百三十五話 ボニーとクライド?

 

「それじゃ、すぐに助けに来てくれたんだ」


 ここは謝っておかねば。


「うん。だけど、レベッカが誘拐されたのは事実。俺が闇ギルドに関わったせいだ。ごめん」


 レベッカはかぶりを振って否定の意思を示す。


「――ううん。そんなことない。シュウヤがわたしを助けてくれたんだし、ありがと。今は貴方に感謝の気持ちでいっぱいよ?」


 レベッカの表情は笑顔だ。


「とにかく生きていて良かった」


 俺は笑顔で語りかけながら彼女の足元にある闇の念鋼布ヴォルチャーキャッチを見る。

 この風呂敷アイテムに似たようなアイテムは他にもあるだろうし今後は気を付けないと。


「うん。でもね……闇ギルドの仕業と聞いて正直怖くなってきちゃった」


 レベッカはハハっとぎこちない引き攣った笑みを浮かべながら視線を闇ギルド幹部の死体へと向けていた。

 そのまま、自らの両腕を抱き寒がる素振りをする。


 震えているのか?

 安心させてやらねば……。


「……今回襲ってきた奴等はもう俺に関わることはないよ。ましてやレベッカに被害が及ぶことはない」


 その言葉に安心したのか、笑顔で頷くレベッカ。


「うん。わかった。それじゃこの死体がある場所に長居したくないし外へ出ようよ。市場への案内途中だったし」


 レベッカは汚れた膝下をパパっと叩き払ってから階段へ向かう。


「そうだな。ヴィーネ、外に行くぞ」

「はい」



 ヴィーネを連れて古民家の二階から一階へ降りていく。

 レベッカは古民家から出ると周りの様子を窺っていた。


「ここは倉庫街と繋がるスラム街近郊かしら……嫌なところ。市場へ行きましょ」


 ここがどこの位置にあるか特定したらしい。

 長年この都市に住んでいるだけはあるようだ。


 レベッカの様子を見ていると足元にいた黒猫ロロがむくむくっと姿を大きくさせ馬獅子型黒猫へ変身した。


「――うはぁ、ロロちゃん。凄い。何度見ても凄いっ本当に瞬時に変わっちゃうのね。鼻筋は延びて大人びているけれど、顔は猫顔というより、ん~、やっぱり黒豹とか黒獅子ね。目は赤目のままで、可愛くてカッコイイ」


 レベッカは大きくなった馬獅子型黒猫ロロディーヌの頭や首筋の毛並みを確認するように頬を擦りつけて抱き付き撫で撫でを行っている。

 ロロはそのレベッカに身体を触られている間にも、俺とヴィーネの腰へ触手を絡ませ持ち上げていた。

 そのまま自身の馬獅子たる大きな背中の上に運んでくれる。


「――ほら、レベッカ、ロロの黒毛を撫でてないで乗れよ。あ、そういや三人乗っても大丈夫か?」

「ンン、にゃおん」


 ロロはわたしに任せろという感じの強声。

 まさに百人乗っても大丈夫的な自信溢れる声質。


 決して、うあああああっと言う風にはならない。と思う。


「わたしはシュウヤの後ろに乗るのねっ、きゃ――」

「にゃ」


 レベッカが喋ってる途中にロロの触手が彼女の腰に巻き付くと軽々と持ち上げ俺のすぐ後ろに乗せてくる。


「ロロちゃん、いきなりなんだからぁ」


 そう不満気に声を出すレベッカだが、ちゃんとの俺の腰へ両手を回していた。

 背中越しに胸の圧力は感じない。

 前に密着して座るヴィーネのが圧倒的なマシュマロ率だ。

 レベッカは貧乳ちゃんだからなぁ。


「ちょっとぉ? 何か失礼なこと考えてないでしょうね?」


 う、鋭い。背中越しにそんなこと言ってくるレベッカ。


 あんたはサトリを持つエヴァさんですか?

