二百四十三話 妖艶な蒼い炎

 鑑定後、ゆで卵の話で盛り上がりながら第一の円卓通りの一角に集まり、今後の予定を少し話し合った。


「ん、店で用があるからまた明日。シュウヤ楽しみにしてるっ」

「おう」


 エヴァは魔導車椅子に乗りながら去っていく。

 彼女とは明日、リグナ・ディの店で合流予定。


「わたしは学院で調べものをしてから帰る予定。虹柔鋼レインボースチールの新しい金属ともムンジェイの心臓岩あるけど、守護者級の白肉も研究したいからね」


 まさか、あの肉を用いて人工皮膚を合成出来たり?


「……あの肉か」


 その内、新鮮な死体が欲しいとか……。

 フランケンシュタインを作り出す博士化を連想してしまう。


「そそ、鳳凰角の粉末と魔力硝子を砕いたモノと合わせて実験に使うかもしれない。魔力炉と鞴の改良は済ませたからね、ふふ」


 ミスティは偉く上機嫌だ。


「機嫌がいいな」

「うん。コーンアルドとセキュアのバランスも考えないとダメだけど、そこは霊魔鋼を使って間を取るの。この間、簡易的に改良した魔導人形ウォーガノフの腕を少し崩してからの話なんだけどね。その肩から肘にかけて魔柔黒鋼ソフトブラックスチールを繋ぎに利用して、虹柔鋼レインボースチールとエヴァから少しだけ分けて貰った白皇鉱物ホワイトタングーンを合成させてから魔導人形ウォーガノフの骨格を作り始めるつもり。勿論、巻き取り機の調整をしながら設計図も同時に弄るから大変だけど、あぁ、でも、ヘルローネ石とこのセラにある石の違いからくる魔力抽出方法の実験もしたいのよね。球体がぶつかる衝突の簡易実験から魔力、世界の魔力は一定かどうかも関係してくるし、純粋な熱魔力を使った魔導具の改良、魔石の解析にも繋がる兼ね合いだから爆発的事象にも気を付けないといけない。微妙なさじ加減は熟練職人の意見も聞きたいところだけど……アンダーヴェイルの関係性もあるから文献を調べてからになると思う……」


 ……ヤヴァイ少し混乱した。

 研究、博士スイッチを入れてしまったようだ。


 まだまだブツブツと、途中、糞、糞、糞を混ぜるように連発をして話を続けていた。

 メガネが似合う美人博士なので、興奮して話すのも様になっている。


 俺は曖昧な笑顔を浮かべてミスティを見送った。



 ◇◇◇◇



 大門に到着した俺たち。

 そのまま敷地の中庭を進む。


「水をあげにいきます」


 ヘルメは水飛沫を足元から発生させて歩いていく。

 テラスの植木鉢が並ぶ場所へ向かっていった。


「ンン、にゃ」


 黒猫ロロは喉声を鳴らすと厩舎前で休んでいたポポブム&バルミントと合流したいのか二匹の側へ近寄っていく。

 子猫姿の黒猫ロロは二匹の匂いを嗅いでから、その場で小さい身体を回すと丸くなっていた。


 一緒に眠るようだ。


 そんな微笑ましい光景を見ていると、ユイとカルードの親子が、


「試すか」

「うん、暗型からの抜刀感覚も得ておきたい」


 新装備の確認を兼ねた訓練をやるきだ。

 二人で話し合いながら歩いていく。


 少し見学をしようかな……剣術の参考にしよう。

 左隅に到着した親子。

 新武器の刀身を確認するように、数度、左へ右へと太刀を振るい、感覚を得るように虚空を突いている。


 すると、阿吽の呼吸から親子対決が始まった。

 数度の刀と刀が噛み合う展開から、急に、カルードが腰を沈ませた瞬間ユイの懐へ潜るように前傾姿勢で前進。身体がぶれる速度から今まで一度も見たことのない左回転しながらの、間合いが変わる幻鷺を生かす下段斬りを用いた連撃回転斬りを見せていた。


「きゃっ」


 珍しくユイが足を斬られ先に転倒。 

 おぉ、カルードが……。


「カルードさん凄い」


 レベッカが呟く。ユイとて<筆頭従者長>だ。

 あらゆる面で強くなっているユイを斬るとは……。


 カルードやるな。

 あの剣捌きと体術の動きから見ても、彼が著しく成長を遂げているといった方が正しいのかもしれない。


 あ、まさか、この間の夢の話がカルードの成長を促した?  


