四百六十六話 二剣流一槍の構え

 ◇◆◇◆


 神獣ロロディーヌの触手がシュウヤの足を捕らえた頃。

 ペルネーテの南の郊外にて戦いが起きていた。


「邪教とはいえ、一般市民の他にオセベリア兵まで殺すとは――」


 そう喋りながら右回し蹴りで外套を着た男の頭部を蹴り飛ばした紳士服の男。

 ダンディな吸血鬼の名は、ポルセン。

 髭男爵という渾名が気にいっていない。


 右手に血塗れた手斧を持つ。

 左手には、血塗れの杭を握る。

 そんな二つの武器を扱うポルセンに群がる外套を着込む戦士。


「イシュルーンの灰と共に――」

「お前たちの御霊も苦悶宮に捧げる!」


 そう奇怪めいた声音を叫ぶ戦士の一人が、ポルセンへと槍を向けた。


 ポルセンは素早く反応。

 血塗れの杭の刃先で槍の穂先を上方へと弾いた。

 ポルセンは重心を変えつつ槍使いの左に素早く回り込むと血塗れの手斧を振るい上げて、腹に手斧をぶち当てた――相対した槍使いの腹を裂く――。


「――ぐあぁぁ」


 悲鳴を上げた槍使い。

 腸を押さえながら前のめりに倒れかかった。

 ポルセンは、その倒れかかった槍使いの頭部に<血魔力>を纏った右回しの下段蹴りを衝突させる。

 

 彼には珍しい、斧を振った機動力を生かす激しい蹴技だ。

 血に染まった双眸は鋭さが増す。

 敵対する魔法使いと戦士の体を血に染める勢いだ。


 トレードマークの長い口髭は微塵も動かない。

 そこに、


「――パパ、敵が臭い」


 蒼色の美しい髪を持つ吸血鬼アンジェだ。

 前傾姿勢でポルセンに駆け寄る。

 ポルセンを囲う敵と間合いを詰めたアンジェ。

 そのまま水色の魔剣リクフンフを素早く振るった。

 横薙ぎの刀身から鈴の音が響く――。

 戦士が、その鈴の音に気付いた時には、もう、首に魔剣の剣刃が吸い込まれていた。


 戦士の首が舞う――。

 首なしの体から血が迸った。

 アンジェは、その血を吸い寄せつつも次の動作へと移る――。

 返す水色の魔剣は、ぶれながら、次の標的の胴体を正確に捉え――速やかに薙ぐ。


 斬ったあとの所作も速い。

 剣身から零れ散る血が、踊り散る。

 それは、魔剣の名の水魔リクフンフが旅人に悪戯をするような動きにも見えた。

 

 そのまま、指揮棒でも操るように水色の魔剣リクフンフを扱うアンジェ。


 嘗て、戦闘妖精と呼ばれている血長耳のクリドススと対峙していた頃とは一味違う。

 今の彼女の剣と歩法は、一段階鋭さと強さが増している。


 蒼い水色の魔剣が真っ赤に燃える。

 真っ赤に燃えた双眸。

 体に纏わり付く真っ赤に燃えた<血魔力>――それは、まさに、血を求める吸血鬼。

 烈火の炎を自ら体現しているような姿だ。


 そんな吸血鬼アンジェに対してポルセンから狙いを変えた戦士の剣が迫る――。

 吸血鬼アンジェは反応しない。

 <剣突>を繰り出した緋色の外套を着こむ戦士はしめたと、嗤う。

 が、それはアンジェのフェイクだった。


 眼前に迫った切っ先を掌で受けるアンジェ――。


「――痛いじゃない!」

「何だと!」


 敵が驚くのも無理はない。

 切っ先は、アンジェの掌を突き抜け、手首をも切り裂きながら突き進んでいたからだ。

 その驚きのまま鋭い剣突を突き刺した戦士の意識は、プツリと、消える――。

 その戦士の首にアンジェの顔が埋まっていた。


 アンジェは<吸血>を実行し戦士の心臓に魔剣を突き刺している。


「良い動きだ――」


 ポルセンはアンジェの剣士としての動きを褒めながら、自らに迫った火球の多連続攻撃を受け流していく――しかし、紋章系の火球は速く強力だ。

 紋章魔法は苦悶の声を響かせる特別な魔の炎でもあった。


 ポルセンは血濡れた杭棒と斧で魔の炎を弾くが、数度魔の炎を身に浴びてしまう。


 傷を受けたポルセン。

 だが、彼も、また吸血鬼。

 とくに意識せずとも、火傷は回復していた。


「――くっ、しかし、王子から保護を受けているとはいえ、これでは……」

「パパ、メルさんが居るから大丈夫」


 ポルセンは旅人、隊商、冒険者だけでなく、王国の兵士にも被害を出した戦いとなった現状を見て、アンジェに不満げに話をしていた。


 そして、同じ戦場の離れた場所で戦う少女が、


「ポルセンのほうに強い魔法使いがいる」


 そう指摘した少女、惨殺姉妹の片割れ、ララだ。

 見た目はまだ幼いが、様々な流派が混ざった我流の剣術を身につけた少女は強かった。


 そして、見た目から、この少女ララと相対した相手は必ず油断する。


「へへァ、小娘が相手かよ!」


 胡乱な態度の男。

 刀を下げながら語った。


「うん。おじさん、口が臭い――」

「え? 跳ねた? あひゃ――」


 油断は命取りだった。

 『臭いの嫌い』と文字を宙に描くように、歪な頭部が真っ二つとなった男。


 ララの流れ星のような飛剣流『星月夜』の宙空斬剣が見事に決まっていた。


 胡乱な彼が見た最後の視界は……。

 ララの華麗な機動の跳躍と闇夜に浮かぶ月が二つに切り分かれていくような不思議な視界だったろう。


「――ララ、炎の魔法使いはポルセンたちに任せましょう」

「そうだ。こっちはこっちで不死系の相手も居る」


 ララの姉ルルと【天凜の月】の幹部となったロバートが語る。

 彼は両手剣使い。

 

 ララとルルは笑いながら、


「あはは、ゾンビ?」

「うん、うん~ゾンビランド~」

「総長は前、ゾンビランドは面白いとか言ってた~」


 ルルとララとロバートを囲む不死系、いや、ゾンビと評した薄汚れた衣を着た者たちの動きは鈍い。

 ロバートは、「最初は俺だ――」両手剣でゾンビの腹を突き刺し腸を引き裂く。

 更に、「ウゴァァァ」と、近寄るゾンビのような人型の胴体を両断――。


 薙ぎ払うロバートの両手剣を扱う技術は高い。


 ルルは、ゾンビを蹴飛ばして、そのロバートに背中を預けた。

 体幹の強いロバートを柱のように扱うルル。

 体を駒のように回転させる。

 器用にも、ユイの舞斬と似た変形斬りを繰り出す。


 瞬く間に、数体のゾンビの首を刎ねたルル――。

 ララも笑いながら、ゾンビの下半身を蹴り飛ばし、回転斬りを行うルルをフォロー。

 ルルが邪魔そうに見えたロバートだったが、両手剣の動きは冴える――風を孕むような薙ぎ払いを大柄ゾンビに喰らわせて、吹き飛ばした。

 ルルは、「やっる~」と、ロバートを褒めながらゾンビの頭部にドロップキックを喰らわせて、倒すと、そのまま回転の機動を終えて、両足を揃えた着地。

 そこから、皆のタイミングを狂わせる剣術を繰り出した。

 そのまま、シュウヤが見たことのない返し刃の剣術で、近寄るゾンビを両断する。


 天凜の月の幹部たちは強い。

 刺激を受けた若い兵士たちも同様に、にぶい不死系のゾンビを切り伏せて倒していく。



 ◇◆◇◆



 デボンチッチも居るがな。

 こりゃ……マジで信仰が発生しているのか?

