五百四十七話 眷属と仲間たちとの話し合い

 リビングルームは広い。

 机の上に空けたワインが残っていた。

 パーティだったと思うが、部屋は小綺麗になっている。


 しかし、モデルルームを超えた清潔感だ。

 表向きは外交官で、裏は何重とした組織と絡む特殊工作員が如何にも住んでいそうな家。

 隠しボタンとかありそう。

 棚の裏とか冷蔵庫に銃が詰まっているとか、音声認識や人感センサーでドアが開いたりとか、実は床がマジックミラーで下に殺し屋の伏兵が潜んでいそうだ。

 魔素は皆の気配があるだけで、伏兵はないと分かるが……少し不安を覚えるほど生活感の感じられない内装だった。


 そこに颯爽と現れたヴィーネ。


「ご主人様、お帰りなさいませ」

「おう」


 そう返事をするとヴィーネは俺の表情から察したのか、怪しい壁に視線を向ける。

 地下室に『ご主人様、ここが怪しいです』と銀色の瞳は語る。

 その壁を見ていると、リビングルームに皆が集結。


「お帰り~」

「「シュウヤ様!」」

「シュウヤ!」

「マスター!」

 ミスティの新型魔導人形ウォーガノフのゼクスが、いきなり眼前に迫る。

 頭部がパカッと開いた状態。

 頭部の表の部品が放射状に押っ広げ状態だ。――びびる。が、中身が凄いな……。

 クリスタル状のメモリ板のようなモノと、蒼炎に燃えた魔線が繋がっているがケーブルに見えてくる。

 粒状の細かな髑髏の群れに、緑黄色の結晶のようなモノ、それらが精密に上下に組み合わさって脳としてのCPUと脳幹に内分泌腺を放つ松果体のようなモノを構成しているようだ。

 

 複雑なバイオコンピューターを思わせた。

 俺の知る地球のバイオ技術も凄まじかったな。


 多能性幹細胞を活かした研究は脳オルガノイドを超えていた。映画『JM』を現実は超えていくと当時は思ったなぁ。


 人工脳とAIが融合し、倫理が問われる人間の脳と機械を融合させるトランスヒューマンの実験もどこかの島で秘密裏に行われていた。倫理観の低い国、戦争に巻きこまれた国ではバイオニックソルジャーや生物兵器を研究するところがあった。


 戦争はビジネスだったからな。

 戦争すれば、穀物などが上昇し、食物関連の企業は大儲け、軍需産業も潤う。

 イデオロギーはプロパガンダに利用されるのみ。

 ニュースとなる茶番をソースに作られて、視聴者がより集まり資本家が儲かる仕組みと。

 医療もワクチンの殆どが儲けることだけで利益優先、人命はモルモット、軽んじられていたのは大問題だった。

 

 と、過去を思い出すが、ゼクスの脳の機構は魔力効果も相まって地球の科学よりも上かも知れない。

 ニューロンシナプスにも見えるし、中では量子のゆらぎのような事象が起きていそうだ。と、考えていると、


「シュウヤ、ミレイヴァルってアイテムの美人さんを出しなさい!」

「ん、落ち着いてレベッカ」

「ご主人様、魔国イルハークとは……」

「シュウヤ、お帰り! 槍のお師匠さんとの戦いが聞きたい」

「東邦のセンティア見聞録のとか血文字で教えてもらった鑑定の品とかが気になる!」

「あ、月狼環ノ槍は置いてきたようね」


 そう語る<筆頭従者長選ばれし眷属>たちは普段着。

 薄着だから妙に色っぽい。特にレベッカだ。

 朝風呂でも入ったのか、金髪が湿って、いつもの幼げな印象とは打って変わる。

 妖艶な女性っぽさが出ている。

 しかも透け透けなシャツから乳首さんの胸ぽっちが露出しているがな。

 あまり他の男に見せたくないが、レベッカは気付いていない。


「「シュウヤさん~お帰りなさい!」」

「主の帰還だ!」

「シュウヤ!」

「魔国と通じていたゴウールと主が倒したゼレナード。そしてアドホック家のとの関係が気になります」

「わたしもレベッカさんと同じく、ミレイヴァルという古の英雄さんが気になる」

「黒霧ゴウールに魔国。遙か南方の地にも魔界と通じた裂け目がある情報のほうが重大です」

「それよりも猫魔獣でしょ」

「ん、乗りたい」

「うん、わたしも」

「俺は主の二の腕にある十字架が気になる」

「マイロードの新しき眷属。それも光神ルロディスと通じる光の精霊ルナ・ディーバの件も重要かと」

「そうねぇ……エヴァも気になるでしょう。サージロンといい……」

「ん、マセティノたちは、わたしの魔導車椅子を作った古代ドワーフ」

「エイハーンとかゼルビア皇国に近い、ヘスリファートのフォルトナ山と繋がるどこかに寺があるって。フォルト街よりも遠い場所のようね」

「光の精霊様が仰ったサージロン。法厳鉄魔流とも関係があるかもしれません」

「シュウヤさん――」

「「大隊長!」」

「隊長! まだ髪が乾いていません!」

「主! 大海賊たちと隻腕の虎獣人ラゼールたちに食事と自由は与えているぞ」


 と、各自、好き勝手に俺に報告してくる。俺は聖徳太子じゃねぇぞ。

 そんな偉人の聖徳太子の話を思い出しつつ――。

 まずは閃光のミレイヴァルとゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の説明から紅虎の嵐に因んでキッシュ関係の地下討伐に動くかどうかを話し合っていく。


 すぐにオフィーリアたち小柄獣人ノイルランナーたちもサイデイルに住むことに同意してくれた。

 