「くっ、父さん、今の暗刃から啄木鳥はフェイントだったのね」

「そうだ。新武器の間合いが変わるのも利用した。改良した暗刃も鋭かっただろう? 徐々にだが、<従者長>としての偉大な力を細かな技の応用へ生かせるようになってきたからな」

「流石は父さん。でも、眷族の<筆頭従者長>の一人として、負けられないわ」


 そこからはユイも気合いを入れ直したのか、カルードを動きで圧倒していく。

 新武器の魔刀により斬り合いで、血が辺り一面に……。

 だが、それは一瞬の出来事。

 二人で<第一関門>を意識することにより、素早く血を吸収しているので、鮮血は広がっていない。


 眷属たちはヴァンパイア系、光魔ルシヴァルだ。

 武芸の上り方は半端ないだろう。

 傷は直ぐに回復するのだからな。

 ……【修練道】でアキレス師匠に指示を受けながら凄まじい訓練を続けていた頃を思い出すと、妙に納得できる。


 精霊のヘルメも眷属同士の訓練様子を遠くから眺めていたが、庭にある大きい樹木とテラスに置いてある植木仲間の千年植物へ水やりを行っていた。

 俺もやることがある。冷蔵庫の設置と鑑定したアイテムをママニたちへあげないと。


 ヴィーネを連れ中庭の右手にある大きな寄宿舎へ向かった。


「「ご主人様っ」」


 俺たちが寄宿舎に入ると、椅子に座り寛いでいた戦闘奴隷たちが一斉に立ち上がり、敬礼ポーズを取っていた。


「よっ、楽にしていいよ。台所に、お前たち専用の冷蔵庫を設置しちゃうから」

「おおっ」

「なんと、そのような魔道具をっ」

「気が利く主人だ。我は嬉しい」

「わたしたち専用……凄い。冒険者の時より、生活が楽になっているのは気のせいかしら……」

「フー、気のせいじゃないよ。衣食住、高級戦闘奴隷として最高の環境……黒猫ロロ様が少し怖いけど」 


 彼女たちの感想は無視して左奥へ歩いていく。 

 簡易な調理場の隅、この辺りでいいかな。


 右手首にある小さい腕輪型のアイテムボックスを操作……してっと……。


 四次元ポケットから取るように冷蔵庫を出してから、設置をした。


「ご主人様、ありがとうございます」 


 律儀なママニが奴隷たちを代表して礼をいってくる。


「当然だ。お前たちは化物と遭遇してもちゃんと生きている。そして、これからも魔石回収は適度に頑張って貰わないと」


 主に、アイテムボックスの中へ納めるエネルギーとしてだけど。


「感動です。なんとお優しき方か……」

「真顔でいうな、それにまだ、土産があるんだ。全員、側においで」 


 ママニたちを呼び寄せる。


「まずは、この羽根付きの靴をサザーへ。名はジャージャーの靴。飛ぶように素早さをあげる効果がある」 


 ジャージャーの靴はサザーに渡す。


「わあ」


 サザーは神へ感謝するように小さい靴を頭上へ掲げてから、早速、履いていた。 

 サイズは自動的に収束するらしく小さい足にぴったりだ。


「凄い、少し浮くことができるようですっ」


 本当だ……微かに浮いている。

 飛ぶように素早さをあげる効果だったが、サザーの体重が軽すぎるのが原因か。


「次は、シシクの矢五十本とハヴォークの弓。矢の効果は毒。刺さった個所を硬直させるそうだ。弓は、矢を射出する度に風の精霊が味方し射出精度と威力上げらしい。この弓と矢のセットをママニへ」

「ありがたき幸せっ」 


 ママニは賞状を貰うように畏まっていた。


「次の、このセボー・ガルドリの魔盾はビアへ」

「この目がついた盾を我にくれるのか!」

「そうだよ。効果は魔力を込めると、対魔法防御を周囲に展開させるらしい」

「ありがとう、主人っ! この間の対化物女のような異質なモノと遭遇しても対抗がしやすくなるっ」 


 ビアは蛇舌を伸ばしながら、受け取る。

 前の装備の方盾を床に置いて、新しい魔盾を左手に装備して振り上げていた。


 一瞬、二つの盾を使うのもありかもしれないと脳裏に過る。


「……次はフー。君にゴッドトロール製一式をあげよう。これは鎧も入ってるから、好きなのを装着すればいい」 


 大量にゴッドトロール製のアイテムを床に置いていく。


「す、すごい量です……」

「確かに一式装備だからな……兜とか鎧が要らなかったら、鎧を壊したママニかサザーにでも、あげるといい」

「ありがとうございます」


 皆、喜んでいる。

 よかった。けど、もう一度、付け加えておくか。


「……化物女はもう退治&吸収したから、平気と思われるが、一応注意は怠るなよ。一流処のお前たちには余計なお世話だろうけど。ま、今後とも魔石回収の仕事を頑張ってくれ」

