エピ064「選択」
気が付くと、見知らぬ天井、…
どうやら、何処かのホテルの部屋のベッドの上らしい、
ズキん!…と、身体中の筋肉が痛む、まるで、全身が肉離れしたみたいで、…
何だか左目には大きな湿布が、当てられている様だった、…
俺は、…「相田父」に打ちのめされて、
あっと言う間、何も反撃出来ない内に、気絶してしまったらしい。
相田母:「羨ましい事、」
痛む首を捻って、振り返ると、…
其処に、ベッドの直ぐ傍に、…「相田母」が座っていた、
相田母:「こんなに早く、意識を取り戻せたのは、あの子のお陰ですね、」
相田母:「貴方が気を失って、あの人が止めを刺そうとした時に、あの子が覆いかぶさって庇ったの、身代わりに叩かれて、あの人も急な事で手加減が出来なかったミタイです、申し訳ない事をしたわ、あの子、女の子だったのね、…」
そう言えば、…
宗次朗:「時任は?」
俺は、思う侭にならない身体を無理矢理ねじ伏せて、形振り構わず、無様に、…起き上がる。
相田母:「今は別の部屋で休んでいます、…もう、大丈夫だから、心配は要らないですよ、」
宗次朗:「頼む、時任に合わせてくれ、…」
「時任」が俺を庇って、怪我をした?…そんな事は、絶対に、あってはなら無い事なのに!
相田母:「それは出来ません、もう直ぐ式が始まります、…全てが終る迄、貴方達には此処で、大人しくしていてもらいます。」
つまり、俺は丸々1日以上、意識を失っていたという事なのか?
見ると、部屋には「相田母」の他にも、ボディガードらしいガタイのデカいスーツ姿の外国人が二名、…
俺達が「相田美咲」の結婚式を邪魔しない様に、此処に監禁すると、…そう言う事なのか、
相田母:「どうして、貴方は、其処迄して「あの子」に構おうとするのですか? …「あの子」から話は聞きました、…貴方達、本当は付き合っていなかったのね、…「あの子」に頼まれて、ふりをしていた、」
どうして?
こんな風に身動きを封じられた今だからこそ、軽口の様に言えるのかも知れない。
宗次朗:「俺が、俺には、…美咲が、必要なんです。」
相田母:「本当に、羨ましい事、」
「相田母」は、ふっと、目を閉じて、…
相田母:「「あの子」は、何時でも自分の欲しいモノを秘密にしてきた、…」
相田母:「私達の与えたがるモノを欲しがり、私達の望む通りに綺麗に育ってくれた、…」
相田母:「でも私は、本当は、何時か「あの子」が壊れてしまうんじゃないか、不安だった、…」
…まるで独り言の様に呟いた。
相田母:「それで、貴方は一体、どうするつもりだったの?」
相田母:「仮に「結婚式を台無しにする」事はできても、この「婚姻をなかった事にする」事が出来ない事位は、分っていたのでしょう?」
相田母:「そんなやり方では、誰も幸せには成れない、…誰もが余計に、辛くなる、悲しくなるだけ、」
相田母:「貴方も、美咲を手に入れる事は出来ない、」
相田母:「あの子の父親も、兄も、…貴方を赦さないでしょう、」
相田母:「貴方の家族にも少なからず迷惑がかかる、」
相田母:「今回の結婚式の為にかかった費用は、全て保証してもらう事になります、…身内だけの小さな式とは言え、両家共にそれなりの身分、家柄、…補償金は2000万円は下らないでしょう、」
相田母:「相手の家族からも、少なからず名誉棄損、損害賠償を求められるでしょう、もしかすると、貴方が一生かけても払えない様な金額かも知れない。」
相田母:「高校生が、自分の一時の意地や情動で、フイにしてしまうには、余りにも度を越えた金額です、」
相田母:「今なら、思い出話で済みます、悪い事は言いません、…この侭、お帰りなさい。」
「相田母」はそれだけを言い残すと、二人のボディガードを連れて、部屋から出て行った。
恐らく、つまりソレは、…
俺に「選択しろ」と言う、そう言う事なのだろう。
恋愛とは、何なんだ、…
人生の全てを代償にしてまで、手に入れるべきものなのだろうか、…
そうして全てを失ってしまった後で、俺は、「美咲」に何をしてやれると言うんだ?