 アリス&エルザも了承。


 アリスとエルザには追っ手が多数いる。

 彼女たち的にもサイデイルに身を潜めることは正解だろう。

 交易ルートが確保されつつあるサイデイルだが、人材の出入りは限定される。


 周囲が敵だからけの樹海だからこそ、古代狼族たちの都市より追跡者の侵入は難しいだろう。


 <無影歩>のようなスキルがある以上絶対はないが。


 そして、サイデイルには防衛と農業を含めた整備に製材所と働く場所はたくさんある。

 事欠くことはない。

 エルザもアリスを見守りながら安全に暮らすことはできるだろう。


 ……巨大な材木の運搬と家の基礎工事はロターゼとネームスがあっさりと終わらせるからムベドの親父はぼやいていたようだが。


 ま、キッシュとしては早く街が発展してほしいだろうしな。


 エルザとアリスにナナは俺の家に住んでもらうか。

 言語学習も進んでいるサナさん&ヒナさんとも仲良くしてもらうとして、弟子のムーも打ち解けてくれるだろう。


 ソロボとクエマのほうはオーク語だから難しい。


 そんな会話を続けていくと……。


 ナナは唇に指を入れたまま幼げな肩に〝ブリちゃん〟という闇の液体で構成している狛犬を出しながら頷いていた。


 見た目は神社にあるような狛犬さんだが……。

 ヴァーミナが語っていた恐王ブリトラの力か。


 レベッカとミスティとエヴァに見守られている。

 クナが目を細めて見つめているのがなんとも……。


 クナショックを思い出す。

 ま、クナに関しては後だ。


 そして、皆に向け……。

 大きな目標の一つとしてロルガ討伐に動くことを伝える。


「ペルネーテの学院の仕事もあるけど、協力はする」

「俺もだ。デルハウト殿に借りを返さねばならんし、地下にも向かうぞ。俺の一族たちが居る可能性があるかもだからな」


 ハンカイがそう語る。


「ん、わたしも行く!」

「なら、わたしも」

「体がまだ不安ですが、魔界の八賢師セデルグオ・セイルが製作したとされる糸の魔法書といい、モガさんのお宝が非常に気になりますからね。わたしもサイデイルに行きたいです」


 クナがそんなことを語る。


「大隊長! についていきます!」

「シュウヤさん……」


 ツラヌキ団とオフィーリアまで。

 正直、彼女たちに辛い戦いはもうしてほしくない。

 サイデイルで平和に過ごしてほしい。


 と、考えると、


「僕もシュウヤと共に行きたい」

「わたしも、隊長として王家に報告したいですが……できれば……シュウヤさんの傍に居たい……」


 と、ラファエルとエマサッドが発言。

 すると、


「俺もバーレンティン殿たちのような吸血鬼として働きたい」


 短剣を扱うダブルフェイスもそう発言。

 彼の蝦蟇なんとかは強烈な印象を受けた。


 俺も学べるかもしれない。

 と、すんなりと皆から了承を受けた。


「構わんぞ。眷属化は血を消費するから、そう気軽にはできない、だから、地底に向かう際はメンバーを厳選する。それでもいいな?」

「当然ね」

「うん」

「そうだな。眷属化した紅虎の嵐とも話がしたい」

「わたしはルシェルさんの光の魔法が気になります」


 ヴィーネがそう指摘してきた。

 続いてラファエルが、


「勿論さ、サイデイルに働き口は無数にあるようだからね。防衛でも運搬でも僕の力は役に立つよ。旧神ゴ・ラードやら樹怪王たちの軍勢と争っていると聞いたし、ま、平和になっても人族のクソな貴族共もちょっかいを出してくると思うからね」


 確かにラファエルの能力は使える。

 ロターゼのような怪物を飼っているのか?

 というか、魂王の中に入ってみたいが、やることやらんとな。

 ラファエルはクナを見る。


 クナも頷いていた。

 人族との貴族絡みか、クナも色々とあったようだな。


「ありがとう」

「ありがとうございます!」

「エマサッドもペルネーテの屋敷かサイデイルで働いてもらうこともできるし、回復が速いのなら、一緒に戦うこともできるだろう」

「はい、お任せを。護衛の任も得意です」


 エマサッドの戦闘術は見ていないが、レベッカ&ミスティ&ゼクス&キサラと対決して生きている。

 だから実力に関しては申し分ないだろう。


 そのような優秀な人材が俺と一緒に居たいと言ってくれるなら、俺なりに応えよう。

 彼女の祖国に向かうことも考えようか。


 んだが、まずはアルゼの街に向かうとして、


「ゴウールの鏡の片方はここに置く――」


 と、実際にアイテムボックスから取り出し、設置。


「はい」

「このクナのセーフハウスで少しまったりと過ごしてから、皆をパレデスの鏡でサイデイルに送ろう」

「はい、キッシュさんに直接お礼がいいたいです」

「わたしもだ。リスクのあるわたしを、いや、アリスを受け入れてくれる優しき女王に謁見したい」


 当然だが、エルザは女性として成り上がったキッシュを敬っているようだ。

 アリスは「うんうん、キッシュ司令長官様!」と、にこにこと笑顔を浮かべて発言した。


 皆、微笑む。

 エルザは母親のような慈愛な表情を浮かべてアリスを見て頷く。

 彼女の顔の半分は紗幕のようなアウトローマスクで隠されているが……。


 その表情からある程度気持ちは推察できた。

 追跡者の実力は高いか。

 やはり一筋縄ではないということだろう。


 そのエルザの左腕のガラサスは静かだ。


「受け入れるのはナナちゃんもだからね。敵は悪夢教団ベラホズマだけでないようだし……」


 レベッカがナナの手を握りながら語る。

 そのナナが、


「わたし、その教団の人知ってる」

「大丈夫だったの!」


 レベッカがナナを凝視して大声を出した。

 ナナはビックリしてレベッカを見ながら、


「うん、血と肉を食べさせられた」


 その瞬間、レベッカの表情が凍り付く。

 俺もだ……皆、シーンと静まる。


 ナナはどうしたの? といった顔つきだ。

 すると、ラファエルが、


「悪夢教団以外の敵となると、キーラたちかな?」

「そうだな。ナナと接触しようとしたキーラか」

「地下オークションで大金を払ったアイテムも気になるわね」

「……資金力が豊富。別の組織が裏にいると予測するよ。何処かの貴族か。ま、可能性が高いのは闇のリストと繋がっているコレクターのシキとか、クナちゃんかな」


 そう喋りつつ嗤うラファエル。

 嗤う表情に皮肉を超えた意思が込められていると分かる。


 鼻血を拭いたクナは堂々と胸を張る。

 余裕の表情を浮かべて、


「わたしではないですよ? そしてコレクターでもないでしょう。勿論、繋がりはあると思いますが」

「ほぅ、アドリアンヌと敵対するということでもあるからか」


 と、俺が指摘した。


「はい、さすがはシュウヤ様。深い」

「いいから、話を続けてくれ」

「オークションで蒐集品を集め部下も集めることの好きなコレクターが、オークションに多くの品を出し、正体の知れないアドリアンヌに敵対するとは思えませんもの。それに、まだ【天凜の月】と【星の集い】は同盟関係なのでしょう?」