 とは言えないので、適当に笑いながら


「……ハハ、何を言っているんだか、行くぞ」


 すました顔を浮かべ誤魔化した。

 ということで、出発。


 三人乗せている黒馬ロロディーヌは街を移動。

 速度はあまり出さずに馬並み速度で進んでいく。


 路地を出て大通りに出るとレベッカに案内される形で【解放市場】、【解放市場街】と呼ばれている活気溢れる市場に到着した。


「ここよ――」


 レベッカは混雑している市場へ向けて軽く腕を差して言うと馬型黒猫から降りた。

 彼女は身長が低いのでジャンプするように降りて着地。


「わたしの家はここの近く、ベティさんのところでよく働いているわ」

「ベティさん?」

「紅茶売りのベティ、と言ったら開放市場では結構知られているの」

「そうなんだ見てみたいかも」

「いいわ、こっちよ」


 レベッカに案内されたとこは本格的な紅茶専門店だった。

 緑から焦げちゃ色まで様々な茶葉が袋が開けられた状態で売られている。

 袋が開けられているのは値段が極端に安い。

 ガリガリ君ぐらいの値段だ。

 値段が高いのは袋が開けられていない。


「……おや、レベッカが最近パーティを組ませてもらっているとか言っていた、あの魔槍使いかい?」


 店にいた老婆が話し掛けてくれた。

 俺のことを魔槍使いと紹介しているらしい。

 つり上がった目を持つ、気の強そうなお婆さんだけど挨拶しとくか。


「はい、シュウヤ・カガリといいます。レベッカとはパーティを組ませてもらっています」

「そうかそうか、レベッカをよろしく頼むよ」


 にっこりと微笑む老婆。


「はい」

「それじゃベティさん。彼を開放市場の方へ案内してくるね」

「行っといで、ちゃんとモノにするんだよ」


 モノにする? レベッカと俺が結ばれろと言っているのか?

