7D

「ロージーが昔……って、言ってたわよね。安全safetyローヤーの頃? それとも、もっと前の……?」

「その両方です。」


 また、考える間もなく口に出てしまう……状態へ。自分に気付いて、心底ゾッとしているのに。先ほどとは違い、身体は心地よい満腹感で満たされて。スツールの上に収まって、一歩たりとも動こうとせず。意識して焦りを呼び起こさねば、気持ちよく居眠りしながら「自動フル再生」しかねなかった。

 まずいぞ……まずい……な方向へもっていかねば……僕の頭……ほら、なんとか頑張って。訊かれたの違うことを喋るんだよ……


「――と、は。いってもですよ? 僕が聞いちゃまずいことだった……んですから。」

「でも聞いたんでしょ?」


 うっ。

 いや、負けるものか!――と、ひねり出しているうちに。酷くストレートに、今の気持ちを訴えるところから……だんだんと――


「僕ですね、妙に喋りた~くなってて。本人の御許しがないといけないことまで、ペラペラ話しそうになってるんです。なので、これ以上はちょっと。」

「でも、本人の許しがないのに聞いたわけでしょ?」

「そ……れはですよ。だからといっていい――というわけじゃないですよね? だいたい、変だと思うんです。訊かれたとおりに答えたくなるって、入れたんじゃないんですか? 先ほどの……」

に?」


 ジェンが指さす紙コップは。黒いコーヒーで満杯のまま、冷めきってしまっていた。それで思い出した。僕が飲んでいたのは、ケータリングの人が……サービスで付けてくれたペットボトルの無糖コーラで、僕自身で開栓していたこと――すっかり空にするまで、常に手元にあったことに。だから……ジェンが「何か盛る」ようなチャンスは、ほんとうに全然なかったのだ。


「テラスでも。わたしの入れたコーヒー、飲んでなかったでしょ。」

「無意識に避けちゃうんですよね、インスタントのは。」

「はーん……?」


 すごく余計な一言が口から飛び出ていった。


「……まあ。どこで何を……いつ盛られたのか、皆目わかりませんが。とにかく、自然じゃないのは明らかなので。今はお話できません。」

「今……って、ならいいのよ? すぐ引っ越すから、今日だけなの。わたしが聞けるのは。」


 もっともなことに聞こえて、少しグラッときた。いやいやいや……


「ボスに聞かれればいいでしょう。」

「あの人は無理、教えてくれないわ。」


 えっ。無理――という、ジェンの言い切り様に。少し驚いて、戸惑ったのがよくなかった。


「だから、マットが聞いたのも。ボスからじゃあないんでしょう?」

「そうです。シェヴラで暴走オーバーランしていたところを助けてもらった方で。バーキンと名乗っていました。」

「暴走……マットが運転していて?」

「ええ。ボスの依頼で、T州のテクニカルセンターへ返却しにいくときに。」


 ボスが知っているとして、どこまでだろう――と考えている間に、口が勝手に答えていた。うわぁ……こ、になってて「薬」じゃないなら、何の所為だというのか?


「じゃあ。その人は『ウォレスが暴走する』って判ってたわけ?」

「まさか、追っかけていたんですよ。ロージーを、子供のころから知っていたそうで。」

追っかけストーカー……ロージー狙いで、このあたりに出没してたの?」

「いえ、第二に……のは最近まで知らなかったそうです。」

「ふーん。」

「正直なところ。僕にも何だか……なんですよ、その人のことは。今、何の仕事されているかも言われなかったですし。本当にストーカーかも。」

「今、ということは……」

「昔は自動車部品会社の――役員付の秘書だったそうです。」

「ボディガード?」

「ええ。そうおっしゃってました。」


 むしろ。僕の方から、どんどん話すようになってきて、心の奥で唖然としていた。ジェンの側は、合図地もそこそこに……ポテトの包み紙を指で丸めたりして、遊んでいる位だというのに?

 だいたい、ジェンは。『ぜったい誰にも言わないから!』とか、そういった口約束の類はしていない――つまり、ボスに……というより、D&Dやノヴァルに……まるごと流したとしても全然おかしくないのだ。なのに――というのに、僕は。

 僕の口は……


「その役員の方が、赤信号に突っ込む衝突事故を起されて。それで亡くなられたのが、ロージーの両親だったようなのです。」


 ……とうとう、を喋り始めてしまっていた。

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