第14話 流浪

「家久々だなあ〜」

「⋯⋯」

「ほら、もっとポテチ食べなよ。これじゃ、私がもっと太っちゃうじゃーん!」

と無理に明るくいって風雅の背中をバシッとたたく。

「⋯⋯」

 反応がない!?いつもだったら「いってえよ!ほんと男並みの力だよな」とか憎まれ口をたたくくせに⋯⋯

 シーンとした部屋にテレビの音だけが響く。

 私が逃げたのがいけないのに、やっぱり、悲しいな⋯⋯。

「姉ちゃん、あのさ⋯⋯」

 唐突に口を開く風雅に驚きながら

「なに?」

とたずねる。

「おれ⋯⋯アイドルになるんだ⋯⋯」

「⋯⋯ん?なにになると?」

「だから、アイドルだよ。れん兄と一緒に。あと、もう一人⋯⋯ね⋯⋯」

と亡霊のように暗い顔で告げる風雅。

 もう、驚きすぎて声も出ない。

 それに⋯⋯

「本当になりたくてなるの?」

 そういって風雅の顔をのぞき込む。

 風雅は困ったように笑って

「姉ちゃんのこと守れないままとか嫌だし」

「え?どういう意味?」

「ううん。なんでもない⋯⋯」

 そういう風雅にはどこか影があった⋯⋯。





 ピンポーン

 今は夜の七時。こんな時間に誰が⋯⋯と思いながら玄関に向かう。

 前まではチャイムがなると風雅とじゃんけんをして負けた方がでてたんだけど⋯⋯。

 今回はそれもない。

 なんだか、悲しいなあ⋯⋯。

「こんばんは〜」

 扉をあけるとニコニコスマイルのヨウくんがいる。

「なんで、ヨウくんががここに」

「お迎えにあがりました。お姫様」

 そういって跪き、私の手の甲にチュッとキスするヨウに鳥肌がたつ。

「ちょっと離してよ!」

 しぶしぶと言う感じで開放された手をさすりながらヨウを睨みつける。

「仕事終わってから慌てて莉音ちゃんの学校いったのに莉音ちゃんいないから心配したんだよ〜。」

 そういうヨウにプイとそっぽを向くが、またしても手をつかまれる。

「僕達の愛の巣に帰ろう」

 吐息たっぷりのエロい声に普段ならクラリとするのに何故か今日はそうならない。

「気持ち悪い。帰って」

「ひ、ひどい!莉音ちゃ」

「第一、なんであんたがたの家に行かなきゃいけないわけ?」

「莉音ちゃんを守るため、だよ」

 強い瞳でそういうヨウ。

「だから、何から守るのよ」

 そういうと、ヨウはさっきまでとうってちがった冷たい瞳で、「君の偽物の弟くんとかね⋯⋯」とつぶやいた。

 が、それも一瞬。

 すぐにこちらをみてにこやかに微笑む。

「さ、行くよ、莉音ちゃん。うちには莉音ちゃんの大好きな動物がいるからね〜」

「ちょっ!離してよー!」

 必死な抵抗も虚しくヨウに連れていかれる私。もう、後半なんかは抵抗もなくなっていて、なされるがままと言う感じだった。

 頭の中で、「君の偽物の弟くんとかね⋯⋯」という言葉がリピートされて、でもその意味がわかるようでわからなくて苦しかった。




「おっ、おかえり、ヨウ。って、なんでお前がいんだよ、クソ女!」

「ユータ?!あんたこそなんでここに!?」

 そんな私達のあいだに割って入ったヨウは「いいから落ち着いて」と言う感じで

「莉音ちゃん、こちらがうちでかっている猿とゴリラのハーフくんでね、名前をユータっていうんだ」

という。

「誰が猿とゴリラのハーフだよ!」

 怒鳴るユータを落ち着かせようと

「まあまあ、ユータン、そう怒らずに」

とにこやかにいうヨウ。

「これが怒れずにいられるかよ!」

 そこで、私のいたずら心に火がつく。

「サルゴリくん、これからよろしくね」

「おーーーまーーーえーーー!!」

 そういってすごい剣幕で怒り出すユータをなんとか止めているヨウ。

 なんだか申し訳ないが、まあいいだろう。

 理由も明確にされず、ここに連れてこられたんだから。これくらいしたっていいと思う。

「ん?騒がしいと思ったら莉音か。そういえば、今日からうちで寝泊りするんだったな。」

 リビングがあると思われる方向からやってきたのはネク。

 パジャマ姿で髪も濡れてるからきっと風呂上りだろう。

「どーもー」

と軽く頭をさげる。

「?なんで、莉音は怒っているんだ?」

「別に〜。いい加減、事情を話してもらえないかなあとは思ってるけど」

といって腕を組む私に

「ごめんね〜。それはいえないんだよ〜」

とヨウがいうのでイラっときて

「だからなんで」といおうとするが、先程とは一変したヨウの冷たい瞳に口をひらけなくなる。

「莉音ちゃんをあいつらに渡したくはないから」





〜夜の公園にて〜

「少しずつ目覚めてきている⋯⋯か⋯⋯クク⋯⋯順調だな」

 そういって缶コーヒーをすする黒縁メガネの男。

「⋯⋯あれももう少し、ってことですよね⋯⋯?」

 そういって手に持ったミルクティーをみつめる、女の子ような顔立ちの少年。

「そうだな。やっと⋯⋯。」

 そういって飲み終えた缶コーヒーを近くのゴミ箱に投げ入れる黒メガネの男。

カランコロンと音がして缶はみごとにゴミ箱に着地した。

「ところでお前、俺達とアイドルやらないか?」

「!?」

「SUNNY'Sを抜けろ。今すぐにな」



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