 そりゃレベッカは可愛いし結ばれたい女の一人ではある。


 したり顔の老婆が店番をやっていたところから離れて市場へ向かう。

 小さい噴水がある広場で、それなりに有名なメロンのようなフルーツお菓子の美味しさについての講釈を聞いていると、体格の良いカエル顔の男が近付いてきた。


 目つきが悪いぎょろい目で睨んでくる。


「レベッカじゃねえか。男を連れて何をしているんだ? まさか彼氏か?」

「うるさいわね、こっちにこないでよっ」

「おうおう、嫌だねぇ、それでこいつは誰だよ」


 カエル男は太い指を差してきた。


「アンタには関係ないわよ、向こうへ消えて」


 レベッカはハッキリと否定の言葉を言い放つ。


「けっ、男なんだな……俺が先に目をつけていたのに。何なんだそこのお前はっ、レベッカから離れろよっ」


 何なんだ、は俺の言葉だ。

 いきなりの喧嘩越し口調とか。


「いきなり現れてその言葉はないだろう、君はレベッカの何なんだ?」

「俺はレベッカの男だ」

「――違うっ、シュウヤ助けて」


 あんな嫌悪感丸出しの顔を浮かべるレベッカを初めて見た。

 このカエル男はストーカー系の男か。

 キッシュに纏わりついていた、いつぞやの馬男を思い出す。


「……助けてやるさ、おい、カエル男、お前はお呼びじゃないらしいぞ、独りよがりはよくないな」

「くせぇ台詞だ。くせぇくせぇ、糞溜まりの平たい顔でイケメンヅラしてんじゃねぇ――」


 カエル男は悪罵あくばを込めた言葉を言い放つ。

 そして、あろうことか遠い位置から短剣を抜くと斬りかかってきた。


「ご主人様、カエルを踏み殺しますか?」

『閣下、あのカエルへの天罰はわたしにお任せください、尻獄門を……』

『……必要ない』


 ヘルメと念話しながらヴィーネにも言う。


「いや、俺が対処する」


 外套を広げ手を伸ばし魔槍杖を出現させる。

 向かってくるカエル男へ向け魔槍杖を掬いあげるように下弧線させ股間へ竜魔石の石突を喰らわせてやった。


 鈍い潰れた音が響く。


「あひゃっ」


 変な声を漏らすカエル男。

 竜魔石が臭くなりそうなぐらいに股間からは血と変な汁がついていた。

 股間を完全破壊されたカエル男は地面に蹲り、失神。


 汚物は消毒しないと。魔槍杖バルドークを引き抜き竜魔石に付着したモノの汚れを落とすように魔力を浸透させる。竜魔石から氷剣が伸びるや、ザクッとカエル男の膝を貫いた。


 更に――魔槍杖バルドークを横に動かして、もう片方の膝をも氷剣で斬る。


 矢ではないが、膝に傷を負わせてあげた。

 ――俺は優しい? とカエル男に笑顔を向ける。


「ぎゃぁぁぁぁ」


 カエル男は、失神していたが起きたか。

 足は切断一歩手前と言ったところ。

 回復ポーションを掛けなきゃ死ぬだろう。


 すると、市場の手前なので野次馬ができてしまった。

 この辺にしとくか。魔槍杖バルドークを仕舞う。


「レベッカ、やりすぎたかな……」

「ううん、助けてくれてありがと。大丈夫よ。こいつの事なんて誰も助けないと思う。この辺の一部を仕切っていた奴で偉ぶっては……ううん」


 俺がやらなくてもだれかがやっていたぐらいの酷い野郎か。


「そっか。なら放っておこう」

「うん」


 気を取り直してレベッカに市場まで案内してもらった。


「ここからが本格的な市場。見ての通り色々な物が売っているの。でも、人が多いから荷物を盗まれないようにね。スリに注意」

「スリか、分かった。それよりさっきの放っておいて本当に大丈夫か?」


 少し心配だ。

 レベッカに頭部を向けると、レベッカは見上げて、少し跳躍するように唇を突き出す。


「……大丈夫。ありがと――」


 頬にキスされた。


「これはお礼。そこまで過保護に守らなくていいわよ――」


 レベッカは両手に持った銀杖を背中に回し、


「それじゃ案内はここまで、シュウヤ、ヴィーネ、またね~」


 挨拶するように少し斜に頭を下げながら話していた。

 その顔は可愛らしく元気一杯の笑顔だ。


「あぁ、またな」

「はい」

「あっ、地図の時は必ず、呼んでよね? 明日から毎日ギルドにチェックしに行くから」

「分かったよ」


 レベッカは今までに見せたことのないぐらいの優しい笑顔で俺を見て頷いている。

 一瞬、ドキッとして蒼い瞳へ吸い込まれそうになった。

 可愛い……次はあの小さい唇とキスしたいな。


 レベッカの背中が愛しく見えた。

 そのレベッカは俺の想いを察知したように振り向いてきたが、直ぐにヴィーネを見て溜め息。手を振ってから振り向き直して、足早に店がある方角に向かう。


 さてと、ヴィーネを見ると、笑顔を見せてくれた。

 俺たちも市場を見るかと、頷くと、頷きを返してくれる。


「ご主人様、行きましょう」


 頷いた、俺たちは行き交う人々に混ざり市場の見学を開始。

 市場の左右に立ち並ぶ店々は平幕と簡素な木組みで作られてある店が多い。

 雨汚れなどの襤褸さが際立つ。

 そんな店で売られている商品を多種多様の種族たちがごちゃごちゃと犇めき合うように物色していた。

 せわしなく動きまわり興奮した商人たちの声が耳朶を叩く。


 道幅は広いのに狭く感じた。


 木材屋みたいなとこあるかなぁっと、ぶらぶら歩く。

 スリに注意ね。と、レベッカは言っていた。

 だから混雑している周囲へ目を配り歩いていく。


 確かにそれらしい犯罪集団がいた。


 種族はそれぞれ違うが実行犯の子供。

 サポート役に見た目が商人やら冒険者の姿をした大人の奴等がいる。

 連携をとってターゲットの背曩の中から袋、懐から袋、手元の指輪をターゲットに気付かれずにスリを行っていた。


 それぞれに役割があるんだな。

 中々に凄腕集団とみた。


 ターゲットが全く気付いていないのが凄い。

 ミスディレクション。

 視線を誘導し注意力を逸らすとかいうテクニック。


「ご主人様、何をお探しですか?」


 スリ集団の技に感心していると、ヴィーネが聞いてきた。

 まずは箸を作りたいから、木材屋的なとこだな。


「まずは木材。樫、檜、などの小さくていいから、丈夫な堅い木が欲しいんだよね。オリーブ油も欲しい。後は、適当に食材関係も見たいかな。それに、ヴィーネの生活用品も買っとこうかと」

「あ、大丈夫です。この背曩の中に一通り入っていますので」


 ヴィーネは背中を見せて、そう言っているが……。

 あまり背曩には物が入ってなさそうにも見える。


「そうはいっても普段着とか、嵩張る皮布はないだろう?」

「はい。代えの鎧と矢はありますが」

「鎧と矢か、防具は大事だが普段着はないと同じだな。それじゃ服を買うとして……この辺りは食品を売っている露天商が多いから、まずは先に食品類を見ていこっか」


 スリ集団を避けて移動しようと、きょろきょろと周りを窺いながら銀髪のヴィーネに話していた。


「はい」


 彼女は納得した顔を見せて頭を下げている。


 そのまま視線を泳がせ周囲の店を見ながら歩く。

 売っている商品はどれも綺麗でしっかりした食品類だった。

 値札がスーパーで売られてあるのと同じく、木札で記され貼られてある。

 野菜、肉、フルーツを売る店が多い。


 豆類も売っていた。

 大豆という名前ではなくクアリ豆とレーメ豆が豆らしい。

 ペソトの実という名のピーナッツも売っていた。


 これらは少し値段が高い。

 あ、そういえばこの豆類、一度食ったことある? 

 思い出した。高級料理でメリッサと一緒に食った奴だ。


 メリッサ、どうしているかなぁ……。


 お、近くにはオリーブの実も売っていた。

 油もあるのか、油が入った大きな壺瓶が何個も置かれてある。


 小分けされている壺瓶も沢山売られていた。

 そして、ここの近辺の売り場だけ平幕が綺麗で豪華な飾りが付いている。

 売っている店主も頭にターバンを巻く小太りで金持ちそうなタブレット系の絹服を着込んでいた。


 だが、まだ買わない。

 素通りして野菜類の店に戻る。


 野菜はどれも新鮮そうだ。

 つまみ食いしたくなる。

 沢山買いたくなるけど先ずは様子見をかねて少しずつかな。


 そのタイミングで黒猫ロロは眠くなったのか肩から頭巾の中へ潜る。

 まぁ、買い物は暇だからね。寝かせてあげよう。

 気にせず野菜を物色し二日分ぐらい買う。

 緑濃い青葉、胡瓜のように長物。

 レタス、トマトとナスが合体したような物。


 値段の安い空豆風の豆も選ぶ。

 フルーツ類は黄色い丸型のキュウイかアボカドのようなものを幾つか買った。



 野菜の次は肉。

 隣向こうにある平幕の違う店に移動。


 野禽類、精肉、加工品、魔物肉など分かれているようだ。


 精肉店で豚肉系と思われる赤身肉を買う。

 今まで買った全部の食材を一つの袋に入れて、アイテムボックスの中と入れておいた。


 最後に素通りした豪華な平幕店でオリーブ油の瓶壺をゲット。

 三つ買いこちらもアイテムボックス行きだ。


「それじゃ、次。服系か木材系の店を探すよ」

「はい」


 スリ集団を避けながら服屋を探す。


 食品類が売られているところから解放市場の通りを西へと進み歩いて行くと、売り場の商品が乾物、香辛料類へ変わっていく。

 平幕の天井からイカの乾いた物が吊されている真下には口の開いた麻袋が沢山並んでいた。

 一つ、一つの袋にはびっしりと色とりどりの粉や粒が詰まっている。


 ……値段も高い。

 銀貨、金貨、白金貨の値札だ。


 匂いはクミン? シナモン? 

 地球で見たことあるものや異世界特有の物もあるようだ。

 もしやカレーとかも作れる? でも色合いが赤いのばっかりだ。


 名前も当然に知らないのばかり。

 すると、そこの一角に煙が噴出しているところがあった。

 怪しい。なんだろ?

 興味が出たので、煙の場所へ近付いていく。


 そこは煙草売り場であり、香草売り場だった。


 箱詰めにされている高級そうな葉巻タイプ、羊皮紙で作られた巻煙草、纏めて束になった香草類、他にも硬そうな石が売られている。


 売り場の隣では喫煙コーナーのような客たちが集まるフロアスペースがあり、そこでは客たちが談笑しながら口に煙草を咥えては煙を鼻や口からもくもくと吐き出していた。


 先ほど見えた煙はコレか。


 煙っているフロア客の一人が石同士をぶつけて石を擦りカチカチさせていた。

 火打ち石のような石で煙草に火をつけている。


 そんな様子を見学していると、声が飛んできた。


「お客さん、どのような煙草が必要ですか?」


 ヒッピーのような顎で結ばれている長髭が特徴の人族店員から、声高い口調で話し掛けられた。


 種類があるのか。少し興味が湧く。


「……どんな煙草があるんだ?」

「筋力が一時的に増すエンギル草を使った煙草が人気ですよ。酩酊が少々ありますが味も少し甘めの香りですし、それと、こっちのマゴマ草も人気ですね。魔力が一時的に増えて喉や頭がスカッとする味わいです」


 なんだって?

 煙草でそんな効果があるのかよ。

 あの煙草で筋力や魔力が増す?


「すみません、煙草とは身体に良いモノなんですか?」


 素で聞いていた。


「はぁ? 当たり前じゃないですか」


 店員は、何だ? コイツ、という顔を俺へ向けている。


 本当らしい。

 肺が真っ黒とか、肺癌の病気は無いのだろうか。


「肺の病とか聞いたことないでしょうか?」

「はぁ? そんなもんはありませんよ。如何わしい魔薬と間違えていませんか?」

「い、いや」 

「全く……変な言いかがりは止してください。常識的に癒やし煙草のリュイン草の効果をご存じでしょう?」


 常識なのか、癒やし煙草のリュイン草……。

 ええ、知らないですよ。(笑顔)とは言えない空気感になってしまった。


「……すみません。少し変でしたよね。では、そのマゴマ草を使った煙草の一箱と火をつける石の一式をください」

「え? えぇ、はい。喜んでお売りいたしますとも、マゴマ煙草の箱と火魔石ですね。銀貨一枚と大銅貨二枚です」


 箱買いだ。

 素早く無難的な作り笑顔を浮かべて、銀貨と大銅貨を店員へ提出。

 箱に入っている葉巻&火打ち石セットを買ってやった。


「まいどあり~」


 店員は不機嫌顔から一転してホクホク顔だ。

 煙草と火魔石が入った箱を抱え持ち、その売り場を離れていく。


「ご主人様、魔力を高めようと?」


 隣にいたヴィーネが煙草が入った箱を見ながら聞いてきた。


「あぁ、まぁそうだな……」


 衝動買いとは言えないので、歩きながらぶっきらぼうに答える。


 煙草を吸うとしても今はいい。

 煙草の箱はとりあえずアイテムボックス行きだ。


 アイテムボックスを操作しながら煙草売り場を過ぎると、金物屋が増えてきた。

 そこを過ぎてようやく目当ての木材を売っている場所を発見。


「あったあった」

「はい。小さい木も売っていますね」

「見てみよう」


 平幕の露天売り場なのは変わらないが、木製の棚に置かれた売り物には切り出されたばかりの原木、緑がかった木、薄黒色の高級感ある木、赤みがかった美しい色合いの木があるようだ。長細く加工された木材も陳列されている。