「畏まりました」

「承知、主人の期待に応えよう。稽古もしたいぞ」

「僕、頑張るよっ! ご主人様に貰った靴を履いて頑張るっ」

「はいっ、この外套とゴッドトロールの鎧を着て、皆をフォローします」 


 よし、後は……。


「釣り竿を手に入れてましたから、ザガ&ボン&ルビアの店に?」 


 後ろに控えていたヴィーネが話しかけてきた。

 今の短い時間に、彼女は銀髪を弄っていたようだ。

 手に入れたばかりのゴールドタイタンの金糸を使い銀髪の一部を三つ編み状の束にして、左の耳裏へ流されていた。

 カワイイ……。


「それより、その新しい髪型。いいね。似合っている」

「あ、ありがとうございますっ!」


 ヴィーネは目尻が下がり嬉しさと恥じらいの入り参った笑顔を見せてくれた。


「……そのザガの店に寄る前に、菓子作りの買い物か、王子のとこにいくかもしれない。今のとこ、マジックアイテムの売り予定は一つだけだけど」

「分かりました」

「主人、出かけるのか? 模擬戦がやりたいぞ」


 新しい魔盾を装備したビアが声を弾ませながら話してくる。


「模擬戦か、新装備を試す気だな? 俺は忙しいから、今、中庭で訓練を行っているユイとカルードのところへ合流しよう。ついてこい」

「承知」

「カルード様ですね、厳しいですが、頑張ります」


 ママニが語る。

 そういえば、カルードが率いて魔石回収へ向かわせたことがあった。


「今、準備を」

「フー、その鎧、わたしが着れるか確かめたいのだが」

「うん、わたしは鎧より外套のがいいから、あげる」


 ママニたちは相談して準備を整える。

 少し待ってから、一緒に中庭へ、ユイとカルードのもとへ向かった。


「ユイとカルード、戦闘奴隷たちが訓練をしたいそうだ」


 ユイとカルードは、丁度、刃と刃を衝突させて鍔迫り合いに移行しているところだった。


「えっ?」


 ユイの片手には新しい太刀、神鬼・霊風が握られている。

 その刀身には、風刃が纏われていた。


「はいっ」


 カルードは二刀流。

 両刃刀の幻鷺と青白い幻影のような幻鷺を持っていた。

 俺の言葉を聞いた二人は、素早い所作で距離を保つ。


「ということで、ママニたちの相手をしてやってくれ」

「了解、サザーが扱う剣術、見所があるから楽しみ」

「いいですとも、この間、指揮を取っていたように手厳しくやりましょう」


 そうして、戦闘奴隷たちVSユイ、カルード組の模擬戦が開始された。

 最初は<筆頭従者長>ユイと<従者長>カルードの実力に、戦闘奴隷たちは圧倒される。


 威風凛凛、英姿颯爽としたカルードが片手に持った幻鷺で下半円を描きながらくるりと剣刃を廻す。


 そのまま白刃を煌めかせて下段に構えると、


「――地面に寝転がるのが、戦闘奴隷お前たちの仕事なのか?」


 渋い口調で戦闘奴隷たちを叱っていた。


「くっ」

「こうも、簡単に……」

「なんだ、あの手から繰り出される刀の動きと、重い蹴りは……武装騎士長を超えている!」


 重そうな蛇胴体のビアが横たわる姿か、レアかも。


「父さん、今の身体と刀の動き、わたしの技を真似た?」

「お、わかったか?」

「そりゃ分かるわよ、しかも鋭く改良しているし」

「ふっ、ユイ、うかうかしていると……わたしがお前の剣技を追い越してしまうぞ?」

「――その顔ムカつくッ」


 そこからユイとカルードが分かれ別チームの乱戦に発展。

 戦いが長引きだした。

 選ばれし眷属の二人は明らかに視ることが増えているので、本気は出していないが……。


「……高級戦闘奴隷たちが一流処なのはよく分かる。手加減しているとはいえユイとカルードの眷属たちの近接戦で、あれだけ打ち合えて戦えるんだから」


 最近、近接戦闘に興味津々なレベッカが感心しながら語る。


「確かにな」

「でも、眷属じゃないから、ちょっとヒヤヒヤしちゃう。一応、念の為に回復ポーションは用意してあるけど」


 レベッカの足元には革バックが置かれてあった。

 何か、部活の美人マネージャーに見えてくる。


 そこに、


「ルララァァ、ルブルルルゥ~、ルララァァァ~♪ チチノ、コドモ、イェイッ!」