 もしかしたら〝神界セウロスに至る道〟がここ中庭にできているのかもしれない。

 水気を帯びた風が、俺の頬を撫でる。


 そのまま巨大な操縦席の神獣ロロディーヌの後頭部に運ばれた。


 柔らかい黒毛が台のように変化した後頭部に足を乗せる。

 感覚で俺の位置を把握した巨大な相棒。

 ちゃんと俺の目の前に触手手綱を用意してくれた。


 その黒触手の手綱を掴もうとした時、


「ちょっと、わたしは行かないから! アメリちゃんのこともある」


 と、ヴェロニカがロロディーヌのピンク色の内耳に向けて叫んでいるところが見えた。

 ふさふさしている斜めのほうに伸びる長い耳はヴェロニカの声を聞いて、ピクピクと、可愛く震える。


 間近からの声だ。

 相棒にしてみれば、うるさく感じているかもしれない。


 しかし、耳も神獣。巨大だ。

 だから、あの耳だけで小柄なヴェロニカを抱きしめることができそう。


 その耳に向けて人差し指を立てているヴェロニカ。

 彼女が着ている服は前と同じ。


 名前が、闇ギルド【月の残骸】から【天凜の月】に変わったように。

 衣装も新しくした物だ。


 小さな銀チェーン付きの記章が備わった渋い黒色の衣装。

 ここからだと月のデッサンは分かりにくい。


 しかし、残骸の月は、脇腹から腰にかけてデザインされていると分かる。

 細かな銀色の塵が宵闇世界を覆うような感じだろうか。


 俺用の衣装も用意してくれたようだが。

 まだ着ない。

 着ても攻撃を受けたら破れちゃうし。

 だから神話ミソロジー級防具でもあるハルホンクが『ングゥゥィィ』と目覚めたら喰ってほしい……。


 そうすれば、破れても再生する。

 いつでも右肩から服が展開可能となるはずだ。


 竜頭の口からコスチューム系の防具服を展開できるからな。


「にゃ、にゃ?」


 ロロディーヌが鳴く。


「ニャァ」


 ヴェロニカが抱く白猫のマギットも鳴いていた。

 白猫マギットの首の環に備わる緑封印石ハイ・マジクシールズの宝石が緑色に輝く。


 その輝く宝石から波紋のような波模様が出ている。

 波紋は宙を浸食するように空間をねじ曲げると、そのねじ曲げた空間に多頭の白狐の幻影が浮かぶ。


 極めて小さいが荒神マギトラだ。

 濃密な禍々しい魔力は変わらない。


 狐といえば百皇狐のリンの姿を思い出す。

 トラさんのことをキコとジェスから聞いていなかったが……。

 大丈夫なのだろうか。


 銀色の鼠男のことを思い出しながら、


「ロロ、ヴェロニカは降ろしてやってくれ」


 と、相棒に向けて指示を出す。


「にゃ~」


 神獣ロロは『わかったにゃ~』といったように鳴き声を発しながら、こちらを見るように少し頭部を上げる。

 同時に後頭部の黒毛たちの間から黒触手が伸びた。


 黒触手はシュルッと音を立てながらヴェロニカの片足を捕らえると彼女を持ち上げる。

 宙吊りとなったヴェロニカ。


「きゃ――あ、まって」


 ヴェロニカは新衣装のスカートを両手で押さえながら、そう喋っていた。

 ロロディーヌは触手の動きをすぐに止める。


 抱えた白猫のマギットは落下せず。

 首下の魔宝石から出た緑の魔力を用いて浮いていた。

 そのマギットは、


「ニャァ」


 と鳴いた。

 マギットは別段怒っていない。

 浮きながらヴェロニカの薔薇の髪飾りに頭部を寄せていく。


 浮くことができるらしい。

 ヴェロニカが成長したから?


 そのヴェロっ子は……。

 スカートの臀部の位置を両手で押さえ続けていた。

 しかし、見事にパンティを覗かせている。


 偉大なパンティへ敬礼をしたくなった。

 だがしかし、紳士を貫く。


「どうした、ヴェロっ子」

「血文字でも少し話をしたけど、紅月の傀儡兵よ。新しい傀儡兵が欲しいんじゃないかと思って」

「傀儡兵か。アドゥムブラリが壊したことを怒っていたが」


 その言葉を聞いたロロディーヌは俺の側にヴェロニカを誘導してくる。

 近くに来たヴェロニカは、


「そりゃ当然! と言いたいけど、亜神との衝突だから仕方がないわ」

「まあな。ヴェロニカの特別な機体のお陰と、アドゥの魔人武術を生かす機動で強そうに見えたが、さすがに相手が悪かった」

「うん。だから、今回も白色の貴婦人とその部下と対決する際に、多少は使える兵士が欲しいだろうと思って。メル曰く、〝使い捨てができる傀儡兵は重要〟だから、がんばって少しだけ用意した――」


 彼女は素早く愛用している大切なアイテムボックスから傀儡兵を取り出した。


「メルも『これが量産できれば、王国、帝国を捻り潰し、ルシヴァルの天凜が南マハハイムを覆うことも可能』と、精霊様のように語ってたからね」


 メルというかヘルメの真似をしているのか、微妙なウィンクをしたヴェロニカ。

 可愛らしい、が、しかし、


『ふふ』


 やはり左目の精霊さんが反応した。

 ヘルメのルシヴァル神聖大帝国スイッチが入ってしまうがな。


 ヘルメが左目から飛び出さないように、アイテムボックスに、その傀儡兵を仕舞うとする。


「――ありがとう。しまっとく」


 右腕を持ち上げてヴェロニカに礼を述べたところで、指の紅玉環が震えた。

 アドゥムブラリが出せとアピールか。

 無視――して、アイテムボックスの表面をタッチ、薄緑色のウィンドウをタッチ。


 ピッポッパッとスマホを弄るように触っていく。


 紅月の傀儡兵に視線を向けて、「ここに入ってくれ」と指示。

 アイテムボックスに格納。


 真っ黒いウィンドウの中に入ってもらった。

 少しシュールな光景。そんな暗闇の小さい扉の中に沈むようにも見える時は、にゅるりといった音は出ない。

 無事に紅月の傀儡兵をアイテムボックスの中に仕舞うことができた。

 そして、左手の運命線が疼く。


『妾もその傀儡兵と合体したい』

『……サラテンの場合は傀儡兵の頭部に突き刺さるだろう。落ち武者のようになっちゃうからだめだ』

『無礼者! しかし、よく分かったな。だが、妾とて、剣として使われることはできるのだぞ!』

『え? サラテン娘がか? まさか吸血王の血魔剣を意識してる?』

『……そ、そうだ。だから、この<魔鯛>とかいうヘンテコな、魔法防御の封印を解いてくれまいか?』


 何故か、少し動揺したサラテン。

 ヘンテコというか、掌の出入り口は意外なサラテンの弱点か。


『ヴェニューが俺を守ってくれる力。そのヴェニューはヘルメの中だ。もう少し待て、いざという時、サラテンを頼る』

『頼るか。ふははは、器よ! 頼られてやろうではないか。妾を使うタイミングを逃すでないぞ』


 サラテンとの念話はそこでストップ。


「それじゃ、そろそろポルセンたちの下に向かうか」

「えー、お礼は言葉だけなく、行動で……ね?」


 小さい口を突き出すヴェロニカ。

 彼女から薔薇の匂いと血の濃厚な臭いが漂った。


 一気に性的な魅力が高まる。


「はいはーい、そこまで」

「ん、急ぐ」

「チッ、皆、一緒に行くんだから良いじゃないの、少しぐらい」


 レベッカとエヴァが即座に妖艶なヴェロニカの行動を止めていた。

 ま、揺らぐが、ここは彼女たちに賛成だ。


「悪いが、これからは南の郊外だ。知っているようにポルセンとアンジェに会うからな」

「うん。その浮いている外魔アーヴィンの杯に血を注ぐんだっけ」

「おう。血が入った杯を墓掘り人たちと同じく、俺は飲む。そして、ユイとカルードたちの居る象神都市レジーピックに向かう。ラドフォード帝国領だ」


 ラドフォード帝国への旅は初だ。

 少し意外な展開だが、ま、生きてりゃこんなこともある。


「……うん。【帝都アセルダム】もある西の都市か。【要衝都市タンデート】の先。十二支族の一つパイロン家のエリザベスがそこの近くに居るとユイから血文字で聞いている」

「ヴェロニカはあまりそのパイロン家と接点がなかったようだな」

「うん。遠い南の大国セブンフォリアを拠点にしていると聞いたことがあるぐらい。それが帝国領の都市でも狩りをしているなんて知らなかった」

「すぐに逃げたようだし、ユイとカルードたちに被害はないようだが……」

「吸血鬼らしく余計なことはしない方向のようだけど、接触してきたことが気になる。もし、ホフマンとかルンスのような<筆頭従者>だとしたら危険。わたしと同じ<筆頭従者長>のようなパイロン家を率いる女帝が、わざわざ出向くわけないし……」


 ヴェロニカも思うことがあるようだ。


「エリザベスというヴァンパイアもだが、【星の集い】のアドリアンヌにも、帝国に長居はしないから会わないと思う。サイデイル村か、このペルネーテの鏡に戻る。ヴィーネとミスティにハンカイも連れて五日以内に樹海の狼月都市ハーレイアに戻るからな」

「うん、象神都市の見学も楽しそうだけどね」

「だから、キスは――」


 と、思った瞬間、唇をヴェロニカに奪われた。

 というより、跳躍したような勢いだから、口と口が当たるような突進を受けた。


 ヴェロニカは着地。


「ふふ、強引に奪ったった!」


 腕を上げて宣言するヴェロニカ。

 白猫マギットも片足を上げる。

 肉球が可愛い。


「あぁ、もう、シュウヤ! 隙がありすぎなのよ!」

「ん、でも、レベッカはしないの?」


 エヴァが勧めている。


「わ、わたしは……」


 レベッカも俺とキスがしたいようだ。

 もじもじと内股を動かしている。

 頬を染めていた。

 二人っきりの時と違って恥ずかしいようだな。


「それはまた次回な?」

「え? 皆とちゅっちゅして、わたしはお預けなんだ、ふーん」


 強がったレベッカ。


「ふふ」


 エヴァは、いつものやりとりを見て微笑ましく思ったらしい。


「レベッカは一緒に居るからいつでも狙えるでしょ」


 ヴェロニカは偉そうに両手を腰に回しながら喋っている。


「そうだけど、というかヴェロニカ先輩! シュウヤの唇を奪ったくせに」

「はいはい~」


 愉しげに語るヴェロニカは、タップダンスを踊るようにステップを踏みながら後退。

 それを目を細めて睨んだレベッカは、白魚のような手先を伸ばし、指先に蒼炎を灯す。


「シュウヤ、今度、特別なキスの用意を予約!」


 と、ヴェロニカとエヴァの微笑みに抵抗を示した。


「……考えておこう」

「もう! 本当に優しいんだから! わたしたちには猛毒だけど……」


 エヴァは首を何回も縦に振っている。


「ん、でも、心地いい毒もいい」


 エヴァは微笑んで俺の隣の位置をキープ。

 柔らかい感触が腕から伝わった。

 すると、レベッカが、


「そうねぇ、仕方がないのかも。眷属のためにがんばる優しい宗主様だしぃ?」


 さらにヴェロニカが、


「そして、女たらしな総長だもんね。五日後も気にくわない儀式があるようだし……」


 双眸が充血している……。

 怖い、怖いが……優しさも感じられた。

 ロリババアとしての経験値を感じる。


 はは、と笑いながら、


「……ハイグリアと約束したからな」


 俺の言葉を聞いたヴェロニカは、エヴァのように舌をちょろっと唇から出してから、


「うん、分かってるってば。メルからアドリアンヌと会った場合に備えて、闇ギルドとしての言付けがあることも聞いてる」

「カザネたち経由でメルも連絡を取っているようだが」

「うん、戦争の結果、安定しそうな西の通商と南の軍港都市ソクテリアを経由した新しい取り引きも模索しているようだからね。ただ、アシュラー教団も一枚岩ではないらしいから」