「メルからはハイム川東部の船商会とのいざこざがあるだけで、とくに【星の集い】とのトラブルは聞いていないな」


 ヴィーネに視線を向ける。


「はい、ラドフォード帝国領とオセベリア領の陸運と海運のトラブルは聞いていないです」

「アドリアンヌさんも争いは望まないと思うわよ。わたしに貴重な魔法書をくれたし」


 とユイは片手に持ったガルモデウスの書を泳がせる。

 俺はユイと書の動きを見ながら、


「アドリアンヌとは、いずれ、話をつける」

「その帝国で揉めた件は気になるね」


 と、ラファエルが指摘。


「まだ同盟ですよ」


 と、カルードが補足した。


「それと、コレクターですが、あの方はわたしと同じように蒐集を好みますからね。アドリアンヌとはっきりと敵対するとは思えません。勿論、わたしと同じように何かしらの野望はあるとは思いますが……」

「そっか」

「ですからキーラ・ホセライのバックには、【闇の枢軸会議】の中核組織【闇の八巨星】のいずれかがついていると予測します」

「その【闇の八巨星】ってのは、今はないが、昔の【八頭輝】たちと繋がりはあるのか?」

「……【白鯨の血長耳】と【雀虎】は繋がりがあるはず」

「それは知らなかった」

「表に出ることはあまりないですからね。しかし、武闘派の魔族の通称なら知っています」

「通称だけか。だれだ?」

「六本足の炎玉使いと呼ばれる方で、骸骨の頭部のようです」

「魔人ザープとか関係がありそうだな」

「どうでしょう」


 クナはそう語る。

 本当に色々と居るなぁ。

 ジョディは眉を動かしていた。

 六本足の炎玉使いを聞いたことがあるのか?


 クナは話を続ける。


「レフテン王国は誘拐されていた姫が戻っている状況と聞きました。ホクバも死に八頭輝の闇ギルドも瓦解している現状の今、キーラたちのグループを前面に押し出し、利益に繋がるルートを考えますと……やはりサーマリア王国とオセベリア王国の戦争で美味い汁を吸っている【闇の八巨星】のだれかが、ナナの誘拐に手を貸した可能性が高いかと推測します」

「ま、ナナやアリスを追うグループも、サイデイルなら大丈夫だろう」

「八巨人だが、闇の覇王だが、なんだが知らぬが、宗教絡みに人肉マニアと戦うなら俺も戦おう」


 と、ハンカイも宣言してくれた。

 闇の八巨星で、どれも違うが、敵ならだれであろうと戦うという意志は伝わる。


「返り討ちです」


 ヴィーネもそう指摘する。

 ラファエルも頷きながら、


「うん。聞くだけだけどサイデイルなら安心感がある。キッシュ司令長官と元魔界騎士たちの側近はかなり強そうだ」


 そう話す。

 皆、納得していた。

 クナ関係やら、ナナが捕まった経緯をラファエルは皆に説明をしたようだ。


 ラファエルとクナの表情を見ているとミスティからギルド秘鍵書を手渡された。

 その瞬間、俺の手の中に沈み込むような魔力の波動をギルド秘鍵書から感じ取る。


 秩序の神オリミール様に関する物。

 冒険者ギルドでも大事な物だよな。

 各地域のギルドマスターたちにとっても大事な物だろうし。


 ゼレナードがどういった理由でこれを欲したのか。

 魔力を送って確かめたくなる気持ちを抱いた。


 が、ミスティが睨みを強めて、


「シュウヤ、一見すると、ただの書物だけど」

「あぁ」

「触ったから分かると思うけど……神々しくて恐れ多い気持ちを抱かせる物よ。早く返したほうがいい」 

「シュウヤなら、何かしらプラスに作用すると思うけど」


 と、皆、各自意見を述べる。


 ある種、呪いよりも強烈か。

 神聖さを感じる物と分かる。


「ま、返すさ――」


 と、アイテムボックスにギルド秘鍵書を仕舞う。

 他の刻印バスターたちが納得するかどうかは分からないが……ゼレナードを倒したんだ。

 聖ギルド連盟たちの仇は取れたと思いたい。


「んじゃ、皆をサイデイルに送る前に、ここでクナたちから話を聞こうか」

「はい、シュウヤ様」

「まずは、闇のリストの一人、オカオさんって鑑定人はこの町に住んでいるんだろ?」


 オカオさんが普段働いている冒険者ギルドはヘカトレイルだ。

 だからヘカトレイルに転移が可能な魔法陣が、ここにあると思うが、それは、まだ口に出さなかった。


「はい」


 クナは黄色い双眸に魔眼を宿すと、優しく微笑む。

 昔のような妖艶さも感じた。

 が、少し違う、クナから優しさを感じた。


 そのクナが、


「はい。その件は後ほど……」


 言葉を濁す。

 そこから別件の話し合いに移った。


 それはアドリアンヌの件だ。

 ラファエルもアドリアンヌと過去に取り引きがあったようで、エコーの音が怖かったとか過去の話をしていくと……。

 エマサッドとダブルフェイスとカルードとユイも鴉さんも【星の集い】に関することで意見の交換を行っていく。


 ラファエルはアキに額縁の中に入ってみようかとか誘っていたが、カルードが激戦を繰り広げた戦いの話を耳にして「揉めた件とはこのことか、あの赤雷のレジーを!」とレジーが死んだことを聞いて驚いていた。

