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 僕が、そのように。「裁判で争う意思はない」と明かした瞬間に。何とも微妙な空気が流れ、ハバリ氏は露骨なまでに「は?」という顔を作るし、ボスも眉間だけグリグリ上下させながら、


「何か、お忘れでは……?」


 と、馬鹿丁寧に指摘してきて。ちょっと考えて、漸く「あっ!!」となって。(あぁ、ボスは笑いをこらえているんだ)と、判ってしまった。

 そうだよ。目の前に「犯行」を認めてる人がいるじゃないか。僕の乗るシェヴラテインをWiFi経由で「攻撃」して、暴走させた……とおっしゃるハバリ=ガン氏が。「まったく面白くない」という表情で、横目で僕を見ながら……


を『り甲斐がない』って言うんだろうなぁ?」

「マットロウさんは元々、ノヴァルを疑っていましたからね。でも、西海岸でられた件は、D&Dわたしたちにとってかなりのダメージでしたよ。」

「ほう、そうだったか?」


 西海岸……MDLマルディの集団和解を担当している拠点でも。シェヴラと同じようなことが起きた、と。ボスは言っているのだろうか? でも訴訟スタッフの車が「攻撃」されて、異常な動作マルファンクションを……?


「まあ。君らと同じで、訴えないでくれるそうだから。有難く受け取っておくか。」

「彼は、貴方を訴えないとはと思いますよ?」

「そうなのか?」


 とぼけたように、ボスの誘導に乗って。ハバリ氏が尋ねてきたので……ちょっと考えてから。


故意わざとなんですよね?理由わけを教えてくれないんだったら。西海岸の被害者と一緒になって、訴えるかもしれませんよ。」

証拠開示命令ディスカバリ目当めあてに、か。」

「茶化さないで下さいよ……。」

「だが、もう証拠はない。残念だったな。」

「?」


 自分で認めているのに、証拠がない? そういえば、確か……と。ハバリ氏の向こうを窺って、ボスと目が合った。僕が口を開こうとする前に……


「まだ間に合うかも。連絡するか?」

「どこにです?」

「運送屋だよ。とっくに再生リユース業者に渡していると思うが……」


 それで数時間前の記憶が蘇った。


『トラックは……いつ来るんですか?』

『今日の夕方だと……』

『今日?!』

『俺は支社へ問い合わせる。依頼するような運送会社は決まってるだろうからな。マットはどうする?』

『どこの業者が来るか判らないんですか……』

『ご自分で宜しいのでは。』

『なんだと?』


 どこに停めているのか知らないが、あのチャコール・グレーのセダンから。僕への「攻撃」に使ったWiFi設備を、ここまで持ってきて。ほかの資産類の処分に、紛れさせて……?


「ご計画の通りでしょう。」

「まあな。」

「!……で、でも。皆……居たんでしょう?ここに?」


 思わず聞いてしまった。ボスとロージーが居た筈じゃないか……そもそも、ロージーは何処なんだ?


「ユーグラン、と言ったかな?あのお嬢さん。ずっと俺を、俺の車を追跡していたようでな……ビデオを撮ったとも。」

「えっ、じゃあたんですか? ボスは?」


 ボスは涼しい顔のまま、無言だった。


「そう、この弁護士ローヤーさんはよ……多分、先週からな。ユーグラン嬢は、違ったようだが。」

「違った?」


 ロージーが?


「すごく怒っていたからな……貴殿がいいように『デコイ』に使われたことを。立ち去ろうとした俺を……て。足止めして、尋問している間に。業者が来て、を回収するに任せてしまったことを……な。」


 と。青黒くなった額をさすりながらそう言うので。ありありと想像できてしまった……三人の、次のような会話を。


『ふん。俺がとわかって、泳がせていたというわけだ。よくやる……』

『ボスは資産の横領だと……あれは、嘘だったのですか?』

『支社からは、そう聞いている。』

『おやおや、何を言いふらしているのか……俺がやっていたのは、貴様らをフリーズすることだよ。』


 フリーズする……自然に僕は、そう考えていた。大胆にも、ノヴァルの代理人たちを狙った攻撃だ。そして、ボスの返しは……こうだろう。


『え、本当に貴方がれたと……おっしゃるので?』

『今更。もう確保しているのだろ? ここのノートパソコンと、WiFi機器……返したのは分かっている筈だ。』

『?……使、どうやって……です?』

『……!……お前、まさか。さっきのトラックで?』

『ボス、何てことを……あなたは!!』


 僕は、茫然と眺めていた。圧し折れたままになっている「販促君」と、蝶番ヒンジが壊されドアが外れた入口のほうを…………ここから離れようと。歩道を猛然と走っていた姿を、思い出しながら。


 ロージー……!!

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