「メルから少し聞いたな。反乱の首謀者の名はキーラ・ホセライか」

「そう。地下オークションでも買い物してた女の人。アドリアンヌとカザネたちに反目したってことだからね。だからわたしたち天凜の月とも同盟でもなんでもない。メルもハイム川の東部向けの船商会側で障害が出た件に加えて、カザネとミライさんから相談を受けていた」


 メルといいザープといい……。

 色々と忙しそうだ。

 メルはそんな中、わざわざ、俺と顔を合わせるためにここに来たのか。


「メルも大変だな」

「うん。わたしの<筆頭従者>だけど、正直、わたしの方が従者って感じ?」

「ん、メルさん、王子に気に入られてた」

「そうみたいね。でも、メルのお気に入りは……」


 また、俺を睨むヴェロっ子。

 しらんがな。


 話がややこしくなる前に、ずらすか。


「血長耳とはどうなっている」

「【血月布武】も順調。血長耳からも西方の破壊工作について報告があったようね。血長耳のだれが帝国で動いているのか不明だけど。レザライサは多数の幹部と一緒にセナアプアで活動しているはずだからね。評議員の一部と何か一悶着あったようだから。オセベリアとサーマリアの戦争にも、その血長耳は参加してないし」


 俺が頷いていると、ヴェロニカは俺たちを指差し、


「そんなことより! 白色の貴婦人討伐の方が重要。キッシュさんの祖先たちの聖域を奪った地底神ロルガも居るけど……地底からサイデイル村を狙うだけで、他にも敵がいる状況だから優先度は低い。だけど、白色の貴婦人の方は、ツラヌキ団たちを使って秘宝を盗ませていた。今、現在も樹海の地表、もしかしたら樹海を越えて、ヘカトレイル、ベンラック、アルゼ、ララーブイン、ノイルの森、ハウザンド高原、ムサカ、レフハーゲンとかの広い範囲に影響を及ぼすかもしれない相手。神界側の神々が総長とロロちゃんに促しているのも気になるし、その総長たちが、聖ギルド連盟と戦神教とも絡んだ理由も、何か運命的な流れなのかもしれない。だいたいラビウス爺さんって、ヘカトレイルの偉人でしょ?」

「あぁ」


 ヴェロニカはそう発言すると、顎先に指を置く。


「そんな神人のような存在と接触して、吸血王の血魔剣に、その奥義書・・・も……」


 吸血王の血魔剣と、腰の魔軍夜行ノ槍業を指摘してきた。

 エヴァとレベッカも、そう語るヴェロニカの言葉と視線に連動したように頷いていく。


 面構えが良い血獣隊の面々も同様だ。

 アラハとサザーは手を握っている。


「そして、キッシュの故郷のサイデイル村は光魔ルシヴァル種にとって大事な紋章樹がある、ルシヴァル総本山と呼ぶべき聖域。紋章樹とルッシーちゃんと、その精霊が宿る樹のような存在は守らないとね。わたしもアメリちゃんのことが落ちついたら、いつか、チラッとその紋章樹とルッシーちゃんを見に行きたいし」


 神聖教会からの使者となると、ややこしくなりそうだが……。


「……そうだな」

「うん。それじゃ、ロロちゃん。触手を離して大丈夫よ~」

「ンン、にゃ~」


 ヴェロニカの言葉を聞いたロロディーヌはヴェロニカの片足と腰に絡めていた触手を解いた。


「ここからじゃロロちゃんの巨大な顔が見えないけど、ピンクの巨大な耳のロロちゃんもいい! でも、またね! マギット、行こう!」

「ニャァ」


 ヴェロニカは血剣を召喚し、その血剣の上に乗った。

 緑の魔力で体を包むマギットはヴェロニカの肩の上で微妙に浮いている。


「あ、総長。ついでにポルセンたちのフォローをお願いね。メルに頼まれていたけど、わたし、傀儡兵の素材を取りにゼッタと会わないとだし、あとあと、ベネットのフォローも考えてあげないと!」