 ホワインさんの片方の目のこともあるし、その西のラドフォード帝国に関する内容は少し気になったが……キサラとジュカさんは魔法ギルド幹部組織〝玲瓏の魔女〟の話に展開すると聞き耳を立てる。


「帝国関連か……」


 と、呟きながらヘルメに視線を向ける。

 頭上で浮いていたヘルメは微笑みを向けてくれた。


 俺も微笑みをヘルメに返してから「少し見学するか」と、呟く。


 セーフハウスの内装を見学しながらカルードたちの作戦で動いたサザーとフーとビアに、キサラとジュカさんを見る。


「おいで、見学しよう」


 と、皆を呼ぶとキサラとジュカさんも玲瓏の魔女のことで話をしてから、ママニたちと別れて、俺のほうにきた。

 俺はフーの近くに向かう。


「あ、ご主人様!」


 と、びっくりして頭部どころか首まで赤く染めたフーの手を掴んだ。


 俺は手を繋いでいる<従者長>のフーを見て、


「……フー。アルゼの仕事と海賊と片腕の虎獣人ラゼールが率いていた冒険者たちの戦いで、大いに活躍をしたようだな。よくやった」

「ご主人様の眷属ですから、当然です」

「これは、褒美だ」


 と、長耳に癒やすように優しく語りながら……血を操作。

 彼女の掌に直接、血を送り込む。


「……アン、ァ……」


 と、フーは体を震わせる。

 そして、エルフらしい白い肌を斑に赤く染めていくと膝から崩れ落ちた。

 内股の姿勢で、臀部が床に触れた瞬間「ァン」と、声を出してから、また強く震える。


 白い頬を真っ赤に染めて、恍惚な表情を浮かべると……。


「ご主人様……」


 悩ましく熱を込めた声を漏らす。

 欲情した表情を浮かべて見つめてきた。


 傍にいたオフィーリアとサザーも頬を朱色に染める。

 ツラヌキ団の一部と助かった小柄獣人ノイルランナーたちは……


「わぁ」

「英雄様が手を握っただけで!」

「エルフの綺麗な人、顔が真っ赤!」

「お母さん、英雄様に触れられると顔が真っ赤になってしまうの?」


 と、子供の目を塞ぐ小柄獣人ノイルランナーの親御さん。

 その瞬間――。

 ヴィーネが俺との間合いを詰めて、左腕をつねってくる。


「ご主人様、それはどうかと……」

「まぁいいじゃないか――」


 ヴィーネの腰をたぐり寄せた。


「あっ」


 と、コロッと掌を返すヴィーネさんだ。

 機嫌がすぐに良くなった。


 俺の頬にキスしてくれた。

 バニラ系の香りがたまらない。


「口紅が頬に!」


 ショックを受けたような面のキサラが瞳を震わせながら、そう発言。

 ジュカさんはその隣で自分の顔を手で隠していた。


 キサラと同様にジュカさんの寿命は長いと思うが、あまり経験はなさそうだ。


 キサラはヴィーネの存在感に少し元気をなくしている。 


 頭上で浮かぶヘルメは何も指摘してこない。

 頬を赤く染めていたジュカさんは、そんなキサラに優しく語りかけていた。 


 キサラはサイデイルで抱いていた頃に見せたことのない表情を浮かべている。

 俺もショックを受けた。

 すぐにヴィーネから離れる。


 元気のないキサラと間合いを詰めた。

 そのままキサラの手を握る。


 キサラは微笑んで俺の片腕を抱くように寄りかかってきた。

 眷属のことをも含めて寂しい思いをさせたからな、自由にさせていく。


 一緒にクナのセーフルームの内装を見ていった。

 勿論、機嫌のいいヴィーネも、能天気なヘルメも付いてくる。


 壁紙は白とまだらに光る銀色、特殊な鋼が用いられているようだ。

 二階の天井まで……結構、高い。

 上のほうの掃除とか大変そうだが……。


 蜘蛛の巣が一つもない。 

 天井近くの壁飾りには、ところどころにアルコーブがあった。

 小さな祭壇のようなスペースにはランタンと漆黒色の竜の人形たちが置かれてある。


 可愛い竜の人形たちだ。

 造形師はセンスある。

 一瞬、可愛らしい造形にバルミントの姿を思い出す。


 勿論、色合いから形は違うが。

 人形はグリーンの虹彩につぶらな黒瞳。

 幾何学的な模様が綺麗な可愛い竜たちだった。


 視線を下げて、大棚を見る。

 自宅を思い出す。


「ペルネーテの家を思い出しますね」

「あぁ」


 ペルネーテのリビングに飾ったタブレット。

 今も、迷宮産のアイテムたちをこんな風に飾ってあるはずだ。


「ここの窪みはわたしが瞑想していた場所と少し似ています」


 と、置物が設置されたところを見ていたヘルメがそう指摘する。


「瞑想ゾーン?」

「はい! ということで瞑想の開始です!」


 瞬時に下半身を液体化させたヘルメ。

 アルコーブの中に嵌まっているような姿勢で瞑想を開始した。


 本当に女神像のように見えてくる。

 下の棚に並ぶのは迷宮のアイテムではないだろう。


 巨大なグラスウールとフルートの杯。

 下の段には木の人形も飾られてあった。

 これはレベッカが気に入りそうだ。ぶぅたんを思い出す。


 まだ密かに一緒に寝ているんだろうか……とレベッカを見る。

 レベッカは真剣な表情を浮かべながら皆と話し合いをしていた。

 ツッコミを少し期待して寂しさを覚えたから、気にせず、再び棚の品をチェック。


 綿が付いた耳かきのような棒が幾つかあったから、取った。

 さっそく、耳を掃除――すると、ヴィーネが、


「ご主人様、手伝います!」


 ヘルメも瞑想を止めて、


「閣下――わたしは反対のお耳を!!」

「わたしもです」


 耳かきの棒を持ったヴィーネとヘルメとキサラが並び立つ。

 三人で腕をクロスさせていた。膝枕の時間か、それはいい!

