距離から血魔剣を振るって<血獄魔道・獄空蝉>を発動――。


 血魔剣の周囲に細かい血の礫が無数に発生し、敵に向かう。


「速いぞ――」

「ぐあぁぁあ」

「ぐぇぇ、闇の念鋼布ヴォルチャーキャッチが燃えたぁぁ」


 ――凄まじい数の<血獄魔道・獄空蝉>が空魔法士隊を捉えた。

 血の礫に貫かれる空魔法士隊の面々。


「敵は吸血鬼か!」

「遠距離が主体だ、集結しろ」


 敵に語っている奴がいるように、防御に成功する者が多い。

 が、狙い通りに誘導は成功――。


 リーダー格の背後に空魔法士隊の面々が集結。

 その後方から、次々と魔素を探知した。新手だ。


 ヴィーネの血の匂いも察知、敵集団の新手と一緒か。

 塔烈中立都市セナアプアの銀色の輝きが一瞬、暗くなったような気がした。


『ご主人様、沙、羅、貂様たちと合流。今、向かっている最中です』

『おう、俺も戦っている最中。敵に構わず合流を急げ、サラテンにも構うな、戦うなら放っておけ』

『はい、しかし、沙様、羅様、貂様たちが、それぞれ戦いつつペレランドラの関係者たちを救いました。羅様と貂様の力で敵の反撃を防ぎつつの移動なのです』

『分かった、できるだけ急げ。エヴァにも同じ情報を』

『もう伝えてあります』

『了解した』


 <邪王の樹>を意識しつつ血魔剣を消去。

 代わりに左手に魔槍杖バルドークを移しつつ血魔力<血道第三・開門>。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動――。


 瞬時に濃厚な<血魔力>が小型オービタルと俺と樹の道を覆う。

 濃厚な<血魔力>にスペシャルなエンジンオイルを得たように小型オービタルが血の樹の道を急加速する――。

 続いて<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を発動――。

 更に、血を纏う小型オービタルから離れた――。


 <邪王の樹>の樹の道を破壊していたリーダー格は飛来する巨大な血濡れたバイクを見て驚愕。


 同時に魔槍杖バルドークを左手に持った状態で――。

 両手首から<鎖>を左右に放つ。

 

 狙いは左右の優秀そうな空魔法士――。


「「――え?」」


 <鎖>が二人の頭部を貫く。

 更にその<鎖>を消しつつ<血鎖の饗宴>を実行――。

 俺から出た無数の血鎖が空魔法士隊を襲う――。


 そして、<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の漆黒の闇と<霊血の泉>の血の世界が空間を侵食するように拡がっている最中に――血濡れた小型オービタルは中央を突進。


 ――帽子をかぶるリーダー格に向かう。


 その帽子をかぶるリーダー格は<血鎖の饗宴>を杖の魔刃で防ぎつつ小型オービタルにも対応。

 片方の短杖から出した魔力の剣を太くし、盾のように扱う。


 その魔力の盾で、小型オービタルの突進を防いでいた。

 ――見事だ。


 小型オービタルの突進を防いだが、その衝撃で後退するリーダー格。

 帽子が吹き飛びつつも<血鎖の饗宴>の血鎖の群れを、短杖から出したムラサメブレード・改のような魔刃を振るって防ぎ弾く――特殊な魔刃を生やす短杖だ。

 そのムラサメブレード的な魔刃を出す短杖を持つリーダー格は、長い金髪を靡かせながら蒼い双眸を晒した。


 前髪が靡いて、蒼い双眸が見え隠れする。

 彫りが深く鼻が高い整った面で、顎に髭があった。

 ――首下に光を放つネックレスが見える。

 首下のネックレスの効果か?