「血文字で話を少ししたが、出張中のベネットにもよろしくな」

「うん。家族だし当然。じゃ――」


 血剣をサーフボードのように扱うヴェロニカは、大門を飛び越えた。

 武術街の上空を波に見立てたようなサーフィン機動を繰り出し移動していく。

 ヴェロニカはルンスのことをあまり語らなかったが、ま、内心は父さんと親友の仇を取りたい思いが強いだろう。


「……良し、俺たちも出発だ」

「ん、郊外の墓地はすぐ」

「蒼炎弾で遠距離射撃する?」

「ん、白皇鋼ホワイトタングーンの刃群で墓場を爆撃、競争?」

「二人とも、アラハが怯えてしまってるから、その冗談はほどほどに」


 <筆頭従者長>として、紫魔力と蒼炎を出しながら語るエヴァとレベッカ。

 その血魔力も加わったオーラを見たアラハはサザーに抱きついている。


 フーがそんなアラハを撫でていた。

 ママニは隊長らしく姿勢正しく、俺のことを見ている。

 ビアは相棒の黒触手と黒毛を見比べていた。


「ん、分かった」

「エヴァ、爆撃って、少し本気だったでしょ」

「ばれた」


 微笑むエヴァ。

 ……爆撃したらポルセンとアンジェは生きていられると思うが……。

 ロバートにルルとララは死んじゃうだろう。


 その瞬間、ロロディーヌは片方の前足で大門の屋根を捕らえる。

 大門を蹴って上空に飛び上がった。


 大門の屋根板が削れたが……。


 ――速い。

 視界に血を帯びた髑髏の杯と宵闇の空が広がった。


 その空に――光を帯びた鳶が弧を描く。

 とびではなくて、鷹?


 何の鳥か不明だが、ピューッとした甲高い鳥声を耳にしながら――。

 雲を突き抜けた神獣ロロディーヌ。

 斜め下へと一気に下降した――。


 不思議とGは感じない。

 そして、視界にちらつく外魔アーヴィンの髑髏の杯。


 柄から分離したまま俺の頭部の周りを漂う周回軌道は変わらず。

 この杯は血魔剣と繋がりを持つ?

 または、俺を追尾する性能があるということだ。


 そして、気付いたら、もうペルネーテの南。


「ンン、にゃぉぉ~」


 そのロロディーヌは鳴きながら体勢を緩めた。

 片方の黒翼の角度を変えて飛行速度を落とし旋回機動に入っている。


 後頭部と背中に乗った俺たちに地表の位置を分かりやすく見せてくれるロロディーヌ。

 都市の壁と郊外の墓地らしき地形が見えた。

 胸元のポケットから強い振動が感じられた。

 ホルカーの欠片が反応。


 ということは……。

 下から怪しい雰囲気を感じながらペルネーテの南の郊外を把握しようと視線を巡らせる。


 俺から見て左のハイム川の方面に森林地帯がある。


 鴉と鳩のような鳥たちが一斉に飛び立っていった。

 もう夜で、神獣ロロディーヌの姿は巨大だからな。


 しかし、月明かりもある。

 松明がいたるところの地表を転がっていて明るかった。


 ――あ、ポルセンたちだ。


 まばらな雑木林と丘のような場所に墓地は続いている。

 結構な面積だ。都市が都市だけに巨大な墓地か。


 そこで見知らぬ人族、獣人、亜人たちとポルセンたちが戦っている。

 その敵対している連中の衣服は黒系としか分からない。


 怪しい雰囲気がある。

 そして、墓地の端に大きい十字架が並ぶ。


 その十字架に貼り付けにされていた死体があった。

 酷いな……火あぶりにでもされたのか?


 さらに戦っているポルセンたちの周囲に無数の死体が見えた。

 一般市民だけでなく死んだ警備兵か?