 アラハとオフィーリアも棒を持つ。続いて、ポロンたち、ツブツブたち、ツラヌキ団のメンバーたちも次々と……。

 大量に耳かき棒がここにあるのはなぜだ。

 実は、耳かき棒ではないのか?

 と、匂いを嗅いだ。いい匂いがする。

 もしかして香りスティックみたいなアイテムなのか?


 すると、ジュカさんに続いて、ツアンも手に棒を持つ。


「お前が持ってどうする。ピュリンかイモリザならいいが」

「旦那、冗談ですって」


 ツアンは寄り目になりながら、ママニたちのところに戻った。

 俺はヴィーネとヘルメにキサラをチラッと見てから――。


 皆に視線を巡らせて、


「皆、悪いが、耳掃除&まったりタイムはヴィーネとヘルメにキサラだけだ」


 オフィーリア&ツラヌキ団たちは残念がる。

 美人さんたちの好意は嬉しい。が、こればかりは仕方がない。

 好み云々の前に、今まではオフィーリアたちを助けてあげたいという思いしかなかったからなぁ。

 そして、皆の前でイチャイチャするのは無理がある。


「んじゃヴィーネたち座ってくれ」


 と、語りながら楕円の小さい会議場らしきところを指す。


「「はいッ」」


 <筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネが素早く動く。

 続いてヘルメが滑らかな軌道で水飛沫を纏いながら、ヴィーネの隣に座った。

 そして、修道服のキサラもヘルメの隣に間を空けて座る。


 三人の美女が並んで座り、俺を待つ。

 なんとも言えない。

 ということで、まずはヴィーネの膝枕だ。


「ヴィーネから頼む」


 ヴィーネの黒いインナーを穿いている太股さんに頬を当てながら寝っ転がった。


「ご主人様の耳掃除の一番手!」


 そう、力強く宣言するヴィーネ。

 棒で俺の耳をツンツクしてから「耳が綺麗です」とボソッと呟きながら……。

 ふーぅと息を吐いてくれた。


 耳朶が震えて脳が感じてしまうがな!

 手製の布で耳をふきふきしてくれた。


 耳朶を引っ張るヴィーネ。


 その行為に愛を感じた。

 俺はそのままヴィーネの太股に手を当て「あぅ……」とヴィーネの期待していた声を聞きながらお尻さんの感触をひさしぶりに味わう。


 耳掃除を満喫して、


「ヴィーネ、ありがと。離れていいぞ」


 と、発言。


「――はい」


 と、少し尻を浮かせたヴィーネ。

 その隙にヴィーネのお尻さんをポンッと叩いた掌で、優しく、むにゅっとしたった。


「アン!」


 と、ヴィーネの可愛い声を聞いてから起き上がる。


 続いてヘルメの太股に寝転がった――。

 ヘルメの耳掃除は豪華だった。

 水でじゃぶじゃぶしつつ、棒でこちょこちょと、耳はすぐに綺麗さっぱりとなる。

 勿論、やっこいヘルメの張りのある太股さんも堪能した。


 次はキサラだ。

 黒色の修道服が似合う。


「ここに入らして……」


 キサラの太股さんに飛び込んだ。

 キサラはすぐに衣裳を合わせてきた。

 白磁器のような太股さんを露出させる。

 パンティさんが……。


 俺は指摘せず、ふくよかな至福を頬に味わいながらデルタゾーンを堪能。


 そして、耳の掃除を受けていった。


 ジュカさんが「キサラ、よかったですね!」と応援する声が聞こえた。

 俺はキサラの太股からお尻さんの感触をじっくりと楽しんでいく。


 ふと、動きを止めるキサラ。


「どうした?」


 俺がそう尋ねると、キサラは自らの巨乳越しに視線を寄越す。

 白絹の眉と髪に蒼い双眸は美しい。


「シュウヤ様、師姉の件が気になります」

「ラティファさんの師匠のゾカシィさんか」


 ジュカさんも近寄ってきた。


「年月が経っているとはいえ魔法ギルドの【玲瓏の魔女】に入るとは……」


 魔法ギルドは魔術総武会の管轄か。


「そういやそうだった。魔術総武会とは過去に争ったことがあるんだよな」

「はい……一級魔術師たちと輪廻秘賢書を巡った争い。とくに大魔術師アキエ・エニグマは、この百鬼道を奪おうとしました。姫魔鬼武装ですし、わたしも二百から三百は魔槍で、アキエ・エニグマの扱う魔法剣と魔法槍に対抗しましたが、とにかく強かった」


 腰にある魔導書か。


「だからこそ、アキエ・エニグマのような方が所属していた魔法ギルド側についたのか。詳しい経緯を師姉に聞きたいところではあります」

「そうですね。ラティファの行方も分かるかもしれない」


 ジュカさんも考え込みながらそう話をした。

 キサラも同意するように、


「ヤゼカポスの短剣を渡したい」


 と喋る。

 俺は白色の眉目良いキサラの表情にうっとりしながら、


「ま、いずれ西のラドフォード帝国に向かう際かな」

「ご一緒しても……」

「愚問だな、くればいい。知っているように、砂漠にも向かう予定だ。その前に地下もあるが」

「はい。天空開豁てんくうかいかつのシュウヤ様……お慕いしております」

「間近で言うなや、照れるだろう」


 キサラはにっこりと満面の笑み。

 幸せそうな蒼い瞳に吸い込まれそうになった。

 すると、ジュカさんも、


「我慢してくださいよ。わたしも気持ちではキサラに負けますが……命を捧げるつもりです」


 そんなことを……。


「嬉しいが……」

「シュウヤ様。仕方のないことです。黒魔女教団の教えを受けて育ったわたしたちの、待望の救世主。〝魔境の大森林からダモアヌンブリンガーの魔槍使いが来訪する〟という言葉通りの……まさにシュウヤ様が教義通りの存在なのですから」