 奇天烈な声、千年植物の歌声が聞こえてきた。

 千年植物を片手に持ったヘルメが近寄ってくる。


「皆、頑張っていますね」

「よ、千年植物と仲がいいな?」

「チチィ、アイタカッタゼェ」


 未だに、千年植物は俺の子供のつもりらしい。


「はいっ、水をあげると千年ちゃんの歌声が変わるのです」

「へぇ、どんな風に?」

「見ててくださいっ」

「イヤァァ」


 いやがってるが……

 ヘルメは指先から水を放出。

 持っていた千年植物へ水を与えている。


「ブラァァァァァァ、ウメェェ、ケドォォォー、溺れるゥYOォォ、チチィィ、タスケェ、ブララァァァァァ――」


 確かに歌声が変わっているともいえる。


「……ヘルメ、ほどほどにな」

「はい。それより模擬戦、面白そうですね。わたしも参加しましょう、皆さま! わたしが相手をしてあげます――」


 と、反対の腕を氷剣のように変形させて、千年植物の歌に合わせ踊りながらママニたちと模擬戦に混ざりだす。


「はぅあっ」

「精霊様がぁ」


 浮きながら斬撃を繰り出していたサザーと大型円盤武器を盾にして防いでいたママニが驚きの声をあげていた。


「父さん、精霊様は斬れないわ」

「わたしもだ、あの蛇人族ラミアビアの背後に隠れながらやり過ごすぞ」

「うん」


 自然と集団のごちゃ混ぜな模擬戦に発展。

 ……中庭が広くてよかった。


 しかし、千年植物の歌声が渋い感じに変わっている。

 オペラ歌手風だ……前にヘルメは地下の泉で踊っていたけど、前より増して千年植物の歌声に合わせるように、より進化、より可憐な氷剣の舞いを披露していく。


 足元に氷を作りスケートを滑るように足を動かした途中でヒールマンスピンを行いながら氷礫を周囲へ飛ばしている。

 暫し、観客気分で見惚れてしまった。


 そこで、動物たちはどうしているかなと……厩舎の方へ視線を向けるが、まだ黒猫ロロ、バルミント、ポポブムは大人しく一緒になって寝ていた。

 ミミを含めた使用人たちが、その様子を見て微笑ましい顔を浮かべながら厩舎の掃除を行っている。


「シュウヤ、模擬戦が凄いことなってるけど、お菓子の素材を買いに開放市場へいくんでしょ? わたしもベティさんところに戻るから一緒にいきましょうよ」


 模擬戦に加わらず見ていたレベッカが聞いてきた。


「おう、そうだな、いくか。ロロ~」


 寝ていた黒猫ロロは耳をぴくぴくと動かす。

 上半身をむくっと起き上がらせると、俺の方へ小顔を向けた。


「移動するからいこう」

「ンン、にゃお――」


 黒猫の姿から馬獅子の型姿へと変身しながら走ってくる。

 可愛いけど、変身するのを正面から見るのは面白い。


「ご主人様。わたしもこのガドリセスを試しにあの模擬戦へ混ざりたいです」

「わかった。戦闘奴隷たちに怪我をさせないように」

「はい」


 ヴィーネは赤鱗の鞘から新しい剣を抜きながら、模擬戦が行われている場所へ駆けていった。


 乱戦が一層濃くなりサザーが回転しながらヴィーネと斬り合っている。

 カッコいいかも。


 それを少し見ながらベティさんところへ戻るレベッカと共に馬獅子型黒猫ロロディーヌに乗り込んだ。


 大門から外の武術街の通りへ出る。


 通りには、武芸者、卵売りが行き交っていた。

 端の方で女ドワーフと女鱗人カラムニアンが喧嘩をしているが、無視。


「ロロ、開放市場へゆったりペースでいいから」

「ンン、にゃぁ~」


 お菓子作りの素材を買いに、開放市場へ進み出す。


「ふふっ」


 通りを軽快に進んでいると、レベッカが機嫌よく笑う。


 レベッカの髪型はオデコを見せる髪型。

 そのオデコをアピールするかのように左右へ金髪が流れて蒼色の紐で結ばれた髪の一房も長耳を通り肩へ垂れていた。


 とてもチャーミング。

 風でそよいでいる金色の髪。

 その一本、一本の金色髪が極細い金糸に見えてくる。


「ふふーんだ――」


 その綺麗な金髪を持つレベッカは白魚の手を腰へ回して、俺の胸板へ小顔を埋めるように抱きついてきた。

 正面なので、駅弁スタイルだ。


「どうした?」

「うん……」


 レベッカは顔を上げてくる。

 蒼瞳は透き通った空を連想させた。