 冒険者の死体とオセベリアの兵士たちの死体もある。


 そんな死体と墓場の残骸が転がる崖際で戦っているロバートとルル&ララも居た。

 惨殺姉妹の扱う剣術とロバートの両手剣の技術は高い。


 【天凜の月】側の闇ギルドの兵士数もそれなりに多いが……。

 怪しい服を着た敵も同じぐらい居る。


 敵の幹部かリーダー格の魔法使いは動きの質が良い。


 そして、戦場から離れた俺側だと右方、ペルネーテだと西側方面の道沿いに大きい規模の集落がある。

 あの集落を中心にこの辺りを荒らしている集団が相手か。


 メルから名は聞いていないが、縄張りを得ようとした闇ギルドかな。

 南のララーブインへと向かう街道も近くにあるが……。

 墓場もあるし、ホルカーバムの地下街アンダーシティに根付いていたような邪教の類いかもしれない。


 そして、この地域に住む領民か墓場を荒らして収奪した死体と財宝類が載った荷馬車もある。


 鳥たちが飛び去ったハイム川方面と南の森がある方面の少し離れたところでは……。

 逼塞した木々の間でゴブリンたちと蜘蛛の姿をしたモンスターが戦うところも見えた。

 巨大な守宮のようなモンスターもその戦いに加わっている。


 とりあえず、モンスター同士のサバイバルな争いは放っておく。


『炎と水の魔力が行き交ってます。接近戦の他に遠距離戦の戦いもあるようです』


 ヘルメの念話を確認しながら<導想魔手>を発動――。

 俺の首に付着していたロロディーヌの触手が自然と離れる。


 同時に<導想魔手>を移動させる。


「ロロ、皆、先に出るぞ――」

「あ、速い」

「ん――」

「了解――」

「「はい!」」


 宙に、飛び石を敷くように展開した<導想魔手>を足場の代わりに使い宙を迅速に駆けていく。

 丘のような高台の墓場へと向けて左腕を翳し――。

 宙を駆けながら左手首から<鎖>を地面に向けて射出した――。


 大きい墓の一つを破壊した<鎖>の先端ティアドロップが地面に突き刺さる。

 そのタイミングで背後からエヴァの気配を感じ取った。

 動きが異常に速い。

 俺はかなりの速度で宙を移動したはずだが……。

 さすがは<筆頭従者長選ばれし眷属>だ。


 紺藍のエヴァの魔力が俺を優しく包む。


「シュウヤ、追い掛ける」

「おう」


 俺は超能力者のようなエヴァに頷く。

 そして、手首の<鎖の因子>マークへ伸びた<鎖>を収斂させる。


 グンッとした反動を体に受けた。

 ――背後のエヴァから遠ざかる。

 地面へと引き込まれるような強い反動を身に感じながら地面へと移動――。


 重力に逆らうような風を孕む機動で、地面と足先がぶつかる瞬間に<鎖>を消去した。

 アーゼンのブーツ底で地面を砕くように着地した瞬間――。


 <導想魔手>に月狼環ノ槍を握らせる。

 登録済みの、聖槍アロステを装備するのも良いが今回は月狼環ノ槍だ。


 続いて名前を決めていない血魔剣アーヴィン(仮)を腰から抜いた――。

 その際、神話ミソロジー級のハルホンクの腰ベルトのように扱っていた銀色の枝と葉がアーヴィンの剣身と擦れる。

 ベルト代わりの擦れた枝と葉は消失した。


 さて、さりげなく神話ミソロジー級のベルトを焦がした……。

 この、血魔剣の名はまだ決めてないが……。

 今はとりあえずアーヴィンでいっか――。

 と、安直に考えながら血魔剣の切っ先を下方へ差し向ける。

 その血魔剣を地面に突き刺した――。


 同時に、血魔剣の剣身と柄から漏れた執心めいた血が俺に向かってきた。

 その血を、ヴァンパイア系らしく吸い取る。


 ――ソレグレン派の血脈。

 バーレンティンは、吸血王サリナスを支えたとか聞いたが、血道の魔導師たちの血を感じ取った。


 そのまま戦場を見据えながら……。

 腰に差している鋼の柄巻きを抜く。


 次に、地面に刺さった血魔剣を見た。

 中央の窪んだような髑髏が欠けた柄。


 その柄を左手で掬うように握ろうとするが、一旦やめる。

 そして、右手の掌に持つ鋼の柄巻きを回転させた。


 くるくる回る鋼の柄巻きに魔力を通す――。

 と回転が続く鋼の柄巻きから青緑色の光刀ムラサメブレードが伸びていく。

 そして、いつものように、その光る刀からブゥゥゥンと音が鳴った――。


「ん、ムラサメ。綺麗な刃」


 紫魔力を纏いながら隣に着地したエヴァが言ってくる。


「暗いし、余計にそう見えるかもな――」


 そう喋りながらムラサメを左手に移し、右手で素早く地面に突き刺さる血魔剣を握った。

 そして、宙に浮かんでいる髑髏の杯を見ながら……。


「この吸血王が使っていた血魔剣に戻れ」


 指示を出す。

 すると、柄の内部から血糸、いや、無数の血の小さい手が柄から出現。


 髑髏のリキュールグラスに無数の血の手が絡まった。

 煉獄地獄の中へと引きずり込むような勢いで血魔剣のくぼんだ位置に盃が引き寄せられる。


 瞬時に、リキュールグラスと似た髑髏の杯は元々納まっていた柄の位置に、ずっぽりと、はまり込んだ。

 元通りの姿となった血魔剣アーヴィン。


 握っている、そのアーヴィンの血魔剣へと魔力と俺の血を送る。


 その瞬間――。

 頭蓋骨の眼窩が血色に輝く。

 と、髑髏模様の柄の上下左右から血色の十字光が迸った――。


 血の十字架を思わせる柄から、ブゥゥンと音が鳴る。

 プラズマのような熱を帯びた血の放出だ。


「……鮮血の十字。吸血王シュウヤ」


 鮮血の十字か。エヴァが呟いた。

 正直、こそばゆいから王とか止めてほしいが……。


 そして、血魔剣の刀身の表面に毛細血管のような血の脈が入っていく。


 俺は左足を一歩前に出しムラサメブレードの光刀の切っ先を前に差し向けた。

 半身を後ろにずらしながら……。


 ――右手で握る血魔剣の剣身を斜め前に突き出す。

 左手で握るムラサメブレードとアーヴィンの血魔剣がクロスした。


 頭上に<導想魔手>が握る月狼環ノ槍が怪しく揺れながら浮かぶ。

 零コンマ数秒の間に、我流の二剣流一槍の構えを取った。


 血色の血魔剣の刃と青緑色のムラサメブレードの光刀の刃が触れた箇所から、ジジジッと音が立つと霜のような閃光が生まれていく。


「……ん、今日は二剣流で暴れる?」

「いや、最初は勿論、槍使いとしての攻撃だ――」


 と、エヴァに向けて発言し、視界に二剣の刃が語らう霜の閃光があるが、狙いを見る。

 狙いは魔法使い。

 炎の紋章魔法を繰り出していた奴だ。


 これが槍使いの攻撃に入るのか?