 キサラがジュカの気持ちを代弁するように語った。


 魔境の大森林か。魔界の出入り口がある裂け目。

 そこに俺は一度行っている……。


 ジュカさんも胸に両手を当て話を続けた。


「それに聞きましたよ。キサラの古の星白石ネピュアハイシェントの件も……」


 そうだな。

 偶然ではないのかもしれない。

 レベッカとも繋がる。


「そうですね。前にも伝えましたが……高手アーソン・イブヒンから授かりしネピュアハイシェント。そして、『これを溶かす相手はお前の望む相手と心得よ』と、お告げをわたしにくださるようにお話をしてくださいましたから」


 キサラが発言し、ジュカさんも、


「……エルフの古い伝説で愛を誓い合う者と分かち合う石がネピュアハイシェント。<魔嘔>にもあります。暁の魔導技術の担い手と……」


 そうだよな、キサラの望む相手は俺か。

 愛を誓い合う者だし。

 そして、ダモアヌンブリンガーの救世主か。


 すべてが合う。


「……更に言えば、俺の持つアイテムボックスの〝暁の古文石〟が決定的だ」


 話を聞いていたクナが微笑む。

 更に言えば、彼女が地下オークションで買ったアイテムボックスだ。


 本当に全部が全部繋がっている。


「暁の古文石の内容は……」



 □■□■



 我ら暁の栄光は闇夜に赤光を灯す。

 栄光の凱歌である聖歌を奏でるであろう。

 神器を操る器神を超える法力を齎す。


 暁の魔道技術は二つの神器を産み出す。

 本物と偽物あれど神器には変わらず。

 神器足る器の法力は怪物たちを駆逐す。


 地下深くに古の湖底遺跡あり。

 謎深き透明な膜に覆われた箱物。

 古の末裔神国ゴルディクス司祭も知らず。

 どの御技も一切の法力が通用せず。

 それは開かれず幾千年の時も開かれず未知の壁。

 皇帝の神器も効かず叡知の神セウロスの身業なりか。



 □■□■


「……はい。暁の古文石を解読できることといいシュウヤ様。まさに我らが救世主」

「黒魔女教団の総本山があったダモアヌン山。メファーラの祠と古代遺跡ムーゴ……」

「――ベファリッツ大帝国よりも昔、古代ドワーフたちと髑髏武人ダモアヌンに連なる一族たちが、まだ数多く居た遥か古代。ゴルディクスの地が、大砂漠と化す前。そこには暁の帝国という伝説の楽園があり、暁の黄金都市ムーゴがあったとされています――」