そんなボロボロな俺に、「美咲」が寄り添ってくれる訳がないじゃないか。
「友達」に怪我をさせて、「家族」に迷惑をかけて、「美咲」を今よりももっと苦しめて、「自分自身」の人生もフイにしてしまうかも知れない、…
そんな風に、誰も彼もを滅茶苦茶にしてしまう位、俺の「知りたいと思う感情」は、…罪深いモノなのだろうか?
冷静になれば成る程に、俺の理性は疾っくの昔に行き詰まっていた、
こんな一般常識的な状況を、我侭を通す為だけにひっくり返せる様なヒーローは「現実」には存在しない。
どれ程、自分の不甲斐無さに怒りが込み上げたとしても、儚さに絶望したとしても、何の変哲も無い高校生には、…「奇跡の力」は発現したりしない。
だから、俺に残された「選択肢」は、…
諦めて、我慢して、大人しく引き下がる事、
皆を犠牲にしてでも、自分の我侭を通す事、
そのどちらかしか無い、
突然!…部屋の扉が開いて、「時任」が姿を見せる。
時任:「宗次朗、大丈夫なのか?」
宗次朗:「すまない、お前に迄、怪我をさせて、…」
時任:「僕なら大丈夫、そんな事より、急に開放されたみたいだけど、何があったんだ?」
俺は「相田母」が語った内容を、「時任」に説明した。
時任:「それで、…どうするつもりなの?」
マトモな考えの持ち主なら、分り切っている、…これ以上「相田美咲」に関わろう等とは、思わないだろう。
誰も幸せにならない、
誰からも祝福されない、
でも、俺はどうしてだか、納得がいかない。
俺が何をしようが、「相田美咲」をこの状況から救い出す事は出来ないだろう、
だからこれ以上、「相田美咲」を苦しめるな、…「相田母」の言いたかった事は、そう言う事だ、
ならば、どうして、今、再び、俺に「選択」させようとするんだ?
俺を不幸に陥れ、娘に未練を募らせる様な「選択肢」に、一体どんな価値が、あると言うのだ?
もしも、其処に価値があるとするなら、…それは、
時任:「行くなら急いだ方が良い、後30分で、式が始まる。」
俺は、
宗次朗:「済まない、時任、…俺、行く!」
俺達は、勢い良く部屋を飛び出して、ホテルの前で、…まるでドラマか漫画ミタイに登場した「悪者」に遭遇する!
「時任」は一歩先に出て、驚く程華麗な体裁きで、…あっという間に二人をひっくり返し、的確な急所への一撃で、…沈黙させる、
時任:「宗次朗!」
「時任」はスマホを俺に放って、よこし、…
時任:「先に行け! アカデミア美術館を超えて、東を目指せ!」
俺は、一瞬の躊躇の後、…
宗次朗:「済まない!」
「悪者」の一人を薙ぎ払って、…走り出す!
「相田父」に撃たれた傷痕が割れた枯れ木の様に軋む、…左目の眼帯を毟り取って投げ捨て、…俺は、ただ我武者らに、走る!
スマホの指し示す地図を頼りに、街角の頼りない標識を頼りに、迷路の様なヴェネチアの街を、走る!
細い路地を潜り、幾つもの小さな運河を超えて、…グランド・カナルを渡る橋を超えて、走る!
何人もの人達にぶつかり、転びかけ、その度に立ち上がり、
笑う膝を置き去りにして、横隔膜の痙攣をさせるが侭にして、…
昏いトンネルの様な建物を抜けた先に、…
やがて、俺は、巨大な、聖堂の前に、…辿り着いた。
宗次朗:「え、此処?」
辺りには、観光客が溢れ、…
とても、結婚式の出来る様な雰囲気ではないが、…
もしかして、間違えたのか?
俺は、取り乱し、怯え、必死に正気を保って、注意深く、辺りを見回す、…そして!