 更には、それら木材から作られた神像が何点も並んでいた。


 像の出来栄えは素晴らしい……。


「おぉ、フジク連邦のドナーク&ジクランを感じさせる、お二人さんだねぇ。いらっしゃい、どの木を買うんだい?」


 アジア風衣装を着ている虎人種族の店主から、そんな風に愛想よく話しかけられた。


 最初のドナーク&ジクランとは、俺とヴィーネのことか? 

 前世的にいうとボニーとクライド?


 まぁいいや、そんなことは聞かずに商品の像を褒めとこう。


「この像は貴方がお作りに?」

「おっ、お目が高いねぇ、俺と師匠たちが櫛風沐雨しっぷうもくうの半生をかけて作った木彫り像さ、気にいったのかい?」


 雨の日も風の日も作り続けていたか。


「えぇ、素晴らしい木彫り像ですが、今回は小さい木、少し硬めの木が欲しいのです」

「だったら、これだね。知り合いのゴーモック商隊が卸していったフジク産の材木。チョーク材、木材師スキル持ちが原木から作り上げた材木だ。駆け出し魔法使いの必需品。魔力伝導率も普通ぐらいで堅い木だし、短杖にぴったりだ」


 茶色がかった色合いの木目がある材木だ。

 杖を作るんじゃないんだけどね。まぁいい。


「それは幾らですか?」

「銀貨一枚だよ」


 そんなもんか。

 一応、ヴィーネを見る。


「ご主人様、チョーク材の値段はそれぐらいが妥当と思われます」


 もしかしてヴィーネが“何か”知っているかなぁっと期待してアイコンタクトを行ったんだけど、やっぱり期待に応えてくれた。


『詳しいですね』

『あぁ』


 ヘルメが言う通り、彼女の知性溢れる顔付きは伊達じゃない。

 こんな木の相場もチェックしていたとは驚き。


 キャネラスが彼女の価値を上げようと色々と勉強をさせてのは大正解だな。

 美人で優秀なのは素晴らしい。

 彼女は俺に反目しているらしいけど、何とかして心からの信頼を得たいものだ。


 さて、材木はこれに決めた。

 買おう。後、他にも何か作るかもしれないから……あの平幕の壁際に立て掛けてある大きいのも買っとくか。


「……わかった。それじゃ店主、このチョーク材と、そこの壁に置かれた厚板を一枚くれ、壁のは幾らだ?」

「ソルナット材だね、銀貨三枚だよ」

「買おう」


 一時的に茶色の木材をヴィーネに持たせアイテムボックスから値段分の銀貨を出す。


 店主に銀貨を手渡した。


「まいどあり~」


 箸用の茶色チョーク材とソルナット材をヴィーネから受け取り、アイテムボックスの中へ入れる。


 よし、次は服屋だな。

 虎顔店主の材木店から離れて服屋らしきとこを探す。

 少し歩くと、市場の端にある簡素な布服屋を見つけた。

 ここの店も平幕の露店なので、現代のブティックとは程遠いけど品揃えは豊富な感じだ。売られている服に同じ服はない。

 全部の品が手作り感漂わせる作り、ま、当たり前か。

 仕立て用のスキルはあると思うけど近代的な工場なんてあるわけないし。


 売られている衣服は一般市民の女性が着ているようなシュミーズ系、ダブレット系、高級娼婦が着てそうなボディス系の上服、綺麗なラシャのカフタン、広い襟ぐりのヒラヒラつきのキャミソール系などがマネキンに着せられて飾られている。


『閣下、ここには魔力が内包された服はないです』

『そりゃそうだ。ただの服屋だからな』


 さて、ヴィーネが着る服だからダークエルフがどんなセンスを持つか見せてもらおうか。


 何処かの仮面をかぶった三倍さんの気持ちでヴィーネを見る。


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