 キサラは過去に語った言葉をくり返す。


「アキレス師匠たちゴルディーバの里とも繋がる……」


 俺は鼻歌を奏でるように呟き出した。

 そして、ゴルディーバで過ごしていた頃を思い出す。

 ラグレンと師匠にラビさんが歌っていた。


「……われらぁぁ、神獣ぅぅ守りぃぃ♪ 最後の一族ぅぅ♪」


 栄華極めしドワーフは去ってしまう

 我ら悲しき角生え我ら散り花を咲かす

 栄華極めし暁の帝国ゴルディクスは塵と化す

 我ら我ら世界に散りゆく

 栄華極めし忘れ生きてゆく生きてゆく


「シュウヤ様のお師匠様とご家族様たちは、わたしと同じ祖先ということでしょうか」


 俺はキサラの問いに……。

 膝の柔らかさを後頭部に直に感じながら、そのキサラに鋭い視線を向けた。


「そうなるだろうな。キサラは小さいながらも角も生えている。少なからずゴルディーバの血を引いているはずだ」


 俺の言葉を聞いたキサラは震えた。

 水滴が、俺の頬を濡らしてくる。

 ……キサラは泣いていた。

 星白石のような美しい涙が溢れていく。


「キサラ、ゴルディーバ族はそれなりに子孫を残しているぞ?」

「はい、嬉しいのです……シュウヤ様は槍使い。わたしも槍使い。シュウヤ様のお師匠様とお孫さんも槍使いです……」


 槍使い。これも繋がった。

 キサラの双眸は揺れている。


 古の星白石ネピュアハイシェントが溶け、レベッカの親戚が予言を遺した。

 それに、シュミハザーとホフマンに魔女槍として封じられていたキサラ。

 脳を切られスキルを取られた……。


 ホフマンめ、ムカつく野郎だが……。

 あいつが居たから今のキサラが居るということになる……。


 イグルードもそうだ。

 サイデイルが発展し、町となって、高い場所にルシヴァルの紋章樹ができた。


 そもそも、アッリとタークの件がなければ……。

 紅虎の嵐もモガ&ネームスもソロボもクエマも弟子のムーも……。

 トン爺も……ドナガンもヴァング婆も、エブエも……助けていない。


 サイデイルに向かうこともなかった。

 キッシュも<筆頭従者長選ばれし眷属>にならないでサイデイルで死んでいたかもしれない。

 振り返れば、魔竜王戦で俺が活躍しなければ、キッシュはあそこで死んでいたはずだ。


 何から何まで偶然が重なっていて混乱する……。

 しかし、今、キサラの流す涙は純粋で本物。

 星白石にも優る美しい涙だ。


 子供たちや樹海地域の優秀な者たちを捕まえて血の実験を繰り返していたホフマン。

 規模は違うが、ゼレナードと似たようなことをしていた。

 理由はどうあれ殺さずシュミハザーに封じていたホフマンに感謝するべきか。


「……そうだな。キサラ、俺も嬉しいよ。キサラは認めていないかもしれないが、俺の新しい魔闘術と体術の師匠でもあるんだからな」

「え? だめです、シュウヤ様は救世主様……」

「いいから、涙はそのへんで仕舞いにしろ」


 俺は腕を伸ばし、キサラの巨乳を押し上げながら、彼女の頬を伝う涙を親指で拭き取る。

 そして、頬を撫でてから、腕を引いた。

 キサラはふふと微笑んでから「ありが――」と答えさせず、唇を塞ぐ。


 卑猥な音を立てながら唇を離す。

 そのキサラの唇から俺の唇に繋がる唾の糸が愛しく見えた。


「――んじゃ」

「待ってください」


 キサラは立ち上がろうとした俺の頭部を両手で持つと、強引に――。

 巨乳の谷間に押しつけてくる。


 メロン級のマシュマロに包まれる。

 キサラは俺の額にキスすると、さっと離れた。


 俺のキスのお礼か、不意打ちのおっぱい攻撃とキスを喰らった。

 が、こんな不意打ちなら何回でもOKだ。


 俺は鼻の下を伸ばしながら、キサラの匂いを感じつつ――。

 ブレイクダンスをするように立ち上がる。


 そんなこんなを楽しんでから……。

 実験室とコレクションルームを兼ねたような場所でゴブリンの幽霊と出会ったことについても、ツラヌキ団たちに話をしていった。


「大隊長、ここにも幽霊が棲むと!?」

「ありえる……」


 と、顎を突き出し、ふざけながら凄みを入れて語った。

 続いて、棚の飾りに怪しい髑髏を貫く槍のオブジェを見つけた。

 魔力を内包して怪しいが、今は無視。


 先ほど話をした目標の一つ。

 サイデイル関連のキッシュたちの一族が持っていた秘宝の〝蜂式ノ具〟のことを告げていく。


 一方、キサラとジュカさんは俺から離れて、ツアンたちとエルザのグループに加わりラド峠と砂漠地方の話をしている。

 黒魔女教団が争った吸血鬼ヴァンパイアのローレグント家との話に移行すると、バーレンティンたち墓掘り人たちも興味深そうに聞いていた。


 ラド峠の温泉の話ではレベッカも紅茶のことを発言していた。


 ビアは捕虜たちを閉じ込めた外に繋がる部屋の前に移動していく。

 ある程度の自由は確保しているようだが、ちゃんと見張ってくれている。


 すると、ミスティとヴィーネの質問に答える形で、バーレンティンとスゥンが地下の繰り広げられていた東郷派との争いの話をしていく。


 ヒヨリミ様が住む森屋敷でも聞いた内容だ。

 その続きといったニュアンスで、


『四人の血道を扱う導師の語っていた〝真っ赤に熟した血の稲穂〟』

『〝紅蓮の炎血を宿す血の稲穂〟』

『〝永久に連なる一族ソレグレンの古の祭壇〟』

『〝ソレグレンの血統潰える時、血の野望を宿す髑髏の吸血剣が誕生するであろう〟』

『〝狂気に立ち向かう永久に連なる一族ソレグレン〟〝永久に残る吸血鬼なり〟』

『〝太古の土霊に勝る錬金窯〟〝ソクナーの秘密が破れし時、永遠の命と破壊を齎す〟』


 ソクナー神に関わる碑文に関する考察をミスティたちと繰り広げていく。

 お菓子優先だったレベッカとエヴァも、


「シュウヤの血魔剣の話ね」

「名前決めないの?」


 とか言いながら興味を抱いたのか会話に参加していた。

 血魔剣はまだ決めない。


 このままシンプルに血魔剣だけでいいかもと思い始めた。


 そのミスティは、地下世界で放浪を続けていた墓掘り人たちの物語を聞きながら会話の節々で、クナに、ゾルの小屋にあったメリアディと関係する紋章魔法陣の生贄と、シータさんの心臓、吸霊の蠱祖に関することを聞いていた。