突然、降って湧いた様な雑踏に囲まれて、…
巨大な聖堂の階段に、…純白のウエディングドレスに包まれた、「相田美咲」が、…現れた、
既にベールは上げられていて、
大勢の祝福を浴びながら、華やかに笑う、「相田美咲」の、…花嫁姿、
彼女の隣には、スーツを身に纏った、長身の男、
スラッと、整った顔立ちで、誠実そうな、非の打ち所の無い、…好男子、
相田父:「遅かったな、」
何時の間にか、俺の隣には、「相田周一郎」が、立っていた。
相田父:「コレでもまだ、お前は、全てを台無しにしようと、思うのか?」
宗次朗:「……、」
相田父:「多くの人を不快にし、美咲を悲しませ、お前自身にも一生消えない負い目を背負わせる事になる。 其処迄して、お前は、一体、何を手に入れると言うんだ?」
宗次朗:「……、」
相田父:「娘の花嫁姿を見た事は、赦してやる、…このまま、引き下がれ、」
宗次朗:「俺は、…伝えなくちゃならない事がある、…確かめなければならない事がある、」
相田父:「この先に行くと言うのなら、もう、後戻りはさせないぞ、」
相田父:「その覚悟は、本当にあるのか?」
俺は、ヨタヨタと、走り出す、そして、…
「相田美咲」に向って、…
宗次朗:「「美咲!」」
俺の、呼びかけに、…
宗次朗:「「美咲!」」
「相田美咲」が、振り向いた。
彼女は、まるで、幽霊でも見たかの様に、暫しその侭、呆然と立ち尽くし、…
宗次朗:「「好きだ!」」
宗次朗:「「お前の事が、…好きだ!!」」
それから「相田」は、口元を隠して、思いっ切りニヤニヤ笑い、
それから、そのまま泣き出して、…
それから、そのまま、しゃがみ込んでしまった。
相手の、男が、…俺に向って歩いて来る、
俺は、思わず、身構えて、…
やがて、長身のイケメンは、俺に向って、…右手を差し出して、
握手?…を、求める??
イケメン:「初めまして、美咲の兄の
宗次朗:「え? お兄さん?」
相田兄=イケメン:「まあ、ギリギリ及第点だな、半分は君の友人の「時任真理弥」さんに免じて、かな、」
宗次朗:「え?」
相田兄:「それで、君には、ちゃんと償ってもらうよ、…美咲の不幸も顧みず、君の人生を台無しにする覚悟で、君は「選択」したのだろう?」
そうして、「相田兄」は、何やら書類を取り出して、折り畳んだまま手帳の上で、…俺にサインを迫る。
相田兄:「ウエディングドレスの費用、渡航費、ホテル代、食費、その他一切の費用は、当然君に、責任を持って支払ってもらう。」
それって、2000万円?…ですか?
相田父:「お前の行動は、何もかも間違いだらけだ、目的も、方法も、判断も、後手後手に回って更に状況を悪化させている決断力も、…」
相田父:「知力、武力、経済力、交渉力、行動力、権力、何れに置いても落第点だ、今の侭では安心して「美咲」を任せる気にはなれない、…唯一つ、」
「相田兄」の展げてみせた日本語の書類?…俺がサインしたのは、…
婚姻届?
相田父:「お前は、誰の為でも無く、美咲の為でもなく、自分の信念に基づいて行動し、美咲を手に入れたいと望んだ、…その事だけは、認めてやろう。」
相田父:「コレからは徹底的に叩き直すから、覚悟しておけ、」
宗次朗:「え?」
相田兄:「コレは君が18歳になる迄僕が預かっておく、ソレ迄、生きていられる事を祈るよ、…何しろ本気でオヤジに拳を入れさせたのは、君が初めてだからな、…」
そして、何処から現れたのか、お
相田母:「本当、羨ましい事、…」
そしてゾロゾロと、水上タクシーで去って行く、「相田家の人々」、…
俺は、何が何やら判らない侭に、未だにしゃがみ込んで踞る「相田美咲」に近づいて、
宗次朗:「あの、これって、ナニかな?」
相田:「私も知らなかったの!…全部お兄ちゃんが仕組んでたの!」
「相田美咲」は真っ赤な顔で、…
相田:「コッチ見ないで! 馬鹿、嫌い!」
俺は、力尽きて、…ウエディングドレス姿の「相田」の傍にへたり込んで、…
仰向けに、ひっくり返る。
宗次朗:「お前、綺麗だな、…」
相田:「嫌い!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます