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僕が、そのように。「裁判で争う意思はない」と明かした瞬間に。何とも微妙な空気が流れ、ハバリ氏は露骨なまでに「は?」という顔を作るし、ボスも眉間だけグリグリ上下させながら、
「何か、お忘れでは……?」
と、馬鹿丁寧に指摘してきて。ちょっと考えて、漸く「あっ!!」となって。(あぁ、ボスは笑いをこらえているんだ)と、判ってしまった。
そうだよ。目の前に「犯行」を認めてる人がいるじゃないか。僕の乗るシェヴラテインをWiFi経由で「攻撃」して、暴走させた……とおっしゃるハバリ=ガン氏が。「まったく面白くない」という表情で、横目で僕を見ながら……
「こういうのを『
「マットロウさんは元々、ノヴァルを疑っていましたからね。でも、西海岸で
「ほう、そうだったか?」
西海岸……
「まあ。君らと同じで、訴えないでくれるそうだから。有難く受け取っておくか。」
「彼は、貴方を訴えないとは言ってないと思いますよ?」
「そうなのか?」
とぼけたように、ボスの誘導に乗って。ハバリ氏が尋ねてきたので……ちょっと考えてから。
「
「
「茶化さないで下さいよ……。」
「だが、もう証拠はない。残念だったな。」
「?」
自分で認めているのに、証拠がない? そういえば、確か……と。ハバリ氏の向こうを窺って、ボスと目が合った。僕が口を開こうとする前に……
「まだ間に合うかも。連絡するか?」
「どこにです?」
「運送屋だよ。とっくに
それで数時間前の記憶が蘇った。
『トラックは……いつ来るんですか?』
『今日の夕方だと……』
『今日?!』
『俺は支社へ問い合わせる。依頼するような運送会社は決まってるだろうからな。マットはどうする?』
『どこの業者が来るか判らないんですか……』
『ご自分でやられれば宜しいのでは。』
『なんだと?』
どこに停めているのか知らないが、あのチャコール・グレーのセダンから。僕への「攻撃」に使ったWiFi設備を、ここまで持ってきて。ほかの資産類の処分に、紛れさせて……?
「ご計画の通りでしょう。」
「まあな。」
「!……で、でも。皆……居たんでしょう?ここに?」
思わず聞いてしまった。ボスとロージーが居た筈じゃないか……そもそも、ロージーは何処なんだ?
「ユーグラン、と言ったかな?あのお嬢さん。ずっと俺を、俺の車を追跡していたようでな……ビデオを撮ったとも。」
「えっ、じゃあ判ってたんですか? ボスは?」
ボスは涼しい顔のまま、無言だった。
「そう、この
「違った?」
ロージーが?
「すごく怒っていたからな……貴殿がいいように『
と。青黒くなった額をさすりながらそう言うので。ありありと想像できてしまった……三人の、次のような会話を。
『ふん。俺がやるとわかって、泳がせていたというわけだ。よくやる……』
『ボスは資産の横領だと……あれは、嘘だったのですか?』
『支社からは、そう聞いている。』
『おやおや、何を言いふらしているのか……俺がやっていたのは、貴様らをフリーズすることだよ。』
フリーズする……自然に僕は、そう考えていた。大胆にも、ノヴァルの代理人たちを狙った攻撃だ。そして、ボスの返しは……こうだろう。
『え、本当に貴方が遣られたと……おっしゃるので?』
『今更。もう確保しているのだろ? ここのノートパソコンと、WiFi機器……返したのは分かっている筈だ。』
『?……何を使って、どうやって……です?』
『……!……お前、まさか。さっきのトラックで?』
『ボス、何てことを……あなたは!!』
僕は、茫然と眺めていた。圧し折れたままになっている「販促君」と、
ロージー……!!
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