第111話~

第111話 証明

自分の代わりに、誰かが私の体を操縦してくれたらいいのに、と、いつも思っていた。頭にアンテナでも設置して、電波でラジコン操作してくれたら、私はとても助かるのに。もちろん、報酬くらいは払うとも。


私は役に立たない人間だった。なにをやっても上手くいかない。自分は人間に向いてないのだといつも思っていた。誰かに私のコントローラーを譲渡して、何もかもを投げ出したいと思っていた。私の意志?そんなものは無い。しいて言うなら、私という責任から逃れたいという、ささやかな願いがあることくらいだろうか。他に何を望むことがある?人並みの幸せ?そんな大それたこと……私が望んでいいとは思えない。


自分という存在を誰かに譲りたかった。誰かの命令だったなら、私は自分の人生を受け入れるだろう。自分の人生がこれほど惨めなのは、私が私を操縦しているからだと、誰かに言って欲しかった。


私は、自分の代わりに、誰かが私の体を操縦してくれるよう、募集をかけてみた。玩具にしたっていい。乱暴に扱われたって構わない。だけれど、反応は無く、無関心だけが返ってきた。結局のところ、私は、自分がまったく無価値であるという証明書を改めて手に入れただけだった。私はいままで手に入れた、こうした証明書をすべて大切にとっておいてあるけれど、誰かに見せたことは、まだない。

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