エピ019「心の盾」

次の日の午後、吐く事も出来ない吐き気に纏わりつかれて、俺は、ベッドに寝っころがっていた。


久しぶりに、学校をさぼった。


誰かが、駆けつけてくれる事を、期待しなかったかと言うと嘘になる。

誰かに、慰めてもらいたかった、甘えたかった、それが嘘偽らざる、俺の情けない心根だ。


「俺には、施しを受ける権利が有る。」

俺の頭の中ではそんな呪文を繰り返しながら、、今の此の為体ていたらくが、止むを得なく正当に受け容れられるべき理由を、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと探し続けている。


少しだけ、「早美都」の気持ちが分かった気がした。




当然、放課後の時間を過ぎても、誰かが訪ねてくる気配はない。

そりゃそうだろう、たかが一日病欠した位で、そういう事にはなりっこない。


じゃあ、後、何日休めば良いんだろうか?

何日、他人の心配を誘う様に、可哀想な自分を演出すればいい?




そんな弱気に、意味が無い事位分かっている。

基本的に、人は他人の事に興味等無いからだ。


もしも誰かが、俺の不調を気に病む様な事が有ったとしたら、

それは全く俺の為ではなくて、そいつ自身の為で有るに間違いないのだ。


憐れな級友を慮る優しい自分の演出の為、…

俺が倒れる事で自分が何らかの損害を被る事を避ける為、…


それは、他人の葬式で流す涙の理由と、大して大きな違いは無い。



それでもそれなのに俺は、「相田」と「早美都」が駆けつけて来れない理由を、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと探し続けていた。







母親:「調子どう? 熱下がったの?」

宗次朗:「ああ、大丈夫、」


パートから戻った母親が、「薬」とスポーツドリンクを持って来た。


時として、心は自分の身体をさえ騙す。

微熱を出す事くらい、朝飯前だ。


いや正確には騙すのではない、「心」の休息が必要だと感じた時に、脳は、「身体」を休ませる為の様々な「説得症状」を発現させるのである。


そして、一度傷ついた「心」は臆病になる。 「危険ストレス」に対して、過剰反応になる。


そして、どうすれば「そう言うモノ」と折り合いをつけられるのか位、…

俺はもう、知っている。


他人が、俺を救えないのなら。

自分が、俺を護れば良い。


他人の「心」から俺自身を切り離し、全ての他人から俺に向けられる「危険ストレス」は、単なる化学反応と方程式の結果であって、其処にイチイチの「悪意」の入り込む余地等無い事を納得すれば良い。


だから心配しなくても良い、怯えなくても良い、

仮令、誰一人俺の事を「承認」してくれなかったとしても、…

誰も、俺の事を「非承認」したりはしない。


だから、



宗次朗:「もう、大丈夫、」

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