 細い金眉は整えられてある。

 鼻筋も真っすぐと伸び、鼻下、唇の上の間にある人中の小さい谷が可愛らしい。


 紅色の唇が近いので、キスしたくなる。


「だって、ロロちゃんと移動する時、いつもわたしは後ろなんだもん」

「あぁ、そういうこと……」

「そうよ。ここはいつもヴィーネの位置……」


 ジロッと蒼い瞳を鋭くさせて俺を見据えてくる。


 可愛い瞬間表情とはいえ……。

 恋の遺恨と食い物の遺恨は恐ろしい。

 普段、色々と我慢しているんだな。レベッカも。


 そこで彼女の可愛らしい小鼻をトンっと指で叩いてから、


「わかったよっ」


 小柄のレベッカを持ち上げ、小さい唇を情熱的に口で奪ってから顔を離した。


「――もう、急なんだから」


 そうは言いつつもレベッカは小柄の身体を弛緩させる。

 身を預けるように持たれ掛かってきた。

 顔色はオデコも頬も赤リンゴのように真っ赤に染まっている。


「……急というが、喜んでいるだろう?」

「……もう一度、ね?」


 質問には答えず、キスをねだるレベッカ。


「あぁ……」


 互いに唇を寄せ合い重ねていく。

 彼女の長耳も優しく愛撫してあげた。


「やん、もう、上手なんだからっ」


 彼女はくすぐったいのか、顔を逸らしてきた。


「そりゃなぁ、新しい指により、耳触り委員会の御業が増えたからな……」

「……あれ、いつもの、おっぱい何とかじゃないのね」

「そうだ。それらの下部組織に当たる」

「ぷ、なによ、それ」

「そんなことより……右の細顎の下に小さい黶があるんだな」


 指先で、彼女の顎下を優しく触っていく。


「……ん、くすぐったい。でも、そこ? 知らなかった。あ、それはシュウヤだけの秘密ね」

「勿論」

「ふふ――」


 レベッカは、また俺の胸に抱き着いてくる。


「あ~ぁ~こんな幸せがずっと、続けばいいのに」

「続くだろ」

「……でも、まだまだ先だけど、オークション後、旅へ出るんでしょ?」


 レベッカは俺を見つめてくる。


「その予定だが……」

「……その旅に付いていきたい。あの時、皆、言わなかったけど、きっと皆も同じ思いだったはず」

「だったら付いてきたらいいじゃないか」

「うん。でも、ベティさんと長期間、離れたくないの。血は通ってないけど実の母だと思っているから。それに武術も習いたい。あの立派な武器を扱えるようになりたいの」

「新しい目標か」


 目標に向かうのはいいことだ。

 ルシヴァルの血で精神性も成長しているのかもしれない。


「うん、だから、今の内にシュウヤ成分をタップリとね?」


 と、思ったけど、違うかも? 

 小悪魔顔を浮かべるレベッカさん。

 身体能力を生かすように抱きしめてきた。

 少し痛いけど、密着して、前髪と肌の感触に……いい匂いが……。


「お、おう」

「ふふ、偉そうなこといったけど、やりたいことをやりつつもシュウヤを独占したい我儘な思いもある……」


 なるほど。女の正直な気持ちか。素直な女だ。 


「今は独占か?」

「あ、うん」


 可愛い顔。照れる顔を隠すようにレベッカは俺を見ると、


「あ、あれれぇ、この下に感じるのは、何かしら?」


 彼女は細い喉ぼとけを見せつけるように身体を反らしながら鼻で笑い、

 勝ち誇った顔を見せる。


 いつもは可憐な蒼い瞳だけど、妖艶な蒼い炎となっていた。


「……そんなことは、さっきから知っているだろう。知らない振りはよくないなー?」

「えぇー、分からないもん」


 まったく。エロいレベッカさんだ。


「ほぅ……」


 と、彼女の弱点をつく。

 脇腹のくすぐりだ。


「きゃっ、くすぐったいっ」

「はは、誤魔化すと、もっと激しくしちゃうぞ」

「もう――」


 イチャイチャしながらゆっくりと進んでいたところ、馬獅子型黒猫ロロディーヌは空気を読んだのか、屋根上へ跳躍。

 誰もいない屋根上の影に入り動きを止めた。

 俺たちを乗せている馬獅子型黒猫ロロディーヌが呆れるか分からないが情事を繰り返す。

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