五百五十四話 ミスティと銀の不死鳥のメンバーたち

 早速、エンジンをチェック。

 上の操縦席とパネルとバルブが金属製で繋がっているし、捻子と端子はどれも精巧。コンコルドの液体素子と似た動きを示す変わったシリンダー部位から、はみ出た未知のガラス製容器の中には、水銀の魔力が含んだモノが入っているし……。

 しかも、この水銀の魔力が含んだモノは、わたしの<金属融解・解>に反応している? 金属の気体ということかしら……。


「あぁーミスティさん、触っちゃだめですよ! 溶けちゃうでしょう」

「ごめん、気になるんだもん」

「銀船が壊れたら、大問題となりますから、絶対に触れないでください!」

「そっくりそのままということは無理かもしれないけど、再現可能かもしれないわよ?」

「え……でも、だめです! 今、加速中で船長のフラクタル魔神経網は駆使しているはずなんですから」


 フラクタル魔神経網?

 何かしら……操縦するのに専門的なスキルが必要ってこと?

 

「……走行中だと分かってるし、さすがに溶かさないわよ。でも、この中身の金属は直に触ってみたい」

「だめです」

「……分かったわよ。糞、糞、クソ」

「……魔導人形ウォーガノフの専門の貴族の出でとお聞きましたが、意外に下品なんですね」

「ごめんね、クセなのよ……」

「そうですか」

「さっきのフラクタル魔神経網とは何かしら……」

「それはレイ船長に聞いてください」

「ふーん、で、この魔導船はどこで手に入れたの?」

「たしか、群島諸国サザナミで、四つ眼の」

「――おい、船長に秘密と言われているだろう」


 と、いいところでスタムさんに止められた。

 スタムさんは大柄のスキンヘッド。

 魚人の血が入っているとは思うけど、見た目は人族に近い。

 

「……いいじゃない、レイはもうマスターの部下なんだし」

「あ、うっかりしてました」

「リサはミスティのことを気に入ったようだ」


 と、呟いたのはカフーさん。

 彼女が持つ武器はクロスボウ。

 ソプラさんが持つクロスボウとはまた違う仕組みの武器を腰に下げている。


「そのマスターとは海に愛されている男だな。レイが従ったのも頷ける。あの黒い瞳も不思議と魅力があった。そして、【虹が島】の【酒場ラズナル】の出身の荒くれた大海賊たちのようだったな。そう、まるで、巨人の足航路ビッグザフットラインを航海してきたような雰囲気があった」

「スタムにそこまで言わせる総長か……」

「そうだ。初見だが、こんな思いを得たのは初めてだ」


 と、頬を赤くするスタムさん。

 えぇ? 惚れちゃったのかしら……。

 マスターとスタムさんの一夜とか想像したらいやぁぁぁ!


 ……マスターは女だけでなく男にもモテるからやっかいなのよ。

 優しいし強いし、仕方がないんだけど。

 でも優しすぎるのは問題よ、問題だけど、そこがマスターなんだから仕方がないか。

 まったく……自分のことよりもキッシュさんのために……。

 愛した者たちのために尽くして……凄く、優しいんだから……。

 皆のことをわけ隔てることなく、わたしにも優しくしてくれるし……。


 レベッカがタックルする気持ちは分かるわよ!

 ほんと、もう……わたしもがんばろう……。


「……スタム、やはり、【天凜の月】の盟主は船長と?」

「あぁ、っておい勝手に推測するな」


 カフーさんが気になることを。 

 マスターとレイ・ジャックが何かしら……。


「なんか、気になるんだけど」

「気にしないでくれ、こっちのことだ……」


 そういうけど気になるわね……。

 カフーさんは目つきが鋭くなって腰の魔導具に触れているし。

 スタムの腰にも同じ魔導具がある。

 中心に文字のようなモノがあるけど……。

 あまり魔力も感じないのも不自然なのよね。

 ただのハーネスに付いている魔力源とも思えないし……。

 

 わたしたちの会話から外れたリサさんは、エンジンのプラグを取って違う、差し込み口に挿入していた。

 上の操縦席とパネルが地続きの無数に存在するプラグの蓋の一つが開いた。

 そこから魔力の霧と空気の圧力で押し出された金属の筒が飛び出てきた。

 

「なにそれ! 筒の中身は何? 操縦席と繋がってるの?」

「繋がってるけど、これの報告鉄筒は違う。この筒の中には紙よ」

「紙……地図?」

「そう、といっても周囲の海域。あ、ううん、ここは支流だから川幅と水深と障害物の位置の地図ね、紙に航海がしやすい位置を示して教えてくれるの」

「へぇ、凄い……そんな魔導具聞いたことない。迷宮産の中にあるのかもしれないけど……ますます、こんな魔導船をどこで手に入れたのか、気になるんだけど」

「……それは俺の口からは言えないな」

「メル副長が黙ってないわよ」

「……船長に聞いてくれ、【天凜の月】の部下になったが、まだ俺は、すべてを信じ切れていないんだからな。クナの繋がりもどうも……」


 まぁ、マスターも無理に聞くことはしないでしょうね。

 これはペルネーテの副長メルに連絡ね。

 ヴェロニカにも報告しよう~。空旅を実行中のマスターと皆にも血文字連絡を!


 ――う。

 スタムさんとカフーさんの視線が怖い。


「……通信用魔導具か」

「ま、厳密には違うけど、似たようなものよ」


 血文字は光魔ルシヴァルの特権みたいな能力だからね。

 通信魔導具もあるにはあるけど……。

 範囲も短いのばかりだし、通信範囲が大きいアイテムは地下オークションにも出品されることが希のようだし。

 血長耳たちは専用の通信魔導具を持っているようだけど。


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