 俺がやろうとしている攻撃方法を見たエヴァたちからツッコミが入るかもしれない。


 と思いながら頭上に展開している<導想魔手>に握らせた月狼環ノ槍を意識。


 歪な魔力の手から、直に月狼環ノ槍へと魔力を送り込む。


 そして、その半透明な腕を構成する<導想魔手>自体が魔力の塊だ。


 だからか力を吸い取られたように<導想魔手>の色合いが薄まった。

 その反面、魔力を得た月狼環ノ槍が力を得たように震える。

 穂先の眉尖刀なぎなた風の上部に並ぶ九環刀めいた金属の環たちから不協和音というか嗤うような音が鳴った。

 そんな音を響かせた月狼環ノ槍の穂先から半透明の不思議な輝きを放つ狼の幻影が出現。


 腰の魔軍夜行ノ槍業が文句を言うように震える。

 サラテンは珍しくチンモク。


 煌びやかな狼の幻影だが、月狼環ノ槍を飲み込むようにも見えた。


 そして、ポルセンたちが受けに回る原因へ向けて……。

 狼の幻影を纏った月狼環ノ槍を握る歪な魔力の手<導想魔手>を操作――。


 月狼環ノ槍を<投擲>した――。

 狼を纏った月狼環ノ槍は、宙を喰らうような咆哮音を轟かせる。

 ――ドッとした鈍い音速を生み出した。

 宙空に環の傷でも作るような白っぽい衝撃波を幾つも生み出した直後――。


 狼の幻影を纏った月狼環ノ槍は魔法使いが繰り出した炎の紋章魔法を喰らうように突き抜けた。


 ――狼の幻影を纏う月狼環ノ槍は炎を吸収。

 魔法使いの胸元を喰らうが如く、その魔法使いの体を貫く。


 貫いた魔法使いの身体は、瞬時に上下に分断された。

 二つの肉片は何らかの圧力を受けたように破裂。

 ――破裂音がこっちの方まで響く。


 月狼環ノ槍は返り血も浴びず低空を直進――。

 背後の盗賊らしき人物の頭部を破壊。

 魔法使いの胴体をぶち抜き戦士の左腕を巻き込んだところで地面に突き刺さった。


 月狼環ノ槍は振り子時計を早回しで見ているように激しく揺れる。

 その姿は、地面に突き立てた錫杖のようにも見えた。


 すると、月の形をした柄頭からまばゆい月のような閃光が発せられていく。

 閃光から霜を帯びた狼たちの幻影が咆哮を轟かせながら飛び出していった。


 狼の幻影は天凜の月と敵対している者たちを狙うように動く――。

 半透明の狼たちは鋭い刃物のように複数人に喰らいついた。

 いや、喰らうだけでなく、狼たちが駆け抜けた敵たちの頭部、胴体、手足を切断。


 秋霜の刀剣が通り抜けたような断面から血飛沫が迸る。


 魔壊槍グラドパルスの<闇穿・魔壊槍>やバルドークの<紅蓮嵐穿>とは違うが……。

 中々の威力だな。


「強烈な範囲攻撃ね。蒼炎を打ち込む前に魅入っちゃったわよ……」


 少し遅れて俺の側に来たレベッカが発言。

 そして、前方の丘で活躍しているアンジェが、一人、二人と水色の剣で切り抜けてから、ターン。


「――狼? でも、一気に敵の数が減った!」


 魔剣を華麗に扱うアンジェは俺を見る。

 蒼色の髪は綺麗だ。


「あ、まさか、あの槍って、総長の槍!?」


 と叫んだ。

 続いて、血塗れ斧と杭のような杖状の武器で、目の前の敵の頭を潰すように処断したポルセン。

 俺の位置を確認すると、


「そ、総長だ!」


 大声で叫ぶ。

 相変わらず、口髭が長い。

 ダンディズムを極めたおっさんだ。

 スゥンさんと並ばせたら似合うかもしれない。


「凄い狼の槍が飛んできた~」

「うん、でも皆、静かになった」


 ルル&ララも、武器を振って返り血を払う仕草を取ると丘を上がっていく。

 ロバートが率いる一隊は孤立していたが戦場は静まり返る。

 そんな丘に居るポルセンたちへ向けて片手を上げて挨拶をしている間に、俺を追い越した血獣隊とロロディーヌが、その孤立しているロバートたちのフォローに回った。


 エヴァとレベッカも続けて攻撃に加わる。

 こりゃ、勝ったな。

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