 ユイも昔を思い出したのか、クナのほうを見る。

 エヴァはナナとアリスに分かりやすく説明していく。

 しかし、子供たちは理解できていない。


 峠から砂漠のことについての話を終えたキサラとジュカさんイチャイチャしようかと思ったが、


「シュウヤ様、魔石は!」


 と、皆との話を止めたクナが俺を急かす。


「極星大魔石をあげるのはまだだ。その極星大魔石を使って、体に負担の掛かることをクナは実行しそうだし」

「はい……」

「だから回復を優先させろ。レベッカとミスティとヴィーネとユイ。クナに使えそうなアイテムを見せてやれ。クナもいいな?」

「分かりました……他にも重要なこともありますし……」


 とクナはもったいぶって語る。

 上のほうで女神像と化して瞑想していたヘルメも、目を開けて、俺を見ると、頷いていた。

 地下のことか。

 すると、レベッカとミスティにヴィーネが、


「賢者の粉を含めた薬と一緒に拾った極大魔石も出すから、まずは、魔石の袋を渡しておく」

「では、わたしも」


 無数の極大魔石が入った袋を受け取った。

 これは後だな。

 普通の極大魔石ではないだろうし。

 アイテムボックスに収めて、どれくらいのエレニウムストーンの数となるか……。


 ナパーム星系のアイテム類がたくさん手に入れば嬉しい。

 だが、解放すればするほど、ナパーム星系と関連した厄介事が増えるような気もする。


 ま、いいか。

 惑星セラと別れて、本当に違う惑星に向かうことになっても……。


 それもまた冒険だ。

 と、宇宙を思いながら、机に置いておく。


「けど、このように……わけわかんない薬はたくさんあるわよ? それを一度に混ぜてしまって大丈夫なの?」


 レベッカが皆に聞いた。


「大丈夫じゃないわ」


 とミスティが指摘する。

 実際に爆発事故を起こしているだけに表情は真剣だ。


「ミスティなら分かるかと思ったけど……」

「錬金術に関しては多少の心得はある。けど、さすがに未知な薬が多いし、基本、金属に関する薬品しか分からない」

「納得。因みにわたしが知るのは……これね。茶色の匂いから分かると思うけど、紅茶の砂糖代わりに使えるの。名はミヴォルの薬、喉に効く薬。で、エヴァは?」


 レベッカの問いにアリスとナナを紫魔力で包んで浮かせて上げていたエヴァは頭部を振って、


「ん、わからない。黒いのは特製プッコ?」


 微笑みながら頭部を傾げて語る。

 『ご飯ですよ』にそっくりな味だった。


 美味しかったなぁ。

 また『ご飯ですよ』が食べたい。


「違うから。クナが指示してくれれば正確に把握できると思うし、クナなら薬を簡単に作れると思う」


 ミスティがそう発言。

 クナが近寄っていく。


「うん。ミスティさんと同様な理由で錬金に関して完璧じゃないけど大概は大丈夫だと思う。とりあえず、回収してきた薬を見せてくれる?」


 そう、促した。


「了解~」

「それじゃ、ここに出していくから」


 レベッカとミスティはアイテムボックスからリズミカルにアイテムを出していく。


「なるほど、指示を出すから、飲む薬と掛ける薬を作る」

「うん」

「わたしたちも協力するのね」

「そう、数が多いからね♪」


 と、クナと協同作業を始めたレベッカとミスティたちを見ていたラファエルが、


「ラデランの応力錐おうりょくすいなら、もう使ってしまった」


 と、クナを見ながら発言した。


「その薬はモンスター用でしょう。人系の種族に使ったら血管が破裂してしまうわよ」


 クナがラファエルを睨みながら発言。


「それもそうだね、残念」


 ラファエルの刺のある言葉を受けたクナ。

 相貌を厳しくさせて「そっか、破裂ね……」と冷たい口調で魔の息を吐きながら語る。

 ラファエルはさっと身軽に動いてバーレンティンの背後に逃げていた。


 一方、ミスティとレベッカは丸薬から粉薬のようなモノと粉を活用した発泡酒のような液体を見せていく。

 クナはその薬を見て、にっこりと微笑む。


「トライデルンの涙に愛の騎士塊団子! 賢者の粉は言わずもがな素晴らしい質の薬ばかり! あ、まって、その魔王蛙の白身は危険、飲み合わせが悪いから省いて。あ、それ以外は、うん、威方減僧腎もあるのね。それは混ぜて大丈夫よ。魔力は一定に、そこの錬金ボウルを使って混ぜてね♪ あぁ、濃厚な雄の匂いが溜まらない」


 と、クナの指示の下、ミスティがメモりつつ、混ぜに混ぜた薬をクナに飲ませてかけていく。

 レベッカとエヴァの指にかかる液体もだが、おっぱいさんにかかる白濁した液に変化した薬が妙にえろい。


「ふふ、ねるねるねる~ね♪ そう、その薬も混ぜて♪」

「あ、とっておきの、黄金色のお酒も混ぜてみる? エヴァ、少し先にあげちゃっていい?」

「ん、気にしない。お菓子は食べたし、シュウヤからこれもらった――」


 と、しゅっしゅっしゅと、口に出して新しいヌベファのトンファーを使うエヴァ。


「そっか。じゃ使うわね――」

「……見たことのない酒と瓶」

「効果は保証できる。美味いし、魔力も上がる特別な酒だと思う」

「はい。しかし、飲み合わせが心配です。レベッカ、この陽陰の布に、その酒を少し垂らしてみてくれる?」


 クナはそう語ると、懐から小さい布を取り出す。


「うん」


 レベッカは容器を傾け黄金色の酒を垂らし、布を湿らせる。

 布から小さい魔法陣が幾つも生まれ立体的に重なると色合いが様々に変化し、魔力の数値のようなルーン文字が幾つも浮かぶ。


「魔素と魔素の衝突を分析に用いているのかしら……」


 ミスティが眼鏡に手を当てながら、そう呟くと、興味深そうにメモっていく。

 クナは頷くと、反応を満足げに確認して、黄金酒を見る。


「凄い……魔力酵素が溢れ出て計り知れない……黄金酒。これなら大丈夫。混ぜていいわ♪」


 クナの言葉を聞いたレベッカは即座に黄金の色の酒を混ぜていた。


 俺は知らねぇぞ。

 飲んでクナが爆発しても……。


 そんなことを考えながら、できあがった薬を飲むクナ。

 喉元を震わせてから体が黄金色に輝く。

 そんなクナに向け、


「水属性の魔法をかけても大丈夫か?」

「大丈夫ですが、今は殆ど効果がないかと」

「ま、かけるだけかけるか」


 と、《水癒ウォーター・キュア》を発動した。

 周囲に水の龍がとぐろを巻く水球が瞬時に誕生すると、その水球が破壊する。

 一気呵成の水シャワーとなってクナに降り注いだ。

 金色の髪が輝くと水の魔法の根本ごと魔力を吸収するクナ。


 乳房の上部分の皮膚に浮かぶ血管たちが煌めく。


「ありがとう……少し楽になりました♪ そして、この特別な薬を飲んだ今だからこそ可能な回復を、シュウヤ様と精霊様にキサラ様にもお願いしたいのです」

「なんだ?」

「分かりました、お水のぴゅっぴゅですね」


 ヘルメが素早く下降してくる。

 俺の隣に着地。水飛沫を発生させてくる。

 冷たい。


「わたしもですか……」


 水がかかったキサラも不思議そうに発言。

 巨乳さんの上部に水滴が掛かっている。


「はい♪」


 クナは続いて、皆に向けて、


「わたしの回復のこと以外にも地下室を含めたレイ・ジャックの件もあるので、しばしお待ちを、では、シュウヤ様こちらに……」


 闇のリストのレイジャックはもうここに来ているということか?

 隅に案内された。天井にレールで繋がれたカーテンがある。

 クナは俺を見てから周囲に視線を巡らせると、


「人払いを……とくに男性の方は」


 と発言し紐を引っ張った。

 カーテンが自動的に左に移動しながら部屋を仕切るように閉まった。

 衣服を脱ぐクナ。巨乳がぽろんと音はしないが、そんな調子で露出してくれた。

 俺との、契約の証しの魔印がある。クナは背中を向けた。

 すると、どす黒い傷に膿んだ傷が無数にあった。穴のような物が幾つもある。結構酷いからクナをなんとかしてあげたい。


「……魔点穴」


 キサラがそう呟いた。


「はい、この汚れた背中を、シュウヤ様から聞きました仙魔術の秘奥で治療をお願いします……」

「だから閣下に……」

「そうです。仙王の一人スーウィン家の秘奥義<白炎仙手>で魔点穴を突いてください……」

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