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>の影響は受けていないようだ。


 そして、<血鎖の饗宴>も確実に対処しては避けている。

 プラズマのような魔刃を発している短杖には光刃放射口は見当たらないが神話ミソロジー級の武器かもしれない。きっと名のある空戦魔導師なんだろう。


 しかし、悲しいかな、これは命の奪い合い――。


 俺は<血鎖の饗宴>を消去。

 遠距離から<超能力精神サイキックマインド>を発動。


 小型オービタルを引き寄せつつ――。

 切り札の<脳脊魔速>を発動――。


 魔槍杖バルドークで<刺突>のモーションを取る。

 同時に<導想魔手>を蹴って前進。


 空中から突進しつつゼロコンマ数秒も経たず――。

 金色の長髪が靡く空戦魔導師の男と間合いを詰めた。


 同時に小型オービタルを仕舞う。

 そのまま<超能力精神サイキックマインド>を実行――。


 衝撃波ではない首を掴むイメージだ。


「――ぐあ、く、首が、このような、魔法……ヒミカ、リフェス様……」


 死を悟った面の空戦魔導師。

 その背後、塔烈中立都市セナアプアからの銀色の粒の群れが流れ落ちるように動く。


 空魔法士隊の面々だ。

 <脳脊魔速>に対応する精鋭たち。


 その涙のような銀色の粒たちに構わず――。


 即座に丹田を意識し魔力操作。

 膨大な魔力を左手の魔槍杖バルドークに移す。

 と、同時に<紅蓮嵐穿>を繰り出した。

 左腕が真っ直ぐ伸びた構えのまま秘奥が宿る魔槍杖バルドークと共に次元速度で直進――。


 ――魔力嵐が吹き荒れる魔槍杖バルドークが空ごと空戦魔導師を穿つ――そのまま吹き荒れた髑髏模様の魔力は、背後の空魔法士隊の面々をも派手に銀の涙ごとぶち抜いた。


 魔槍杖バルドークの螺旋する刃が集積する嵐雲の形をした穂先から髑髏模様の魔力が噴き上がっていた。


 魔力嵐が吹き荒れる魔槍杖バルドークを喰らった空戦魔導師は、輝きを発したネックレスと短杖ごと散った。


 ――凄まじい威力。

 魔竜王槍流技術系統:魔槍奥義小。

 奥義小とはいえ、奥義に部類される魔槍技。


 刹那、近くで散ったネックレスの部品たちが光り輝く。

 魔法文字で『レミィ・ド・シェル・アゼン――』と浮かぶと――。

 続いて、愛の女神アリア的な幻影が現れた。

 朧気ながら悲しげな表情を浮かべていると分かる。


 その悲しそうな女神の幻影は霞むと、銀色の涙が流れた。

 銀の涙が流星のように曲線を描き散った直後、<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>が打ち消される。


 同時に、吹き荒れた魔力嵐に、霞んだ幻影の一部が吸収された。


 <紅蓮嵐穿>に巻き込まれた形か。


 すると、まだ残っていた女神の霧の魔力は俺の<血魔力>と呼応。

 ――散ったネックレスが瞬く間に俺の血を、周囲の散った銀色の粒子を吸い寄せた。


 ――対応しよう。

 魔槍杖バルドークを意識。

 鐘の音を魔槍杖バルドークへと響かせるように魑魅魍魎共を抑える。


 その光魔ルシヴァルの血を吸収したネックレスは女神アリアか不明だが、銀色の涙の力か、魔力を取り戻したのか、直ぐに元のネックレスの状態に戻る。


「驚きだ。<紅蓮嵐穿>に耐えた奇跡のネックレスか? 銀の涙のネックレス……しかし」


 その銀の涙のネックレスを即座に掴んだ。

 チクッとした心の痛みを感じた。

 血が流れる感覚。

 ……銀の涙のネックレスから深い愛を感じた。

 こりゃ、今、倒した名の知らぬ空戦魔導師を愛する人の祈りか。


 ……済まない。

 が、これも戦いだ。


 右腕の戦闘型デバイスに納める。

 刹那、ヴィーネの姿と<神剣・三叉法具サラテン>たちの姿を確認。

 羅の下に見知らぬ方々もいる。

 羅が作り出した半透明な網のような魔力で包まれていた。


「ご主人様――」

「シュウヤ様、右の敵は倒しました」

「にゃお~」


 神獣ロロディーヌとキサラが俺の前に出る。


『――器! 助けた者が、妾に血肉を提供すると申し出たのだ!』

「器様、助けた者たちの傷は回復しました~」

「シュウヤ様の器様! この者はわたしに神像を彫って下さいました、見て下さい~」


 ヴィーネといい、沙、羅、貂、仙女たちが揃い踏みだが……。

 助けた方々にはドワーフの彫り師がいるようだ。


 しかし、その背後の空魔法士隊の集団だ。


「ヴィーネ、休んでいろ、俺が対処する――」


 が、上空斜め上から魔線が迸る。

 キャノン砲かよって威力だが、フォド・ワン・ユニオンAFVからの援護ではない。

 キサラやヴィーネの攻撃でもない。


「シュウヤ様、今の攻撃は、左です! 大魔術師アキエ・エニグマ!」


 キサラが叫ぶ。

 ダモアヌンの魔槍の穂先を向けた先には大きな鴉の群れが漂う。


 軍隊並みの集団の面々は焼け焦げているが、まだ生きている者が多い。

 大軍だ。その大軍の空魔法士隊の面々は、その大きな鴉の群れに向けて攻撃を開始していた。

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